はじめ ( 花させることに集中していたと思います。 しかしぼくは絵がうまくないため、それでも生きていける現代美術という世界に活路 を見出しました。そこにはやはり、ぼくと同じように「絵が好きだけど、画力がない 「それでもこの世界で生きていきたいからどうしよう」と悩んでいる人たちが大勢いま す。そういう人たちに対してぼくは「だったらこうすればいいんだよ」ということを伝 えて、それとともに「それには覚悟が必要だよ」ということを伝えたいわけです。 かってのぼくと似たような立場にいる人たちの可能性を閉ざさないようにしたいだけ、 同病、相憐れむという感じです。ぼく自身、批評家やおたくたちに罵詈雑言を浴びせら れながらやってきているので、救われない人たちの気持ちがよくわかるということもそ の理由になっているのかもしれません。 現代美術の世界というのは、絵のうまいエリートだけが目指すものではなく、セカン こドオプションのエリアとも言えましよう。そのことをしつかりと認識している人たちに 対しては、先を行っている者として、道しるべを示してあげたいのです。
ひとごと になって少し愛着が出てきてたんですけど、基本的には他人事という感覚があるんです ( 笑 ) 。だから、「勝手にやってれば」というのがスタンスになっていて、それがポリシ ーといえばポリシーなんですね。「自分のことは自分でやれ、というような会社ですか ら、たしかに管理教育とは対極にあるかもしれません。 村上そうなんですか。僕としては、若い人たちが大勢いる中で川上さんはどういうふ うにオーガナイズしているのかということに興味があったのですが、基本的には個人個 人、フリーな感じということですかフ 生川上よくいえば、そんな感じですかね。実際、営業面からみれば、ドワンゴは最低な 阯会社なんです ( 笑 ) 。とにかく、みんながぬるいんですよ。普通は成長する企業といえ = ば、活気があるものですよね。それでいて競争原理が働いているなら、足の引っ張り合 村いや内輪揉めといったことも交えながら成長して ) しく。ドワンゴの場合、そういう派閥 抗争的なものがなさすぎるんです。世間からは成長企業と呼ばれているのかもしれませ 談 対 んが、内情はそんな感じの珍しい会社なんですね。 特 村上川上さんは最近、ジプリで働いていて、ドワンゴに顔を出すことは減っていると 177
ば売れるということは、その作品が人に何かを感じさせるものを持っているということ です。 や赤松晃年がどうして、一定の結果を出せているのかといえば、「続けているーか らです。 彼らの師匠であるぼく自身、絵の才能などはないにもかかわらず、絵の仕事をしたい と思って、しがみつくようにしてやってきましたが、それと同じです。 が中心になった『の ChiIdren 』展では、赤松のほかに、彼よりも才能の感じられ る人たちの絵が出展されていて、赤松の絵よりも高い評価を受けていました。しかし、 その絵を描いた人たちが今どうしているかといえば、この業界を去っています。 個別の理由まではわかりません。一定の評価を得られたことで満足したのか、あるい は、そうした評価を得てもなお生活できるものではないと知ったからなのか、毎日の 日々がつらすぎると感じたからなのか。どれかひとつに特定はできませんが、そういっ たことが理由になっているのではないかと想像されます。 才能はありながらも去っていく人たちが後を絶たない一方で、どれだけ絵が下手であ
す。 ・業界をシュリンクさせないために ぼくが考える芸術の本質は、「おはようございます。「失礼いたします」「ありがとう あいさっ ございました」といった挨拶ができるようになることをその入口として規定しています。 そうした人口の段階でカイカイキキを辞めていき、ぼくが芸術の本質だと考えている ところまでたどり着くこともない人たちが多いのは残念です。 ぼくの説教がどれだけわずらわしいと感じていても、できればひとつの作品が完成す るところまでは立ち会ってほしいというのが本心です。 それが素晴らしい作品であったとすれば、それまで聞かされてきた説教よりもはるか に強い何かを感じられるはずです。 作品に対する感動を共有することが、クリエイターにとっては何より大きな変わるき つかけになるのは間違いありません。 新しい人たちが出てこないと業界そのものがシュリンクしてしまいます。
も聞きました。 川上ジプリの鈴木敏夫プロデューサーと 知り合って、この人のところで働いてみた いなと思って弟子入り志願をしたところ、 氏すんなりと認めてもらえたんですね。お給 生 料はもらっていませんが、社員として置か 量 上 せてもらっているんです ( 「スタジオジプ リには二〇一一年に人社 ) 。ドワンゴにはもともとあまり行ってなかったんですけど、 ジプリに通うようになって、ドワンゴに出社することはむしろ増えました。それでも週 二回くらいといった感じですけど ( 笑 ) 、出社すればだいたいミーティングに出ていま す。 村上ジプリへ通うことで触発された部分などはありましたか ? 川上それはものすごく大きいですね。鈴木プロデューサーを見ていても、やっている ことがいちいちおもしろくて、コンテンツをつくるうえでの参考にもなります。だけど としお 178
よってニコニコの伝説というようなものができて、その物語にいろんな人たちが引き寄 せられてきたのが大きかった。海外で成功するためにもそういう物語が必要になる気は しています。 村上その >- 0 との件にしても、つくろうとしてつくれたストーリ ーではな いですよね。偶然というか : 上よ : 偶然です。 村上予期せぬ逆風が逆にプランドをつくってくれたということですね。芸術の世界で も、作家の不遇な人生が伝説となって、作品の評価を高めることはよくあります。それ と同じように海外のユーザーもシンパシーを感じてくれるような事件があればチャンス になるというわけですね。 ー上そうですね。そのストーリーをどうやってつくるかが難しいんですけど。ただ、 今はグーグルやフェイスブックといったアメリカ発信のウエプサービスに世の中が牛耳 られているようになっていて、そこに潜在的な反発がある気がします。だからこそ、ア メリカ発信のサービスが生み出している価値観に対するアンチテーゼのようなものをう 206
それで、実際に行ってよかったと思えるいい展覧会は、サラウンディングに作家や作 はんりよ 品のことがわかった気になれるものです。みんな、作家の人生、伴侶、時代、そして何 より、作家の不幸に期待しているのです。 不幸にもかかわらず、とてつもない集中力でつくられた美しい作品、荒々しい作品、 細かい作品が、 その作家の人生の枠をはみ出しているときに感動するわけです。 つまりアーティストは不幸と美をエンターテイメント化する道化なのです。 その覚悟がない。 覚悟がない人はダメなんですよ。 なのでぼくは追い込むわけです。キミたちアーティストの卵を》 これらの文面を見て「暴言が過ぎる」「時代錯誤ではないか」と感じる人も少なくな いことでしよう。どういう印象を持ってもらっても構いません。 ただ、これらの文面をあらためて読み返してみれば、言葉は乱暴であっても、この本 の中で伝えたいと思っていたことと、かなりの部分でリンクしています。 138
こういう業界に人ってくる意味はないからです。 ただそこで、指示と違ったことをして許される場合があるとすれば、指示よりもいし ものに仕上がっていたときに限っての話です。そんなときには褒めることはしませんが、 文句は言わずに黙って見逃す可能性はあります。 方 て指示したよりも仕上がりが悪ければ、言い訳は聞かず即座に却下です。それをやった の 人間がどれだけ「自分の選択のほうが正しいと思う」と主張しても関係ありません。そ 人 論れを判断していいのは発注した側の人間だけだからです。 もちろん、本人たちに対して、「バレなければ何をやってもいし とは絶対に言いま お せん。また、この本を読んで、バレなければいいのかと勝手なことを始める人間があら われたとすれば、それは辞めて頂くかもしれません。 の業種が違っても同じことだと思いますが、分担作業では、勝手なことをする人間や、 正 自分の個性を出そうとする人間は必要とされません。 章 そういうことで解雇されたとき、それを理不尽だと感じるのはまったく違います。 四 第 それが組織のルールだからです。 129
ているような感じもします。情報がナマだということも大きいし、信頼性の高い情報を 求めている人たちも多く利用しているはずです。 日上はい。社会的存在感が強まってきたところはあるので、日本にとってためになる ことをやりたい気はしています。それとも関係してくることですが、プロとアマチュア の境界ということについて考えることがあるんです。すべての素材を自分でつくること は「自給自足ーとも言われますが、そういうやり方をしていた人がこれまでいなかった のかといえば、そんなことはなくて : ニコ動のアマチュアたちこそ、実は村上さん に近い人たちなんじゃないかという気もするんです。たとえばニコ動には「歌ってみ たーというカテゴリがあって、カラオケをやってるだけだと批判されることもあるんで すけど、実際はバンドの世界とよく似てるんです。アマチュアバンドからプロの世界に 出ていく場合、既存のメディアに乗っかってプロモーションに成功したということでは なく、自分たちで「どうすれば売れるか」を考えて成功する場合もあるわけですよね。 ぜんだ つまり、プロデューサーにお膳立てをしてもらうことを求めない人たちです。それと同 じようにニコ動で有名になっているシロウトたちも、自分でセルフプロデュースをして 198
サムスンなどを世界に売り出している。国際競争においてはそういうことが必要なはず なので、アートであれば村上隆さん、ウエプサービスであればニコニコ動画だけを応援 していく ( 笑 ) 。そういう姿勢を持っことを日本政府に要望したいですよね。 村上クール・ジャパンのような政府関連の運動では、平等意識にもとづいたバランス の取れたやり方をしていかないと文句を言われるので、なかなかそれができない、 川上そうですね。そういう部分が大きくなりすぎている感じがします。だからこそ、 足の引っ張り合いも出てきて、国としてはすごく弱くなっている。家電やゲーム機、あ るいはアニメといった、かって日本が強かったはずのところも負けるようになってきて いますから。 村上今後はどうしていけばい ) しんですかね。 川上どうしようもないでしようね ( 笑 ) 。僕なんかが何かを言って変えられる問題で はないですから。政治が変わるなり、現状をプレイクスルーする人が現われるなりしな ければいけないわけですが、そうすると今度は日本の社会はそれを叩いてしまいます。 192