第 2 章 A-T, G-C の相補的塩基対合に基づく核酸の複製 13 RNA (mes— 別したのだろうか . 核酸 ( 後の進化した生命体ではメッセンジャー senger RNA, 略して mRNA)) は 4 種の塩基 , すなわちアデニン (A) およびグ・ アニン (G) のプリン塩基と , ウラシル (U) またはチミン (T) およびシトシン (C) 、 のビリミジン塩基から構成されていたし , 今も構成されている・もし , 太古の 個々の tRNA が核酸の塩基配列中の連接している二つの塩基を識別したとす ると , 核酸は 16 ( 4 ' ) の異なる遺伝メッセージをもちうることになり , 16 種の tRNA が 16 の異なるアミノ酸を特異的に定めたはずである . 太古の地球上の 原始スープ中には , 生命体の出現過程に利用できるアミノ酸として , おそらく 単純なものが 10 種前後あったにすぎなかったと考えられる . 当時には , ダブ レット ( d 。 ublet , 2 連塩基 ) 暗号系が疑いなく機能しえたであろう . しかし , 現 存のあらゆる生物が普遍的にトリフ。レット (triplet' 3 連塩基 ) 暗号系をもちいて いるという決定的な事実は , tRNA が核酸の連接した三つの塩基セットを識別 するように最初から進化してきたことを明らかにしている . 生命がいったん誕 生すると , コドン ( c 。 d 。 n , 遺伝メッセージの単位 ) の大きさの変化は , 必然的に それまでの遺伝メッセージのすべてを無駄なものにしてしまうに相違ない・し たがって , このような変化はそれまでに存在していたすべての生命体を絶減さ せてしまったであろう (Crick, 1968 ). tRNA は出現以後 , 実質的に変化しな力、 ったと考えられる . tRNA は , 遺伝メッセージとして , 連接している三つの塩基 ( トリフ。レット 暗号 ) を解読するので , 核酸は 64 ( 4 ' ) の異なるメッセージを生成し , この結果 , 遺伝メッセージに大きな冗長さがもたらされている . ある特定のアミノ酸を識 別した tRNA は一つの特別なコドンを識別するだけでなく , 複数のコドンを 識別したに相違ない . ポリペフ。チド鎖合成に利用しうるアミノ酸の数は , そ 0 後 , 10 種余りから 20 種 ( 表 1 ) に増加しただけなので , コドンの冗長性は今日 まで持続している . mRNA の遺伝メッセージ解読の実験方法が Nirenberg と Matthaei ( 1961 ) に よって導入された . 彼らは , ポリヌクレオチドホスホリラーゼという酵素をも ちいて , 塩基としてウラシルだけを含有する人工 RNA , すなわちポリウリジ
第 4 章 DNA シストロンの塩基配列の変化としての突然変異 37 分的にのみ冗長である . たとえば , UA がチロシンの第 1 および第 2 塩基とし て解読されるときには , 第 3 塩基は U または C でもよいが , A または G では ありえない . これら冗長なコドンでの第 3 塩基の置換は , ポリペプチド鎖のア このタイプの塩基置換は同義突然 ミノ酸配列に必ずしも変化をもたらさない . 変異 (samesense mutation) として知られている . 表面上 , 同義突然変異は進化的意義をもたないと考えられよう . しかし , のタイフ。の突然変異が重要な意義をもっていることが , 次のような考察から明 らかになるであろう . ( 1 ) 同義突然変異はミスセンス変異への中間段階として の役割を担いうる . たとえば , 野生型ポリペフ。チド鎖のある位置のイソロイシ ンが AUA コドンによって決められているとすると , イソロイシンのフェニル アラニン (UUU および UUC コドン ) による置換は 1 段階では起こりえない . しかし AUA コドンが , 同義突然変異によって , 前もって AUU に変わってい ると , このようなミスセンス突然変異が可能になる . ②同義突然変異が mRNA の翻訳速度に影響する可能性も考えられる . mRNA がポリペプチド鎖 に翻訳される速さは , 翻訳に利用しうる tRNA の数に部分的ではあるが依存 ・するはずである . すでに述べたように , アラニンに対応する四つのコドンのう ち , GCU,GCC,GCA コドンは 3 ℃ GHyX5 ・アンチコドンをもつ同一の tRNA で 識別される . しかし GCG コドンは , 3 ℃ GC5 ・アンチコドンをもつ異なる tRNA によって識別されなければならない . ある条件下の細胞が , 2 種のアラニン tRNA のうち , ーっのアラニン tRNA 種を他の 100 倍もの量比でもっていて , 前者が 3 ℃ G Ⅱ YX5 ' アンチコドンをも っタイフ。に相当する主要分子種で , 後者が 3 ℃ GC5 ' ァンチコドンをもつ微量分 子種であるという場合がありうるだろう . このような事態が起こっているなら , GCU コドンが GCG コドンに変わった同義突然変異体が生産するポリペプチド 鎖は野生型と同じアミノ酸配列をもっているが , そのポリペプチド鎖の合成速 度は著しく低下するであろう . 構造遺伝子の突然変異に関する本節のしめくくりとして , いろいろなタイプ の塩基置換の出現確率について述べておこう . 各アミノ酸のコドンの性質と数 ,
65 第 7 章 染色体進化の保守的な性質 これまでの議論で , 自然淘汰の非常に保守的な性質 , すなわち遺伝子の重要 な部分は進化途上で決して変化せず , 自然淘汰はほんのわずかな変化だけを許 容するものであるということが明らかになった . このような見方からすると , 有胎盤哺乳類において , 2 倍体染色体数が , グ ロサイにおける 84 という最高の値但 ungertord & Snyder' 1967 ) から , 齧歯類 の 2 種における 17 という最少の値 (MattheY' 1953 ; Ohno 矼 , 1963 ) まで分 布しているということは , 染色体の変化というものが自然淘汰の厳密な監視の もとにおかれているのではないという証拠とされてよい . だから , 染色体のラ ンダムな再分配が , 相ついで起こった一連の種分化になんの制限も受けずに併・ 存しえたのである . しかし , これらの染色体変化は , 実質よりもむしろ見掛け - 上のものである . 後に示すように , もともとの連関群は , 核型における明瞭な 変化 ( 2 倍体染色体組の形態的変化 ) にもかかわらず , かなりの程度 , 保存され てきたようである . この連関群の保存は , 機能的に関連した遺伝子が , 近接し た連関群に存在することが必要であるということによるのではなく , 実はただ , 染色体再配列のほとんどのタイプが , へテロ接合状態では , その個体を半不稔 性にするということによっているのである . この半不稔性のために , 多くのタ イプの染色体変化は , 新種に固有なものとして固定されないのである . 1. 機能的に関連した遺伝子の密接な連関の不要性 原核性生物では , 同じ代謝経路の反応を触媒する一連の酵素の合成を支配す る遺伝子は , しばしば一群にあつまり単一のポリシストロン性 mRNA に転写
第 10 章重複による同一遺伝子座の生成 99 である . 染色体はすでにこの遺伝子の 2 万もの重複コビーをもっているので . それ以上の増幅は必要としないのであろう (Brown & Dawim1968). 爬虫類や鳥類や哺乳類の有羊膜卵の場合には , 卵形成過程で核小体オルガナ イザーのコビーが染色体外に分散するようなことは , たとえ起こっているとし ても , 恐らくもっと小さい規模でしか起こっていないだろう . にもかかわらず , 染色体のある分節は繰り返し DNA を複製し , そのコピーを染色体外に分散さ せるが , 一方 , 残りの部分は DNA を複製しないという事実は , 広い含蓄ある 意味をもっているものである . 2. tRNA 遺伝子 tRNA も種類は少ない . 生物のゲノムは , tRNA に転写されるたった 30 余 りの遺伝子を必要とするだけである ( 第 2 章 ). しかし平均的な長さの mRNA が 1 回ポリペフ。チドへ翻訳されるためには , 200 ~ 300 の tRNA が必要である ので , 細胞は個々の tRNA 種をかなり多量に生産しなければならない . 事実 , 成長している胚から抽出した全 RNA の 15 % 程度は tRNA である . tRNA の 場合にも , 自然淘汰はそれぞれの tRNA 遺伝子の直列重複を好ましいものと して選び出したと考えられる . Ritossa, Atwood, Spiegelman(1966 ( 1 ) ) は , ・ DNA-RNA ハイブリッド法を用いて , もし 60 種の tRNA 遺伝子があるなら , キイロショウジョウバエのゲノムは個々の遺伝子の重複した 13 コビーをもっ ているだろうという結論に達した . 同じ方法を用いて , アフリカツメガェル では , 半数体ゲノムはほぼ 8700 コビーの tRNA 遺伝子をもっており , 基本的 な tRNA 種のそれそれに平均 200 コビーの遺伝子があると推定されている (CIarkson . , 1973 ). このような方法で得た tRNA 遺伝子の表面上の冗長性が , そのまま直ちに , ゲノムがそれぞれの tRNA 遺伝子の複数コビーをもっているという証左には ならないが , ツメガェルで個々の tRNA 種の遺伝子数が DNA-RNA ハイフ・リ ッド法で調べられた結果 , バリン tRNA(tRNAVal) は約 240 の遺伝子コヒ。ーを tRNA?{et もち , 2 種あるメチオニン tRNA のうち , tRNAYet は約 310 コビー
237 メクラウナギ類 (Hagfish) カレイ ( ~ ん c ん t ん眦 r c 観な ) 123 , 124 , 137 , 179 , 180 , 197 , 198 ( 表 3 ) , 200 ( 表 3 ) , 200 免疫グロプリン 30 , 57 , 58 , 67 , 74 , 111 , 活性 ( 中心 ) 部位 ( 域 ) 44 , 45 , 51 , 96 , 117 145 , 149 ー 151 , 222 ー 119 , 121 メラニン色素 47 形質導入 ( ウイルスによる ) 174 , 175 突然変異 ( ショウジョウノくエの ) 結合 ( ヌクレオチドの ) 7 , 9 , 11 キモトリフ。シン 45 , 46 ( 図 5 ) , 116 ー 118 103 ミオグロビン 43 , 44 ( 図 4 ) , 122 , 123 ( 図 11 ) , 119 , 166 モロコシ ( & ん忸 ) 155 キモトリプシノーゲン 46 , 116 ー 119 , 無顎綱 (Agnatha) 137 , 179 136 , 224 無弓類 ( 系統 ) (Anapsida) 金魚 (Carassius 佖 s ) 82 , 112 , 113 215 ー 217 ( 図 28 ) ( 図 1 の , 199 ( 表 4 ) , 226 近親交配 52 , 89 キツネザル (Lemuroid) コドン 15 ー 17 , 36 ー 41 甲皮類 (Ostracoderm) 124 , 128 , 137 , 179 コイ科 (Cyprinidae) 200 , 204 コルヒチン 48 , 120 , 121 繰返し複製 (DNA の ) 147 クローン選択説 126 183 ( 図 21 ) , 空椎類 (Lepospondyls) 204 , 205 , 208 , 209 恐竜 ( 類 ) (Dinosaurs) 185 , 186 , 215 ノレノ、 , ー 0 0 範 ea れ - 旧人類 ( ネアンデルター 売置ん佖れ s な ) 92 , 194 , 227 , 228 旧世界ザル 63 , 191 199 187 , 207 , ナメクジウォ ( A 履 0 ) 198 ( 表 3 ) 軟質類の魚 (Chondrostean fish) 198 ( 表 3 ) , 203 , 206 ニジマス ( S 観襯 0 記 e s ) ( 図 18 ) , 166 , 204 乳酸脱水素酵素 (LDH) 42 , 45 , 74 , 108 ー 110 , 115 , 165 , 202 , 221 , 223 0 ポリシストロン性 mRNA 17 , 39 , 65 , 133 ポリゾーム 20 6 , 63 , 191 179 , 196 , 197 , 82 , 162 , 163 133 オペレーター Lamarck の幻影 88 , 177 ラクダ科 (Came1idae) ラクトース ( c ) オペロン 66 , 133 , 168 ラット ( 佖こ紐 s 0 眦 c s ) 55 , 74 , 82 , 136 連関 ( 遺伝子の ) 65 , 73 , 144 , 149 , 152 レンリソウ ( 石ん s ) 203 レセプター 135 ー 137 , 139 , 152 93 マウス (Mus 佖 sc 佖 s ) 5 , 29 , 48 , 55 60 , 68 ー 70 ( 図 7 ) , 74 , 82 , 126 , 144 , 175 218 , 221 , 226 メガネカイマン ( C 襯佖れ sclerops) 215 , 216 ( 図 28 ) 迷歯類 (Labyrinthodont) 208 , 211 185 , 205 ,
38 第Ⅱ部突然変異と自然淘汰の保守的な本性 ーっが停止コドンであることがわかってい ならびに 64 のコドンのうちたった二 るので , 塩基置換が遺伝子のどの塩基対にもランダムに生じるとすると , ナン・ センス突然変異が一つ起こると 17 のミスセンス突然変異と六つの同義突然変 異が起こ。ていると算定できる . この三つのタイプの突然変異の相対頻度は . 1 : 17 : 6 であると予想される ( Whit Ⅱ eld 矼 , 1966 ). ある定まった構造遺伝子 の同座変異体の産物を分別するのに電気泳動法が広く用いられてきており , す べての可能なミスセンス突然変異の 40 % が , その遺伝子が支配するポリペプ チド鎖の正味の電荷に変化をもたらす , という推測 (Fitch' 1966 ) を検証しう る見込も高くなりつつある . フレームシフト突然変異は塩基対の欠失または插入によるものである . この 理由から , 塩基置換に関係づけて , フレームシフト突然変異の期待頻度を算出 する手立てはないことがわかる . 2. tRNA の突然変異 脊椎動物のゲノムは膨大な数の構造遺伝子をも。ており , それそれが特定の 機能をもつ = = ークなポリペフ。チド鎖の生成を支配している . これらの遺伝子 の一つに起こった突然変異は , 数あるポリペプチド鎖の 1 種だけにアミノ酸配 列の変化をもたらす . これときわめて対照的に , tRNA 遺伝子は種類として は少なく , 生体が必要とするのは 30 余りの異なる tRNA 種にすぎない . し力、 し , ほとんどすべての mRNA 翻訳に tRNA の存在が不可欠であるので , 数少 ない tRNA 遺伝子のどれかに影響する突然変異は , 非常に広範囲な効果をも たらすことになる . a) サプレッサー突然変異 詳細な研究が行なわれてきた大腸菌や他の単細胞生物においては , UAG' UAA , UGA は鎖停止コドンとして働いており , 多分これらの生物のゲノムは . この三つのコドンに対応するアンチコドンをもった活性 tRNA をもっていな いと考えられる . チロシン tRNA に転写される DNA シストロンにおける塩 基置換によ。て , アンチドンの。・ AUG 。・が ' ・ AUC 。・変わると , どのような
16 表 2 遺伝コード . 各アミノ酸が mRNA のトリプレット暗号と対応づ けられている . Termin. は大腸菌でわかっている鎖停止コドンを示す . 第 2 塩基 第 3 塩基 第 1 塩基 3 端 ) ( 5 ′端 ) C U Cys Tyr Ser Phe Cys Tyr Ser Phe Termin. (Termin€ Ser Leu Ser Termin. Leu Arg His Pro Leu Arg His Pro Leu Arg G1n Pro Leu Arg Pro Gln Leu Asn Thr lle Thr Asn lle Thr Lys lle Thr Lys Met A1a Asp Va1 A1a Asp Val A1a G1u Val A1a G1u Va1 A Ser Ser Arg Arg G ly GIY GIy G ly のどれもがバリンを決めている . 特異的な tRNA によるコドンの識別もやまり , 二つの塩基対間に固有の相 ロ基の組アン 補性に基づいている . tR チ = ド , , anticodon) が , 翻訳される酸の = ド , と相補的な塩基対合をす コド、アンチコトン間の塩基対合に , ある度合の不忠実性が tRNA 進化の 初段階に導入されなかったとしたら , 64 のアンチコドン , したがって 64 種 の tRNA が核酸の塩基配列をポリペフ。チドのアミノ酸配列に翻訳するのに必 要であったはずである . たとえば , 5'GCA3 ・コドンは 3 ℃ GU 。・アンチコドンを もつアラニン tRNA によってのみ識別されるとすれば , アラ = ンの四つのコ ドンをすべて翻訳するためには , さらに三つの異なる tRNA 種を必要とした であろう . コドンとアンチコドン間の塩基対合様式にみられる , この不可避な不忠実性 は , 通常アンチコドンの 3 番目 ( 5 ' 端 ) の塩基に , 普通には核酸に存在しない 塩基を導入することによってもたらされていると思われる . ヒポキサンチン
第 14 章調節遺伝子とレセプター部位の重複 1. 調節機構の階層 133 言うまでもないが , 調節機構には階層がある . まず第 1 に , 1 次転写制御は , 特定の体細胞タイプ中で , ある遺伝子座の転写のスイッチが入れられるか切ら れるかを決定する . 個体発生における体細胞分化は , 第 1 次的には , このタイ プの制御のもとにある . この点で , 発生過程での決定はたいてい非可逆的であ ると考えられる . というのは , いったん根幹細胞のあるグループが肝細胞にな るように方向づけられると , その子孫系列の細胞は永遠に肝細胞であるからで 特定の体細胞タイフ。できまった遣伝子に一度スイッチが入ると , 生物は , そ の状態を維持し , 構成的な様式でその遺伝子産物をつくりつづけるか , あるい は第 2 次の抑制性制御のもとで , インデ = ーサーが存在するときだけ遺伝子産 物ができるようにするか , そのどちらかを選択することになる . チロシンアミ ノトランスフェラーゼの遺伝子は , 哺乳類の肝臓でスイッチを入れられること は確かである . しかし , この酵素は副腎ステロイドホルモンが存在するときだ け合成される (Tomkins 矼 , 1966 ) . すでにスイッチが入っている遺伝子座の 転写と翻訳は , レプレッサーがインデ = ーサーによって取り除かれるまで , 阻 ・害されている . 脊椎動物における第 2 次階層の抑制性制御は , 第 1 次の制御と 違って , 大腸菌厄 c オペロン系の作動様式と類似している . どちらの系におい ても , 調節タンパク質は別個の遺伝子座でその生成が支配されており , このタ ンパク質は , 二つの異なる結合部位をもっているという点で , 2 頭の怪物にた とえてよいであろう . 一方では核酸の特定塩基配列を識別し , 他方ではインデ ーサー分子を識別する . c オペロン系の場合 , 調節タンパク質は分子量が 約 16 万の大きな酸性タンパク質で , c オペロンのオペレーター部位を構成し ている DNA 分節の塩基配列を識別する . この結合によって , 転写が効率よく 阻害され , したがって lac オペロンの三つの酵素遺伝子がポリシストロン性 •mRNA にコビーされないようになる . しかし , IPTG ( イソフ。ロヒ。ルチオガラ クトシド ) のようなラクトースの代謝類似物質であるインデューサーがこの調 . 節タンパク質と結合すると , アロステリックな配位が変化して , もはやオペレ
第 6 章寛容突然変異 55 変異の蓄積を許容する . したがて , 種分化の過程に併存した多くの突然変興 は中立突然変異に相当するものであって , 自然淘汰の作用を受けなかったので ある . いろいろなタイプの突然変異の中の一つのグループである同義突然変異は , あらゆる突然変異のうちで最も中立なものであるとみてよいであろう . という のは , 構造遺伝子による同義突然変異の蓄積は , その産物のアミノ酸配列に変 化をもたらさないからである . 大腸菌 Treffer 株のミ = テーター ( 忸 T) 遺伝 子 (mutatorgene) は , 欠陥をもっ DNA ポリメラーゼを産生し , 正常でない対 合をする塩基を DNA 複製過程でとりこむ傾向をもっと考えられており , した がって。 T " 株の多くの構造遺伝子は塩基置換変化を受けると考えられて いる . cox と Yanofsky(1967) は , 繰り返し分培養し , 生育能を維持してい る。襯 T " 株を選別していくと , DNA の G ー C 量が高くなる方向に変わる傾向 があることを観察している . DNA の A ー T 対の C ー G 対による置換の大部分は 冗長なコドンの同義な第 3 の塩基に起こった変化 ( 同義突然変異 ) であると考え れば , 大腸菌が生育能を保持していることと矛盾しないといえよう . たとえば , 3 ℃ GA5 ・から 8CGC5' への変化が DNA で生じると , mRNA のコドンは GCU か ら GCG へ変わるが , 両方とも同じアミノ酸 ( アラニン ) に対応する . 進化的な時間尺度では , ラットとマウスは密接な類縁関係がある . しかし Walker ( 1968 ) は , ヌクレオチド座位の 13 % ほどがラットとマウスでは異なっ た塩基によって占められていると推定している . この差異は二つの生物種の相 同なペプチド鎖のアミノ酸配列で観察されている差よりかなり大きいものであ ろう . このことから , DNA の進化的変化の大部分は同義突然変異に相当する ものであるという結論が導きたせるであろう . 2. 好ましい突然変異 ーっの生活機能がゲノム内の単一遺伝子座で決められている間は , その遺伝 子座の基本的特性を変える突然変異の存続に対して , 自然淘汰は寛容でない . したがって , 地球上の全生物が絶減するまで , ジヒドロオロターゼ遺伝子座は
第Ⅱ部突然変異と自然淘汰の保守的な本性 制突然変異が無慈悲に除去されたことによるだけでなく , 遺伝子が小さいこと にもよっている . 遺伝子が小さいために , 座当りの突然変異率は極端に低いの である . 一般に , 脊椎動物のチトクロム c は 104 アミノ酸残基で構成されている . ポ リペプチド鎖の各アミノ酸残基は mRNA のトリプレット塩基で決められてい るので , チトクロム c 遺伝子の大きさの最小値は 312 塩基対である . したがっ て , チトクロム c 座当りの真の突然変異率として 3 x 10 ー 5 という値が得られる . この値は , 禁制突然変異だけに適用しうる IXIO ー 5 という一般に受け入れられ ている値の範囲におさまっている . ポリペプチド鎖が短くなるにしたがって , 機能に必須な座位 , すなわちどのようなアミノ酸置換も禁制突然変異になるア ミノ酸配列の部分が大きくなるのが普通である . 小さい遺伝子に関しては , 起 こりうるすべての変異の真の突然変異率は , 禁制突然変異だけに適用しうる , 一般的な値とほとんど違わないものであろうと予想される . このような場合 , 座当りの低い突然変異率が無慈悲な自然淘汰圧に対する保護壁になっている . 事実 , チトクロム c のアミノ酸配列は , 約 3 億年前に始まった脊椎動物の進化 を通じて , 広い範囲にわたって保存されている . ヒトとマグロのような遠縁の 脊椎動物のチトクロム c でも , 104 座位のうち 21 が互いに異なっているだけ である (Marg01iash, 1966 ) . また他方では , いくつかの酵素や非酵素性タンパク質のサブュニットになる ポリペフ。チドは , 600 にも達するアミノ酸残基で構成されていることもある . したがって , このようなポリペプチド鎖のシストロンは 1800 塩基 : 対の長さに なる . この場合 , 座当りの全突然変異率は 2X10 ー 4 になり , 全突然変異と禁制 突然変異の変異率の大きさには 1 桁の差異がみられる . この差は寛容突然変異 に相当するものである . 長いポリペフ。チド鎖では , アミノ酸置換で機能に影響 を蒙らない座位が多くなるので , このような大きな差は予期されるものである . 酵素サフ・ユニットの場合 , 機能にとりわけ必須といえない座位でのアミノ酸置 換は , 至適 p Ⅱや K 。、などの反応速度的特性を変化させる . したがって特定の 寛容突然変異が好ましいものとして保存される機会が自然淘汰によってもたら