日本語の作文技術

キーフレーズ

日本語 文章 場合 イギリス 修飾語 日本 ページ 原則 問題 意味 書く 書い 言葉 朝日新聞 技術 必要 文法 取材 考え 作文 原稿用紙 わかり 関係 修飾 論理 私たち 自分 原稿 部分 事実 本多勝一 読者 二つ 論理的 言語 助詞 主語 フランス語 題目 たとえば 一九 具体的 しかし 方法 重要 リズム 文法的 筑摩書房 述語 紹介 考える 若葉 与え エスキモー 三上章 筆者 思っ 大学ノート できる 私自身 記事 語順 冒頭 アメリカ合州国 朝日新聞社 大修館書店 全く 使っ 思う 書き 表現 引用 同じ 新聞記者 漢字 結果 思わ くろしお出版 改行 最初 構造 編集者 多く 対照 使う 構文 初夏 潤い 第一 朝日文庫 書き出し

目次ページ

148 そこで出てくるのが、係助詞「ハ」とは何かである。三上氏はこれを、格助詞ガノニヲを兼務す るとみて、文の題目を示すものと規定する。 ( 「主題」とか「提題」という学者もある。 ) この「ハ」の 問題を追究したのが、有名な『象は鼻が長い』という単行本だが、この兼務と題目の意味を手早 く理解するには、やはり『続・現代語法序説』の次の表がいいだろう。「甲ガ乙ニ丙ヲ紹介シタ」 という例文から、題目をハによって次々ととりだしてみる。 提示甲ガ乙ニ丙ヲ紹介シタコト 甲 乙ニ丙ヲ紹介シタ。 甲ガ 丙ヲ紹介シタ。 丙 甲ガ乙ニ 紹介シタ。 つまり、甲・乙・丙を題目として提示すると、ガもヲもハが兼務してしまう。ニについては、 位置格なら兼務できる ( 例「会場 ( ニ ) x x 会館がヨカロウしが、右の「乙ニ」のような方向格 だと兼務できず、題目は「乙ニハ」となって格助詞ニが残り、ハは本務としての題目だけの役割 を果たす。兼務できる場合は、それぞれの格と題目とを、ハひとつが示している。連体格「ノ」 を兼務する例が、かの「象ハ鼻ガ長イ」だ。これは「象ノ鼻ガ長イコト」という無題文から「象」 を題目としてとりだしたため、ハはノを兼務しているとする。

149 助詞の使い方 たいへんかんたんながら、三上氏の「ハ」に対する考え方と、したがって主語有害説、諸格の 関係などを紹介した。もちろんもっと細かな問題もあるが、ここではこれ以上ふれる余裕がない ので、関心のある方は三上氏の著作を参照されたい。 では、こうした考え方と「わかりやすさ」との関係は何なのか。 たとえば翻訳の直訳調がわかりにくい理由を考えてみよう。「甲ガ乙ニ丙ヲ紹介シタ」という 文章は、原語がイギリス語である場合、「甲ガ紹介シタ、乙ニ丙ヲ」という語順になっている。 これだけが、イギリス語の唯一の語順だ。そこで未熟な翻訳者は、単に述語をあとに移すだけの 操作をして「甲ガ乙ニ丙ヲ紹介シタ」と訳す。もちろん文法的にこれが間違っているのではない。 だが、あの第三章「修飾の順序」を思いだしてみよう。 が 私の親友の 0 に 私がふるえるほど大嫌いなを これをイギリス語のシンタックスのとおりに並べてゆくと次のようになる。 が私の親友の 0 に私がふるえるほど大嫌いなを紹介した。 ↓紹介した。

これがすなわち「翻訳調」なのだ。イギリス語のシンタックスを日本語にそっくり移している。 いったいどうして、格の順序が別の原則からなっている日本語に、イギリス語の「主語」感覚の 語順をそのまま移さねばならぬのか。翻訳とは、二つの言語の間の深層構造の相互関係でなけれ ばならない。第二章で「翻訳とは、シンタックスを変えることなのだ」と言ったのは、このよう な意味である。表層構造をそのまま日本語の表層構造に変えてみたところで、いわゆる文法的に は ( 表層構造上は ) 正しくても、本当の日本語に訳したことにはならない。自己批判の意味も含 めて、最近刊行された私の翻訳書から悪い例文を拾ってみよう。 男たちは突然現われた裸の少年を見て、たいへん驚いた。男たちは少年から、足が四本あっ て巨大な歯のある奇妙な母親についてきかされた。 ( 本多勝一訳『エスキモーの民話』すすさわ書 店一五六ページ ) 弁解になるが、この本はまず原文を見ながら私がロ述で訳し、テープに入れたものを第三者が 原稿に起こしたものである。もちろんそれをさらに私が見て手を加えたが、やはり拙速の感はま ぬかれない。多忙で時間的に無理があったとはいえ、こういう方法をとるべきではなかった。も し最初からペンをとっていたら、こんなひどい文章にはならなかっただろう。 右の例は二つの文だが、最初の文だけについてみると、まず最もかんたんな深層構造を表面に 出して無題化 ( 題目なしの形 ) すれば、これは次のような意味である。