「奥さんですね、僕吉峯です」 「ああ」 と香納子は小さく呟いた。昔香納子が化粧品 会社に勤めていた頃、吉峯は桂木のライバルであ っこ 0 、、 オしや、吉峯だけではない。香納子をねら っていたのは、勝元など、他に二、三人はいた。 「すっかり御無沙汰しちゃって、なにか : : : 」 桂木香納子は、梅田新道の裏で趣味の店を経営「桂木君、身体でも悪いんですか。さっき浜寺の していた。 主に手芸品専門の店ミほかには上等お宅の方へ電話したんですが、女中さんじゃ、要 なアクセサリーなどを置いていた。 領を得なくって」 でも呑納子は、そんな店の女主人というより、 「あら、会社に出ていないんですか : : : 」 人形作家として一部にその才能を認められてい と言って香納子は、しまった、と思った。吉峯 も香納子の言葉には驚いた様子だが、具合悪そう 事実、香納子の作った人形は、某薬品会社が商に、一昨日から社に出勤していないが、今日は課 標を取り、テレビのコマ 1 シャルに、何時も使わ長会議があるし、気になったので、と言って、電 れている。ムード人形というやつで、確かに香納話を切った。 子の作品には、他人が真似出来ない、夢のような香納子は、受話器を置くと、しばらくその場に 美しさがあった。 ばんやり立っていた。 その日香納子は、夫の勤めている化粧品会社「先生、どうなさいましたの」 から、梅田新道の店に電話を受けた。 角田咲子が言った。咲子は香納子の遠縁の娘で 崩れた顔
目次 崩れた顔 夜の花が落ちた 煮えた欲情 女蛭 砂の山 残酷な花 返らない写真 仙見川の夜 同伴者 プヾ円イ プヾプ・しレョイエ