44 生物学の一里塚 した範囲の概要を知ることができるであろう . パストゥール : ール発酵に関する報告 アノレコ 7860 ・側な P ″ fermentation Memoir on the alcoholic ( 訳 : 芝崎 ) 58 , 3rd Series, pages 323 ー 426. alcoolique 、 / 〃ぉ売 C 既たの de P た 4 % VoI. Pasteur, L. 1860. Mémoire sur la fermentation つくられる産物および糖に対する化学量論的関係についての報告である . 〕 〔第 1 部は , アルコール , 炭酸ガス , グリセリン , コハク酸など , 発酵で ある . あり , 第 2 部はとくに発酵の性質とそこに起こる化学変化についての考察で 私の報告の第 1 部はアルコール発酵中に現れる糖の変化についての研究で 酵とは真の意味を認識するうえでごく自然な言葉である . り以前から用いられている . そこで私もこの言葉を用いるが , アルコール発 ェ (Lavoisier) , ゲイ・リュサック (Gay-Lussac), テナール (Thenard) らによ アルコール発酵という言葉は , ビール酵母による糖の発酵としてラボアジ じめ , すべてのアルコール飲料中のアルコールをつくる発酵である . 用によるものであることを説明したい . アルコール発酵とは , ブドウ酒をは アルコール発酵によって糖が発酵するのは , ビール酵母という発酵素の作
第 I 部自然発生説と発酵 35 リービッヒ : 発酵 , 腐敗 , 腐食現象とその 原因について Concerning the phenomena of fermentation, putrefaction, and decay, and their causes 1 お 9 ・ / た g Liebig, Justis. 1839. Ueb die Erscheinungen der Gährung, Fäulniss und Verwesung, und ihre Ursachen. / れイ ~ る″は c 加 vo し 48 , pages 10 150. ・・・腐食 , 腐敗 , 発酵 , 腐れなどとしてよく知られる変化や分解の原因は い . しかし , 白金と銀との合金は硝酸の中で容易に溶解する . 銀のもってい たとえば , 白金には硝酸中で分解する性質がないため硝酸中では溶解しな では数例をあげておけば十分であろう . この原因の一般性は , 無数の経験によって証明することができるが , 変化を起こさせることができるのである . と化合の過程で , それと接触する他の物質にそのもの自体が受けるのと同じ この原因は , 化学物質がもっている能力である . この能力によって , 分解 まだ明らかでないが , これについて自然科学者に関心をもってもらいたい . る性質が白金にもち込まれているからである . 引用された多くの同種の例があげられている . 〕 ・・〔続いて化学文献から ここに示した例は , この特徴的原理の実在を確実に証明しているはずであ る . もっと詳細な考察に入る前に , 手近な例で上記の経験の本質を確認してお くことが必要である .
第 I 部自然発生説と発酵 67 dall) の論文からもわかるように , 論争は完全に終わったわけではなかった . しかしこのときから自然発生説の提唱者たちは , 負け戦であることがわか ってきた . パストゥールは , 自然発生説を解決したばかりでなく , 滅菌法および無菌 的保存法を広め , 科学としての徴生物学の基礎を築いた . これらの方法によ れば , 他の徴生物がまったく存在しないところで , 調べようとする 1 種の徴 生物を培養し , その独特な性質を決定することが可能である . このあと感染 症に関する研究を読まれるときに , この条件の重要性がわかるであろう . ( 訳 : 原口 ) 細菌生物学の研究 コ studies on the biology of the bacilli / 877 ・・市〃 4 〃イ C 〃 Cohn, Ferdinand. 1877. Untersuchungen über Bac- terien. IV. Beiträge zur BioIogie der BaciIIen. 召な g ビ zu 尸召わ / og 尸霞尸の 1 記〃 , V01. 2 , pages 249-276. 1 . 細菌の自然発生 近代科学によって解明されるべき問題のなかで , 生物の発生に関する問題 ほど重要なものはない . 生物は , 同じ種類の他の個体が生んだ種からのみ生 まれるのだろうか . あるいは無生物から ( 自然発生によって ) 生まれるので あろうか . ドイツでは多くの学者が前の説に賛成していたため , この問題は すでに解決されたものと長く思い込んでいたが , そうではなかった . ラディ (Radi) 以来 , 数多くの実験と観察によって種々の動物や植物はその種 ( 卵 ,
第 I 部自然発生説と発酵 39 味ではない . 彼は偉大な化学者であり , すべての生命活動は化学と物理によ って説明することができると確信していた . 生化学の歴史書の多くは , リー ビッヒとその一門の業績から書きはじめられている . 腐敗過程についての彼 の見解によって , 科学としての徴生物学の誕生が数年遅れたかもしれない が , それは不幸な事実であった . ( 訳 : 原口 ) バストゥール : 乳酸発酵に関する報告 ( 著者による抜粋 ) Report on the lactic acid fermentation (author's abstract) 57 ・ん 04 な ~ pasteur, L. M さ mo 還 e sur la fermentation appelée lactique. ( 靆 i [ par l'auteur). CO 襯おたれイ 施 I ' / イの e イおたれら V01. 45 , pages 913 ー 916 , 1857. 私は , アミルアルコールの特性およびその誘導体の結晶学的な特性に関す る研究を行ってきたが , さらに発酵過程の研究を行うことにした . すでに , 発酵と有機分子の光学活性との間に驚くべき関係があることがわかったが , その観察についてはのちにアカデミーに発表する機会があると思う . 乳酸の産生に必要な物質は , 化学者がよく知っているものである . 糖を乳 酸に変えるために必要なものは , 糖液 , 培地を中性に保っために加える白 堊 , カゼイン , グルテン , 動物性膜などの窒素化合物である . しかし , 分解
188 徴生物学の一里塚 れた . さらに , 感受性のある宿主に特異抗体をつくらせるようにして , 病気 の特異的予防を可能にした . これは , 徴生物学が医学に貢献した最も重要な ものの 1 つである . V01. 16 , pages 1145 ー 1148. Thieren. D ″なじたビ外イたな房昭ー 00 た 2 ル乃 fr ち Zustandekommen der Diphtheria-Immunität bei von Bchring, EmiI. 1890. Untersuchungen über das 1890 ・ E772 〃 0 の 2 Behring 111 animals immuni ty tO diphtheri a Studies on the mechanism Of ジフテリアに対する動物の免疫機構の研究 べーリング : ( 訳 : 藤野・三輪谷 ) が , 同量の菌をモルモット , ウサギ , ヒッジに注射すると死ぬことを発見し スとラットはこの部類に属し , ジフテリア菌を注射しても健康を損なわない リアに対して自然免疫をもっている動物の存在を報告している . 私は , マウ レフラー ( LöffIer ) だけでなく , ル—(Roux) もエルザン (Yersin) も , ジフテ 績の公表にある . えを支持する実際の実験成績を報告しなかった . この論文の目的は , その成 同じ論文に , ジフテリアの免疫についての同じ機構を発表したが , その考 号に発表した . 菌の毒素を無害にする能力が生ずるためであるという実験をこの雑誌の 49 北里と私は , 実験動物が破傷風に対して免疫されるのは , 血液中に破傷風
184 微生物学の一里塚 ここでは , 人工免疫についてはまったく述べられていない . 食作用は , 免 疫された動物でも免疫されない動物でも , 防御機構として働いているが , メ pages 1113 ー 1114. D 翩な 0 カ e 市応切な e ー oc た厩新ら V01. 16 , ln 】 munität und der ・ retanus-lmmunität bei Thieren. 1890. Ueber das Zustandekommen der Diphtherie- von Behring, Emil, and Kitasato, Shibasaburo. ・ E ″召訪 zg イ S んと訪 tll ・ 0 K 4 地 and tetanus 1 n animals tO diphtheri a The mechanism of immunity 免疫機構 ジフテリアと破傷風に対する動物の べーリング , 北里柴三郎 : ( 訳 : 藤野・竹田・清水 ) チニコフがミジンコで研究したのは免疫されていない例である . ないのである . ' 細胞の血液すなわち血清の作用による破傷風菌毒性物質の無毒化にほかなら すところなく報告する . " ウサギとマウスの破傷風に対する免疫状態は , 無 どのような方法で , この治療と免疫がでぎるのか , その実際をここにあま ないように処置することもできるようになった . かかっている動物を治療することも , 正常動物がジフテリアや破傷風で死な 時に , 治療と免疫の問題についても深く考えてきた . ジフテリアと破傷風に われわれは , ジフテリア (Behring) と破傷風 ( 北里 ) を長い間研究すると同
宿 6 徴生物学の一里塚 純培養を行った . 遺伝子的に単一の細胞だけを含む培養菌であることを確信 できたのは , この方法だけであった . コッホは , この技術が合理的であると 思ったが , 細菌のような小さい細胞で行うことは不可能であると考えた . 次 の論文に , ブレフェルトの批判に答えるためにコッホが考案した方法が記載 されている . この論文では , その方法は仮定として議論が進められている が , それを具体化した次の論文を出すまでに 1 年しかたっていないことに注 目すべきである . 彼はたった 1 年で具体的な方法を開発したのである . ( 訳 : 藤野・竹田・清水 ) コッホ : 病原微生物の研究方法 Methods for the study of pathogemc organisms 為・沢 0 な ICo 訪 Koch, Robert. 1881. Zur Untersuchung von patho- genen Organismen. 1881. 」石な〃仞 ge 44 ゞイビ , 1 な〃 0 わ e 〃 G ぉ記たなら V01. 1 , pages 1 8. ・・・病原徴生物が動物の体内に存在することが確認され , 微生物が動物の 体内で増殖して , 動物から他の動物へと伝播することがわかって以来 , 行わ なければならない最も重要な実験が残されている . それは保健衛生の研究上 最も重要なことで , 微生物の増殖と再現に必要な条件を決定することであ る . 私が以前に述べたように , この問題は純培養を行うことによってしか解 決されない . 感染症に関するあらゆる研究で最も重要なことは , 純培養を行
第 M 部一般徴生物学引 7 ており , 性質を完全に明らかにするにはまだ多くの年月を要した . しかし , ヴィノグラドスキイはこの分野を離れて , 硝化細菌と窒素固定細菌の研究を した ( 次の論文を参照 ). 彼は , 硝化細菌も硫黄細菌に類似した化学合成能 力をもつ微生物であると考えたので , 硫黄細菌に関する初期の研究を有利に 利用した . ( 訳 : 都留 ) ヴィノグラドスキイ : 硝化細菌について On the nitrifying organisms 1890 ・ & T 「切 og な Winogradsky, S. 1890. Sur les organismes de la nitrification. CO カゞイ de ′ / の〃たゞ Sc れ 0 V01. 110 , pages 1013 ー 1016. これまで関心をいだいてきた硝化作用に関する研究をまとめる前に , 現在 の研究の出発点となった今までのいくつかの実験を整理しておく必要があ る . この論文でとり扱っている細菌以外に , 無機物質を酸化する能力のある 2 群の細菌を調べた . それらを硫黄細菌と鉄細菌と名づけた . 硫黄細菌は , 硫化水素を含んだ自然界の天然水中に生存していて硫化水素 のないところでは増殖しない . この細菌は , 硫化水素ガスをとり込んで酸化 して硫黄顆粒に変える . 次に , 顆粒は酸化して硫酸を排出する . 鉄細菌は , 鉄塩を酸化する能力をもっていて , その生命は培地中の鉄塩と密接な関係が ある .
第Ⅵ部一般微生物学 309 自然の状態のもとで起こる窒素固定のほとんど は , 遊離した細菌ではなく , 共生細菌によって行われているのである . ( 訳 : 米虫 ) 培地選定法 ( オキサノグラフ法 ) , 微 べイエリンク : 現象の意義は非常に大きく , て非常にくわしく知ることが必要である . この場合 , 多くの障害に遭遇す とが容易にできる . しかし , 分類学的な研究では新種が同化する物質につい その株を永久に保存培養するために , 同じような栄養素の混合物を用いるこ 混合した培地を用いて細菌を分離することによって新種が発見されるので , 長と増殖に必要な物質を発見することである . 多くの場合 , 特殊な栄養素を ープに含める . 徴生物の生物学的現象の研究で最も重要な課題の 1 つは , 成 現在の慣例に従って , ゼラチン培地で培養できるものを " 微生物 ' ' のグル Haarlem, Vol. 23 , pages 367 ー 372. Ⅳど 4 〃イ 4 な e ゞイビ SC 〃じ e ゞ E 工 4 じゞ et ア 4 れ砿〃ら pliquée aux micrObiOlogiques. = 4r じ / てでゞ méthode de l'hydrodiffusion dans la gélatine ap- Beijerinck, M. 、 V. 1889. L'auxanographie, ou la 7889 ・信れ切ー「 . B 〃じた ln gelatin involving diffusion microbiological research, Auxanography, 2 method useful in 生物の研究に役立つゼラチン内拡散法
第Ⅵ部一般徴生物学 細菌に関する研究 289 Studies on ba cteria 乃・れ r 市加〃は Coh1Z Cohn, Ferdinan d. 18 乃 . Untersuchungen über Bac- terien. Beiträge ″ Biologie イ P 卩 4 〃 V01. 1 , pages 127 ー 222. すでにみつけられているかどうかを考えもしないで , 新しい名前をつけてい とを知っている . ほとんどすべての研究者が , 自分が観察したものに対して 近年の文献にくわしい人は誰でも , 細菌の命名法が非常に混乱しているこ 群に分類されるのか . 最初はこの問題について研究した . 細菌群に属するのはどんな徴生物であるのか . どんな属 , どんな種がこの 1. 分類学 るが , ーこにくわしい論文を提供することは有益であると信ずる . der Schlesischen GeselIschaft に提出した . これらの研究はまだ未完成であ 考えてみた . 結果は , すでにいくつかの予備的報告として VerhandIungen を得ようと試みた . さらに , 一般的な問題 , とくに細菌の発酵活性について は , 細菌類の生物学的関係の発見に力をいれて , 種の鑑別に関する手がかり にこの植物生理学研究所を去って以来 , 私一人で研究を続けてきた . はじめ きる最良の顕徴鏡を用いて細菌の研究を行ってきた . そして彼が 1870 年の夏 私は長年 , 友人のシュレーター (Schroeter) 博士と共同して , 現在入手で