世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

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た。右手の中指に長い時間書きものをした時のような軽いしびれが残っていた。シャフリン グは完成していた。ノートにはぎっしりと十六ページにわたって細かい数値が書きこまれて 私はマニュアルにあるとおりに、洗いだし転換数値とシャフリング済み数値の項目ごとの 数量をあわせてから、最初の方のリストを流しの中で焼き捨てた。ノートを安全箱に収め、 ン テープレコーダーと一緒に金庫の中にしまった。そして居間のソファーに座ってため息をつ ンいた。これで作業の半分は終ったのだ。少くともあと一日は何もしないで済む。 ワ 私はグラスにウイスキーを指二本ぶん注ぎ、目をつぶって二くちで飲んだ。生あたたかい アルコ 1 ルが喉をこえて食道をつたい、胃の中におさまった。やがてそのあたたかみが血管 ほお をつたって体の各部にはこばれていった。まず胸と頬があたたかくなり、次に手があたたか 一くなり、最後に足があたたかくなった。私はバスルームに行って歯を磨き、水をコップに二 杯飲み、小便をし、次にキッチンに行って鉛筆を削りなおし、筆皿にきちんと並べた。そし まくら のて目覚し時計をベッドの枕もとに置き、電話の自動応答装置を切ってもとに戻した。時計は 世十一時五十七分を指していた。明日はまだ手つかずで残っている。私は急いで服を脱ぎ、 あご ジャマに着替えてべッドにもぐりこみ、毛布を顎の下までひつばりあげてから枕もとのライ こも邪魔されること トを消した。十二時間たつぶり眠ってやろうと私は心の中で思った。誰。 なく、たつぶりと十二時間眠るのだ。鳥が鳴いても、世の中の人々が電車に乗って会社にで かけても、世界のどこかで火山の大噴火があっても、イスラエルの機甲師団がどこかの中東 のど みが

の村を壊滅させても、とにかく眠りつづけるのだ。 それから私は計算士を引退したあとの生活について考えた。私は十分な金を貯め、それと 年金とをあわせてのんびりと暮し、ギリシャ語とチェロを習うのだ。車の後部座席にチェ ロ・ケースをのせて山に行き、一人で心ゆくまでチェロを練習しよう。 、つ聿 6 ′しーー 、ナよ山に別荘を買うこともできるかもしれない。ちゃんとしたキッチンのついた こぎれい ハ小綺麗な山小屋。私はそこで本を読んだり、音楽を聴いたり、ヴィデオ・テープで古い映画 を見たり、料理をしたりして過すのだ。料理ーーというところで、私は図書館のリファレン 一緒にいる ンス係の髪の長い女の子のことを思いだした。彼女がそこにーーその山の家に ワ のも悪くないような気がした。私が料理を作り、彼女がそれを食べるのだ。 お ルしかし料理のことを考えているうちに、私は眠りに陥ちた。空が落ちてくるみたいに、眠 ポりはとっぜん私の上にふりかかってきた。チェロも山小屋も料理も、みんなどこかにちりぢ りに消えてしまった。私だけがあとに残って、まぐろのよ、つにぐっすりと眠った。 一三ロカカ私の頭。 こドリルで穴をあけ、そこに固い紙紐のようなものを押しこんでいた。ずい ぶん長い紐らしく、紐はあとからあとから私の頭の中に送りこまれていった。私は手を振っ とれだけ手で払っても、紐は私の頭の中にどんどん入り てその紐を払いのけようとしたが、・ こんできた。 私は体を起して手のひらで頭の両側をさすってみたが、紐はなかった。穴もあいていない。 211 かみひも

ベルが鳴っているのだ。ベルが鳴りつづけているのだ。私は目覚し時計をつかんで膝の上に 載せ、両手で赤と黒のボタンを押した。しかしそれでもベルは鳴りやまなかった。電話のベル だ。時計の針は四時十八分を指していた。外はまだ暗い ということは朝の四時十八分だ。 私はべッドから出てキッチンまで歩いていって、受話器をつかんだ。夜中に電話のベルが ド鳴るたびにいつも、今度こそ電話をちゃんと寝る前にべッドルームに戻しておこうと決心す るのだが、 すぐにそのことを忘れてしまうのだ。それでまたむこうずねをテープルの脚だか ガス・ストーヴだかにぶつつけてしまうことになるのだ。 ン ワ 「もしもし」と私は言った。 レ 受話器の向うは無音だった。電話を砂の中にすつほり埋めてしまったような完全な無音だ イ ポった。 「もしもし」と私はどなった。 しかし受話器はあいかわらずしんと静まりかえっていた。息づかいも聞こえなければ、こ 終 とりという音もしなかった。電話線をつたって私までその沈黙の中にひきずりこまれてしま の 世いそうなほどの静けさだった。私は腹を立てて電話を切り、冷蔵庫から牛乳を出してごくご く飲み、それからまたべッドにもぐりこんだ。 次に電話のベルが鳴ったのは四時四十六分だった。私はべッドを出て同じコースを経て電 話にたどりつき、受話器をとった。 「もしもし」と私は言った。 212