マキアヴェッリ語録■目次
第一部君主篇 / わたしがここに書く目的が、このようなことに関心をもち理解 したいと思う人にとって、実際に役立つものを書くことにある 以上 : ノ歴史に残るほどの国家ならば必らず、どれほど立派な為政者に 恵まれようとも、二つのことに基盤をおいたうえで種々の政策 を実施したのであった。それは : プきみは、言う。「そうはならないだろう。われわれは彼らに対 し、一致団結するであろうから、しかし : : : 礙 イ個人の間では、法律や契約書や協定が、信義を守るのに役立つ。 しかし : : : 礙
ブ人はよく、君主をこんなふうに評する。あの人は : あ君主たらんとする者は、種々の良き性質をすべてもち合わせる 必要はない。しかし : : : ろう / 君主にとって、術策など弄せず公明正大に生きることがどれほ ど賞讃に値するかは、誰もがわかっていることである。しかし 善人としての評判を得ていた人物が、目的達成のために悪を為 さざるをえなくなったときは : ノ君主国の中でも世襲のそれは、新たに興った君主国よりも、維 持する困難は少ないものである。なぜなら :
〃とはいえ、この問題を充分に論ずるには、新秩序を打ち立てよ うとする者が自力で行おうとしているか、それとも他者の助け をあてにしているかで分けられねばならない : 突然に地位なりなんなりを受け継ぐことになってしまった者に ″他国を支配下におく必要に迫られ、征服は成功したにしても、 支配をつづけていくうえでの方策は、ケース・バイ・ケ 1 スで あるべきだ。まず : 〃古代のローマ人は、紛争に対処するに当って、賢明な君主なら ば誰もが行うことをしたのであった。つまり : た頭にしかと入れておかねばならないのは、新しい秩序を打ち立 てるということくらい、むずかしい事業はないということであ る :
とって、心すべき最大のことは : / 新しく国を興した者は、次のことを守らねばならない : / 権力をもつ人々の間でも、最近に与えた恩恵によって、以前の 怨念が消えるなどと思う人がいたならば : / アガトクレスやその同類のように、裏切りや残酷のかぎりをつ くした後でもなお、外敵からも国内の敵からも地位を守りぬい た人々の例を見れば、なぜそんなことが可能であったのかと疑 問に思う人がいるにちがいない。それを解く鍵は : な君主にとっての敵は、内と外の双方にある。これらの敵から身 を守るのは : ″自らの安全を自らの力によって守る意志をもたない場合、いか
なる国家といえども、独立と平和を期待することはできない。 なぜなら : ノ戦いに訴えねばならない場合に、自国民からなる軍隊をもって いない指導者や国家は恥じてしかるべきだと思う。なぜなら ノ人間というものは、自分を守ってくれなかったり : おうよう 君主ともなれば、自らに害をおよばさないでは、鷹揚であると いう美徳を行使できない場合に、しばしば出会うことがある ノ君主たる者、ケチだという評判を怖れてはならない。なぜなら
ノしかし、もしも誰かがこう一一 = ロったとしょ一つ。カエサルは鷹揚で あったがために、帝国を獲得できたのではないか、と : ノ慈悲深い君主と酷薄な君主とでは、どちらが良い君主と言える 力とい , っ問題づ」か・ ノ君主にとっては、愛されるのと布れられるのとどちらが望まし いであろうか : ノ君主にとって、厳重のうえにも厳重に警戒しなければならない ことは : ノ君主にとっての最大の悪徳は、しみを買うことと軽蔑される ことである : ノ人を率いていくほどの者ならば、常に考慮しておくべきことの
一つは、人の恨みは悪行からだけでなく善行からも生れるとい うことである : プ味方より、かっては敵であった者のほうが、有益であるという 場合が少なくない : ブ人の上に立つ者が尊敬を得るには、どのように行動したらよい かについての考察だが : 人は、心中に巣くう嫉妬心によって、賞めるよりもけなすほう を好むものである : 共和国において、一市民が権力を駆使して国のためになる事業 を行おうと思ったら、まずはじめに人々の嫉妬心をおさえこむ ことを考えねばならない :
プ側近に誰を選ぶかは、君主にとって軽々しく考えてよいことで はまったくない : プへつらいおもねる者たちから、どのようにすれば逃れられるか プ君主が直接に協力を求めねばならない貴族たちへの対処の仕方 国家というものは、卓越した指導者の後を弱体な指導者が受け 継ごうと、維持ならばしていけないことはない。だが・ ブ人間の為すあらゆることは、はじめから完全無欠ということは ありえない・ 結果さえよければ、手段は常に正当化される :
イ次のことは明言しておきたい。すなわち、危険というものは、 それがいまだ芽であるうちに正確に実体を把握することは、言 一つはやさし ) しカ / イ 一丁うとなると大変にむずかしいということで ある。それゆえ : : : 四 イわたしは断言してもよいが、中立を保つことは、あまり有効な 選尺ではないと思う・・・ : ・ イ君主たる者、もしも偉大なことを為したいと思うならば、人を たぶらかす技、つまり権謀術数を習得する必要がある = = ・血 イローマは、建国の当初とていまだ弱体な国家であった時代から、 権謀術数の必要を知っていた。まして : : : 皿 イいかなる政体をとろうと、国家の指導者たる者は、必要に迫ら わざ
れてやむをえず行なったことでも、自ら進んで選択した結果で あるかのように思わせることが重要である : : : 川 イ必要に迫られた際に大胆で果敢であることは : イ君主は、自らの権威を傷つけるおそれのある妥協は、絶対にす べきではない。たとえそれを耐えぬく自信があったとしても、 この種の妥協は絶対にしてはならない。なぜなら : 個人でも国家でも同じだが、相手を絶望と怒りに駆りたてるほ ど痛めつけてはならない : イわれわれの宗教は、真理と正しい生き方は教えてくれるが、現 世的な名誉を重んずることは教えてくれない。しかし : : : 川 古代ロ 1 マの共和制下では、他の共和国と比べても、自国の功 103
プリヴィウスの『ローマ史』を読んで、そこからなんらかの教訓 を得ようと思うならば、ローマの市民と元老院のとったすべて の行動をじっくりと検討する必要があるだろう。検討の価値あ る事柄は数多いが、その中でもとくに次のことは重要だと思う プ軍隊の指揮官でさえ、話す能力に長じた者が、良い指揮官にな れる : : : 四 死指導者をもたない群衆は : の一、自軍の力と敵の力を、ともに冷静に把握している指揮官な 労者に対して報いるのを忘れないほうであったが、軍の指揮官 が失策を犯した場合はとくに、恩情あふれる処遇で対したもの であった : 109
らば : 戦闘に際して敵を欺くことは、非難どころか、賞讃されてしか るべきことである : : : Ⅱ プ思慮に富む武将は、配下の将兵を、やむをえず闘わざるをえな い状態に追いこむ : プ優れた指揮官ならば、次のことを実行しなければならない。第 寧敵の計略を見ぬくことほど、指揮官にとって重要なことはない ようへい の金銭で傭うことによって成り立っ傭兵制度が、なぜ役立たない か、の問題だが : やと 110
プ勇将のもとに弱卒ある場合と、弱将のもとに精鋭ある場合とで は、どちらが軍として信頼がおけるであろうか : イ一軍の指揮官は、一人であるべきである : : ・ⅲ イ一度でも徹底的に侮辱したり、手ひどい仕打ちを与えたことの ある者を、重要な任務につかせてはならない。なぜなら : なにかを為しとげたいと望む者は、それが大事業であればある ほど、自分の生きている時代と、自分がその中で働かねばなら ない情況を熟知し、それに合わせるようにしなければいけない 心今までにも幾度も述べてきたように、人の運の良し悪しは、時 代に合わせて行動できるか否かにかかっているのである : : : Ⅱ
房無理じいされて結んだ協約を破棄するのは、恥ずべき行為では まったくない : イ民衆を支配するには、寛大なやり方のほうがよいのか、それと も厳格な態度でのぞむほうが有効かの問題だが : イ場合によっては、人を屈服させるのに、非清で暴力的な行為よ りも温清に満ちた人間的なあっかいのほうが、有効であること がある : : : イハンニバルとスキピオは、部下の心をつかむのにまったく反対 の方法をとったが、なぜ両者とも同じ効果をあげることができ たのであろうか : 人心を把握するには、厳格主義と温情主義のどちらが有効か、
イ君主が民衆のしみを買うのは、どういう理由によるのであろ / 女が原因で国が滅びた例はいくつもあげることができるが / 君主は、民衆がなにか誤りを犯したとしても苦情を言うことは できない。なぜなら : ヴィルトウ 滝わたしが、共和国ですらもともと個々の偉大な君主的器量の 持主や組織者の力がなくてはつくり出せないと考えている以上 滝リーダーの素質とは、所詮もって生れた天性のものによるので
はないだろうか。だから : 滝武装せる予言者は、みな勝利を収め、非武装のままの予言者は、 みな滅びる。なぜなら : ことっても有益なものだが : 歴史の与える教訓は誰。 / 歴史は、われわれの行為の導き手である。だが、とくに指導者 マエストロ にとっては師匠である : : : 3 マエストロ 132
第二部国家篇 / 祖国の存亡がかかっているような場合は、ゝゝ し力なる手段もその 目的にとって有効ならば正当化される : : : ノこれまでの歴史を見ても、その中で細心の注意を払って共和制 を築きあげてきた人々はとくに、改革を迫られた制度のうちで は、自由を守るための制度を整えるのが、最も重要なことだと 考えてきた。なぜなら : プなぜ、人々の心に自由に生きることへの強い愛着が生れてくる のか、という問いへの答えは簡単である : イ宗教でも国家でも、それを長く維持していきたいと思えば、 一度といわずしばしば本来の姿に回帰することが必要である
プ長期にわたって存続する共和国をつくりたいと願うならば、 スパルタやヴェネッィアの例を見習うべきであろう。つまり イ不正義はあっても秩序ある国家と、正義はあっても無秩序な国 家のどちらかを選べと言われたら : / なぜ古代では秩序が保たれ、なぜ現代では無秩序が支配してい るかの理由解明は、これまた簡単である : : ・ⅲ イ変革というものは : 一個人の力量に頼っているだけの国家の命は、短い。なぜなら 138
/ 国家にとって、法律をつくっておきながらその法律を守らない ことほど有害なことはない : / 歴史は、共和政体であろうと他のいかなる政体であろうと、国 家というものにとって嫉妬による中傷ほど害をおよぼすものは ないことを教えてくれる : ・・ : た民衆というものは、善政に浴しているかぎり : 〃自由な社会から隷属社会、、隷属状態から自由な状態、と政体 が変る場合、ある国では無血のうちに達成され、他の国では流 血の惨事をともなわないですまないのは、どのような理由によ るのであろうか : 法というものを尊重する秩序ある国家ならば、市民の行為にお ポポロ
ける善と悪とを、区別しないということはありえない : / 古代のロ 1 マ人は、名誉を尊ぶ気持が非常に強い民族だったが、 それでもなお、かっての部下に命令される立場になっても、不 名誉なこととは少しも考えなかった : / 古の歴史家たちは、次のように言っている。人間というもの は、恵まれていなければ悩み、恵まれていればいたで退屈する。 そしてこの性向からは、同じ結果が生ずるのだ、と : グ国家が秩序を保ち、国民一人一人が自由を享受するには、清貧 が最も有効だ : / いずれも共和制であることに変りはないが : ″市民間に平等が存在しない国では : いにしえ 152 151 147
ノ古代の共和制下のローマ人は、危機管理の対策として、次の制 度を整備していた : ノ歴史家の中には、ローマ人の考え出した臨時独裁執政官の制度 せんしゅ を、後の僭主出現の原因になったとして非難する人が多い。彼 らによれば、この制度さえ存在しなければ、ユリウス・カエサ ノかいかに他の称号で飾られようと、あの権力を手中にするこ とは不可能であったというのである。しかし : : : 5 ノ同じく国民の自由な選挙によって選ばれたにもかかわらず、な ディクタトー デケンウィリ ぜ臨時独裁執政官は国家に利益をもたらし、十人委員会は不利 益をもたらしたのであろうか : ノ為政者であろうと指導者と呼ばれようと、支配者の存在しない 社会は、あったためしはないのである : : : ル ディクタト
ここでは、特権階級の意味をはっきりさせておきたい : ノ特権階級の存在する国では共和制は成立しえないというわたし の考えに対し、貴族でない者は国政にたずさわることのできな いヴェネッィア共和国の例は、これに反するではないかと言う 人がいるかもしれない。しかし : : : 5 ノ人は、大局の判断を迫られた場合は誤りを犯しやすいが、個々 のこととなると、意外と正確な判断をくだすものである : あくらっ ノ下劣で悪辣な人物を官職につけたくなかったら、最高に下劣で 悪辣な人物と、高潔で評判の良い人物とを並べて出馬させるよ う計るべきである・・・・ : ポポロ ノここでは、民衆に関して、次の二つのことに注目してほしいの 159
ポポロ ノ民衆の賛同を得るには、どの方法だと容易で、どの方法だと困 難かということを、ここでは考えてみたい : ポポロ プ怒り狂った民衆に平静さをとりもどさせる唯一の方法は : ポロ 民衆は、群れをなせば大胆な行為に出るが : ポポロ 民衆のもっ本来の性質が、良いものであるか、または悪いも のであるかを議論することは、たいして重要なことではない 指導者のいないために統制のとれていない群衆ほど、なにをし でかすか予測も立たず怖ろしい存在はないのだが : 164
ポポロ 民衆ほど軽薄で首尾一貫とはほど遠いものはないとは、テイト ウス・リヴィウスの評価であるが : 共和国においても、市民たちの行為に注意を怠ってはならない。 なぜなら : プ一国の国力を計る方法の一つは、その国と近隣諸国との間に、 どのような関係が成り立っているかを見ることである : : : 寧弱体な国家は、常に優柔不断である。そして決断に手間どるこ とは、これまた常に有害である : プ弱体な共和国にあらわれる最も悪い傾向は、なにごとにつけて も優柔不断であるということである。ゆえに : プ共和制下のローマでは、執政官の位が平民にも与えられるよう コンスル
になってからは、この官職は、門閥や年齢に関係なく、ただそ ヴィルトウ の人物の力量によってのみ与えられた : イ自国を大国にしたいと思う者は、あらゆる手段を用いて人口の 流入を計ることを忘れてはならない。なぜなら : イいくつかの民族は、なぜ自分たちの土地を捨てて他国に侵入し、 そこで国を創るかの理由だが、これは戦争の一種と見るべきで あろ一つ : 領土拡張の是非についてだが : イ都市であろうと国家であろうと、規模の大きな共同体ならば、 時が経つにつれて欠陥があらわれてくるのを避けることはでき
ヴィルトウ 困難な時代には、真の力量をそなえた人物が活躍するが、太 平の世の中では、財の豊かな者や門閥にささえられた者が、わ が世の春を謳歌することになる : : : イ軍隊には、三種類の軍隊がある。第一のタイプは : イ国家はすべて、いかなる時代であってもいかなる政体を選択し ようとも関係なく、自らを守るためには、カと思慮の双方とも を必要としてきたのであった。なぜなら : イわたしは、改めてくり返す。国家は、軍事力なしには存続不可 能である、と。それどころか、最後を迎えざるをえなくなる、 と : イ戦争するしか能のない者たちを常にかかえておくことほど、為 政者にとって危険なことはない :
イ真の防衛力とは、、 ードな面での軍事力だけではない。軍の評 判というのも、軍事力に数えらるべきである : : : プサルステイウスが、その著書の中でユリウス・カエサルに語ら せている次の言葉は、まったくの真実である : : :
第三部人間篇 / 名声に輝く指導者たちの行為を詳細に検討すれば、彼らがみな、 フォルトウーナ 運命からは、機会しか受けなかったことに気づくであろう。 そして : : : フォルトウーナ ノ運命について ヴィルトウ 力量について ネチェシタ 時代生について : : : プ古代ローマの歴史家テイトウス・リヴィウスはこう言っている。 「運命は、自分の考えが中絶されるのを望まない場合、その人 を盲にしてしまう」と : フォルトウ 1 ナ ヴィルトウ イカ量に欠ける人の場合、運命は、より強くその力を発揮する。
ま好機というものは、すぐさま捕えないと、逃げ去ってしまうも のである : 過去や現在のことに想いをめぐらせる人は、たとえ国家や民族 かちがっても、人間というものは同じような欲望に駆られ、同 なぜなら : プわたしは、はっきりと言いたい。運は : イ衆に優れた人物は、運に恵まれようと見離されようと、常に態 度を変えないものである : : : / 人間の行う行為を見れば、ゝゝ し力に完璧を期そうとも、必らず なにか不都合なことを引きずっているものである。なぜなら 193 194
じような性向をもって生きてきたことがわかるであろう : ヴィルトウ / 良き性向は、時代によって移動する : : : 四 / 同じ地方に生れた人々は、時代が変ろうとも、同じような気質 をもちつづけるものである : た異なる気質が見出されるのは、地方や国ごとにかぎらない。同 じ都市の中でも、家族ごとにちがう気質が見出される : : : 変化なしの自然はありえないと同様、民族の運命にも、静止と い一つことはあ - りえない・ 次の二つのことは、絶対に軽視してはならない。第一は : 人の為す事業は : 197 202
/ 人は、ほとんど常に、誰かが前に踏みしめていった道を歩むも のである : : : 他者を強力にする原因をつくる者は、自滅する = = = な謙譲の美徳をもってすれば : / 別の人格を装うことは、場合によっては賢明な方法になること がある : : : 0 ノわたしの体験からも言えることだが、人間の意見なるものがい かに偽りに満ち、いかに誤った判断でゆがめられているかは、 呆れかえるほどである。なぜなら : ノ人は、古代の彫像のかけらを巨額の金を出して購入し、身近に かね
置き、他人に見せびらかし、果ては模造品をつくらせたりする ことには熱心だが、歴史がわれわれに知らせてくれる古人の気 高い行為についてとなると、同じような敬意を払ってきたであ ろ一つか : 人間にとって最高に名誉ある行為は、祖国のために役立っこと である。具体的に言えば : ノ国の中で、ある特定の個人に対して、民衆が不満や怒りをもっ 場合がある : : : 0 民衆への対処の仕方は、寛大な態度でのぞむか、それとも強圧 的に対するかのどちらかでなくてはならない。なぜなら : ノ相手を、どんなことにしろ絶望こ追いこむようなことは、思慮 ある人のやることではない : 209 0
ノ民衆の気分というものは、はなはだ動揺しやすいのが特質だ。 それゆん ノ民衆とは、キケロも言ったように、無知ではあるけれども真実 を見ぬく能力はもっているのだ。だから : ノ長期にわたって支配下におかれ、その下で生きるのに慣れてし まった人民は、なにかの偶然でころがりこんできた自由を手に しても、それを活用することができない : ノ人間というものは、往々にして小さな鳥と同じように行動する ものである : プ議題がなんであれ、会議というものに列席したことのある人な らば、なんと人間は誤った判断をくだすものかという想いを一
度ならずもったにちがいない : プ亡命中の人間の言うことを信ずるのは、多大な危険をともなわ ずにはすまないことである : : : 1 外交担当者への提言 = : = 人間というものは、一つの野心が達成されてもすぐ次の野心の 達成を願うようにできている : ・・ : 1 人間とは、その本性からして、恩恵をほどこされた場合と同様 ブ人間というものは、危害を加えられると思いこんでいた相手か ら親切にされたり恩恵をほどこされたりすると :
ブ人間は、百パーセント善人であることもできず、かといって百 1 セント悪人であることもできない。だからこそ : : : 幻 ブ人間というものは、困難が少しでも予想される事業には、常に 反対するものである : : : ブ人間は、恐布心からも、また悪の心からも、過激になりうる ものである・・・・ : プはじめはわが身を守ることだけ考えていた人も、それが達成さ れるや、今度は他者を攻めることを考えるようになる : : : イ古の賢人たちの書き残したこのことは、現代でも充分に生き ている。つまり : イ人間というものは、必要に迫られなければ善を行わないように いにしえ
できている : : : イ人間というものは、現にもっているものに加え、さらに新たに 得られるという保証がないと : イある人物が、賢明で思慮に富む人物であることを実証する材料 の一つは、たとえ言葉だけであっても他者を脅迫したり侮辱し たりしないことであると言ってよい。なぜなら : 個人でも共同体でも同じことだが、勝利を得た後や、単に勝利 の幻影を見たにすぎない折でも、人はしばしば尊大で横柄な言 動に出るようになり、おかげで元も子もなくしてしまうことが 多い イある人物を評価するに際して最も簡単で確実な方法は、その 人物がどのような人々とっきあっているかを見ることである
イ名誉というものは、成功した者だけが得るとはかぎらない イいかに多くの人のためになることでも、新たに大事業を提唱す るのは、提唱者にとって大変な危険をともなわずにはすまない プいかなる種類の「闘い」といえども、あなた自身の弱体化につ ィまったくもって清けない現実だが、人間というものは権力をも てばもつほどそれを下手にしか使えないものであり : イ中ぐらいの勝利で満足する者は、常に勝者でありつづけるだろ っ・ 225
ながりそうな闘いは、絶対にしてはならない : プ誰だって、誤りを犯したいと望んで、誤りを犯すわけではない。 死誰でも、なるべくならば容易にものごとを処理したいと願うも のである。だが : ・ の軍の指揮官にとって、最も重要な資質はなにかと問われれば、 想像力である、と答えよう : : : 3 「やった後で後毎するほうが、やらないことで後海するよりも ずっとましだ」・ プ良い面を残そうとすれば、どうしたって悪い面も同時に残さざ るをえないのである : : : 229
プわれわれが常に心しておかねばならないことは、どうすればよ り実害が少なくてすむか、ということである : : : 3 プ天国へ行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知するこ とである : : :
′」ろく マキアヴェッリ語録 一九八八年七月二〇日印刷 一九八八年七月二五日発行 送 おす しおのななみ 宛ま 著者塩野七生 発行者佐藤亮一 社え 発行所株式会社新潮社 が取 9 東京都新宿区矢来町七一 郵便番号一六一一 電話 ( 業務部 ) ー二六六ー五一一一面担 ・こ負 -0- ( 編集部 ) ー一一六六ー五四一一 、社 振替東京四ー八〇八 丁送 印刷東洋印刷株式会社 落 製本加藤製本株式会社 乱下 定価一三〇〇円