長谷川伸全集〈第15巻〉

キーフレーズ

兵衛 弥太郎 九郎 佐太郎 太郎 忠太郎 又八郎 勘太郎 富五郎 時次郎 政吉 高倉 佐四郎 小夜 おつる 市兵衛 市五郎 文太郎 岩吉 猪三郎 駕籠 安之助 右衛門 勝五郎 手前 庄吉 三次 京太郎 金造 子供 江戸 庄八郎 五郎 知っ 野郎 去る 行く お蝶 一人 平八 聞い 行っ 為五郎 親分 徳之助 蝙蝠 安兵衛 半兵衛 逃げ 半次郎 銀太郎 三人 二人 権三 知ら 持っ 弥之助 思っ 知れ お金 出て 竹丸 茂兵衛 出し 待っ 兄さん 金五郎 お作 三蔵 弥太 辰蔵 お雪 毘沙門 和吉 しよう 喧嘩 行き 清助 捨松 お糸 通り ーーー

目次ページ

三蔵あツ。 ( 一刀浴せられて倒れる ) の取りやり、こいつは渡世に足を踏込んだ時からの約東 太郎吉ちゃんやあ ! ( 泣いておきぬに縋る ) 事だ。が、女房子供は別ッこだ。いけねえ、いけねえ。 おきぬあツ。 ( 我を忘れて飛び出そうとする ) 斬らせるもんけえ。 、こ待っている ) 時次郎 ( 三蔵が起とうとするのを見て、静カ冫 , 苫屋邪魔すると敵と見做すそ。 三人 ( 茫然、勝負を見ていたが、おきぬの声、太郎吉の声に 磯目そうだとも、敵と見做して斬るぞ。 はツとなり、顔見合せて首肯き合い、討とりに向う ) 時次郎冗談だろう、斬られてたまるか。 おきぬ畜生、何をしやがる。 ( 塵取り、鍬、砧などを投げ三蔵 ( よろめきつつ入口の破れより入り来たる ) つけ、太郎吉を抱いて逃げ込む ) 大野木沓掛の、お前の相手が乗り込んできたぞ。 ( 時次 三人それツ。 ( 追って家へ入る ) 郎が振向く隙に ) それツ。 苫屋 ( おきぬに向う ) 時次郎な、何をしやがる。ゃい、やい何をしやがる。 磯目 ( 太郎吉を追い廻す ) ( 三人を追って家へ入る ) 三蔵 ( よろめきつつ起ち、家へ向う ) 太郎吉いやだあ。いやだあ。 ( 逃げ廻り ) おっかちゃん。 おっかちゃん。 おきぬ ( 必死と有り合う物を投げつけ ) 何をしやがるんだ。 第五場三たび三蔵の家 人情なし。鬼、畜生。 あがかまち 三蔵 ( カ竭きて上り框に手をかけて伏す ) 太郎吉を庇いつつおきぬは、三人の白刃を抜け潜ってい る。 時次郎野郎共。 ( 猛然と三人に立ち向う。瞬くうちに三人と も切り立てられ、土間へ逃げる ) 時次郎 ( 割って入る ) ゃいやい女子供に何をしやがる。そ 三蔵 ( 急に奮い起ち、磯目の鎌を斬り倒し、ぐったりうずく んな法ッってのがあるかい まる。大野木の百、苫屋の半は戸外へ逃げる ) 磯目手前の知ったことじゃねえ。退けツ。 苫屋退けッたら、退け。 時次郎 ( 入口に立ち ) おかみさん。怪我はござんせんか。 おきぬええ。 ( 太郎吉を抱き緊める ) 大野木沓掛の、邪魔しちゃいけねえや。 時次郎だれが何といったって退くものか。女房子供を斬時次郎子供も怪我はござんせんでしたかい。 ってどうするんでえ。ばくち打ちは渡世柄付いて廻る命太郎吉わツ。 ( 泣く )

おきぬええ。 ( 太郎吉を更に抱き緊める ) おきぬ待っとくれ。水を飲むとそれつきりだというか 時次郎それはようござんした。 ( 三蔵を見て ) いけねえ。 ら。太郎坊や、おとっちゃんの顔をよく見て覚えとくの とても、手は届くめえ。おかみさん、お困りでござん だよ。お、大きくなっても忘れないようにね。 しよう。お察し申します。 だが、この渡世を知っ太郎吉ちゃん。おいらの顔もよく覚えといてくんなよ。 むだ て夫婦になったんでござんしようから冗なお追従は抜三蔵うン。死にたかねえが、仕様がねえさ。 ( 柄杓の 水を再び飲もうとする ) きにしておきます。ご免なすっておくんなさいまし。 ( 入口から出て行く ) おきぬだ、だれだ。 ( 太郎吉を庇い、夫を庇って起っ ) おきぬ ( 三蔵の傍へ駆け寄り抱き起す ) お前さん。傷は浅い 三蔵また来やがったか。 ( もがく ) よ。しつかりしておくれ。 時次郎 ( 入口からはいってくる ) あっしでござんす。信州の 太郎吉ちゃん、ちゃんやあ。あああ。 ( 泣く ) 旅にん時次郎でござんす。一旦出て行くことは出て行っ おきぬ死んじゃ困るよ。お前さんが死んだ後であたした たが、子供の泣き声が耳について、うしろ髪をひかれる ち母子はどうするのさ。え、しつかりしておくれ、よ、 ようで、とうとう引返してきたんでござんす。 よ。 太郎吉おっかあ。この小父さん、いい人かい。悪い人か 三蔵おきぬ、水、ーー・水だ。 別れの水盃だ。 おきぬ ( 泣く泣く水をとりに起っ ) おきぬ ( 返事に窮している ) 太郎吉ちゃん。死んじゃ厭だ。厭だあ。あああン。ああ時次郎小父さんは悪い人さ。だがね、もう悪かねえよ。 ン。 ( 泣く ) 太郎吉だって小父さんは、ちゃんを切ったあろ。 三蔵 ( 呻きながら太郎吉の頭に手をやる ) 時次郎勘忍してくれ。 おきぬ水だよ。水を持ってきたよ。 ( 柄杓を差出す ) あた太郎吉だけど。おっかちゃんやおいらを助けてくれた。 しもやくざ渡世の男を亭主に持った女だ。未練に泣きは時次郎坊や、そう思ってくれるかい。有難う。 次 ー ) よい十ノ、ど。 時 これから先、どうしたらいいのだろ三蔵信州の人。 時次郎おう。 いうことがあるんなら遠慮なくいっておく ふびん 貯三蔵おきぬ。太郎吉を頼む。身重のお前だ。ーー不憫んなさい。引受けやすでござんす。 だなあ。 ( 柄杓の水を飲もうとする ) 三蔵た、た、頼む。 ( おきぬ太郎吉を指さし、柄杓を取落

148 して倒れ伏す。母子は抱きついて泣く ) 時次郎 ( 悚然として佇む ) おや、人声がするぞ。 ( 外をのそく ) ちょツ、来やがった。おかみさん。三蔵さんの髪の毛を かんせい 切った、持って行くのだ。逃げ出すんだ。 ( 喊声がかすか にする ) 奴等大勢、東になってやってきやがった。 おきぬあ、喊の声をあげている。 時次郎早くしておくんなさい。 ( 外をのぞき ) 大分近くな りやがった。髪の毛を切ったら内懐中へしつかり仕舞う 中仙道熊谷宿裏通り のだ。死ぬ時はその髪の毛を抱いてお死によ。 まだ宵の料理はたご屋の二階で騒いでいる声、唄、鳴り物 おきぬは、。太郎吉おいで。 など混って聞える。諸所にある立木が、枯れたように見え 時次郎裏から逃げられますかい。 る厳冬だ。寒そうにして行き交う男女がある。酔って飯盛 太郎吉うン。おいらが道を知ってらあ。 と手をつなぎ忍び歩く泊り客もある。太郎吉が一人、ばっ 時次郎そうか。じや教えておくれ。 ( 外をのぞき ) いよい おびただ ねんと佇んでいる。絃入りの小諸追分が近くで聞える。酔 よ近くなりやがった。おかみさん。ほらあの夥しい足音 ッ払いが通りかかる。 だ。あいっ等みんなにかかられちゃ、十のうち十、命は ねえ。助かったら拾い物だ。坊や、泣くなよ、小父さん酔漢おう小僧。何してる。 太郎吉 ( 顔をみて答えず、脇を向く ) がついてらあ。 太郎吉うン。泣きやしねえよ。 酔漢おや、この餓鬼は唖かい。 外の声わあツ。わあツ。 ( 多人数の足音が次第に近くなる ) 太郎吉唖じゃねえやい 時次郎 ( 燈火を消し、裏口の戸を開く、月が照っている。外を酔漢はあ成程、声が出やがらあ、何してる。 , フか、が、フ ) 太郎吉ばんやりしてらあ。 おきぬ ( 太郎吉と共に三蔵に合掌し、裏口へ出て行く ) 酔漢ははは。晩飯時分を取り外して遊び呆けやがっ 時次郎 ( 三蔵に片手拝みをして出て行き。戸を閉める ) て、おん出されたな。 外の声わあツ。 ( 直ぐ近くなる、入口より数人、抜刀して躍太郎吉違わい とき り込む。喊声はまだ続いている ) 〔二幕目〕