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検索対象: カビと酵母 : 生活の中の微生物
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1. カビと酵母 : 生活の中の微生物

る。そのころには菌類の観察はまた行なわれていない。菌類の中で肉眼的に認識されるものとしてキ ノコが木版刷りになったのは一四九一年で、かわいいキノコが描かれている。そこから百数十年ほど ト・フックによる有名なミ の後、最初に微小菌類、いわゆるカビが描かれたのは一六六五年、ロ。、 クログラフィアに描かれた図で、そこにはケカビの胞子嚢と。ハラのサビ病菌であるフラグミデイウム ( P き斗ミ三の冬胞子が美しく描かれてある。驚くことは、そこには図のスケールまで示されて いることである ( 図 1 ) 。また顕徴鏡の発見で知られているレーウエンフックがイギリス王立協会に 宛てた書簡 ( 一六七三年 ) には、カビ ( おそらくはケカビ ) の観察記録が載っている。このあたりが、 カビを最初に見た記録らしい。ところが同時に素晴らしい観察が載っている。それはレーウエンフッ クが彼の手製の顕微鏡で酵母を観察しているのである。それによると、発酵の終わったビールをグラ スに注いだところ懸濁した液の中に無数の微小な次のようなものが見えたとある。すなわち、いくっ かは球形、他のものが形不規則、二つ、三つあるいは四つ連なっている。他にも六つ連なっていたり、 完全なイーストの球体である : つまり、彼が単一な、また出芽増殖により酵母細胞集団を最初に = = 豐ロしたということになろ、つ。 というのは、両者の間に このカビと酵母の両方の最初の観察をます記憶にとどめていただきたい。 は観察方法に基本的な差があるのである。カビの場合には、植物の葉とか樹の表面とかの自然基質の 上に生えている姿を、まず肉眼的にとらえて詳細に観察するところから始まる。植物の観察態度から 導入された見方であろう。当初のこの態度がやがて徴生物学の発展にともなった純粋培養技術へと進

2. カビと酵母 : 生活の中の微生物

わった醪を蒸溜していることになる。蒸溜器は、古い型の泡盛蒸 溜器に似ていた。蒸溜技術はおそらくチウ醸造とともに中国から 伝えられたと思うが、「らんびき」型である。しかし、焼酎用の こしき 古い蒸溜器のように、甑の下釜に簀の子はのせていない。糖蜜の 発酵液は酒粕や芋焼酎のように固形物ではなく、さらりとしてさ ばけがよいから簀の子を置かなくても物料の焦げつく心配はない からであろう。 醸造物を蒸溜してアルコール濃度を高くし飲みやすくする方法 は、紀元前の古代アビシニアにすでに存在したと言われるから、 冫いたったのであ メソボタミア平原から中国を経て伝播しジャワこ ろう。今もジャワ島のチウはおもに中国人の手にある。 村中がチウ座になっているバコナン・モホロカン村で最初に見 学した農家はチウ醸造の規模でいえばもっとも大きく、ほかの農 家はドラム罐を二〇ほど並べている程度であった。これらの農家 の中から、三つの工場を選び、仕込み直後、発酵最盛期、蒸溜前 およびドラム罐残液中からベトベトの試料をできるかぎり多く、 採集瓶や袋に集め、その日のうちにガジャマダ大学へ持ち帰っ ノ / ジャワの酒チウは分裂酵母でつくられる サトウキビ酒発酵中の醪

3. カビと酵母 : 生活の中の微生物

ロドトルラ属と類縁酵母の化学分類 生物の化学分類は植物の精油や色素の構造から植物の相互関係を研究する手段として発展し、微生 物の分野では古くはイギリスのレイストリックによる糸状菌の色素の研究が挙けられよう。しかし、 最近の生化学、分子生物学、微生物遺伝学の発展は生物の遺伝を司る物質的基礎は ( デオキシ リポ核酸 ) にあることを明らかにした。さらに、 QZ<< 、、タン。 ( ク質のような情報高分子に 含まれる情報、あるいは生命の維持に必須の化合物の情報から微生物の分類、同定、系統の研究をす る分野が勃興し、これを微生物の化学分類学 (chemosystematics) という。われわれは、冒頭に述 べたような理由から、ロドトルラ属を化学分類学の立場から研究することとした。次に、酵母の化学 分類で用いられているおもな性状を簡単に述べる。 酵母のの塩基組成 微生物の類縁を知るうえで、の塩基配列を調べるのが一番よい方法であるが、多数の菌株に ついて調べることは容易ではない。しかし、 z の塩基組成、すなわち、 z のアデニン (< ) 、 であることが明らかになった。坂野博士は、この研究の最初にロドトルラ・グルティニスの IFO 0559 と IFO 0880 をなぜ選んだのかわからないと述べているが、これが研究のおもしろいところで あり、研究にも運があるといえよう。 ばっこう

4. カビと酵母 : 生活の中の微生物

図 1 世界最初のカビの図 ( フック、 1665 ) ( アインスワース「菌学史」 1976 より ) カビといい酵母という生物

5. カビと酵母 : 生活の中の微生物

された。ヒーナツツミルを飼料として与えられたことがわ カった。この。ヒーナツツミルからアスペルギルス・フラ ブスが多数分離された。この菌を培養し抽出したエキス ( ↓、い ~ い造には動物に対し非常に強い毒性化合物が含まれているこ 子とが判明し、この毒性化合物はもミ g ミミミ s の 分、 ( 毒素 ) の意味からアフラトキシンと命名された。 ク最初に単離されたアフラトキシンは薄層クロマトグラフ 'Å上で紫外線ランプを照射すると青色の蛍光を出す二種の ス化合物と緑色の蛍光を出す二種の化合物が含まれていた。 イ これらの化合物は、蛍光の色からアフラトキシン 1 、 ム ウ 、、と命名された。この最初に事故を起こ シ したカビは現在アスペギルス・フラブスからアスペルギ ルス ハラジティクス ( 」ミ g ミミ、ミミ、 s ) に移 図されている。この分離株は ATCC15517 株としてその 後、世界中のカビ毒研究者に分譲され、アフラトキシン 研究に供された。 アフラトキシンは七面鳥以外にもニワトリ、アヒル、 273 人力ビ毒に会う

6. カビと酵母 : 生活の中の微生物

標題の、水が好きなカビというと奇異な感じを持たれる方々もあろうし、私も決して最初から水の 中ばかりに研究の目を向けたわけでもなく、本来、陸のカビを探っている間に自然界の水環境のあり かたの魅力にとりつかれたわけである。そこで、ここではます陸から水環境につながったカビの存在 から話を進めてみよう。元来が脇道の研究の一つとして進めてきた一連のカビ物語である。 もともとが生物好きだったためか大学の卒業研究という名目でカビの菌体成分や色素の研究の手伝 いをしているうち、農芸化学出身にもかかわらず成分よりはカビ本体に興味を持ってしまった結果、 当時の長尾研究所長の小南清先生の助手を務めることになったのである。いろいろなカビを見たいと いう若造のいちばん参考になった本は、現在でも名著と思う斎藤賢道著『要説釀酵微生物学』という 本であった。そこには当時の発酵学の対象となっていた細菌やカビ、酵母の他に見たこともないさま ざまなカビの図と説明があったのである。小南先生から、まず土壌からカビを分離する方法を指導さ れた私は、与えられた最初の研究題目である土壌生放線菌類を分離しながらも、興味はいっしょに分 水環境が好きなカビを探る 椿啓介

7. カビと酵母 : 生活の中の微生物

見、というきわめて独創的な研究 ( 1942 ) に気を引かれた。元来が変わった形の生物に心を奪われや すい性分から、こんなカビが本当にいるのか、と興味津々となり、日本にもいるかどうか探してみよ うと思ったのが水生のカビのとりこになった最初である。すっかりこの水生カビ群、学問的には水生 形、針形、ウズマキ形などの胞子の存在にのめりこんでし 子 まった。こんな変わった形の胞子を持っカビの存在などに当 胞 菌時の日本では目を向ける者は誰もおらず、もちろん日本の文 完献など一つもない。 カビはすべて好気性であるが、中には水 生面下の生活を好み、溶存酸素をとって生きているものも相当 いるのである。足を伸ばして近郊の川や湖沼をおとずれては ~ か水底の落ち葉を採集する毎日であった。池の管理人から何をる しているのかと注意されたり怪訝な視線をあびながら葉をす陸 カ 一れにくっては眺めていた。なにしろはじめての試みであり、どん 水な種類の落ち葉がいいのか、どのくらい分解の進んだものが好 いいのか見当もっかないありさまである。ともかく試行錯誤境 図 しているうちに、最初に発見した水生不完全菌の胞子に目を水 見張ったときの感激は今でも忘れがたいものがある。都内の菊

8. カビと酵母 : 生活の中の微生物

まった。つくってから空中に放り出されるバリストスボアという胞子に対して、射出胞子という訳語 を一九六〇年ころっくったが、発音しにくくて困ったことを覚えている。その後、私はカビの仕事に 移ってしまったが、その間のこの担子菌酵母の一連の研究は上記の研究者たちによって日本で見事な 発展を遂げている。 たた、いつも気になって仕方がないことがある。この本文の最初に戻っていただきたい。菌類の分 離培養には二つの行き方があるというところである。自然界の姿を見つけ、それから培養物を得る方 法と、見えないものを見える姿にして培養を得るという、一般的には希釈培養法と呼ばれる方法であ る。キノコの培養物を得るのは前者の操作で、土壌カビや酵母は後者によるという基本的な分離操作 の違いである。ここで考えたいのは、これだけたくさんの担子菌酵母が自然界から発見されているの に、なぜ、彼らのテレオモルフの姿が自然界で見つからないのか、ということである。培養下で見え る担子菌酵母の有性胞子以外に、子座などをともなった有性器官はほんとうにないのであろうか。酵 母細胞は肉眼的には見えないし、葉上に彼らのコロ = ーが散在しているという観察報告もあり、ある いは彼らは培養下で見られる姿そのもので自然界においても生活しているのかもしれない。しかし、 異担子菌類の新分類群がどしどし外国で発見され、その研究の多くは培養をともなったものではない が、それらの詳細な記載図には射出胞子が担子胞子から直接につくられていたり、出芽様のアナモル フの姿が描かれていることをよく見るのである。私は、分離とは、自然界でつくられた、これらの有 性胞子の最初の発芽の問題にあるのではないかと想像はしている。これからは想像だが、もしかした

9. カビと酵母 : 生活の中の微生物

いたが、カビ毒生産菌としては注目されていなか 0 た。しかし、このカビ毒は紫外線ランプ下で蛍光 を発せず、薄層クロマトグラフに硫酸を噴霧し加熱する古典的方法で検出していた。同じ教室のカビ 毒の化学研究を行なっている者に分析法の開発を依頼したが、構造決定にしか興味がなくまったく相 手にしてくれなかった。そのくせ生産性のよい株だけは要求してくるしまつであった。当時、私はフ ミトレモルジンの研究とともにアスペルギルス・ベルシカラー ( ゝも e ミミ ) 0 、 0 こやエメリセ ラ属におけるステリグマトシスチンの生産性検索を行なっていた。このステリグマトシスチンは薄層 クロマトグラフ上で非常に弱い赤色の蛍光もつが、塩化アルミニウム溶液を噴霧後加熱すると、弱い 赤色の蛍光は強い黄色の蛍光に変化した。そんなおり、私のもとで卒業研究をしていた学生が誤って フミトレモルジンを分析のための薄層クロマトグラフに塩化アルミニウム溶液を噴霧し加熱してしま った。学生いわく「今度の薄層のスポットは蛍光が青くなっちゃいました」。それまでフミトレモル ジンは蛍光を発しないため簡易な定量的分析がでなかった。そのときはじめてフミトレモルジンが紫 外線ランプ下で青色の蛍光を発すること偶然」矢たのである。その後この方法を活用して食品ば かりではなく人体、土壌など各種基質から分離したアスペルギルス・フミガッスのフミトレモルジン 生産性の研究を行なうことが可能になった。多くの株より生産性検索を進めるうちに奇妙なことに気 がついた。生産性検索をしたほとんどの株からフミトレモルジンが検出されたが、フミトレモルジ ン < はまったく検出されなかった。最初にフミトレモルジン << 、の検出された株とその他の株とを 比較すると、最初の株は灰色がかったあまり分生子をたくさんつくらない巨大集落を形成した。この

10. カビと酵母 : 生活の中の微生物

一九六七年、博士はロドトルラ属に有性時代がないだろうかと考えて、 >< 線照射による死減曲線か らロドトルラ属の細胞が一倍体であることを明らかにした。ついで、ロドトルラ・グルティニスの トルラ・コイシカワ IFO 0559 ( Ⅱロドトルラ・グラキリス R ぎミぶ、ミミ ls ) と IFO 0880 ( Ⅱ エンシス ) の二菌株を選び、線を用いて栄養変異株および色素の変異株の取得を試みた。たとえば、 メチオニンー ハントテン酸要求変異株、黄色ー。ハラアミノ安息香酸要求変異株などである。これらの 菌株は栄養要求変異株 (auxotroph) であるから最少培地には生育しないが、もし接合が起こり、互 いに要求性を補った菌株が得られれば最少培地に生育するはずである。そして、いろいろの組み合わ せを検討したところ、ある組み合わせで菌糸を形成し、菌糸に隔壁があり、担子菌特有のかすがい連 結 (clamp connection) が見られた。二つの変異株を混合し、経時的に顕微鏡観察を行なったとこ ろ、二つの細胞がそれそれ接合管と思われる管を出し、接合することを見出した。さらに、接合した 菌糸を最少培地で培養すると、焦げ茶色のコロニーとなり、色の濃い部分の菌糸の先端に、基部にか すがい連結をともなった大きい袋状の厚膜胞子が観察された。この厚膜胞子をとって培養すると、胞 子が発芽して棍棒状の細胞をつくり、その先端および側面に最も多い場合四個の酵母細胞を出芽する ことを認めた。厚膜胞子の発芽は担子菌の黒穂菌の厚膜胞子 (smut spore, teliospore 担子器の一 種 ) が発芽し、前菌糸体 (promycelium) をつくり、その上に担子胞子であるスポリデイウム (spo- ridium) を出芽する様式と同じであった。このことから、無性時代 (anamorph) のロドトルラ・グ ルティニスの有性時代 (teleomorph) は担子菌であることが明らかになった。そして、この生活環 ノ 02