夏目漱石全集 13

キーフレーズ

津田 自分 小林 言っ 夫人 叔父 二人 言葉 岡本 清子 考え 思っ 意味 吉川夫人 しよう 吉川 兄さん 奥さん 仕方がない なかっ 行っ 漱石 相手 細君 継子 持っ 叔母 しかし 掛け 出し 今日 知ら 事実 態度 藤井 付い 黙っ 少し 感じ 答え あいだ 様子 付け 言い 言わ 眺め 解ら 一人 行く 立っ 下女 思う 彼女 由雄 見え 仕方 必要 場合 人間 お父さん そうして 置い 明暗 見せ 説明 京都 ふたり 言う 関係 見る 好い 来る 訊い 代り 真面目 思わ 手紙 思い 返事 秀子 一つ

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明 までして君の朝鮮行を送る訳がないからね」 津田は逆らわなかった。 ありがと 「有難う」 「そうさ余裕次第とも言えるね」 うそ きよう 「いや嘘じゃないよ。現にこのあいだもお延にその訳「僕は生れてから今日までぎり / 、決着の生活をして をよく言って聴かせたくらいだもの」 きたんだ。まるで余裕というものを知らずに生きてき うさんくさ まゆ ぜいたくざんまいわがまゝざんまい 胡散具いなという目が小林の眉の下で輝ゃいた。 た僕が、贅沢三味我儘三味に育った人とどう違うと君 「へええ。ほんとかい。あの細君の前で僕を弁護しては思う」 くれるなんて、君にもまだ昔の親切が少しは残ってる津田は薄笑いをした。小林は真面目であった。 と見えるね。しかしそりや : ・ : 。細君はなんと言った「考えるまでもなくこゝにいるじゃないか。君と僕さ。 ふたりみくら ね」 二人を見較べればすぐ解るだろう、余裕と切迫で代表 ふところ しよさ 津田は黙って懐へ手を入れた。小林はその所作を眺された生活の結果は」 うなす めながら、わざとそれを止めさせるように追加した。 津田は心の中でそのいく・ふんを点頭いた。けれども 「はゝあ。弁護の必要があったんだな。どうも変だと いまさらそんな不平を聴いたって仕方がないと思って あと 思ったら」 いるところへ後が来た。 津田は懐へ入れた手を、元のとおり外へ出した。 「それでどうだ。僕は始終君に軽蔑される、君ばかり きれい 「お延の返事はこゝにある」といって、綺麗に持ってきじゃない、君の細君からも、誰からも軽蔑される。 ちゅうちょ た金を彼に渡すつもりでいた彼は躊躇した。その代り いや待ちたまえ、まだいうことがあるんた。 もど 話頭を前へ押し戻した。 れは事実さ、君も承知、僕も承知の事実さ。すべてさ 「やはり人間は境遇次第だね」 つき言ったとおりさ。だが君にも君の細君にもまだ解 「業は余裕次第だというつもりだ」 らないことがこゝに一つあるんだ。もちろんいまさら か′ なが さか わか わか 3 引

それを君に話したってお互いの位地が変るわけでもな 「よかろう」 いんだから仕方がないようなものの、これから朝鮮へ 「よくないたって、僕のような一文なしじやほかにな おり 行けば、僕はもう生きて再び君に会う折がないかもしにも置いていくものがないんだから仕方がなかろう」 れないから : : : 」 「だから可いよ」 小林はこゝまで来て少し興奮したような気色を見せ「黙って聴くかい。聴くなら言うがね。僕は今君の御 あと たが、すぐその後から「いや僕のことだから、行って馳走になって、こうしてばく / \ 食ってるフランス料 ・こしようたい みると朝鮮も案外なので、厭になってまたすぐ帰って理も、このあいだの晩君を御招待中して叱られたあの きた こないとも限らないが」と正直なところを付け加えた汚ならしい酒場の酒も、どっちも無差別に旨いくらい ので、津田は思わず笑いだしてしまった。小林自身も味覚の発達しない男なんだ。そこを君は軽蔑するだろ とんざ いったん頓挫してからまた出直した。 う。しかるに僕はかえってそこを自漫にして、軽蔑す 「まあ未来の生活上君の参考にならないとも限らない る君を逆に軽蔑しているんだ。いいかね、その意味が から聴きたまえ。実をいうと、君が僕を軽蔑している君に解ったかね。考えてみたまえ、君と僕がこの点に とおりに、僕も君を軽蔑しているんだ」 おいてどっちが窮屈で、どっちが自由だか。どっちが 「そりや解ってるよ」 幸福で、どっちが東縛をよけい感じているか。どっち 「いや解らない。軽蔑の結果はあるいは解ってるかもが太平でどっちが動揺しているか。僕から見ると、君 しれないが、軽蔑の意味は君にも君の細君にもまだ通の腰は始終ぐらついてるよ。度胸が坐ってないよ。厭 じていないよ。だから君の今タの好意に対して、僕は なものをどこまでも避けたがって、自分の好きなもの おっか また留別のために、それを説明していこうてんだ。どをむやみに追懸けたがってるよ。そりゃなぜだ。なぜ 懸いたく うだい」 でもない、なまじいに自由が利くためさ。贅沢をいう たが けしき ちそう

襟を正して聴くに違ないんだ。いや僕の僻でもなんで 余地があるからさ。僕のように窮地に突き落されて、 どうでもかってにしやがれという気分になれないからもない、争うべからざる事実だよ。けれども君考えな いけな くっちや不可いぜ。僕だからこれだけのことが言える さ」 みくび 津田は天から相手を見縊っていた。けれども事実をんだということを。先生だって奥さんだって、そこへ こゝろえ よ、つこ。、林はたしかに彼よゆくと駄目だということも心得ておきたまえ。なせ 認めないわけこよ、 すう だ ? なぜでもないよ。いくら先生が貧乏したって、 り図迂々々しくでき上っていた。 僕だけの経験は甞めていないんだからね。いわんや先 生以上に楽をして生きてぎたかの輩においてをやだ」 だれ あと しかし小林の説法にはまだ後があった。津田の様子かの輩とは誰のことだか津田にもよく解らなかった。 もど おも を見澄ました彼は突然思い掛けないところへ舞い戻っ彼はたゞ腹の中で、おおかた吉川夫人だの岡本だのを ふたり てきた。それは会見の最初ちょっと二人のあいだに点指すのだろうと思ったぎりであった。実際小林は相手 いきおい 綴されながら、前後の勢ですぐどこかへ流されてしまにそんな質間を掛けさせる余地を与えないで、さっさ と先へ行った。 った間題にほかならなかった。 「僕の意味はもう君に通じている。しかし君はまだな「第二にはだね。君の目下の境遇が、今僕の言ったよ じよごん うな助言ーー・・だか忠告だか、また単なる知識の供給た るほどという心持になれないようだ。矛盾だね。僕は その訳を知ってるよ。第一に相手が身分も地位も財産か、それはなんでも構わないが、とにかくそんなもの そうめい も一定の職業もない僕だということが、聡明な君を熕に君の注意を向ける必要を感じさせないのだ。頭では これが現在の君なん わしているんだ。もしこれが吉川夫人かかの口から解る、しかし胸では納得しない、 つま だ。つまり君と僕とはそれだけ懸絶しているんだから 出るなら、それがもっとずっと詰らない説でも、君は あ えり ちがい びがみ 35 と