転落・追放と王国

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106 どうもふせったままで恐縮です。大したことじゃありません。徴熱があるので、ジンを薬がわ りにしていますよ。一、うした発作は慣れつこなんです。たぶんわたしが法王だったころに感染し たマラリヤでしよう。いえ、半分はほんとうの話ですよ。あなたはこう考えているんでしよ、ち うそ ゃんとわかりますがね、 ^ こいつのしゃべることは、嘘かほんとうかどうもわからないとね。 といやまったくもっともな次第です。わたし自身でさえ : : : わたしの知合いで、人間を三種類に分 追類しているやつがいましたつけ。第一は嘘をつかざるを得ないくらいなら、隠しごとをいっさい 落持たないほうがいいと考えるやっ、次はなにも隠しごとがないよりも、嘘をつくほうがましだと 思うやっ、最後は嘘をつくのも、隠すのも両方好きなやつ。わたしがどの分類にいちばんあては まるか、それはお任せしますよ。 要するに、どうでもかまわないじゃありませんか ? 嘘だって結局は真実への道をめさしてい るわけでしよう ? 嘘にしろほんとうにしろ、わたしの話はすべて同じ目的に向い、同じ意味を 持っていないでしようか ? いすれにしても過去と現在のわたしについて深い意味があるとした ら、話の真偽など糞くらえです。ほんとうのことばかり言うやつより、かえって嘘つきのほうが くら しばしば正体をはっきり見せますからね。真実は光と同じで、目を眩ませる。逆に嘘のほうは美

107 落 しいタ暮で、いちいちの物をはっきりさせてくれます。とにかくあなたがどう思おうと勝手です が、わたしは俘虜収容所にいるときに、法王にされたんですよ。 どうそ腰かけてください。部屋を眺めていますね。殺風景だけど、さつばりしているでしょ う・ヴェルメールの絵から家具や鍋類を取除いたようなものです。本もない。永いこと読書しま フォワ・グラ せんから。昔わたしの家は読みかけの本でいつばいでしたが、こいつは肝臓料理をちょっとつつ いやみ いただけで残りを捨てさせる通人ぶった連中同様厭味たらしいものですね。だいいち、今では告 白もの以外に興味はないですな。そういう物を書くやつはます告白しないために、自分が知って いる一、とについてはなにひとっ口を割らないために書く。やつらがこれから打明けると称すると まゆっぱ きこそ、眉唾ものですよ、死骸を粉飾しようとしているんですから。わたしの目は貴金属商のよ うに利くんです、ほんとですよ。そこでわたしは、きつばりとやめてしまいました。本も、むだ かんおけ ~ しい、さつはりとニスだけ塗った、まるで棺桶みたい 転な道具も、もう必要はない。必需品だナで、 な物。もっともこのとおり純白のシーツを敷いた、堅いオランダ風の寝台を使っていれば、なに ぎようかたびら もお棺がなくたってもう経帷子を着せられ、清浄な香をたきこまれて、死んでるようなもんです がね。 法王時代の出来事をお知りになりたいですか ? 陳腐なことばかりですよ。話す元気がある か、ですって ? 大丈夫、どうやら熱も下り坂のようです。ひと昔前の話です。舞台はアフリ たけなわ 力、ロンメル将軍のおかけで戦火酣のころ。いや安心してください、それに参加していたわけ ふりよ なペ こう ちんぶ

ではないのです。その前にヨーロッパの戦争から逃げだしたくらいですから。むろん動員はされ ましたけれど、ついぞ銃火をまじえず終いですよ。ある意味で残念ですがね。戦っていたらすい ぶん今とは違っていたんじゃあるまいか、などと考えましてね。しかしフランス軍はわたしが前 、リに舞い戻っ 線にでることを必要としなかったのですよ。退却を要求されたきりで。そこで、 て、ドイツ人を見たというわけ。ちょうど評判になりはじめたレジスタンス運動に気を惹かれま した。ちょうど自分が愛国者だと悟ったころでしてね。笑っていますね ? そりゃあなたの思 メトロ 国い違いですよ。わたしが気づいたのは地下鉄のシャトレ駅の地下道のなかです。犬が一匹あの迷 片耳のひしやけたその犬は、きよろぎよ 路で迷っていたんです。大ぎい図体をして毛のかたい、 追ろして通る人の足もとを嗅いだり跳ねたりしていました。わたしは昔からすっと大が好きでして ゆる 落ね。というのは大はいつだって赦してくれるからですよ。そこでわたしはその犬を呼ひました。 しつぼ そいつはうれしそうに尻尾を振って、明らかになついた様子をしながらも、何メートルか離れた 所でためらっていた。そのとき、活溌に歩いてきた若いドイツ兵がわたしの脇を通り過ぎ、大の 前まで来ると、やつの頭を撫でたんです。すると大はためらいもしないで兵隊と足並をそろえ、 さっきのとおりにうれしそうに、ついていってしまったんです。そのとぎわたしはこのドイツ兵 を恨み、いわば憤激を覚えましたが、わたしの反応の仕方は愛国的だと認めざるを得ませんでし た。もしこの犬が普通のフランス人についていったのだとしたら夢にもそうは思わなかったで ットになった姿を想像したんで しようが、わたしはあの可愛らしい犬が、ドイツの連隊のマスコ 108 かつばっ わぎ