第Ⅱ部病気の微生物説ノ刀 治療を成功させるためには , 切開する前に膿瘍を調べなければならない . 非常にまれな例を除けば内容物に化膿菌は存在しないので , 石炭酸を内部に 入れる必要はない . 実際には , この処置は化膿膜を刺激し , 不必要な化膿を 起こすことになるので行わないほうがよい . 大切なことは , 外から空気中の 微生物が入らないようにすることと , 中からの分泌物が自由に排出できるよ うにすることである . もし , 外科のいろいろな特殊領域においてこの消毒の原理を適用すること ができるとしても , それは「協会」が決めた限界をはるかに越えることにな るだろう . もう 1 ついいたいことは , 病院の一般的衛生に及ぼす消毒の影響である . 消毒が導入される前は , 事故の患者や手術後の患者が入っていた 2 つの大病 棟は , グラスゴー王立病院の外科部門の中で最も不衛生な病棟であった . す なわち , これらの病棟は , 新鮮な空気の補給がむずかしい場所に設けられて いた . 私は , 臨床結果を記録する際 , 院内で発生した壊疽や膿血症を思わせ る症例があまりにも多いことに気づき心を痛めていた . また , ほとんどのべ ッドが開放創のある患者で占められている場合は , とくに重い合併症を伴う ことが多いことに気づき , 傷心したものの興味深く関心を抱いていた . 単純 骨折の場合は開放創が少ないので , 私や学生にとってはあまり興味のある 症例ではないが , 私は上記の理由から単純骨折の患者を歓迎するようになっ ていた . しかし , すべての手術に消毒治療を行って以来 , 傷や膿瘍からの化 膿性排出物によって空気を汚染することがなくなったので , 病棟は他の点で は以前とまったく同じ条件であったにもかかわらず , その性格が一変した . こうしてこの 9 カ月の間に , 膿血症 , 院内壊疽 , 丹毒の症例は 1 例も発生し ていない . この変化が消毒によってもたらされたことは明白であり , その重要性をい くら誇張してもしすぎることはない . 解説 リスターは , 石炭酸を用いることによって外科領域に大きい影響を与えた . それ以前は不可能であった多くの外科手術が容易にできるようになった . し かしながら , 石炭酸は人体に対してかなりの毒性があるので , すぐれた消毒 剤とはいえない . その後多くの薬剤が開発され , 今日では抗生物質や化学消
第Ⅱ部病気の徴生物説〃 9 破壊作用をもち , 現在知られている最も強力な消毒剤である . 私が石炭酸を使用した最初の症例は複雑骨折で , 損傷部の腐敗がとくにひ どく致命的なものであった . その結果から , 重い外傷に続いて起こる局所炎 症や全身性発熱障害は , 腐敗した血液や腐った組織の刺激性の有害作用によ って起こるという大原則を結論するに至った . このような障害は , 消毒によ って完全に防ぐことができるので , 以前は余儀なくされていた四肢の切断を しなくとも , 好結果を期待することができる . 治療を行う際の第一の目的は , 事故の瞬間あるいはその後傷口から侵入し このためには , ビンセットで保 た化膿菌を殺すことでなければならない . 持したガーゼを強力な酸に浸して , すべての創傷部に塗布する . 初期の症例 ではこの処置を行わなかったが , その後の経験から , 石炭酸が血液と反応し てできた物質や , 石炭酸の腐食作用で死んだ組織や骨でさえも , その後腐敗 さえしなければ吸収と修復作用によって除去されることがわかった . われわ れは , このようにして外傷発生後の消毒剤治療を効果的に行うことができた が , この処置を行わなければたぶん治療に失敗していたに違いない . 今 , 1 人の少年がグラスゴー王立病院でこの治療を受けている . 彼は複雑骨折で事 故から 8 時間半もたってから入院してきたが , それでも石炭酸によって局所 の組織障害を避けることができ , 入院後 5 週で骨はしつかり結合した . 次に考えるべぎことは , 最初に与えた酸が洗い流されたり吸収や蒸発によ って消失した場合 , 事故後数日の間 , にじみ出てくる血液や血清によって腐 敗物が傷口に流れ込まないように防ぐことである . これに対する処置は , 最 近数週間の間に非常に改良された . 私がここに発表する方法は , 石炭酸に浸 したガーゼを健康な皮膚の部分にも少しかかるように当て , ブリキのふたを かぶせ , このふたを毎日もち上げてガーゼの表面に消毒剤を補給する . この 方法は中程度の大きさの傷には確実に効果があり , 私や私の同際が治療をし た多くの患者のうち , この種類の傷で失敗したのは 1 例もなかった . しかし ながら , 傷が非常に大きく , とくに最初の 24 時間の間の血液や血清の流れが あまりにも多い場合には , 健康な皮膚面へも何度もくり返して消毒ガーゼを 当てない限り , 消毒剤を適用しても内部へ腐敗物が流れ込むのを防ぐことは できない . 広範囲に消毒剤を適用する方法は , 真皮の表面が広く脱落してし まうので無理である . この困難は , 次のような泥膏を用いることによって克 服できた . 石炭酸と沸騰亜麻仁油を 1 : 4 の割合に混ぜた液に , 白堊 ( 炭酸カ
226 徴生物学の一里塚 かねばならなし . 5. 定温調節 しく延長される . さらに , ただ 1 個の細菌が消毒剤の作用を逃れて結果を著 は他の細菌よりも抵抗性が強い . したがって , 完全な消毒に要する時間は著 な時間で比較せざるをえない . すでに述べたように いくつかの個々の細菌 とができないという欠点がある . したがって , すべての芽胞を殺すのに必要 しかし , これらの液体培地では , 消毒後に生き残っている細菌の数を示すこ いは液体ゼラチンのような液体培地がこの目的に適していると述べている . ればならない . べーリングやその他の多くの研究者は , プロス , 血清 , ある 消毒後でも , 消毒剤の中和後でも , 細菌は発育に適した培地中に入れなけ 7. 同一の培地の使用 性化するなどの処置を行った . し , ョードはチオ硫酸ナトリウムで , 塩素および臭素は希アンモニアで不活 ウム溶液で金属塩を沈澱させ , 塩基は希酢酸で , 酸は希アンモニアで中和 われわれの実験ではこの点に注意を払い , たとえば , 3 % の硫酸アンモニ る細菌の増殖を阻止することがある . 調べるために用いる培地中にもち込まれると , すでに消毒剤で弱められてい ベルトにより示されている . たとえ非常に少量の消毒剤でも , 細菌の生存を 要であり , 消毒剤を除くのに水で希釈しただけでは不十分であることがゲッ 消毒剤を試験するときには , 化学的操作によりこれを不活化することが必 6. 消毒剤の中和 に消毒液を入れた . 温度調節のために , われわれは温度を士 0.1 ℃以内の定温に保持した水浴 理由は , 普通は室温で消毒剤を使用するからである . われわれの実験はすべて 18 ℃で行った . われわれがこの温度を選択した より促進されるという法則に一致する . 温度が高いほど消毒剤の活性は大きくなる . この性質は , 化学反応が高温に より , 消毒剤の活性は温度によって変化することが示されている . 一般に ハイデル (Heider), べーリング (Behring), パネ (Pane) らの正確な研究に
266 徴生物学の一里塚 プトヒンは , 連鎖球菌感染に対するフ・ジン ( ハイドロキニンの誘導体 ) と同 様に主として感染局所に直接使用した . 全身感染の場合の効果は実験動物で ははっきりみられない . また , 敗血症の治療に推奨されている銀化合物は , 実際には不適当であることがわかった . 事実 , これらが敗血症の経過によく ない効果を及ぼすという批判的観察がしばしばなされている . 化学療法に有効な物質を系統的に探すためには , 常に適当なモデル系が必 要である . 連鎖球菌で , マウスに再現性のある致死的感染を起こさせること は可能である . われわれは , 人の致命的感染症からとった連鎖球菌の溶血株 を研究に使用してきた . われわれが連鎖球菌感染に有効であることをみた最初の化学的化合物は , 一連の金化合物であった . これらの化合物は , 動物において有意な効果を現 し , また人の連鎖球菌感染症に対して疑いもなくよい影響を示した . しかし 金化合物には大きな欠点があった . すなわち , これらは確かな化学療法的効 果をあげるほどの十分な量を投与できず , また長期間にわたって使用するこ ともできなかった . 長期間の治療では金の毒性が現れる危険性があったから である . 皮膚の紅疹と腎臓障害が現れたが , これは投薬を停止すると消失し た . しかし , 治療を再開すると再び現れた . 梅毒と同様に , 連鎖球菌感染症の治療に金化合物が有効であることはフェ ルト (Feldt) も報告しており , 彼は金チオグルコース製剤を最も有効な薬剤 として推奨している . 上述の欠点があるので , われわれは金属を含まない純有機化合物のうちか ら , マウスの実験で効果のある他の化合物群を探すことにした . われわれ の連鎖球菌に対する試験管内消毒実験において , アゾ化合物およびアクリジ ン化合物が比較的良好な効果を示した . このすぐれた試験管内活性は , これ らの物質を動物体内に注射すると , ほとんど完全に消失した . アゾ化合物は , しばしば治療的興味を喚起した . 酸性アゾ化合物のうちで は , トリバンブルーがトリバノソーマならびに願に対して有効であることが わかった . 中性アゾ化合物では , ジアセチルアミノアゾトルエンが外傷後の 治癒を促進する薬品として使用されてきた . 殺菌力のある塩基性アゾ化合物 として最も古いものは , 2 , 4 ージアミノアゾべンゼンであり , その塩酸塩は長 い間クリソイジンという名前で知られており , 細菌の染色剤として使用され てきた . アイゼンベルグ (Eisenberg ) は , 1913 年にクリソイジンがグラム
18j0 1867 1867 1877 1880 188 ノ 1882 ノ 884 1882 1798 1880 ゼンメルワイス 産褥熱の発生に関する論説 複雑骨折 , 膿瘍などの新治療法 , 化膿状態の 観察 外科の実際における消毒の原理 リスター リスター コッホ 炭疽菌の生活史に基づく炭疽の病因論 X111 ・・・ 110 ・・・ 114 ・・・ 118 ・・・ 122 コッホ 130 外傷性感染症の病因論の研究 病原徴生物の研究方法 結核の病因論 結核の病因論〔コッホの原則〕 コッホ コッホ コッホ 工ールリッヒ 結核菌の染色法 第Ⅲ部免 疫 学 ンエンナー / ヾストゥール・ 英国西部 , とくにグロセスターシャーで発見 され , 牛痘という名で知られている病気 , Va- riolae vaccinae の因果に関する研究 ニワトリコレラ病原体の弱毒化 ・・・ 136 ・・・ 146 ・・・ 154 ・・・ 157 ・・・ 163 ・・・ 169
第 V 部化学療法学 263 ある . この最もよい例は , べニシリンを使用することで , パイファーのイン フルエンザ菌を非常に容易に分離できることである . 終わりに臨み , この論文に書かれた実験を援助していただいた私の共同研 ペニシリウムの同定に関 究者リドレー氏およびクラドック (Craddock) 氏 , して示唆していただいた真菌学者ラ・トウシ = ()a Touche) 氏に感謝するし だいである . 要約 1. ある種のべニシリウムは , 強力な抗菌性物質を培養中に産生する . 培 養液の抗菌力は 20 ℃において約 7 日で最高に達し , 10 日後には減少しはじ め , 4 週間でほとんど消失する . 2. この抗菌性物質の産生に最も適した培地は , 普通栄養プロスであっ 3. この活性物質は容易に瀉過することができる . このかびのプロス培養 瀉液に " べニシリン " という名前を与えた . ペニシリンは , 室温で 10 ~ 14 日後にはその効力をほとんど失うが , 4. 中和によりさらに長くその効力を保存することができる . 5. この活性物質は , 数分間煮沸しても破壊されないが , アルカリ性溶液 中で 1 時間煮沸すると効力が著しく減少する . 115 ℃で 20 分間オートクレー ブをかけるとほとんど破壊される . また , これはアルコールに可溶である が , ェーテルやクロロホルムには不溶である . 6. この作用は化膿球菌やジフテリア菌群に対して顕著である . 多くの細 菌 , たとえば大腸菌 , チフス菌群 , インフルエンザ菌群および腸内細菌はま ったく感受性がない . ペニシリンは莫大な投与量でも動物に無毒であり , また非刺激性であ 7. る . 白血球の機能に及ぼす影響も普通フ・ロスと同程度である . 8. これは , ペニシリン感受性微生物に感染した局部に施用あるいは注射 するための有効な消毒剤となることが示唆される . 9. 分離培養の際に普通の培地では目的としない菌がよく増殖するが , べ ニシリンを用いるとそれらの細菌を阻止することができる . 10. インフルエンザ菌を分離するための添加剤としての価値を明らかに
222 微生物学の一里塚 与えている . 物理化学の進歩によって , 溶液中の物質の状態に関する最近のわれわれの 知識はまったく新しい方向に開けてぎた . 無機化学と有機化学の分野にお けるファント・ホッフ (van't HO 幵 ) 、オストワルド (Ostwald ) , アレニュ ース (Arrhenius), ネルンスト (Nernst) その他の人々の研究によって , 一連 の一般法則が発見されるに至った . 物質の生理学的活性は , 一般に化学的性 質に左右されるものであるから , 消毒剤の研究もまた , これらの新しい化学 的理論により新しい観点に到達するであろうことが期待できる . われわれは , 得られた結果が実際の消毒操作の発展に寄与できることを願 って , 細菌の化学薬品に対する挙動を前述の観点に基礎を置いて研究するこ とを課題とした . 純溶液中の細菌に及ぼす種々の消毒剤の作用に関しては , 多くの観察が文 献にみられるが , われわれは新たに膨大な実験を行った . それは , 従来の結 果で相互に一致しないものがあり , また直接に比較できないものが多いため である . すなわち , 温度が同じでなかったり , 試験菌が異なっていたり , 実 験がいろいろな条件下で行われていたからである . われわれは , 実験に進む前に , 各種溶液の消毒効果を比較するためには , 溶 液の消毒効果をいかにして決めることができるか , またどの条件を一定に県 たねばならないかに関して簡単に調べなければならない . 1. 第一に , 比較実験では種々の物質の等モル量を使用しなければならな 2. 試験菌として使用する細菌は , すべて同じ抵抗性をもっていなければ 3. 各実験に使用する細菌数は , 同一でなければならない . 4. 細菌を消毒液中に入れるとき , 細菌の培養に用いた栄養物が一緒にも ち込まれないようにしなければならない . 5. 消毒液は , 常に同じ温度でなければならない . 6. 消毒剤の作用が終わったら , 消毒剤は細菌から完全に除去されなけれ ばならない . 7. 消毒液から細菌をとり出したあとには , 細菌は同じ温度において等量 の同じ培地に入れなければならない . そしてでぎることなら , 温度と培地は 細菌の発育に至適なものであるべきである . ならない .
720 徴生物学の一里塚 ルシウム ) を混和して硬いパテ状にする . 酸は希釈されて少量しか含まれて いないので , 皮膚を痛めることはなく , 広範囲に適用することがでぎるし , 白堊が消毒剤を保持する働きもする . 少しでも浸出液の分泌が続く限り , 泥 膏は毎日交換する . この処置を行っている間 , 悪化を防ぐために石炭酸と油 の混合液に浸した布を皮膚面にずっと載せておき , 泥膏を交換するときも一 緒にもち上げないように注意する . この布は上記の泥膏と接触しているので いつも無菌状態であり , 泥膏交換時のような短時間に落下してくる徴生物を 殺す . 泥膏は 1 / 4 インチぐらいの厚さが望ましい . 薄い木綿布 2 枚の間に塗 布すると長いシート状になり , 必要なときにただちに四肢の周りに巻くこと ができ , また泥膏が皮膚面に載せてある布に付着しない . 浸出液がまったく 出なくなったら , 泥膏の適用を中止するが , 最初の布は痂皮が生じて完全に 治癒したと思われるときまで付着したままにしておく . 現在 , 直接衝撃によ って左脚の 2 本の骨を骨折した重症複雑骨折の男子が入院している . 血液の 混じった分泌物が出ている間この泥膏を使用したが , 膿はまったくなく , 泥 膏の使用を中止してから 2 週間後の現在は , あたかも単純骨折であったかの ような処置を行っている . この間 , 布はその下に集まって濃くなった血塊と 付着していて完全に乾燥しているが , 単純骨折と考えて副木をとり除く時期 までそのままにしておく予定である . そうすれば , おそらく完全な瘢痕治癒 をかなり期待することができるであろう . 消毒剤治療を適用した次のグループは , 膿瘍の症例である . この場合も結 果は非常に良好で , 上に述べた病理学的原理とよく一致している . 膿は化膿 性の膜・・・・・・・・・から生じるが , 先天的な性質によるのではない . 膿は何か異常 な刺激を受けたときに限って生じる . 普通の膿瘍では , 急性のときも慢性の ときも開放する前は内部にたまっている膿によって刺激されて化膿が続く . 普通の方法で切開してもこの刺激はとり除けるが , その内容物に空気が接触 すると腐敗のための潜在的刺激が作用しはじめ , 膿は以前よりも大量に出て くる . しかし消毒の原理に従って排膿を行えば , それまでの刺激の影響から 開放された化膿性膜は新しい刺激を受けることなく , 化膿はとまり , わずかな透明な血清が出るだけで , 開口してもしなくても速やかに収縮して 融合する . 同時に , 膿の蓄積によって生じた全身症状はなくなり , 以前は大 きい膿瘍を治療する際に非常に恐れられていた刺激性発熱や消耗熱の危険も 生じない .
徴生物学の一里塚 238 本論文は , ドイツ人特有の典型的な徹底さをもって消毒剤の問題にいどん だものである . コッホらは , 種々の細菌や芽胞に対する化学薬品の作用を研 究したが , これに関連する基本的過程に関しては多くの混乱があった . この 侖文は , 多くの概念を明確にして , 防腐剤と消毒剤のその後の発展の多くに 寄与した基本的な論文となった . この著者達は , 一点をもおろそかにせず , 彼らの研究方法を精細に述べている . 19 世紀後期の細菌学的研究の多くは , 実験方法について適切な記載をせずに発表されていたので , これは新鮮な印 象を与える論文であった . 彼らが記述した細かい点の多くはすでに改良され てから長くなるが , 彼らはこの種の研究に対するいくつかの主要な注意点を はじめて述べているのである . この研究に対する物理化学の影響は明らかであろう . 消毒理論の立場から みると , 彼らの提出した最も重要な点は , 細菌細胞のすべてが瞬間的に殺さ れるのではなく , 細胞の集団は対数的な割合で死んでいくということであ る . さらに , 殺菌率は消毒剤の濃度に直接比例するので , 異なる消毒剤濃度 における殺菌率に対して一群の曲線が得られる . この点はたいへん重要であ る . それは第一に , すべての細菌細胞が消毒剤に対して同じように敏感なの ではなく , 感受性が広く変化していることを示している . 最も敏感なものが はじめに死に , 他のものはあとから死んでいく . 第二の点は実技的なもので ある . 消毒には一定の時間を必要とするので , 減菌すべき物品と消毒剤とを 十分な時間接触させておくよう注意を払わなければならない . これらの観察と結論は , 著者らによって工夫された正確な定量的操作なしに は成しえなかったであろう . クレーニッヒとパウルの研究は , 定量的徴生物 学の新しい時代を開いたものといえよう . ( 訳・西村 ) 1 = 一口
第 I 部自然発生説と発酵 57 酵母の発育とアルコール発酵に 対する酸素の影響 ( 抄録 ) バストウール : lnfluence 0f oxygen on the development of yeast and on the alcoholic fermentation (abstract) 1867 ・ 0 〃な P 亡 r Pasteur, L. 1861. lnfluence de l'oxygöne sur développement de 1 levure et 1 fermentation alcoolique. B ″〃 c 〃イビ SO をき c ん 7 〃 ue 売尸 June 28 , 1861 , pages 79 ー 80 (Résumé). パストゥールは , 糖の発酵と酵母の発育が遊離酸素の存否に関係するか どうかについて研究成績を発表した . 彼の実験結果は , ゲイ・リュサック (Gay-Lussac) が酸素のないときとあるときにブドウジ = ースを用いて行っ た実験の成績と異なっている・ 酵母は小さい芽を形成し , 空気や酸素がまったくない条件下の糖と蛋白を 含む液体培地中で増殖できる . しかしこの場合 , 酵母の量はわずかしかでき ず , 多量の糖を消耗する . 酵母の形成 1 に対し , 糖の消耗は 60 ~ 80 の比で ある . 発酵は , この条件のもとでは非常に遅い・ 液面を大きくして , 空気の存在下で実験すると , 発酵は速やかに起こる・ 消耗する糖に比べ , 酵母はずっと多く形成される . 空気は酸素を供給して , 酵母はそれを吸収する . 酵母は盛んに増殖するが , この条件下では発酵力は 消失する傾向にある . 事実 , 酵母の形成量 1 に対して糖の消費量は 4 ~ 10 に すぎないことがわかった・それにもかかわらず , 酵母は発酵性を保持し , 遊 離酸素をなくして糖と作用させると再び強い発酵性を示す・