日輪の遺産

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128 「どうもこうも、問い質そうとする間に庁舎からゾロゾロ出てきた職員にすがりつきまし てね、このおじさん、変なことをするんです、と、こうです。なにしろこっちはこのなり でしょつ。い っせいに白い目を向けられましてね。説明するわけにもいかんし、ようやく ここまで逃げてきた、と、こういう次第です」 「なるほど、そういう次第か。考え過ぎだよ、中尉」 「しかし、べッピンでした。目のパッチリした、ちょっと混血児みたいな : 混血児と口にした小泉も、聞いた二人も、一瞬、顎の動きを止めた。 「まさか、ね」 きようがく 小泉は驚愕的な疑念を笑いでごまかして、紅茶をすすった。 腹具合が落ち着くと、小泉中尉は気持ちまで落ち着いたように、タバコを一服つけた。 それから、さて始めようというふうに、手提げカバンの中から地図を取り出すと、テー プルの上に広げた。 「物資はーーー」 言いかけて中尉は真柴と曹長に厚いメガネを向けた。 「そうだ。物資にはちがいないそれで良い」 そう表現するには余りに膨大なものを、中尉は見たのだ、と真柴は思った。 曹長は黙って腕組みをしたまま、地図の上に記された赤鉛筆の跡を目で追っている

中尉は軍人らしからぬ細い、神経質な爪の先で、まず地図の一点を示した。 「物資は、造幣局の地下倉庫から搬出しました。現在は東京駅の退避線に停車中の貨物に 積載されています」 「ずいぶん堂々とやるものだなーー」 真柴は眉をひそめた。 「いや、大胆ですが、極めて綿密です。荷役には戸山の幼年学校の生徒隊を総動員しまし た。他には大蔵省の官吏が数名ー丨・これも地方の税務署員です。たがいの名前も知りませ ん。生徒隊長の将校には、本土決戦用の新型の対戦車弾だと説明しました。物資はすべて りゅうだん 弾薬箱に人っており、ごていねいに『決号榴弾』と書かれております。おびただしい量で 「決号榴弾か、なるほど」 考えたものである。一発で敵戦車を破砕するような決戦用の秘密兵器が、もし本当にあ るとするならば、それが思いがけない場所からひそかに搬出されてもふしぎはない。年端 遺もいかぬ幼年学校の生徒や、若い教官がそう説明されれば、ことは完全な極秘のうちに進 曜み、取扱いについても万全の配慮がなされるであろう。 四「貨車は明朝未明に東京駅を出ます。東海道線を下って、川崎から南武鉄道に乗り入れ

130 曹長が図上を指さした。 「川崎でまた積みかえるのでありますか」 「いや」、と小泉中尉は爪の先で川崎駅を指し示した。 「南武鉄道は昨年、国に買収されているそうだ。すでに線路は本線と連結されている」 南武鉄道の買収については、陸軍省整備局員であった真柴は、もちろん知っていた。 立川の航空基地や武蔵野の軍需工場群を、京浜工業地帯と直結させることが買収の主眼 であった。空襲の攻撃目標となる中央線の迂回路としても、その路線は極めて有効であっ た。そのために軍は、かって近在の篤志家の手で作られ、奥多摩の石灰と多摩川名産の梨 をのんびり運んでいたこの私鉄を、強引に買収させたのである 「とすると、行き先は奧多摩か : : : 」 危険な中央線を迂回して、立川から青梅線か五日市線に入るつもりだろう、と真柴は考 えた。 「それがーーちょっと思いがけぬ場所なのです」 中尉の指先は多摩川に沿って延びる南武鉄道をなぞった。ゆっくりと物資を満載した貨 物が走るように、その爪の先は東横線との交叉を越え、小田急の登戸駅を通過し、南多摩 の丘陵地帯へと上って行く。 やがて終点の立川に向かって多摩川を渡る是政鉄橋の手前で、中尉の指はびたりと止ま おうめ これまさ いっかいち