苦しみ - みる会図書館


検索対象: 傷ついた日本人へ
36件見つかりました。

1. 傷ついた日本人へ

そこで、苦悩を生み出している自分の心を見つめてみましよう。そして自分の苦しみ がどのようなものかを考えてみます。 ところが考えれば考えるほど、わからなくなってくるはずです。 ら確かに苦しみや悲しみを感じているのに、それがどのようなものか言い表せない。押 0 しつぶされそうなほど深く大きなものだと思われたのに、どこにあるのか見つからない でしよう。どこにあるのか、どんなものかわからない。苦しみとはそれほどまでにあや そ ふやな概念なのです。 負 み 「苦しんでいる自分。というイメージも同じです。「私はいま苦しんでいる」「私は不幸 悲だ」というのは、そう自分で認識しているに過ぎません。そのような自分がどこかにい みるわけでも、誰かが規定したわけでもない。 苦 つまり、苦しみにもまた実体がないのです。あなたの苦しみも、苦しみを感じている 四あなた自身も、その実体はありません。すべてあなたの観念に過ぎず、あなたがそう認 識しているだけなのです。

2. 傷ついた日本人へ

しみは、まさに外因的なものです。 たぐい ただしこの類の苦しみは、その原因さえなくなれば取り除かれるものです。薬で病気 が治療できれば問題ないですし、人間関係がうまくいくようになればその苦しみは当殀 らなくなります。 ところが今回の震災はどうでしよう。地震そのものはすぐに収まり、津波もすでに引 き、街は少しずつきれいになっている。震災そのものの傷跡は徐々に消えていきつつあ けるのに、みなさんの心の苦しみや悲しみはなかなか収まっていないように思います。 もちろん復興の道のりがまだ遠い状況を考えますと、苦しみの原因がすぐなくなると いづらいでしよう。それでも、今日も被災者の方が、「悲しいことは少しずつ忘れ みていきたいけれど、時々ふと強い悲しみがわき上がってきてしまう。それを乗り越えて いくにはものすごい時間が必要だと思う」とおっしやったように、苦しみがむしろ強く 四なっていると感じる人さえいるのです。 実は今、震災で生じた苦しみが、外因的なものから精神的なものヘ変化しているので

3. 傷ついた日本人へ

しみもプラスの方向へとコントロールしていってほしいと思います。 苦しみを分析すると見えてくるもの それでは、苦しみをコントロールする具体的な方法とはどんなものなのでしよう。 まずは、苦しみとはどのようなものであるかを知る必要があります。 このプロセスは、「幸せとはなにか、を考えたときと全く同じです。幸せを分析する と、外部刺激による反応としての外因的な幸せと、自分の精神によって生み出された自 律的な幸せがあるとお話ししましたが、苦しみも同じように外因的な苦しみと精神的な 苦しみがあります。 外因的な苦しみとは、自分にとって好ましくない状況に陥り苦しむものです。たとえ ば、病気になってしまったり、人間関係がうまくいかなかったり。そして、今回の震災 もこちらに当たります。突然発生した地震によって数多くの災難が降りかかってきた苦

4. 傷ついた日本人へ

として苦を三種類に分類して考えますので、そこから整理してみましよう。 まず一つ目はいわゆる感覚的な「苦ー ( 苦苦 ) です。痛み、寒さ、怒り、恐れなど外 的な刺激によって生じる苦しさです。 二つ目は状况にともなう「苦」 ( 壊苦 ) です。夢がかなわない、仕事がうまくいかな : 不幸な境遇だ : : といった、うまくいかない現状に苦しむというものです。 、ら この二つは、外的要因を取り除いたり、状況が変わったり、心をコントロールしたり しすれば解消することができます。私が前に心をコントロールしようとお話ししたのも、 ど この苦しみについてでした。 、よ・つ第、 一方で、三つ目の「苦」 ( 行苦 ) は「生まれてきたことそのものの苦」です。 え 鍛さきほどお話ししたとおり、精神を持った生物は必ず概念にとらわれてしまいます。 人は常に煩悩によってものを考え、煩悩の影響下で行動してしまう。 五どこにいてもどう生きても、それから逃れられない。それは生から苦を切り離すこと 7 第 ができないからです。生まれてきた時点で、すでに苦しみが内在しているわけです。

5. 傷ついた日本人へ

はないかと私は考えています。 もともとの苦しみは、地震という外部刺激によって引き起こされたものでした。地震 そのものの恐怖、家族や故郷をなくした悲しみ、そういったものだったのです。 しかし、徐々に苦しみや悲しみ自体がひとり歩きをするようになった。精神を飲み込 み始め、自分で苦悩を新たに生み出すようになっているのではないでしようか。自分で 自分を苦しめ、悲しみを自分で強くしている。少しずっその傾向が強くなっているよう に思います 外因的な苦痛については原因を取り除けば改善されますが、自分で生み出した自律的 な苦痛はそうはいきません。自分の心や考え自体を変えなくては、その苦しみはなくな らないのです。 敵を大きくしているのは自分

6. 傷ついた日本人へ

第四章苦しみや悲しみに負けそうになったら 圧倒的な悲劇を嘆くのは当然のこと 悲しみが深いからこそ力になる 苦しみを分析すると見えてくるもの 敵を大きくしているのは自分 行為と人格を切り離して考える 子どもを叱るときに気をつけること 優れた知性は悩みが深いというジレンマ この世界には二つの真理がある 『般若心経』には「空」を悟った瞬間が書かれている たった一文字に込められた真理 「嫌いな人」を「空」として見てみると

7. 傷ついた日本人へ

もちろん、それが全くのまやかしであるという意味ではありません。あなたが苦しみ を感じているという現象は、確かにあるからです。 しかし、苦しみの実体がないために、自分が意識すればするほど大きなものに感じら れ、強固なものに思えてしまうのです。もはや自分自身で苦しみを増幅し、誇張してし まっている人が多いのではないでしようか 。あらゆるマイナスの感情 苦しみだけではありません。恐怖、猜疑、憎悪、絶望 : は、どれも自分で生み出し、自分でそれを強め、そしてそれに自分が苦しめられている 悪循環に陥っています。 もしあなたが誰かに怒りや憎しみを抱いたとします。そんなときは少しだけ立ち止ま って考えてみてください。私はどうしてこんなに怒っているのか、本当に相手は憎むべ き人間なのか、と。 すると、相手自身に実体はまるでないのに、自分が勝手にマイナスの解釈を膨らまし ていることに気づくはずです。ちょっとした言動で「この人は敵だ」と思い込んでしま

8. 傷ついた日本人へ

第四章苦しみや悲しみに負けそうになったら

9. 傷ついた日本人へ

何らかの認知をしています。そしてそれにとらわれざるをえない。つまり、生物である 以上、煩悩から逃れることは非常に難しいのです。 私たちは生きている限り、必ず煩悩を持ってしまう。これを突き詰めると、「生きて いることは煩悩を持っことであり、そして煩悩を持ち続けることはずっと苦しむことで ある」という結論にたどり着きます。仏教が「この世に生まれてくることは苦である」 と説くのにはこういった理由があるのです。 生まれてくることは「苦ーであるということ こう説明しますと、「知性で苦しみをコントロールしよう」と言っていたのにどうい 、つことかと混乱される方がいるかもしれません。 いくつかのレベルがあるので しかし「苦」と一言で言っても、そこには様々な種類、 す。今お話しした類の苦しみは、日常の苦痛とは質が違うものです。仏教では、「三苦」 706

10. 傷ついた日本人へ

また高野山での講演を終えた後、ダライ・ラマ十四世は被災地に赴き、法要と講演を 行った。十一月六日、仙台市で次のように語っている。 「今回は被災された方と直接悲しみを共有したいと思い、被災地にお伺いすることを決 めました。宮城県石巻市と仙台市、そして福島県郡山市の三箇所です。 津波の被害があった石巻市では、まだ街が壊れたまま取り残されており、その想像以 上の悲惨な光景に大変胸が痛みました。それでもこの町のお寺に行くと、遺族の方々が 涙ながらに迎えてくださったのです。私も涙が溢れてくるのを止めることができません でした。 実際に被災者の方からは『今も恐怖感が拭えない』『ふと悲しみが襲ってきてしまう』 『自分のしていることに無力感を覚える』という声を聞きました。時が経ってもなお、 震災がもたらした苦しみや悲しみと戦っているのです。 また東北だけでなく日本中のみなさんもまた、今回の震災に大きな不安やショックを 覚えたことでしよう。突然の大きな恐怖にさらされて、知らす知らずのうちにずいぶん 5