長谷川伸全集〈第16巻〉

キーフレーズ

五郎 太郎 百太郎 万次郎 半太郎 丑松 虎松 茂兵衛 春吉 兵衛 政吉 長五郎 半四郎 お米 昭和 四郎 卯之吉 お蔦 お市 行っ 七兵衛 丑蔵 金三郎 手前 駒沢 嘉吉 弥兵衛 今吉 長谷川伸 八百 新蔵 親分 二階 講談倶楽部 サンデー毎日 江戸 高蔵 庄兵衛 逃げ 十郎 去る 女房 岩太 聞い 野郎 一人 九郎 甚太郎 文太郎 行く 知ら 三九 嘉右衛門 庄吉 竜城 三吉 栄造 久四郎 卯之 夫婦 虎御前 精次 知っ 駈け 二人 坊主 辰三郎 持っ 実永 おせん 四郎兵衛 思っ 来る 浅井 政五郎 帰っ 三蔵 おふみ 亀太郎

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九助日一那様、万次郎様ご兄弟をお探しになるのではご渡留どうした九助。 九助よ、。、 しえ、何事もござりませぬ。 座りませぬか。 渡留うむ。が、止めにしよう。 渡留今、ちらりと見掛けたが、万次郎だろう、九助、 、しかけろ。 、九助何故でござります。たった今し方街道から、こち らの方へ万次郎様がお先に、虎松様がそのおあとから、 九助万次郎様ではご座りませぬ。 逸散にお駈け出しになったばかりではご座りませぬか。 渡留虎松だったか。そこ退け。 まだ遠方へお行きなされる筈はなし、確かにこの辺にお九助旦那様。たった今、止めにすると仰有ったではご《 座りませぬか。 隠れになっておいでに相違ござりませぬ。 渡留いや、艮こ 目かかったからは是非がない。放せ、放 渡留それは判っているが、矢張り止めにしておこう。 せ。 会うのが、何とやら可哀そうになってきた。 よそ 九助は、。 九助いえ、旦那様。今のは違います。他所の人でござ 有難う存じます。 ります。 渡留何。何で礼をいう。 九助はい。実は、成ろうことなら万次郎様、虎松様お渡留わしが眼の前にさえ出てこねば、知らぬ振りで済、・ まそうもの。不運な奴め、わざわざ目前に出てくると・ ふたりとも、二度と旦那様のお目に触れないようにと、 は、九助、こらッ放さぬか。 心のうちで念じておりました。 九助は、。 渡留そうか。九助、よく、そう思ってやってくれた。 万次郎は兎に角、虎松だけは不便千万だ。おう、手間ど渡留続け。 ( 三門の外へ急ぎ出ようとする。出会頭というは、 どに、虎松が覚悟の態で引返して、境内に入り来る ) った、宇都宮へ急ぐとしよう。 虎松 ( 両刀を前に差出し、渡留の前に坐り、両腕をうしろに、 九助は、。 廻す ) 三門の内をそッと覘く旅の若き武士がある、土屋渡留の甥 九助 ( はらはらして居る ) にて、土屋虎松 ( 十八、九歳、旅支度 ) なり。 ふびん 虎松 ( 境内に渡留主従がいたので、見付けられじと顔引きこ渡留 ( 苦り切っていたが、虎松が覚悟の態に不便加わり、暗 める ) 涙をのむ ) 虎松 九助 ( 偶然、虎松の覘ける顔をみて ) あツ。

渡留 ( 何故、引返してきたかと ) たわけめ。 渡留 ( 吐き出すごとく ) 要らざる律気だ。 虎松申訳ござりませぬ。 虎松は。 渡留今、覘いたのはその方か、兄万次郎か。 虎松私でござります。 渡留万次郎はどうした。 虎松存じませぬ。 渡留わしがここに居ると判りながら。たわけめが。 虎松は。 渡留知らぬ。知らぬ筈がない。 九助 ( 渡留の真意を解し、虎松に ) もし、虎松様。あなた虎松叔父上、いかにお尋ねがありましても、兄上がど 様は何でお立去りにならぬのでご座ります。さ、早くお こへお立去りになりましたか一向に存じません。 立去りなされませ。旦那様に追いっかれぬように、すぐ渡留それは、知っていても云わぬということだな。 さまここを。 虎松いえ、違います。私は兄上とは先程わかれ別れに 渡留九助は黙っておれ。虎松、その方のその態度は何なったままです。 渡留何い : : : 財布を出してみせろ。 だ。云え。 ほしいまま 虎松私は恣に逃亡いたした者でござります。それ虎松は。 渡留出せ。 故、叔父上のお手にかかります。 虎松はい。 ( 懐中の財布を出す、軽し ) 渡留手にかかる。そのために引返してきたのか。 虎松はい。先程、街道で叔父上に見付けられ、その時渡留 ( 財布を検め ) 僅かに銭があるばかりではないか、 も逃げました。今も、その三門の蔭から、もしゃ兄上は兄に皆くれて何処ぞへ立退かしたか。胴巻をどうした。 これにおいでかと存じて、首をさしのべて覘きました虎松持っておりません。 ところ、叔父上がおいでにござりましたので、今度も渡留ふうむ : : : そちは国表を逃亡する前に、胴巻を貰 っている筈だ。 仇又、逃げました。 土屋三蔵殿にねだり、貰い受けました。 寺九助それだのに、何であなた様は引返してなどおいで虎松はい。 渡留その胴巻をどうした。云え。・ : ・ : 聞かずとも判っ 総なされたのでご座ります。 ている。万次郎にやったのだ。この財布の中が空なの 虎松僅かなうちに、二度まで逃げるとは女々しいでは も、矢張り、同じことだ。 ないか。叔父上、虎松は逃げながら自分を哀れに思いま

渡留悪くないと云えるか。 虎松 ( 無言で俯向く ) 渡留鎧櫃のなかの金子が紛失していたそうだ。持出し虎松すこしは兄上にも悪いことがありますが、何も彼 もすべてが悪いとは申されません。 た者は万次郎か、そちか。 渡留では、何で座敷牢などに入れられた。 虎松わたくしです。 渡留そちだと。 ( 疑っている ) では答えてみろ。小判何虎松押込めになる前の兄上はどうでござりました。叔 父上、昨年の春頃までの兄上のどこが悪いのでござりま 枚をとった。 したろう。 虎松父上のご筆蹟で陣中肌付と上書きの紙包の中に、 小判で金十両。そのうちの金五両をわたくしがとりまし渡留そのあとが悪かったではないか。いや、そちは年 こ 0 少ゆえ、よく判らぬのだ。 渡留万次郎が盗みとったに相違ないと、そち達の父は虎松いえ、存じております、兄上が悪いとされている よばらずむら のは無音村の庄吉の妹ゆきのことだけで、他にはありま 思っているそ。 せん。 虎松いえ、わたくしがとりました。 渡留そちは、何であれよろしくないことは一切、兄に渡留それ一ツが悪いので、頼母しい若者とされていた ひきかぶ 万次郎が、座敷牢に押込められ、恥を家中に晒したので 代って引冠るのではないか。 はないか。そちも今いったな、万次郎が悪いのは庄吉の 虎松いえ、そんなことはありません。 渡留虎松、そちは懸命に万次郎を庇っているが、万次妹のことだと。と、そちもそのことが悪いとは判ってい るのだ。 郎はそちにとって良い兄ではない筈だ。 。し半っております 虎松良いわるいではご座りませぬ、兄と弟とでご座り虎松ま、。」 渡留悪いと判っていて、なぜ座敷牢を破って万次郎を ます。 連れ出して逃亡した。 渡留いや、良い兄ではないだろうと訊いている。 虎松わたくしは弟です。 虎松兄弟でござります。 渡留こいつ。 ( 虎松を熟視している ) そちは事の理非を渡留兄弟の情のために、由緒のある土屋久右衛門の家 リに、疵をつけていいのか。 論ぜず、ひたすら兄を庇うのだな。 虎松そんなに兄上が悪く見えますか。 虎松議論を立てることを琥公ま考、