んよば ろ ひ の 律 法 ロと日本経済ー長寿、イノベ 1 ション、経済成長めている マクロ経済学の本質を研究してきた著者の論理は、とて ー ( 吉川洋・東京大学名誉教授著、中公新書、 平成年 8 月 ) を読んだ。この本の要旨は以下のとおりでも平易でかっ説得的である。しかも、日本の将来について ある。人口、特に労働力人口が減少しつつある日本で、今暗い見通しが多い中で、本書は客観的なデ 1 タに基づき、 今後進むべき方向性についての示唆と将来への希望を与え 後の経済成長についての悲観論が多く聞かれる。しかし、 の成長率は労働力人口の増加率だけで決まるのではてくれる 1 一 . 戸 0 ー 1 / 0 本書に刺激されつつ、刑事政策について考えてみたい。 正ない。その証拠に、高度経済成長期 ( 1 ・ 3 % ) を今般公表された平成年版犯罪白書では平成年までの数 年 ) の日本では、労働力人口の増加 ( 年平均 値が盛り込まれており、これによると、刑法犯の認知件数 はるかに上回るべースで実質の成長 ( 年平均 9 ・ 6 % ) があった。では、経済成長の鍵は何かというと、新しは、平成Ⅱ年のピーク後、減少を続け、平成年は戦後最 い設備や機械を投入する「資本蓄積」と、広い意味での「技少となった。人口と犯罪の増減の関係を見ると、人口は平 成年をピ 1 クとして、その後緩やかに減少し、犯罪の増 術進歩」、すなわち「イノベ 1 ション」である。イノベ 1 減の曲線とは異なる軌跡をたどっており、人口の増減が近 ションといっても、理工系の世界のハ 1 ドとしての技術、 ョテクノロジーの進歩だけではなく、成熟経済で成長を生み時の犯罪減少の主な原因とはいえないであろう。それで ノ出す上では、高い需要を得る新しいモノやサ 1 ビスの誕は、どのような要素が犯罪の減少に影響しているのかが問 生、「プロダクト・イノベーション」が重要である。例え題となるが、経済動向、各種の犯罪対策等の様々な要素の ば、子供が多く生まれた時代には子ども用おむつがよく売影響を検討する必要があり、紙幅の制約上ここでは割愛す れたが、 その後の少子化で売上は減少したところ、大人用る。また、最近の刑事政策における「イノベーション」と べ のおむっというコンセプトで新たに商品化したことによしては、今年 6 月から施行された刑の一部執行猶予の制度 ノ り、再びおむつが売れるようになった。また、高齢化社会がある。この制度は、いわば刑事司法のハード面での改革 は負のイメージだけで捉えられがちだが、 戦後、平均寿命である。今後、この新しい制度に魂を吹き込み、十分に活 イ が延びて日本が世界一の長寿社会になったことは、医療の用するためには、運用面における細やかな調整が求められ 進歩、国民皆保険制度に加えて、所得水準の上昇によるもるであろう。今後、裁判に関わる法曹三者、刑の執行や保 ノのであり、戦後の日本の最大の成果である。今後迎える超護観察を担う刑務所職員、保護観察官や保護司とい 0 た実 論咸高齢化社会では、社会のすべてが変わる大きな変化がある務家の方々がそれぞれの現場でイノベ 1 シ「ンに挑み、再 はずで、それは大小のイノベーションによって実現され犯防止の有効なツ 1 ルとなることを期待したい。 る。このような問題を抱える日本経済は、日本の企業にと って絶好の「実験場」を提供しており、大きな可能性を秘 ( 究 )
時言。羅 、ま ろ ひ の 律 法 事に任官して数年が経つが、我が国の刑事司法裁判員制度が導入され、一般国民から選任された裁判員が 時イ 、本は、任官当時には全く想像出来なかったくらい大き有罪無罪の認定や量刑判断に関わるようになった。それに ま く変化している 伴い、証人尋問中心の裁判員に分かりやすい立証が求めら 当時、弁護人との間のホットなテーマと言えば、先ずはれるようになるなど公判審理の在り方にも変化が生じてい ひの る。 去接見交通の問題と証拠開示の問題があ 0 た。 接見交通については、検察官による接見指定権の行使を 取調べの在り方も変わりつつある。かっては供述調書至 司現に被疑者を取調中である場合等に限定する最高裁判例が上主義と言われるように、供述調書が極めて重視されてい すでに存在していたものの、一部の重大・複雑な事案におた。しかし、現在、取調べの録音・録画が実務上広く行わ 事 いては被疑者の取調べが長時間、多数回に及ぶ傾向にあつれるようになり、取調べや供述調書作成の新たな在り方に たことなどもあり、接見指定権が頻繁に行使され、弁護人っいても議論されている。なお、取調べの録音・録画が積 との間で紛争になることが少なくなかった。しかし、その極的に行われるようになるにつれ、黙秘権を行使する被疑 る 後、弁護人の接見交通権により配慮する幾つかの最高裁判者が格段に増えたように感じる。必然的に供述証拠に代わ じ例が出たことなどもあ 0 て、現在、接見指定権の行使は弁り、防犯カメラ映像等の客観証拠を徹底的に収集すること 護人の要望に出来る限り配慮して行われており、接見交通がより一層重要となっている。 感 、 / を巡る紛争は過去のものになりつつあるように思われる このような中、本年 5 月に刑事訴訟法等一部改正法が成 で証拠開示に 0 いても、任官当時は、検察官手持ち証拠の立し、被疑者取調べの録音・録画の義務付け、被疑者国選 日万開示は、弁護人の申し出を受けた裁判所の訴訟指揮権に基弁護や証拠開示の拡充、通信傍受の合理化・効率化、司法 づき一定の要件の下に認められる場合があるにすぎなかっ取引的手法 ( 協議・合意制度 ) や刑事免責制度の導入など た。そのため有罪無罪が激しく争われる公判においては、 我が国の刑事司法の在り方を更に大きく変える改革がなさ の検察官手持ち証拠の開示を巡り、し烈な争〔になることもれることにな 0 た。 2 あった。しかし、刑事裁判の充実迅速化を目的とする刑事しかし、どれだけ制度が変わっても、一番大切なこと / 訴訟法改正法が平成年に施行され、新たに設けられた公は、」 刑事司法において事案の真相がきちんと解明されると 判前整理手続において一定の検察官手持ち証拠につき開示 いうことであろう。これなくして刑事司法に対する国民の 義務が定められた。現在、検察官は、公判前整理手続に付信頼を保つことは出来ない されていない事件においても積極的に手持ち証拠の開示に 今般の改革は、証拠収集手段の適正化・多様化を柱の一 応じるなど柔軟に対応しており、証拠開示を巡る争いも激っとするものであり、真相解明にも資するものである。 減したのではなかろうか 新制度の適切な運用の実現に向け、今後も検察庁の試行 また、任官当時は、」 用事裁判は、職業裁判官と検察官、錯誤と努力は続く。 弁護人のプロだけで行われる世界であったが、平成幻年に ( 高 )
月刊法律のひろば 2016 VOL69 No. 1 2 December ◆特集◆ 消費者団体訴訟制度のこれから ー消費者団体訴訟制度の導入と課題 / 升田純 4 ー消費者裁判手続特例法の概要 / 消費者庁消費者制度課 12 ー消費者契約法改正の概要 / 消費者庁消費者制度課 21 ー適格消費者団体への期待と課題 / 磯辺浩一 29 ー消費者団体訴訟制度の企業活動への影響と対策 / 松田知丈・増田慧 38 ◆読み切り◆ 平成 28 年版犯罪白書のあらまし / 冨田寛 49 ◆連載◆ 保険判例研究第 37 回一一保険判例研究会 ドアが閉まるまでは、「運行」として、タクシーから降車直後の転倒は「運行に起因 する事故」として人身傷害保険の適用が認められた事例 / 藤野健仁 59 ひろば時論 / 2 ■検察の現場で感じる刑事司法の変化 ■人口減少、イノベーションと刑事政策 ・ひろば法律速報 / 70 ・訟務情報 / 74 ・次号予告 / 69 ・年間主要目次 / 77 ◇◇◇命 弊社新刊図書・雑誌のご案内・・・・・ h 社 p : //gyosei. jp 装丁 /Kaz