第二次大戦後、わが国では国内に保存してある微生物株の性状を確かめ、その分類と分類方法の研 究を行なうことを目的として、昭和二九年 ( 一九五四年 ) 当時の東京大学応用微生物研究所の坂口謹 一郎教授を委員長とする大規模の総合研究が組織された。その課題名は「国内保存微生物株の分類及 び整備に関する研究」である。この総合研究は昭和三一年 ( 一九五六年 ) まで継続し、わが国の微生 物の分類学的研究に大きな影響を与えたので、少し詳しく述べる。その総合研究概要には、 「目的」国内の各研究室および教育機関に保存されている微生物株を中心として、その分類およ び分類方法の研究を行なうこと。「方法」現在国内に保存されている微生物株は日本微生物株総 究 目録 ( 一九五三年文部省刊行 ) によれば総数一三三〇〇余におよび、かっその内容も分類学上極の めて広範囲にわたっている。また、殊に注意を要するのは本邦で発見された新菌株が比較的多い酵 ことである。従って、これらを主な対象として本総合研究はそれそれの各部門の分類の専門家のラ 分担研究によって実施した。すなわち本研究代表者五〇名は ( 1 ) 日本微生物株総目録所載の分 担菌株およびその類縁菌株を集めて分類学的研究を行い、 ( 2 ) ( 1 ) の研究結果に基づき日本微 る け 生物株保存総目録の再検討を行う、という方法をとった。 駆 先 と述べられている。そして、この総合研究は四二の微生物群を対象としている。続いて、昭和三三年世 ( 一九五八年 ) 課題名が「有用微生物の分類学的研究 ( 研究代表者東京大学坂口謹一郎名誉教授 ) 」と
についての研究で得た MATa 0 象ミ、 MATa ぎ HM および MATa 象、ミ型株と交雑し た。これらサントリ ー由来株は、いずれも型の一倍体株であり、町型の型一倍体株と混合培養を 行なうことで容易に交雑できる。また型胞子 x 如型接合型一倍体栄養細胞の組み合わせで、胞子 と細胞の直接接触による接合も顕徴鏡下で行なった。こうして造成された雑種二倍体を四分子分析に かけ、それそれの交配原株の遺伝子型について調べた。その詳細は省略するが、要点はさまざまな組 み合わせの交配雑種に胞子形成させ、生じた個々の子嚢内の四胞子がホモタリズムであるかへテロタ リズムであるかについて調べ、ホモタリズム株であれば、あるいは如型に区別し、ヘテロタリズ ム株についてはその接合型を決め、それらの分離形式を多くの子嚢について取りまとめ、その観察る 結果を最もうまく説明できる遺伝子型を帰納する方法である。このような解析を繰り返した結果、換 よ 0 遺伝子はといすれの接合型細胞の二倍体化にも必須な 0 遺伝子と、これと組み合わせ性 え てミ AT 細胞の二倍体化を行なう H ミの二遺伝子に分割され、これまでの HM 遺伝子は HO 変 を 造 と協力して MATa 細胞の二倍体化を行なうよミ a と読み替えるべきであるとわかった。 構 しかし、上記の結論そのままでは納得できない現象が観察された。 a Hq x Hp の一倍体株間の交の 配雑種の成熟分裂により、二種類の施型ホモタリズム株が生じたのである。この交配株の遺伝子型を伝 上記の遺伝子記号で示すと、 MATa HO ぎミ象 x ミ AT HO よミ a ぎミとなる。この二倍体 母 では HO 遺伝子座以外の三個の対立遺伝子がヘテロに組み合わされており、しかもこれら三遺伝子 間では成熟分裂時に組み換えが高頻度で起こり、 HO よミ a よミ象と HO hma ぎミ型の胞子が容
る種は互いに異なる。ハターンを示した。そこでロドトルラ属の菌株にロドスポリデイウム属と同じ。ハ ターンがないかと探したところ、 R20 、 7 、ミミ var. 、 7 き、 YK117 がロドス。ホリデイウム トルロイデスと同じパターンを示したので、接合試験を行なったところ、接合型であることを確認 した。さらにロドスポリデイウム属に属する石油資化性酵母についても同様な実験を行なったところ 供試した四株が四株ともロドスポリデイウム・トルロイデスの接合型であった。以上のことから Nakase Komagata のグルー。ヒングによるグループ 2 のロドトルラ・グルティニスはロドスポリ デイウム・トルロイデスの無性時代と考えられる。 2 ロドトルラ・グルティニス・サリナリアーロドスポリデイウム・スファェロカルプム R ぎざミミミ var. 新ミ斗は大阪市立大学の高田英夫先生が塩田より分離した好塩性の 酵母である。この酵母はロドスポリデイウム・スファェロカルプム ( R 、 0 もミミきミも e き、・ ミ ) と同じ酵素の電気泳動。ハターンを示したことから、接合試験を行なったところ、この種の接合 型であった。ロドスポリデイウム・スファェロカルプムは OO 含量が約六五 % 、キノンが Q ー 10 で あるが、同じキノンを有するロドスポリデイウム・ディオポヴァッム ( R 、 0 ミ 7 ・ミミミミ 0b0 ~ ミ・ ミき ) とは酵素の電気泳動。ハターンが異なっている。 3 ロドトルラ・グルティニス・グルティニスーロドスポリデイム・ディオポヴァッム アメリカのフェルは、色素をつくらない担子菌系酵母を研究し、坂野博士に続いてロイコスポリ デイウム ( ト e ミ os をミ ~ 、ミ ) という属を発表した。一九七〇年彼は、また、南フロリダの海水およ 〃 2
いたが、カビ毒生産菌としては注目されていなか 0 た。しかし、このカビ毒は紫外線ランプ下で蛍光 を発せず、薄層クロマトグラフに硫酸を噴霧し加熱する古典的方法で検出していた。同じ教室のカビ 毒の化学研究を行なっている者に分析法の開発を依頼したが、構造決定にしか興味がなくまったく相 手にしてくれなかった。そのくせ生産性のよい株だけは要求してくるしまつであった。当時、私はフ ミトレモルジンの研究とともにアスペルギルス・ベルシカラー ( ゝも e ミミ ) 0 、 0 こやエメリセ ラ属におけるステリグマトシスチンの生産性検索を行なっていた。このステリグマトシスチンは薄層 クロマトグラフ上で非常に弱い赤色の蛍光もつが、塩化アルミニウム溶液を噴霧後加熱すると、弱い 赤色の蛍光は強い黄色の蛍光に変化した。そんなおり、私のもとで卒業研究をしていた学生が誤って フミトレモルジンを分析のための薄層クロマトグラフに塩化アルミニウム溶液を噴霧し加熱してしま った。学生いわく「今度の薄層のスポットは蛍光が青くなっちゃいました」。それまでフミトレモル ジンは蛍光を発しないため簡易な定量的分析がでなかった。そのときはじめてフミトレモルジンが紫 外線ランプ下で青色の蛍光を発すること偶然」矢たのである。その後この方法を活用して食品ば かりではなく人体、土壌など各種基質から分離したアスペルギルス・フミガッスのフミトレモルジン 生産性の研究を行なうことが可能になった。多くの株より生産性検索を進めるうちに奇妙なことに気 がついた。生産性検索をしたほとんどの株からフミトレモルジンが検出されたが、フミトレモルジ ン < はまったく検出されなかった。最初にフミトレモルジン << 、の検出された株とその他の株とを 比較すると、最初の株は灰色がかったあまり分生子をたくさんつくらない巨大集落を形成した。この
場合、われわれの分離したキシロース資化能の強い菌は貴重な遺伝子資源となるものと考えられる。 話がふたたび脇道にそれたが、 ISK- 1 菌は天然栄養培地ではたいへん生育速度が遅いが、このよう に一般的なあらゆる栄養素を含む培地で生育がたいへん遅いという菌が、栄養的にはとても豊富とは 思えないぬか床に定着できるものかどうか、疑問が持たれる。。ハクテリオシン生産菌を分離できたと いっても、ぬかに生育できないようなこの菌が、ぬか床の保存に貢献することができたのかどうか疑 問が持たれた。実際、学会で、この菌の分離の発表を行なったときも、ある先生から、増殖速度の遅 い菌がぬか床のドミナントとして存在し得たと考えることはできないのではないかと指摘された。ぬ か床の長期安定に貢献したとするならば、ぬか床で活発に増殖することが可能でなければならない。 ISK-I 菌が古くから伝わるぬか床から分離されたことは事実である。そこで、私はこの菌に特定の 増殖促進因子があるのではないかと考え、その探索を行なうことにした。乳酸菌は一般にアミノ酸要 求性を示すことが知られているので、味液 ( 大豆タンパク加水分解液 ) や醤油の添加効果を調べたと ころ、特に味液に顕著な効果が認められた。単品のアミノ酸を混合して味液に含まれるアミノ酸組成 とまったく同じにして培養試験を行なった結果、アミノ酸混合液は味液にはるかに及ばなかったので、 味液に含まれるアミノ酸以外の増殖促進因子があるものと考えられた。いろいろ探索した結果、この ハロン酸一対し強い増殖促進効果を一小すことを見出した (Biosci. Biotech. Biochem. , 61 ( 4 ) , 604 , 1997. ) 。 メバロン酸は田村学造先生によって発見された火落ち菌に対する増殖促進因子で、酒の保存性を悪
結法である。細胞や組織を液体へリウムや液体窒素で冷却した銅プロックに接触させたり、液体窒素 で冷却した液化プロバンに浸漬して凍結することが行なわれるようになった。急速凍結した試料を凍 結レプリカ装置に入れ、割断したのち、高真空中で水分を昇華させると、細胞骨格とその関連構造が みごとに出てくるのをみることができる。いわゆるディープ・エッチング法である。他方、急速凍結 した試料をドライアイス・アセトン ( マイナス七九℃ ) で冷却したアセトンーオスミウム酸で置換し、 脱水、樹脂包理して通常の超薄切片を作製する方法が凍結置換法であり、今日では広く普及するにい たっている。そして、酵母や糸状菌の細胞超微構造の研究でも、この方法が行なわれるようになって やっと、動物細胞と同列のレベルで超徴構造の議論ができるようになったのである ( 図 1 ー、図 2 、 図 3 ) 。 ところで、菌類細胞について凍結置換法を最初に本格的に始めたのは、エイスト、ホック、ホワー ドといった、コーネル大学の植物病理のグループであった。一九七七年の夏、フロリダのタン。ハで開 かれた第二回国際菌学会議で、当時、院生だった・ホワードが、私に凍結置換法でみた菌糸の切片 る 像をみせ微細繊維がはっきりと出ているのを示しながら、熱つぼく語っていたのを思い出す。私はこ観 胞 の方法の有用性にいち早く気づくべきであったが、実際にこの方法をやり始めたのは、それからだい 細 の ぶん経ってから、エイストが三重大学の久能教授のもとに滞在したとき、彼がわれわれに実際にやり カ 方をデモンストレーションしてくれたからである。そして、そのころになって、解剖学の人たちも急 速凍結置換法を行なうようになり、いろいろなノウ ( ウが電子顕微鏡学会で発表され、今日では、こ
体化の現象は、①細胞と住細胞間での接合によっており、②それらまたは細胞のいすれかは、 胞子発芽後の細胞増殖中に接合型が変換して生じたものであり、③その接合型の変換は接合型支配遺 伝子の変化によると考えた。しかも / 住二倍体細胞が形成されると変換は停止するから、接合型支 配遺伝子座が ( テロのミ / ミ AT 型になると、変換機構はその機能を停止すると示唆された。 その後、アメリカの研究者により、酵母の性フ = ロモンであるーファクターを用いた実験が行な われた。型細胞は住型細胞の分泌するーファクターにより生育が阻止され、接合態勢に入るが、 型細胞はそれに影響を受けることなく生長を続ける。この現象を利用すれば、個々の細胞について 接合型の変化が追跡できる。その実験によれば、胞子発芽後の第一回目の細胞分裂では、母子ともに 接合型に変化なく、次いで第二回目の出芽が母細胞と娘細胞でほ・ほ同調して起こり、娘細胞とそれか ら出芽した孫細胞では以前と同じ接合型を示す。しかし、胞子に由来する母細胞で二回目の出芽が行 なわれると、図 3 に示すように、出芽した第二番目の娘細胞とともに対立する接合型に変わる。こう して胞子発芽後の二回の分裂を経て四細胞となったとき、二個は当初の接合型を示し、残る二個の細 胞はそれに対立する接合型を持っことになる。したがってこれらの細胞間で二個の接合子が形成され、 その出芽増殖により二倍体細胞の集団となる。これらの観察から、接合型変換は、出芽経験のある母 細胞において、染色体の複製前に行なわれることがわかった。
れる。また、上の樽からの酒は、すぐ下の樽に移すばかりでなく、隣の段の下の樽にも移される。各 列一番下の樽から抜き取られた酒は、ブレンドされブランデーアルコールを加えアルコール濃度を約 はてん 一七 % にするとともに香味の調整を行ない製品化される。このように縦への補填の繰り返しと最終的 には各列の酒をブレンドすることによって、熟成された均質な酒が得られる。したがって一番下の樽 から抜き取られたものには、最低でも樽の段数に相当する熟成年の酒がわずかながら入っていること になる。シェリーにヴィンテージ ( 醸造年 ) がないのは、このような理由からである。 の熟成に行なわれてきた このソレラと呼ばれる熟成システムは、昔からオロロソやアモンチラード ーの製造に威力を発揮して もので、香りや甘辛といった味など各種のタイプ、かっ品質一定なシェリ きた。 フロールシェリーの成り立ち それでは産膜酵母の皮膜形成によるフロールシ = リーが醸造されるようになったのはいつのころな のであろうか。 変敗ブドウ酒の表面の「カビ」ミコデルマ・ヴィニーをはじめて観察、報告したのは一八二三年、 デスマジレスであったことは先に述べたとおりである。フロールシェリーと同じように酵母の産膜現 象を利用したブドウ酒にフランス、ジュラ地方のヴァンジョーヌ ( 黄色ブドウ酒 ) がある。しかし、
た、乳酸菌は菌数測定を行なった平板培地より無作為に八株を分離、合計一二一株を分離した。乳酸 菌と酵母の同定は常法により行なった。 この結果、低塩濃度 ( 五—六 % ) では従来法および窒素ガス充填法ともは徐々に低下し二—四月 従来法では、四月以降の気温の上昇にともない産膜性のデバリオ にかけて四・三程度まで低下した。 , 、、セス属酵母が生育し、が上昇してエタノールが消費され、。ヒキア属 (Pichia) 、ロドトルラ属 ハチルス・。フレヴィス ( R ぎミぶ赤色酵母 ) などの有害酵母が増殖した ( 図 4 ) 。また、ラクト。 長 7 日れワ】日 下 ラダ以の 6 月日 ノデ種 レ アン / 母 5 月日 ル L.n 日 ~ 7 日卩ー 当定数の ン同菌中 未生 4 月 0 日蔵ロハ 貯ローロロ貯 3 月幻日 ン 大 工 シ 、 3 月 2 日 ヴゼ ルンダフ 2 月 1 日 ン セセやプ ク メ タ 定 カ 一口 サデ未ピ 窒素ガス充填法 9 ; 89 製 78 生菌数 / 従来法 9 8 / タクアンと塩と酵母
るというのが普通の考え方で、この生体 = ネルギー論をもとにした合成法をバイオ関係の研究者はね らった。しかし、実験を行なってみると、酸素呼吸は進行するけれども、エネルギーを取り出して、 それを合成反応に利用することがなかなかできない、制御しにくい性格のものであることがわかって きた。 われわれは、酸素呼吸がミトコンドリアという膜構造体の内部で行なわれるためエネルギーを取り 、と判断した。むしろ膜構造に依存しないで、大部分の酵素 ( 生体触媒 ) が溶け 出すことはできない ている状態で活動している細胞質という場で、発酵によってちょろちょろとしか出てこないエネル ギーのほうが合成に使いやすいと考えた。発酵では、エネルギー生成量は少ないけれども、細胞の外 部に取り出して合成反応に利用できるエネルギー ( エネルギーと呼ぶ ) が生産できる。つまり、 無気呼吸はエネルギー発酵そのものであると解釈した。それでは、醸造産物であるアルコール はどう評価するかということになるが、結局これは、エネルギー発酵の面からは副産物であると位置 づけたのがわれわれの最初の見方であった。 ところで、イオマスから安価なアルコールを発酵生産することは地球の資源が有限であるという 観点から重要な課題である。近年、ブラジルなどではガソホールとして、ガソリンの中に一〇—二〇 % のアルコールを入れて車を走らせている。アルコールを、バイオマスを用いて再生産できるエネル ギーとしてガソリンの中に一部加えるということになると、化石燃料の節約になるし、また子孫のた めに化石燃料を残しておこうというブラジルの長期的展望に立った一つの国策というものの意義がそ