邦彦は新聞を読んでいる。 向き合った椅子から麻見は夫を見ている。 男の人ってどうしてそんなに新聞が好きなの、といおうとしたがロに出すのはやめた。 胸の中で呟くだけにした。邦彦は新聞を五種類読む。モーツアルトを聴くことと新聞を読 むことが邦彦の楽しみだ。 「モーツアルトと新聞との関連性って何かしら ? 」 今度はロに出ていた。しかしべつに夫に答えてほしいわけではなく、また夫も答えない だろうことは承知しているから、目を夫から庭の方へ向けて、 「いい雨ねえ。今頃の雨ってほんとにいいわ」 と呟いた。 一章 つぶや
工よ月、んた 目次 解説 うつみ宮土理一一四 0