280 徴生物学の一里塚 10 ー M のスルファニルアミドによる阻止を逆転させるのに 1.2 ~ 5.8X10 ー 8M で十分であった . すなわち , この濃度は培地 llml 中 0.02 ~ 0.1 であり , これに比べ , スルファニルアミドは 570 g である . いくつかの定量的測定 結果を Table Ⅶに示す . 5 倍ずっ変化させた別個の測定結果が一致したこと は , 高度に希釈したことと接種状態が異なっていた点からみて , 満足すべき ものである . 同じ測定を 2 回ずつ行っても変化はみられなかった . p- アミノ安息香酸の純度 TableV1ff はまた , 0 ーアミノ安息香酸の活性が 5 回再結晶しても影響されな いことを示している . 製法からみて , 最もありそうな不純物は。ーと m ー異性体 , および p ー 。安息香酸あり , = れらを試験したと = ろ震活性あ , 0 ーー安息 香酸に比較して非常に微弱な活性であることカわかった ( Tab 厄 x ) ( m ー異性 体に痕跡の活性 p ー化合物が混入している可能性もある ). したがって , 活性 物質が P- アミノ安息香酸で , 使用した標品中の不純物でないことは , ほとん ど疑う余地がない . スルファニルアミドとの定量的関係 酵母因子の場合と同様に , 使用したスルファ = ルアミドの濃度と阻止を逆 転させるのに要した 0 ーアミノ安息香酸濃度との間には一定の関係があった (Table Ⅶ ). 別の実験 ( 上記参照 ) でみられた標定の変動を避けるために 標定は , 同じ実験において , 同じ源の接種菌と同じ希釈倍数とを用いて行う 必要がある . 同じ濃度のスルファニルアミドを用いた別々の実験において (TabIeW), スルファニルアミドのモル濃度と p ーアミノ安息香酸のモル濃度 との比は , いつも使っていた希釈倍率 5 の変動を反映して , 5 , 000 ~ 25 , 000 の範囲にあった . 大腸菌を用いた実験 P- アミノ安息香酸の作用はまた , 試験菌として大腸菌を用い , 乳酸塩と無 機塩の完全合成基礎培地 (Fildes, 194 ので同じように証明された . この培地 上で普通に用いる量 ( 3.03X1 ー 4M ) のスルファ = ルアミドで 5 日間完全に
第 V 部化学療法学 235 ることができる . したがって , 反応速度は時間 , 温度 , 濃度および反応物質 の特殊な性質によって左右されるであろう . 増殖阻害 今までは , 種々の物質の致死的作用のみをとり扱ってきたが , 次に金属塩 を培地に溶解したときに示す増殖阻止反応について行われた各種の観察につ いて考えてみたいと思う . 溶液の殺菌作用は , 活性成分の濃度と作用時間による . 増殖阻止性を考える場合には , 作用時間は考慮に入れなくてもよく , 決定 的因子となるのは活性物質の濃度のみである . したがって , 増殖阻止性に関する直接的な結論を引き出すのに , ある物質 の殺菌作用に関するデータを直接に用いることはできない . 作用薬剤の増殖 阻止性を純溶液の状態で測定することは不可能であるから , 問題としている 薬剤の少量を種々の組成の栄養液に加える必要がある . 栄養液は , 普通多量 の有機物質を含んでいるので , この方法では消毒剤は多かれ少なかれかなり の変化を受け , 純溶液のときとはかなり異なった性質を示す . 時間が条件として入ってこない増殖阻止実験においては , 化合物の解離度 が演ずる役割は減少し , 培地中に溶解している金属の濃度のみが重要である 可能性が大きい . 培地中の種々の金属塩の増殖阻止性に関する研究は , 文献に数多く報告さ れている . こでべーリングの研究について述べる . まず第一に ・・・彼は , 血清 中の水銀塩の増殖阻止性を試験した . 14 種の異なる塩について , 阻止濃度が 1 グラム分子量 / 2 , 2001(Hg= 1 / 11 , 000 ) ~ 6 , 400 1 / 32 , 00 のまで異なるこ とを彼は見出した . 最低の阻止活性を与える薬剤は , 塩化第二水銀と 5 モル の酒石酸との混合物であり , 最も活性の強い化合物は K2Hg(CN)4 であっ われわれの実験は , プロスとゼラチンを用いて行った . 実験は完了して いないが , K2Hg (CN)4 が塩化第二水銀よりもよく阻止するというべーリ ングの結果を追試してみた . 前者の活性は栄養ゼラチン中で 1 グラム分子 / 30 , 002 であり , 後者は 1 グラム分子 / 20 , 002 である . これらの結果をベ リングのそれと比較すると , 培地の種類により大ぎく変化していることがわ
174 徴生物学の一里塚 孫に伝えることができ , 抵抗性をもった品種ができる . 同様に , 寄生体の毒力も遺伝あるいは環境によって決定される . もし遺伝 によるならば , 毒力の欠損は子孫に伝えられて , 毒力のない株が生じるであ ろう . パストゥールは , 今日のような遺伝学的概念はもっていなかった . 寄生体 の毒力は , ほとんどが遺伝によって決定される . ゆえにわれわれは , パスト ゥールの実験で起こったことを推測することができる . 彼がもし病気のヒョ コから分離した新鮮株をヒョコに継代し続けていたら , ヒョコの体内で増殖 でぎる毒性変異株を選び続けていたであろう . 非毒性変異株は増殖せず失わ れていたであろう . しかし , もし彼が人工培地に植えていたら , 毒性株は非 毒性株に抑えられて優勢に増殖することはなかったであろう . そして , 毒性 舊と非毒性菌の混じった株がとれたであろう . もし彼が菌を最大限まで増殖 させ , さらに培養を続けていたら , いろいろ複雑な変化が起こったであろ う . なぜなら , 培地の中のすべての栄養が使い果たされ , 多くの菌は自己融 解によって死んだであろうから . 毒性菌が非毒性菌よりも弱いために死減す れば , 最後に非毒性菌だけが残るであろう . パストゥールが発見したのはこ れである . これがパストゥールが報告した現象の正確な機構であるかどうか を知ることはもちろん不可能であるが , 最も可能性が高いと思われる . 酸素 の影響についての彼の実験は不可解である . 酸素は自己融解を早める役割を 演じるが , パストゥールが考えていたような直接作用はしないと考えられる . パストゥールが弱毒化という語をはじめて用いて以来 , 毒性株から非毒性 株を得る過程を弱毒化といっている . 「弱毒化」という術語は毒性から非毒 性へと連続的に変わってゆくことを意味するように思えるので , 毒性の遺伝 的根拠がわかった現在ではこの術語にはあまり意味がない . この論文は , 寄生体の毒力が変化するという非常に重要な概念を報告して いる . パストゥールが研究した病気は , 実験動物で再現することができるも のであったので , ある程度くわしく状況を分析することができた . 彼は , 弱 毒化はニワトリコレラに限られたことではなく , おそらく一般的な現象であ ると考えた . 痘瘡と牛痘の関係の類似性も , 彼にとってはまったく明白な事 実であった ( p. 163 参照 ). パストゥールは , 彼の観察から得た理論を実地に 応用することも怠らなかったが , それは次の論文にみられる . ( 訳 : 藤野・竹田・清水 )
228 徴生物学の一里塚 蒸溜水を加えてたえず補充する . 最後に , 混合物を温浴中でフィルタで澹 過して , 31 のガラスフラスコに入れてたくわえる . このようにすれば , 同じ品質の寒天を常に確保することができると思われ る . 時がたつにつれて培地は変化する可能性があるので , 実験が厳密に比較で きるのは , 同時に同容器からとり出し , 同じようにして減菌した寒天を用 いて実施した場合だけであり , 異なる系列の実験では多少の変動は免れな ここで述べなければならないことは , 一般に , 消毒とは細菌を殺すという 意味で用いているのではないということである . 消毒に成功するということ は , 消毒剤を細菌に作用させたのち , 特定の培地 , 特定の温度において細菌・ がもはや発芽 , 増殖することができないという意味であるとわれわれは理解 している . 決して細菌が本当に死んでいることを意味するわけではない . れらの弱った細菌は , 好適な条件下 , おそらく生体内では増殖することがで きると考えるのは無理なことではない . ゲッペルトは , 炭疽菌の芽胞を塩化 第二水銀で一定時間処理したのちマウスに注射するとマウスは炭疽にかかっ て死ぬのに , 寒天上ではこの処置を受けた芽胞からコロニーが出てこないこ とを観察している . 8. 菌数計算 培養をはじめてから 24 時間目に , 最初の菌数計算を行う . 2 日目および 3 日目にはさらに多くのコロニーが現れるので , 第 2 回目と第 3 回目の菌数 十算を行う . われわれの実験では , これ以後新しく現れてくるコロニ ーはわ ずかであり , 消毒剤の評価には影響しない . われわれは , 消毒剤の種類と発芽時間との間に何らかの関係が存在するか どうかを確かめたかったので , 菌数計算を 3 日間にわたって行った . また炭 疽菌の場合 , 初日に非常に多くのコロニーが現れ , そののちに現れるコロニ ーは正確には算定できない . 菌の数が 800 以下の場合には , 虫眼鏡を用いて平板上のコロニーを数え , 800 以上の場合には , ウォルフヒューゲル ( wolfh ⅱ gel ) の計数装置を用いたを * 現代の操作では , 統計学的必要性から平板 1 枚当たりの菌数が 300 になるように 希釈する . 一三ロ
246 徴生物学の一里塚 スを殺し二量体は 1 / 6 , 000 で殺します . しかし最も重要な点は , この変化 により , 驚くべき殺トリバノソーマ効果が実現したことであります . パラア ミノフェニル砒素オキシドは , 試験管内において 1 / 100 , 000 の希釈度では即 座に , また 1 / 1 , 000 , 000 では 30 分間でトリバノソーマを殺します . アルサ ニル自身が 5 % 溶液で病原体にほんのわずかな影響も与えないことを考える と , アルサニルから酸素原子を除くだけで , 驚くべき活性の変化と増強が起 こることが容易にわかるでしよう . したがって , アルサニル自身は動物体内 で何の効果も現さないが , そのごく少部分が生きている生体内で還元され て , 実際の毒性物質になると仮定せざるをえません . このように , 前述のマウスを用いたアルサニルの実験結果を説明すること が可能であります . マウスが違えばアルサニルを還元する能力も異なること は明らかであります . 強い還元能力をもつマウスは , 比較的多量の化合物を 還元して , これを毒性のある殺トリバノソーマ物質に変えます . かくして , 病原体はいなくなりますが , マウスは毒性でまいってしまいます . 他方 , 抵 抗性のマウスは還元能力が弱くて , 平均して少量の還元生成物を形成しま す . マウスは障害を受けませんが , 原虫に対する効果も不十分であります . この考え方が正しいならば , 治療目的のための本当の治療剤を完成するに は , 個々のマウスの能力が異なることから , 動物が自身でこれをつくらなく てもよいようにしなければなりません . 実験薬物学におけるわれわれの第一の義務は , 「何をどのように」用いる かということだけでなく , 「なぜ」そうするかということを明らかにするこ とであります . それで私は砒素の作用機構を発見しようと努力しました . 確 かに , これは直接的にはいまだ成功していませんが , われわれの知識の進歩 にかなり役立つ別の道が発見されました . これは , トリバノソーマの薬剤耐 性株の研究によってであります . 各種の化学療法剤でトリバノソーマ感染を長期間治療している間に不成功 に終わるのは , その薬剤に耐性のトリバノソーマ変異種が徐々にできてくる ためであることを最初に示したのは , フランクフルトにあるわれわれの研究 所であります . かくして , 私はプラウニングとレールの協力により , フクシ ンおよび一連の他の塩基性トリフェニルメタン色素に対して抵抗性のトリバ トリバンレッド , および類似物質のト ノソーマ株をとることができました . リバンブルーとトリバンパイオレットに抵抗性のある 1 株とアルサニルに耐
第 I 部自然発生説と発酵の ガラスフラスコに酵母水 , 糖を加えた酵母水 , 尿素 , 砂糖 , ビートジ = ース , コショウ水のうち 1 種をれる・これらは , いずれも普通の空気と接触す のである . 次にフラスコの首を火炎で引き伸ば ると非常に変化しや す . Fig. 25 のようにいろいろな曲り方のものを作った . さらに蒸気が首の 先端から出るまで数分間液を加熱する . この端は開けたままで , ほかにはと くに注意は払わない . 次にフラスコを冷やす . 自然発生に関する実験が徴妙 であることを熟知している人は , この何気ない方法で処理した液体が , 永久 に変化しないことを観察して驚くに違いない・フラスコはどうとり扱っても よい . ある場所から他の場所へ移動させてもよいし , 四季の温度変化にさら して、・液体はまったく変化しない・においも味もそのままであるが , ある場合にだけ化宀、 が発生した例 ~ つもない . ヒを受ける . しかし , 液体中に徴生物 最初の瞬間に勢いよく入った空気は , もとのつくられたままの状態の培養 液と接触する . これは事実であるが , まだ沸点近くの液触れことにな る . それ以後 , 空気はゆっくりと入ってくるので , もはや菌を殺さない温度 まで液が冷えたときには空気の侵入は非常に遅くなり , 空気がもち込む徴生 物のついたほこりは , 曲がったガラス管の湿った壁に付着して中まで入らな この興味ある結果について , 他の理由を見出すことはできない . なぜな ら , 1 カ月かそれ以上培養したのちに , やすりを使ってフラスコの本体に触 れないようにフラスコの首を切りとると , 24 , 36 または 48 時間後にかびと 滴虫が出現しはじめる . それはちょうど , 空気中のほこりがいつものように フラスコの中に入るのと同じである . ミルクを用いて同じ実験をくり返したが , この場は圧をかけて 100 ℃以 上で煮沸し , フラスコを冷やすときは加熱した空気を再び入れるように注意 しなければならなかった . フラスコは , 前と同様に開口したまま放置する . のように処理したミルクを 25 ~ 30 ℃で何カ月も培養したが , 変化しなかっ た . クリーム層がやや厚くなったのと , 直接的化学酸化だけがみられた・ 簡単にくり返すことができ , いくつもの方法で行えるので , これ以上確実 な実験法はないといえる・ 現在 , 私の実験室では , 多くの非常に変化しやすい液をフラスコに入れて その首を曲げて先を開けたままにしているが , 1 年半の間 , 変化していな い . 私は , 1860 年 2 月 6 日の集会で , 科学アカデミーにこれらの新しい結果
2 徴生物学の一里塚 遂げられた光学顕徴鏡の発達は著しいものであった . しかし , アベ (Abbé) の集光器が用いられるようになったコッホの時代 ( 19 世紀末 ) から現在まで の光学顕徴鏡の進歩は , 細菌学に決定的な衝撃を与えるほどたいしたもので はなかった . しかし , この論文集を読んでいくとき , 読者は 1 つ 1 つの論文 についてそこで行われた観察と引き出された結論が , どれぐらい顕徴鏡の性 能を反映しているかを考えてみるべきである . 多くの論争の原因は , 研究者 がそれぞれ違う顕徴鏡を使ったことによるのかもしれない . 一般に , 研究が 認められなかったときに , 用いた研究方法が異なるためではないだろうかと 考えるのは , 現代にも通じるよい教訓である . 医学と発酵学が徴生物学の発展を促進したのは , 実用的な問題がそのはじ まりとなっているが , 科学に基礎をおいた最初の研究は純粋科学の問題から はじまったのである . すなわち , 自然発生説に対する反論で , 哲学的考えを もった人々 , 科学のために科学を追究しようとする人々を目ざめさせ , 徴生 物学への最初の科学的手がかりへと導いた論争であった . 自然発生説の初期の未熟な考え ( 古いぼろからマウスが , 肉からウジが生 じるという説 ) に対して , 17 世紀にレディ (Redi) が反論を公表した . しか し , 原虫と細菌〔当時は一般に漠然と infusoria ( 滴虫 ) といっていた〕は野菜 や動物の浸出液から生じるというような微小形生物の自然発生は , 19 世紀に なってもまだ信じられていた . 酵母による発酵 ( とくに酵母を接種しないプ ドウ液での ) は自然発生によると考えられていたので , 反論には発酵の問題 も含まれていた . さらに , 酵母がアルコール発酵を起こすかどうかという問 題も関係し , 相互関係はまったく複雑であった . 誰でも実証できるように , 肉や野菜の浸出液を室温に放置すると変化が起 こる . 感覚で認知できる変化は , 液の混濁と悪臭が生じることである . 化学 的な変化は , 浸出液中の有機物質の分解である . 顕徴鏡で観察できる変化 は , 滴虫 ( 原虫と細菌 ) の出現である . この変化はまさに腐敗である . 浸出液 の代わりに果汁を用いると , 違った形の特徴のある変化が起こる . 果汁中の 糖が分解してアルコールと炭酸ガスになり , 酵母が出現する . この変化は , 発酵 , あるいはアルコール発酵である . 発酵の場合 , 非常に多くの酵母が生 じて沈澱するので , これを集めて別の純粋な糖液に入れると , さらにアルコ ール発酵が進む . 純粋な糖液中での発酵は , 自然には起こらない . 有機物質が容易に腐敗することは , おそらく人類が将来のために食物を保
772 微生物学の一里塚 があると期待することはできないであろう . 5 ~ 6 カ月目に移植した菌がか なりの毒性を示したり , 同じ源からの菌でも 3 ~ 4 カ月後には完全に弱毒化 されているものもある . この異常は , 本当に起こっているのではなく , みせ かけにすぎないことをあとで説明しよう . ときには , 強い毒性菌が非常に短 期間に急に死んでしまうことがあり , 継代しても増殖しないので驚くことが ある . あまり長く放置すると菌が死んでしまうことは当然である . この変化の過程で , 菌に何が起こるのであろう . 毒性がそれほど明らかに 変わる間に , 形態も変わるのであろうか . 私は菌の形態と毒力の間に関係が ないとはいわないが , そのような関係はありえないか , あるいはほとんどな く , 仮にあるとしても , 菌は非常に小さいので顕徴鏡でみても気がつかない であろう . 毒性の異なる菌も外観はすべて同じである . ときにわずかの変化 が生じるとすれば , 事故によるものであろう . そして , もう一度観察すると この変化はなくなっているか , あるいは逆の変化が現れているかもしれない . 毒力の異なるいくっかの菌を新しく培養し , すべての菌を同じ間隔で継代 培養し続けると , 各菌の毒性はもとの毒性と同じ活性を維持することができ る . たとえば , 10 回の接種のうち 1 回だけ死を起こすように弱毒化した菌 は , 移植の間隔が長すぎなければ , 継代培養してもこの強さを維持してい る . また同じ移植間隔で弱毒菌は死んでしまうのに , 毒性の高い菌は菌の弱 毒化は起こるが , 必ずしも死ぬとは限らないことも興味深い 次に , 毒性が減少する原因は何であるかという重大な問題について考えな ければならない . この菌は好気性菌で , 空気のないところでは増殖できないので , 空気と接 触させておく必要がある . したがって , 弱毒化の原因は空気との接触に関係 があるのではないかとまず考えるのは当然である . 小さい徴生物が酸素の存 在のもとに培地中で増殖する間に恒久的な変化を受けて , しかも酸素の影響 をとり去ったあともなおその性質が残っていることがありうるだろうか . の現象に介入する何か他の原因 , 化学物質か液体のようなものが , 空気中に 存在していないかどうか考えることもできる . 変化の原因が空気中の酸素であるという最初の仮説を証明するための実験 は容易である . 酸素のないところでこの現象が起こるかどうかを調べればよ この目的のために , 次の実験を行った . われわれが保存しているなかで最
64 微生物学の一里塚 2 ~ 3 分間液を煮沸し , 完全に冷却させる・フラスコには大気圧の普通の空 気を満たすが , 入れる前にまず赤熱しておく・次にフラスコの首を火炎の中 で封入する . このフラスコを 30 ℃の恒温箱に置く . このようにすると , 中の液がまった く変化しないまま永久に保存することができる . 透明度 , におい , 弱酸性の 性状はまったく変化しない . 時間がたっと色が暗くなるが , それは蛋白物質 か糖が直接酸化するためであることは間違いない・ わずかでも疑いのかかった実験は , 一度もなかった . 酵母入れた糖液を 2 ~ 3 分間煮沸し加熱空気と接触させたものは , 25 ~ 30 ℃の状態で 1 年半た ったのちもまったく変化していない . 同時にフラスコに普通の空気を入れる と , 1 ~ 2 日以内に変化が起こり , 細菌とビブリオがいつばいになったり , かびで表面が覆われてしまう . 要するに , シュワンの実験は完全に正確であったのである . 第Ⅳ章前もって加熱してお いた浸出液中に出現す るすべての微生物が空 気中に浮遊している小 体に由来するものであ ることを証明するため の , 非常に簡単な別の 方法 私は , 前もって加熱してお いた浸出液中のすべての徴生 物が , 空気によって運ばれる あらゆる物体に常に付着して いる固型粒子以外から由来す るものでないことを , 前章で 厳密に立証しえたと信ずる . なお , 読者の疑いを完全に除 くために , 以下の実験結果を 示すことにした . 0. % ん
40 徴生物学の一里塚 する窒素化合物の作用機序がまったくわかっていないので , この現象につい てのはっきりした説明はできない . その質量には有意の変化はみられない . それは腐敗しない . それは変化し続けて異なったものになるが , その組成が どんなものであるかを述べるのは困難である . 注意深い研究が行われたにもかかわらず , 現在まで発酵過程中に生物の発 生がみられたことはなかった . そのような生物に気がついた人々も , それは 偶然であり , 発酵過程には有害であると固く信じていた . すなわち , この事実はリービッヒ (Liebig) の説にとって好都合である . 彼の観察では , 発酵素は非常に変化しやすい分解性の物質で , その過程でそ れ自体が変化を受けて発酵性物質の分子群に刺激を伝え , 分解を起こして発 酵を引き起こすというのである *. リービッヒによれば , これがすべての発 酵の原因であり , また多くの伝染性疾患の原因である . 彼の学説は , 日増し に多くの人々の支持を得ている . まずはじめに , アルコール発酵素であるビール酵母は , 糖が分解されてア ルコールと炭酸ガスをつくる場ではどこにでもみられること , また , それと まったく同様に , 独自の発酵素である乳酸酵母は , 糖が乳酸に変わる場に常 に存在している事実を明確にしておかなければならない . この発酵素の増殖 のために都合のよい栄養源として , 糖から乳酸への変化を引き起こすことの できる分解性窒素物質が用いられている . 普通の乳酸発酵では , 窒素化合物の沈澱物の上部の表面に , 灰色の物質が できてくるのが観察できる . 顕徴鏡でみても , これをカゼインや分解したグ ルテンなどと鑑別することはほとんどできないので , 特殊な物質であるとも 発酵中にできたものであるともいうことはできない . それにもかかわらず , 発酵の重要な役割を演じているのはまさにこの物質である . これを分離して 純粋な状態にするための方法を簡単に紹介しよう . ビール酵母を 15 ~ 20 倍量の水で数回煮沸して可溶性物質を抽出した . の抽出物を注意しながら過した * *. この濵過液 1 1 に 50 g の塘を溶解 し , 白堊を加えた . 次に , 上記の灰色の物質の少量を移植したところ , 正常 * リービッヒの見解に関する直接の説明は , p ・ 35 を参照のこと . * * これは , 今日栄養素として培地に広く用いられている酵母エキスの調製の最初の 記載であると思われる .