亡率の低下」というメリットは生じにくい。」な どとした上で , 「がんと診断された際の精神面の 影響などのデメリットもあり , 世界的に推奨され ていない。」と検査のマイナス面を強調。さらに 福島医大放射線健康管理学講座の緑川早苗准教授 が行っている「出前授業」を紹介し , 「『がんが見 つかったら嫌だ』と思う人は , 受けない意思も尊 重されます」と子どもに話している姿が描かれて いた 「一体 , これは何なのだろう ? 」 記事を目にし , 衝撃を受けた女性がいる。県民 健康調査の検診で , 娘に甲状腺がんが見つかった 母親だ。記事は , 甲状腺がんを軽い病気のように 扱っていると感じた。「娘のように , これから一 生治療を続けなければならない子どもの存在が無 視されている。」深い悲しみと怒りが湧いてきた 女性の長女は高校生のときに甲状腺がんが見つ かり , 甲状腺摘出手術を行ったものの半年後には 再発。 1 回目の手術から 1 年後に再手術をし , 残 りの甲状腺を摘出した。この時 , 肺へも転移して いることがわかり , 進学していた学校を退学。現 在は , 治療に専念している。 このケースだけでなく , 福島医大で診断されて いる甲状腺がんは , 進行が速いケースが少なから す存在する。中通りに住む 10 代の女性は , 甲状 腺がんの告知を受けた日に , 半年後の手術日を決 められた。「もっと早くしてほしい」と要望した ものの , 「心配することはない」と説得され , 結 局 , 6 カ月待って手術した。 ところが , その半年間に 5 mm 近くも腫瘍が成 長していたという。術後 , 主治医から「再発する かもしれない」と告げられ , 「なぜもっと早くに 手術してくれなかったのか」とショックを受けた そして手術から 1 年後 , 血液検査で再発の恐れ があることがわかり , 再び穿刺細胞診を受けた。 結果は陰性だったが , 3 カ月後に再び検査をする ことになっている。これらのケースを見ると , 今 , 「過剰診断」の根拠となっている「小児甲状腺か んの進行が遅い」との主張は当てはまらない。現 在 , 福島県民健康調査の検討委員会では , 2 巡目 0784 KAGAKU Aug. 2016 VOL86 No. 8 で甲状腺がんと診断された子どもの大半が , 1 巡 目ではまったく所見のない A 判定であったこと が議論の的になっているが , 現に , 半年で 5 mm 近く腫瘍が成長している例が存在してることを考 えれば , 2 ~ 3 年の間に , 腫瘍が 2 ~ 3 cm 成長す ることも説明がつく。しかも , 甲状腺がんの乳頭 がんは生命予後がよいと言われているが , 20 ~ 30 年後にも再発する可能性があり , 一生 , 経過 観察が必要なのである。また遠隔転移すると , 治 療法がごく限られている。 手術症例の公開 鈴木眞ー教授 ( 福島医大甲状腺内分泌学講座 ) によると , 事故前 , 福島医大における甲状腺がんの 5 年再 発率は 6 % だという。 130 例の手術があったとす ると約 8 例ということになる。福島県民健康調 査で見つかった甲状腺がんの再発率が , その水準 を上回っているのか , あるいは同じか , 下回って いるのか 筆者が鈴木教授に再発数を質問ところ , 鈴木教 授は「余計なことを話すとクビになる」と明らか にしなかった。ただ , 再手術が複数回 , 実施され ていることは認めた。鈴木教授はいすれ論文で発 表するとし , 「それが私の義務だ」と話す。しか し , それでよいのか 長崎大学出身で , 放射線影響研究所の所長だっ た長瀧重信氏は今年 3 月 , 朝日新聞の「 WEB RONZA 」に , 「甲状腺がんとチェルノブイリ , そして福島 ~ 小児甲状腺がんの増加が国際的に確 認されるまでの道のりを振り返る」 2 と題する一 文を寄せている。興味深いのは , チェルノブイリ で小児甲状腺がんと被曝との因果関係を検証する にあたり , 世界中の甲状腺の専門家がミンスクに 集まり , 疫学的視点のみならす , 患者の病歴 , 手 術記録 , 病理標本も検討したという。 チェルノブイリでも当初 , 米国や日本の研究者 は , がんの多発はスクリーニング効果であると主 張していた。しかし , あらゆるデータを検証し 10 年かけて国際的な合意を得たのである。しか し , 日本では甲状腺がん手術に関わるデータは専 0
特集甲状腺かん 172 人の現実 何が起きているのか ? 「過剰診断」論の背後で ーーー甲状腺がんの再発予後と治療 自石草 Ou 「 Planet-TV 毎週火曜日。朝 8 時半を過ぎると , 福島県立 医科大学 ( 以下 , 福島医大 ) 附属病院 2 階にある外来 病棟の 10 番診察室前は , 診察を待っ患者であふ れる。中高年層が大半を占めるなか , 目立つのは 子ども連れ家族の姿だ。福島県民健康調査の甲状 腺検査で , 「 2 次検査の必要あり」と診断を受け て精密検査を受ける子どもや , 甲状腺の摘出手術 を受けた後 , 経過観察をしている子どもたちだ。 両親だけでなく , 祖父母が付き添っているケース もある。最近は , 小学生の年ごろの子どもも目に つくようになった。 福島県民健康調査の甲状腺検査をめぐり , いま 何が起きているか。 3 カ月に 1 回の割合で , 福島 県が開催している「検討委員会」では見えてこな い治療の実情を報告する。 1 30 例の手術はムダなのか ? 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い , 福島県は「県民健康調査」を実施し , 18 歳以下 の子どもたち 38 万人を対象に , 超音波による甲 状腺検査が行われている。 今年 3 月末までに確定したデータによると , 2011 年から 2013 年までの 3 年間に実施された 「先行検査 ( 1 巡目 ) 」で , 「悪性」ないし「悪性疑 い」と診断された子どもは 116 人で , そのうち 102 人がすでに摘出手術を受けた。手術後の組織 診断結果によると , 1 人が良性結節と診断された が , 残り 100 人は乳頭がん , 1 人は低分化がんと Realities behind the overdiagnosis discourse: Recurrence and しらいしはじめ Hajime SH 旧 A旧印 treatment Of thyroid cancer 診断されている。また 2013 年から 2014 年 にかけて実施された「本格検査 ( 2 巡目 ) 」で , 0 「過剰診断」論の背後で何が起きているのか ? 科学 0783 は , 甲状腺検査について , 「検査実施による「死 けない意思も尊重」」との記事を掲載した 1 。記事 新聞は 6 月 15 日 , 「甲状腺検査の在り方は「受 こうした状況に呼応するかのように , 福島民友 一生続く経過観察 か」との声があがっている。 住民からは , 「受診率を下げようとしているの は「送付を希望しない」という項目が登場した。 た。」と記載しているのである。また , 同意書に る検診は , 一般的には行われてきませんでし す。」などとした上で , 「甲状腺の超音波検査によ とになり , ご心配をお掛けすることもありま の特性上 , 治療の必要のない変化も多数認めるこ 見早期治療につながることもありますが , 甲状腺 査の結果 , 治療が必要な変化が発見され , 早期発 の受診を躊躇させるような文言が登場した。「検 この提言を受け , 3 巡目の検査通知には , 検査 を見つけている可能性がある」というのだ 集団検診により , 「将来 , 治療の必要のないがん 考えにくい」との見解を示している。精度の高い 月に「中間とりまとめ」を公表。「被曝影響とは これらの数字について , 検討委員会は今年 3 という状況にある。 1 引人となり , 悪性が疑われる 41 人が手術待ち を合わせると , 甲状腺がんと確定した子どもは の結果は , 全員乳頭がんだった。 1 巡目と 2 巡目 は 57 人で , 30 人が手術を終えている。組織診断 ' 第 「悪性」ないし「悪性疑い」と診断された子ども
10 ー『義演准后日記』文禄 5 年閏 7 月 16 日条。 11 ー西山氏注 2 論文①。 12 ー「言経卿記』文禄 5 年閏 7 月 15 日条・ 16 日条・ 8 月 1 日条。 13 ー『言経卿記』文禄 5 年閏 7 月 15 日条。 14 ー松岡祐也「『言経卿記』に見る文禄五年伏見地震での震災 年。 六・七世紀イエズス会日本報告集』第 1 期第 3 巻 , 同朋舎出版 , 長崎におけるニ十六殉教者に関する報告書 ( 松田毅ー監訳『十 22 ー 1597 年 3 月 15 日付ルイス・フロイスのイエズス会総長宛 21 ー北島氏注 19 書。 20 ー『義演准后日記』慶長 2 年 9 月 12 日条・ 27 日条。 19 ー北島万次『秀吉の朝鮮侵略と民衆』岩波書店 , 2012 年。 18- 西山氏注 2 論文①。 17 ー「義演准后日記』慶長 2 年 5 月 5 日条。 16 ー藤井讓治編『織豊期主要人物居所集成』思文閣出版 , 2011 1 5 ー寒川氏注 1 書 , 『義演准后日記』文禄 5 年閏 7 月 14 日条。 号 , 2006 年 ) 。 対応ー特に「和歌を押す」行為について一」 ( 「歴史地震』第 21 1988 年 ) 。 23 ー「言経卿記』文禄 5 年閏 7 月 13 日条。 24 ー髙橋康夫「慶長大地震と京都・伏見」 ( 同氏「海の 一日本琉球都市史研究』京都大学学術出版会 , 2015 年 , 1998 年 ) 。 25 ー西山氏注 2 論文①。 雑誌『思想』 8 月号 ( 2016 ) 目次より 特集 = B. アンダーソンの仕事 【思想の言葉】大澤真幸 柔軟な比較の思考と自由な表現一一一アンダー ンの東南アジア地域研究山本信人 京都」 初出は ソ 京都 2016 年 1 月 20 日発行 320 頁本体 900 円 + 税 三枝暁子著 高木博志 小林丈広 , 京都の歴史を歩く 岩波新書新赤版 1 584 2014 年 9 月 9 日発行 B5 判 1 18 頁本体 2700 円 + 税 西村豊写真 三枝暁子文 すいきみこしと西之京 天神をまつる人びと 戸塚洋二・梶田隆章著『増補新版地底から宇宙 岩波科学ライプラリー 247 本体 1200 円 + 税 有田正規著『科学の困ったウラ事情』 岩波科学ライプラリー 248 本体 1600 円 + 税 岩波書店編集部編『科学者の目 , 科学の芽』 ◎科学から生まれた本 をさぐる 四六判 ニュートリノ質量が発見されるまで』 本体 1800 円 + 税 大浜啓吉著『「法の支配」とは何か行政法入門』 岩波新書新赤版 1589 本体 840 円 + 税 植木不等式著『ばくらの哀しき超兵器』 岩波現代全書 71 本体 2500 円 + 税 インドネシアのナショナリズム , その現在と未 来へネディクト・アンダーソン 「想像の共同体」を越えて - ーーベネディクト・ アンダーソンのナショナリズム論をめぐって 新倉貴仁 リバタリアン・パターナリズム批判 いかな る介入を正統化すべきか ( 上 ) 橋本努 放心の幾何学一一 20 世紀フランス文学におけ る眠りと夢 ( 1 ) 塚本昌則 西田哲学と『大乗起信論』一一井筒俊彦『意識 の形而上学』を介して ( 上 ) 西平直 冨田恭彦 カントの「一般観念」説と図式論 中嶋康裕著『うれし , たのし , ウミウシ 岩波科学ライプラリー 240 本体 1300 円 + 税 study2007 著『見捨てられた初期被曝』 岩波科学ライプラリー 239 本体 1300 円 + 税 牧野淳一郎著『被曝評価と科学的方法』 岩波科学ライプラリー 236 本体 1300 円 + 税 小豆川勝見著『みんなの放射線測定入門』 岩波科学ライプラリー 224 本体 1200 円 + 税 今泉みね子著『脱原発から , その先へドイツの 市民エネルギー革命』 四六版 岩波書店 本体 2100 円 + 税 0782 KAGAKU 岩波書店 Aug. 2016 VOl.86 NO. 8