・作者 ゆき 三番目物 【あらすじ】奥州にいた諸国一見の僧が、天王寺に参詣しようと思い立ち、長い わたし 旅を重ねて、摂津国 ( 大阪府 ) 野田の渡にまでやって来ます。すると、いままでー人物 晴れていた空が、にわかにかき曇り、東西もわからぬ程の大雪となって来たので、ワキ・・・・・旅僧 ( 水衣、無地熨斗目 ) シテー・ - 雪の精 ( 面小面、白長絹、白 暫くそこに休もうと思います。その雪の中を、どこからともなく一人の女性が現 大口 ) れ、そしてあたりの雪景色を賞で、仏へのあこがれをつぶやきます。僧が不思議 ■場明 に思って、ど、ついう人ですかと尋ねると、女は「誰という事もわからないのです。摂津国、野田 ( 現・大阪市福局区野 ただ自然と現れて来たのです」と頼りない返事をします。僧はさては雪の精では田 ) ないかと察し、「雪の精でしよう」と質すと、女は「自分でもわからすに、迷って くどく 冬 来たのです。この迷いを晴らして下さい」とたのみます。僧は、仏法の功徳を疑 ・演能時間 わなければ成仏できるといいます。雪の精は、土に落ちてんる身ですが、時に五十分 は降り積って、迷いの心のんないこともあるのですといい、成仏をたすける僧第小書 、えこ、つ 雪 / 」拍子 ( 剛 ) の回向をたのんで、静かに月明かりに雪の袖をひるがえして舞をまいます。やが て、夜が明けて野田の川霧が立ちこめる頃となると、雪の精は、自分の姿がはっ きりと見えるのを恥じるかのように、んて見えなくなってしまいます。 【みどころ】神、人間、動物、そして草木をも主人公にしている能ですが、自然 250
まつむし 四番目物 松虫 第素材 【あらすじ】摂津国 ( 大阪府 ) 阿倍野の辺りに住み、市に出て酒を売っている男 がいました。そこへ毎日のように、若い男が友達と連れ立って来て、酒宴をして■人物 帰ります。今日もその男たちがやって来たので、酒売りは、月の出るまで帰らぬワキー酒売 ( 素袍上下 ) 前シテーー市人〈化身〉 ( 直面、経水 ように引き止めます。男たちは、酒をくみかわし、白楽天の詩を吟じ、この市で 衣、白大口 ) 得た友情をたたえます。その言葉の中で「松虫の音に友を偲ぶ」といったので、 ツレ、、・・市人数人 ( 直面、縷衣、白 その訳をたすねます。すると一人の男が、次のような物語りをはじめます。 大口 ) 昔、この阿倍野の原を連れ立って歩いている一一人の若者がありました。その一人アイー所の者 ( 長上下 ) 後、ンテー勇の亡霊 ( 面三日月または が、松虫の声に魅せられて、草むらの中へ分けいったまま帰って来ません。そこ 阿波男、法被、半切 ) でいま一人の男がさがしにゆくと、先の男が草の上で死んでいました。死ぬ時は 一緒にと思っていた男は、泣く泣く友の死骸を土中に埋め、今もなお、松虫の音摂津国、阿倍野 ( 現・大阪市阿倍野 に友を偲んでいるのだと話し、自分こそその亡霊であると明かして立ち去ります。区松虫通 ) 〈中入〉酒売りは、やって来た土地の人から、一一人の男の物語をききます。そこで、 、んこ、つ 秋 その夜、酒売りが回向をしていると、かの亡霊が現れ、回向を咸し、友と酒宴 ー演能時間 をして楽しんだ思い出を物語ります。そして千草にすだく虫の音に興じてまった 一時間三十分 りしますが、暁と共に名残りを借しみつつ姿をかくします。 金春 230
■作者 一番目物 岩船 【あらすじ】時の帝が摂津国 ( 大阪府 ) 住吉浦に、新たに浜の市を開き、高麗や 「カ葉集」颪土起にある天岩船の 唐土の宝物を買い取るようにとの官旨を下されます。そこで命を受けた勅使が住神話 吉へ下向します。するとそこへ、姿は唐人ながら、日本語を話す一人の童子が、■人物 ワキー勅使 ( 風折自Ⅲ子、厚板、単 銀盤に宝珠をのせて現れます。勅使が不審に思って問いかけると、童子は、めで 狩衣、白大口 ) たい御代に寿いで来たと告げ、またこの宝珠も君に捧げたい、龍女の珠とでも思 ワキツレー随臣 ( 無地熨斗目、素袍 っていただければ有難いといいます。そして住吉の浜に立ついろいろな市のこと上下 ) どもを語り、またこのあたりの景色を愛で、更に、天がこのめでたい代をたたえ前シテー童子〈天ノ探女の化身〉 ( 面童子、黒頭、経水衣、泊 ) て、極楽の宝物を降らすために、岩船に積み今ここへ漕ぎ寄せるところだといい、 あまさくめ アイー所の者 ( 狂一一長上下 ) 自分こそはそのを漕ぐ天ノ探女であると明かしてん失せます。〈中入〉つづ 後シテー、・ ( 面黒髭、赤頭、、 いて海中に住む龍神が、宝を積んだ岩船を ( 薯豎 9 るために出現します。そして龍法被一攪、赤地半切 ) 神は八大龍王達も呼び寄せ、力を合せて岩船の綱手を引き寄せ、住吉の岸に無事・場 ことほ に到着させます。山のように積まれた金銀珠玉は御代の栄を寿ぐように光かがや摂津国、年〕 ( 現・大阪市住士量住 吉町 ) きます。 【みどころ】ただひたすら、めでたさを寿ぐ曲です。この曲には、、 しろいろ亦夂遷 があります。古くは音阿弥が寛正七年 ( 一四六六 ) に上演した記録がありますか・演能時間 いわふね
ー作者 もどめつか 観阿弥 四番目物 求塚 【あらすじ】西国から都へ上ろうとする僧が、途中、摂津国 ( 兵庫県 ) 生田の里 「大和物 につきます。すると、春まだ浅い野辺へ、数人の里女が、若菜を摘みにやって来■人物 ます。僧は、彼女らに辺りの地名を尋ねると、そっけない返事をします。更に求ワキ・・・・旅僧 ( 角帽子、経水衣、無地 塚について尋ねると、知らないといい、そんなつまらぬ事を聞くよりも都への道 ワキツレー従僧 ( 角帽子、縷水衣、 を急げといい、若菜を摘みはじめます。しかし寒い風が吹いてくるので、摘み残 無地熨斗旦 して帰ってゆきます。ところが一人だけあとに残っていた女が、求塚へしょ前シテー菜摘女〈化身〉 ( 面若女、 うと旅僧を連れてゆき、その塚のいわれー昔、一一人の若者から求婚された菟名日白水衣、縫箔腰巻 ) おとめ ツレー・。 - 業摘女一一 5 一一一人 ( 面小面、唐 処女は、選択に迷ったすえ、生田川の鴛鴦を射させますが、それでも勝負がっか 織脱下げ ) ないので、自分はその生田川に入水します。その死骸を引き上げて塚に埋めまし アイー所の者 ( 長上下 ) 、一一人の男はその由を聞いて、その塚の前で刺し違えて死んだーという物語後シテー菟名日処女の霊 ( 面痩女、 をし、その二人を死なせたのは自分の罪だといって、塚の中へ消えてゆきます。白練壷折、浅黄大口 ) 〈中入〉旅僧は、来会わせた所の者に、いま一度、求塚の由来を尋ね、先刻の菜摘■場明 摂津国、生田 ( 現・神戸市中央区生 女のことを話すと、それこそ塚の主の化身であろうといい、弔いを勧めて帰りま 田町 ) す。僧は、その夜その場所で読経をしていると、菟名日処女の亡霊が現れ、一一人 の男の亡魂や鉄鳥と化した鴛鴦に責められ、八大地獄で苦しんでいる有様を見せ、阜春 おしどり 240
ふなへんけい 五番目物 聾慶 【あらすじ】源義経は、士豕追討に武功を立てますが、戦が終ると、かえって兄 頼朝から疑いをかけられ、追われる身となります。義経は、弁慶や従者と共に都ど を出、摂津国 ( 兵庫県 ) 大物浦から西国へ落ちょ、つとします。静理則も、義経を・人物 子方ー源義経 ( 梨打鳥帽子、側次、 慕ってついて来ますが、弁慶は時節柄同行は似合わしくないから、都へ戻すよ、つ 白大口 ) に義経に進一言し、了承を得ます。弁慶は静を訪ね、義経の意向を伝言しますが、 ワキー武蔵坊弁慶 ( 兜巾または角帽 静は弁慶の計いであろうと思い、義経に逢って直接返事をすると言います。義経子沙門、縞水衣、白大口 ) の宿へ来た静は、直接帰京を言いわたされ、従わざるをえず、泣き伏します。名ワキツレー従者 ( 梨打にⅢ子、側次、 残りの酒宴がひらかれ、静は、義経の不運を嘆きつつ、別れの舞をまいます。や白大口 ) アイ。。・ー船頭 ( 狂一一口上下 ) がて出発の時となり、涙ながらに一行を見送ります。〈中入〉弁慶は、出発をため 前シテー静則 ( 面若女、唐織 ) ら、つ義経を励まして、船頭に出船を命じます。船が海上に出ると、にわかに風が後シテー平知盛の怨霊 ( 面一一一日月、 変わり、激しい波が押し寄せて来ます。船頭は必死に船をあやつりますが、吹き里頭、鍬形、法被、半切 ) 荒れた海上に、西国で滅亡した士豕一門の亡霊が現れます。中でも平知盛の怨霊■場明 摂津国、大物浦 ( 現・兵庫旧危崎市 は、自分が沈んだように、義経を海に沈めようと長刀を持って襲いかかって来ま 大物町 ) す。義経は少しも動せす戦いますが、弁慶は押し隔てて、数珠を揉んで祈疇しま 文治元年 ( 二八五 ) 十一月 す。祈られた亡霊は、しだいに遠ざかり、ついに見えなくなります。 ■作者 観世小次郎信光 「義経起「平家物衄巴「吾妻霆な 222
■作者 なかみつ 四番目物 ■素材 【あらすじ】多田満仲は、一子美女御前を摂津国 ( 兵庫県 ) 長尾村の中山寺に預 不明 ( 幸若の「満仲」が原形かと思 けていました。しかし美女は、武芸に精を出し、学問には身を入れていないといわれるがその原拠は不明 ) う噂なので、満仲は憤って、家臣の藤原仲光に命じて連れて帰らせます。そして、・人物 子方ー美女御前〔満仲の子〕示結 美女に経を読ませると一字も読めません。では歌は詠めるか、管絃は奏せるかと 鳥帽子、長絹、白大口 ) 問いつめますが、何も出来ません。あまりの事に満仲は、美女を手討ちにしよ、つ 子方ー幸寿丸〔仲光の子〕 ( 縫箔、 とします。仲光がなかに入ってこれを止めますが、今度は仲光に美女を討てと命儁 ) じます。仲光は満仲の憤りが尋常でないのを知りますが、自分の手で主君の息子シテー藤原仲光 ( 直面、侍鳥帽子、 を討っ訳にもいかず当惑します。すると我が子の第丸が、自分が身代りになろ掛直垂、白大口 ) ツレー多田満仲 ( 直面、風折子、 うといい出します。仲光は、自分を討てと迫る一一人に心を迷わせますが、遂に幸 単狩衣、白大口 ) 寿丸を討ち、美女を秘かに逃がして、満仲には美女を討ったと復命します。満中 、イアイー仲光の下人 ( 狂一一口上下 ) は、仲光から美女の最期の様が立派であったと聞いて満足し、これからは旁をワキー恵心僧都 ( 角帽子、経水衣、 一子にするといいますが、仲光は、幸寿は美女のあとを追って出家したといいま小格子厚板 ) えしんそうす す。その後、叡山の恵心僧都が、美女を伴って満仲のもとへやって来ます。そし 摂津国、多田館 ( 現・兵庫県川西市、 て、仲光の苦衷を語り、美女の許しを乞います。満仲は第を死なせて自分が生 き残った美女の未練を怒りますが、恵心の取りなしで許します。祝いの宴となり、■時 まんじゅ、つ 192
■作者 ニ番目物 世阿弥 敦盛 , ー きんだち ′、ま 6 力い 【あらすじ】一ノ谷の合戦で、当時十六歳の士豕の公達平敦盛を討ちとった熊谷 なおざね 「エ豕物造 次郎直実は、あまりの痛ましさに無常を感じ、武士を捨て出家して蓮生と名乗りー人物 ます。彼は敦盛の菩提を弔うため、再びかっての戦場摂津国 ( 兵庫県 ) 一ノ谷をワキ・・・・龜生法師 ( 角帽子、無地熨斗 目、水衣 ) 訪れます。すると、笛の音が聞こえ、数人の草刈男がやって来ます。その中の一 前シテー草刈男〈敦盛の化身〉 ( 段 人と、笛の話をしているうちに、他の男達は立ち去りますが、その男だけが居残 熨斗目、水衣 ) っているので、蓮生が不審に思って尋ねると、自分は敦盛の霊であることをほの ツレ・。。 - 章刈男一一一 5 四人 ( 無地熨斗目、 めかしてん失せます。〈中入〉蓮生は、散策にやって来た須磨の浦の男に、一ノ水衣 ) 谷の合戦、敦盛の最期について語ってもらいます。そして自分は熊谷次郎直実でアイー須磨の浦の男 ( 狂一一只肩衣半 、んこ、つ あり、今は出家して敦盛の菩提を弔っているのだと明かすと、心し、回向をす 後シテー平敦盛の霊 ( 面敦盛または るようにいって去ります。蓮生が、夜もすがら念仏を唱え、その霊を弔っている十六、童子、里梨打自子、紅 と、武将姿の敦盛の亡霊が現れ、士豕一門の栄枯盛衰を語り、笛を吹き、今様を入泊、白または色、大口、長 謡った最後の宴を懐しんでまいます。続いて敦盛は討死の様を見せ、その敵に巡 ( たは単法被 ) り会ったので、仇を討とうとしますが、後生を弔っていてくれる今の蓮生法師は、 摂津国、一ノ谷 ( 現・兵庫県神戸市 もはや敵ではないと、回向をたのんでん去ります。 須磨区一ノ谷町 ) 【みどころ】年若くして戦死した敦盛への同情と、彼が日頃音楽を好み、討死をー時 れんしよう 日
現象をシテにした曲は、意外 ) ありません。〈雪〉などは、日本人の心情に最も親 しまれ、文芸作品に多くの題材を提供しているので、当然早くから能になってい るように思われますが、不思議とないのです。この曲も金剛流だけにあり、それ もあまり古い上演記録はありません。全詞章九百字にみたないという短篇です。 佐成謙太郎のよ、つに「男打曲の中でも凡作、むしろ愚作に近い」と極一言する人も あります。たしかに、雪をテーマにしながら、なせ場所を摂津の野田にしたかと か、もっと適切な雪に関したエピソードや詩歌があった筈だといった批判はあり、 戯曲的構成の上でもいろいろ不備もあります。しかし、舞台を見るかぎりは、そ 、つした欠点があまり気にならず、むしろ愛すべき小品といった感じがします。金 剛流では自慢の曲とされています。余分なものを捨て去って、白一式の装東をつ けた女姿の雪の精のシテが、雪の冠った作り物から姿を現し、静かに序之舞をま う、その清楚な美しさ、かそけき幽玄の情緒を舞台一杯にくりひろげる、ただそ れだけを目指した能だといえます。〈雪踏之拍子〉の小書がつくと、雪中の足拍子 だというので、音を立てすに拍子を踏むのだという習があります。 【備考】「猩々」「菊茲蕫ーのように、最初は複式能であったのが、後世、前場を 省略して一場物になったのではないかとも考えられますが、その痕跡はありませ ん。やはり初めから小品として書かれたようです。 シテあらあリがたの御事や。妙なる 一乗妙典を、疑ふはあらかわ の。 251
ー作者 一ト从 , っぽ - ーし 観世十郎元雅 四番目物 弱法師 ざんげん みちとし ・素材 【あらすじ】河内国 ( 大阪府 ) 高安の里の左衛門尉通俊は、さる人の讒一一一一口を信じ、 しゅんとくまる 一子俊徳丸を追放しましたが、すぐにそれが偽りであることが判り、不憫に思っ ■人物 て、彼の一一世安楽を祈って天王寺で施行を行います。一方、俊徳丸は悲しみの余ワキ霧回迪俊 ( 素袍上下 ) アイー通俊の供人 ( 狂一一口上下 ) り盲目となり、今は弱法師とよばれる乞食となっています。彼は、杖をたよりに シテー俊徳丸 ( 面弱法師、黒頭、経 天王寺へやって来て、施行を受けます。折しも今日は、春の序の中日に当たり、 水衣、無紅厚板 ) 弱法師の袖に梅の花が散りかかります。彼は、仏の茲罪を賛え、仏法最初の天王ー搨 寺建立の縁起を物語ります。その姿を見ると、まさしく我が子ですが、通俊は、摂津国、天王寺 ( 現・大阪市天王寺 じっそうかん 人目をはばかって、夜になって名乗ることにします。そして日想観を拝むように区四天王寺 ) と勧めます。天王寺の西門は、極楽の東門に向かっているのです。弱法師は入日 春の序 を拝み、かって見なれていた難波の美景を心に思い浮かべ、心眼に映える光景に ー演能時間 恍惚となり、興奮の余り狂じますが、往来の人に行き当たり、狂いから覚めます。一時間三 + 分 物を見るのは心で見るのだから不自由はないと達観はしても、やはり、現実の生■小書 舞入 ( 喜 ) 、盲目之舞 ( 観・剛 ) 、双調 活はみじめです。やがて夜も更け、人影もとだえたので、父は名乗りかけます。 之舞 ( 宝 ) 親と知った俊徳丸はわが身を恥じて逃げようとしますが、父はその手を取り、一一 人連れ立って高安の里へ帰ります。 266
■作者 三番目物 観阿弥原作・世阿弥改作 江口 ~ ■素材 【あらすじ】諸国一見の旅の僧が、津の国 ( 大阪府 ) 天王寺に参ろうとして、そ 集越「十訓坦など の途中、江口の里についたので、土地の人に尋ねて、江口の君の旧跡をおそわり・人物 ワキー旅僧 ( 角帽子、小格子厚板、 ます。そこで昔、西行法師がここで宿を求めたが、遊女に断わられ「世の中をい 白大口 ) とふまでこそかたからめ、仮の宿りを惜しむ君かな」という歌を詠んだことを思 ワキツレ。。・。従僧 ( 子、無地熨斗 い出し、それを口ずさみます。すると、いずこからともなく一人の女性が現れ、 目、白大口 ) それは断わったのではなく、出家の身を思って遠慮したのだと説明し、あなたもアイー江口の里の者 ( 狂一一長上下 ) 僧侶の身として、そうした俗世の事に心を留めない方がよいと言います。僧が女前シテー里の女〈化身〉 ( 面若女ま たは増女、声着流 ) の名を尋ねると、江口の君の幽霊であると明かして、たそがれの川辺に遉ん失せ 後、ンテー江口の君 ( 面若女または増 ます。〈中入〉旅僧は、先程の江口の里の男から、この里の遊女が、普賢菩薩の化 女、市壺折、緋大口 ) 現であったという話を聞き、奇特の思いに、夜もすがら読経していると、月澄み ツレー、・・遊女一 ( 面小面、声着流 ) わたる川面に、江口の君や遊女達が舟遊びをする光景が見えて来ます。そして彼ツレ・・・・遊女一一 ( 面小面、市脱下げ ) 女達はその身の境涯を語り、そのはかなさを嘆くと共に、この世の無常を述べま■場 摂津国、江口 ( 現・大阪市果淀川区 す。そして更に舞をまい、この世への執着を捨てれば迷いは生じないと仏教の奥 江口町 ) 義を説き、やがてその姿は普賢菩薩と変じ、舟が白象になると、それに乗って、 西の空へとんてゆきます。 秋 っ 4