第Ⅲ部遺伝子重複の意義 を説明できないことはきわめて明白になってきている . というのは , 進化の大 変化は , 以前になかった機能をもつ新しい遺伝子座の獲得によって可能になる からである . 活性中心部位に起こる禁制突然変異の蓄積があってはじめて , 遺 伝子座はその基本的性質を変えうるのであり , また新しい遺伝子座となるので ある . 絶え間ない自然淘汰の圧力から逃れる手段は , 遺伝子重複の機構によっ てもたらされる . 遣伝子重複によって , 遺伝子座の冗長なコピーが新生する . 自然淘汰はこのような冗長コピーの存在を往々にして無視するし , 無視されて いる間に , 冗長な遺伝子コピーは , それまで不可能であった禁制突然変異を蓄 積し , 以前にはなかった機能をもつ遺伝子座に生まれ変わる . このようにして , 遺伝子重複が進化の主要動因として登場してくるのである . 分子生物学の黎明以前でさえ , Ⅱ alda Ⅱ e ( 1932 ) のような , 先見の明をそなえ た多くの遺伝学者は , 進化において遺伝子重複が果たす役割の重要さを熟知し ていた . しかし , 遺伝暗号の解読機構が解明され , 遺伝子の直接産物に反映さ れている進化的変化を説明しうるようになるまで , 重複がいかに大切であるか を正当に評価することは不可能であった . 重複機構の役割としては , 冗長性をもたらすことによって新しい遺伝子を創 このほかにも生物が重複機構からこう 造することが最も重要なものであるが , むる利益がある . ある生物が物質代謝に必要な特定の遺伝子産物を多量に入用 とするとき , ゲノムがその遣伝子座の複数コヒ。ーをとりこむことでその要求を 満たすことが多々ある . したがって , これは同じ遺伝子産物を多くっくるとい う役割を果たすタイプの遺伝子重複である . 1. rRNA 遺伝子 第 2 章で述べたように , 真核性生物はたった 4 種の rRNA, すなわち 5 S, 5.8 S, 18 S, 28 S rRNA を必要とするだけである . rRNA は種としては少ない 種について , 恐らく幾百ものコヒ。ーをつくっているからである . 普通の体細胞 と会合して起こるのが普通であり , ーっの細胞はそれそれ異なる mRNA 分子 ーっの mRNA の翻訳は数個のリポゾーム が , 多量に生産されねばならない .
第 2 章 A-T, G-C の相補的塩基対合に基づく核酸の複製 3. DNA と RNA の分業 あらためて記すほどのことではないが , 現存の生物の遺伝子は二つの働きを ・している . 遺伝子は受精卵に含まれていて , この卵に由来するからだを構成し ているすべての細胞に伝達され , かっ生殖細胞を経て , 次世代を構成するすべ ての子孫に伝達されねばならない . 塩基間の相補性を基にした , 正確なコビー をつくる DNA 複製の機構が , 遺伝子のこの第 1 の働きを可能にしている . の働きに加えて , DNA 分子中に暗号化されている遺伝情報は , 個体発生過程 で , ポリペプチド鎖に解読され , 形質発現されなければならない・この果 個体は核内に存在する遺伝的プログラムに従って形成されるのである . しかし , DNA の塩基配列はポリペプチド鎖のアミノ酸配列に直接翻訳されるわけでは ない . 塩基間に固有な相補性をもちいることによって , DNA の 2 本鎖の片側 がまず RNA (mRNA, tRNA, およびリポゾーム RNA (ribosomal RNA, 略して rRNA ) ) に転写され , mRNA の塩基配列が tRNA によって解読されるのである . このように , DNA と RNA とに機能のはっきりした分業が起こっている . 自 己複製する DNA は遺伝メッセージの保存と子孫への伝達の働きをしており , 丑 NA は DNA に含まれる遺伝メッセージを物質化するさいの中間体として働 いている . しかし , ごく初めの始源期には , 未成熟な生命体の個々の核酸は , 一方では 自己複製し , 他方ではその塩基配列が一つあるいは複数のポリペフ。チド鎖のア ミノ酸配列に翻訳されるという , 2 重の働きをしていたにちがいない . 自己複 製は互いに相補的な二つの塩基配列をつくりつづけるので , これは避けること のできない不経済な過程である . 両塩基配列が tRNA によって解読されると , まったく関連性のないアミノ酸配列をもった二つのポリペフ。チド鎖がっくられ る . ポリペフ。チド鎖の片方が特定の機能に有用であるなら , 他方のポリペプチ ド鎖がまったく関係のない機能にもちいられる可能性はないとはいえないが , 恐らくそのような機会は完全に無に近いだろう . このような系は自然淘汰によ って効率よく組立てを変更・調整しうるものではなかっただろう . したがって , DNA と RNA との分業は , 未成熟な生命体がたどらねばならなかった最も論 19
166 第Ⅳ部遺伝子重複の機構 畆 , 1970 ). 2 倍体化が起こって間もない 4 倍体種は減数分裂過程でかなりの , 4 価染色体を形成するので , これらの種のある遺伝子座で 4 染色体性遺伝がみ・ られることは予期されたことである . けれども , サケ目に属する 4 倍体の魚類は , 哺乳類や鳥類よりも多くのアイ ソザイム遺伝子座をもっている . 哺乳類と鳥類は三つの LDH 遺伝子座と , 細 胞質型の MDH と ICDH のそれそれに 1 つの遺伝子座をもっているだけである、 , 2 倍体化して間もない同質 4 倍体が最初の実験をすませたあとでは重複した多 くの遺伝子座は , 淘汰有利性がないことによって , それに続く進化過程で機能 をもたないものになったと考えられる . したがって , 哺乳類と鳥類ではマスや サケに比較して , 重複した遺伝子の数が少ないという事実は , この二つの綱の 恒温脊椎動物が太古の 4 倍体祖先種から進化してきたという考えに反するもの ではない . 哺乳類はヘモグロビン鎖遺伝子座を普通は三つ , 多くて五つもっているが , 一方マスやサケはほぼ 10 のヘモグロビン鎖遺伝子座をもっている ( Tsuyuki & Gadd, 1963 ). ニジマスでみられるグリセロアルデヒドー 3 ーリン酸脱水素酵素の アイソザイムの数は , 哺乳類のものより多いことも報告されている (Lebherz & Rutter, 1967 ) . 哺乳類 , 鳥類 , 肺魚は , 原則として , 膵臓のトリプシン遺伝子座とキモトリ フ。シン遺伝子座をそれそれ一つしかもっていない . 有蹄類はキモトリプシン A と B の遺伝子座を 1 対備えているという点で例外である (Neurath 矼 , 1967 ). サケとマスは明らかにトリプシンに対して 2 個の遺伝子座をもち , キ モトリフ。シンに対しても 2 個の遺伝子座をもっている ( Cr 。 st 。 n , 1965 ). 実際 , 新しく 2 倍体化した同質 4 倍体種は , 重複しているあらゆる遺伝子対を機能的、 に多様化するための大規模な実験を続けているのである . 5. 2 倍体化過程ての染色体の放棄 有糸分裂の機構は , 通常 , その終期に , 各染色体の二つの娘染色分体が互い に分離して , 紡錘体の反対極へ移行するのを保証している . しかし , この機構・
108 第 12 章 もとの対立遺伝子の分別調節と ァイソザイム遺伝子への転換 一群の機能的に互いに関連した遺伝子のうち単一座だけの不均衡な遺伝子重 複は , その座の二つのもとの対立遺伝子が同一ゲノムに組み込まれたのちすぐ に分別遺伝調節機構が発達した場合に可能になる . この遺伝調節機構は , 対立 遺伝子であった片方だけを個体のあるタイプの細胞で転写されうるようにする ので , ある単一座に起こった不調和な重複にもかかわらず , 機能的に関連した すべての遺伝子間に , もとの 1 対 1 対応の量的関係が効果的に回復する . 生物が同じ酵素の重複した遺伝子をそれそれ区別し , 個体発生過程で分別利 用できるようになるや , 生物がこのタイプの遣伝子重複から利益を導きだす道 が究極的に開かれる . この分別的な遺伝子の利用によって , 重複した遺伝子は 異なる自然淘汰の圧力にさらされることになる . 二つの重複した遺伝子は違っ た種類の突然変異を蓄積し , 多様化し , 最終的に酵素は同じ基質に作用し , 同 じ補酵素をもちいながらも , 相互に著しく異なった反応速度的特性を獲得する ようになる . このような方途で , アイソザイムといわれているものの遺伝子群 が生まれてきたと考えられる . 大部分の脊椎動物は , 乳酸脱水素酵素 ( LDH ) の A'B サフ・ユニットに対して , 別座にある少なくとも二つの遺伝子をそなえている . この異なるサブュニット は同一分子種とも , 異なる分子種とも会合しうる . したがって , 二つの異種サ ニットの重合によって , 五つの 4 量体アイソザイムが形成される . すなわ ブュ ち , A4, A3B, A2B2, AB3, B4 である (Markert, 1964 ). 二つの別な遺伝子座の産物 がそれそれ制限をうけない親和性を維持しているという事実は , 二つが共通の
第 16 章倍数性 - ーーゲノム全体の重複 155 伝子の発現を支配する調節遺伝子のすべての重複が " 一挙 " に起きるのである 倍数性による遺伝子重複の機構は直列重複でみられるどのような短所をも示ざ ない . あらゆる遺伝子座の協奏した重複は , 構造遺伝子と同時に自身の調節遺 伝子の重複をも伴っており , 機能的に関連した遺伝子の遺伝子量の割合に関し て問題が生じない・もとの遺伝子と重複した遺伝子は別個の染色体に担われて いるので , 重複によって不安定性はもたらされない . しかし , 以下に示される ように , 倍数性はそれなりの欠点を伴う . 直列配列型の重複と倍数性とが有意 な遺伝子重複をもたらす方途として互いに補い合。ていることは極めては。き りしている . 脊椎動物の進化過程で , この二つの方途が交互にもちいられたと しても驚くにあたらないであろう . 1. 倍数性と確立された染色体性性決定機構との不適合性 植物界 , 特に顕花植物で , 倍数体進化の例がたくさんある・たとえば , 栽培 穀草類のモロシ ( S0 ん社忸 ) 属のうち , & 眦 ? co ん ? ・ , S. 記佖怩れ se , & ん観 e れ“ の 3 種は染色体数がそれそれ 10 , 20' 40 である . 1 番目は 2 倍体種 ( 2 れ = 2X5 ) で , 2 番目と 3 番目はそれそれ 4 倍体 ( 4 れ = 4X5 ) と 8 倍体 ( 8 範 = 8X5 ) である . 大多数の顕花植物では , 雄器 ( 雄ずい ) と雌器 ( 心皮または雌しべ ) は同じ花にあ る . 要するに , これらの植物は雌雄同株種である . 倍数体進化と雌雄同株の繁 殖様式とは完全に適合しうるものである・ 脊椎動物だけでなく , 無脊椎動物でも倍数体がまれであることは , 両性生殖 - 性が大多数の動物種の特性であることによ。ている . 倍数性は十分に確立され た染色体性性決定機構と適合しえないものである . XY/XX 型の性決定機構を もつ 2 倍体が 4 倍体になると , 必ず雄は 4AXXYY' 雌は 4AXXXX の構成、 になる . 4AXXYY の雄の減数分裂で , 4 つの性因子は XX ー 2 価染色体と YY- 2 価染色体として対合するだろう . この場合 , すべての配偶子は 2AXY の構 成になる . この結果 , 4 倍体の雄と 4 倍体の雌との交配で生まれる子孫は 4AXXXY の構成を受け継ぐことになる . もし 4AXXXY が雄の表現型をもた らすなら , この種は雌が存在しないことになり , 消減してしまうたろう .
次 目 1. 種分化の必要条件としての隔離・ 2. 集団の大きさと成功の代償・ 3. 世代時間と進化の速度・ 第Ⅲ部遺伝子重複の意義 第 10 章重複による同一遺伝子座の生成・ 1. rRNA 遺伝子・ 2. tRNA 遺伝子・ 3. 同一遺伝子の重複コビーの存在による不利性・・ 第 11 章もと対立遺伝子であった二 つをゲノムの 別座に組み込むことによる永続的なへテロ 接合の有利性の獲得・ 第 12 章もとの対立遺伝子の分別調節と アイソザイム遺伝子への転換・ 第 13 章既存の遺伝子の冗長なコビーからの 新遺伝子の創生・・ トリフ。シンとキモトリプシンの場合・ 1. 2. 微小管のタンパク質と骨格筋のアクチン・ 3. ミオグロビンとへモグロビン・ 4. 免疫グロプリンの L 鎖と H 鎖・ 5. フレームシフト突然変異による新しい遺伝子の出現・ 第 14 章調節遺伝子とレセプター部位の重複・・ 1. 調節機構の階層・ 2. 遺伝子賦活化型の調節遺伝子の性質・ 3. 第 1 次調節遺伝子と構造遺伝子の調和した重複・・ 4. 重複した調節遺伝子の機能の多様化による形態変化・ 5. 構造遺伝子に隣接したレセプター部位の重複・ 第Ⅳ部遺伝子重複の機構 第 15 章遺伝子連関群の一部分の直列重複・ X111 0 1 っ乙 0 ) 0 ) 0 ) 0 ) 0 ・・ 105 ・・ 108 ・・ 115 ・・ 116 ・・ 120 ・・ 122 ・・ 124 ・・ 128 ・・ 131 ・・ 133 ・・ 135 ・・ 137 ・・ 137 ・・ 139 ・・ 141
第 16 章倍数性一一ゲノム全体の重複 167 はときどき誤りをおかし , 二つの染色分体が互いに分離せずに , 同じ分裂極へ 移行することがある . この結果 , ーっの娘細胞は三つの相同染色体を受け継ぎ ( 3 染色体性 ) , もうーっの娘細胞は一つの染色体しか受け継がない ( 1 染色体 性 ). もしこのような異常が生殖細胞で起こると , 3 染色体個体と 1 染色体個 体が生じる . ーっの染色体を失った個体間の交配を経て , 不必要な染色体の放 棄が 4 倍体種の 2 倍体化過程に伴っただろうと考えられる . ニジマスの 500 近 い個体の染色体構成を調べたところ , 正常では染色体腕数は 104 であるが , 数 個体はこの数より一つ多いか少ない染色体構成をもっていた . これらの異数体 は外観上障害を現わさないし , 正常な機能の生殖腺を備えている . 2 倍体化過 程で , もとの連関群のあるものが機能的な多様化を果たしえないこともあるだ ろう . 機能の多様化の起こらなかった連関群に関するかぎり , もとの四つの相 同染色体のうち二つが自然淘汰によって都合よくゲノムから放棄されたのであ ろう . 6. 4 倍体における調節遺伝子の量効果 十分に確立された染色体性性決定機構が倍数体個体の両性生殖を不可能にし ているので , 爬虫類 , 鳥類 , 哺乳類では , 倍数体進化はとうていありえないこ とといえる . しかし , 両性生殖が唯一の理由であるなら , 間性であるかもしれ ないが , 高等脊椎動物に生存可能な倍数体個体を多数見出しうると当然予期さ れる . 実際には , ヒトと他の哺乳類の 4 倍体は胎発生の早期に不稔になるので ある (Carr, 1967 ). 4 倍体個体の致死性の解明は染色体性性決定機構の障害以 外に求めねばならない . こで , 論点をはっきりさせるために , 調節遺伝子の量効果の問題を考えよ う . 第 14 章でかなり詳しく考察したように , 脊椎動物ゲノムの多くの構造遺 伝子は 2 重の調節をうけていて , ある体細胞タイプで第 1 次の賦活化型制御 構により活性化された遺伝子座に , 第 2 次の抑制型制御が積み重なって作用す ると考えられている . 第 2 次抑制型制御においては , レプレッサー遺伝子産物 が DNA シストロンとその mRNA とに結合し , 誘導物質によって解離される
112 第Ⅲ部遺伝子重複の意義 た . 型のⅡ鎖から成る IgA クラスの抗体は , 母体によってミルク中に分泌 され , 母体由来の IgA がまだ抗体産生能のない新生児を保護する . 重合体で ある 19 S の IgM クラスの抗体は # 型のⅡ鎖で構築されている . IgM は補体と 結合し , 新たに出会う抗原に対する , からだの初期応答に大きく寄与している . IgG クラスの抗体は 7 型のⅡ鎖を用い , 侵入してくる外来生物に対する , か らだの防御の中心機構である . さらに , 母体の IgG は胎盤を通して胚に運ばれ , 胚を保護する . 脊椎動物では , 機能的に多様化している重複遺伝子の多くの例があるが , ほ とんどの重複は太古に起こったと考えられ , かなり離れた類縁関係しかない種 においてさえも , 同じ度合の遺伝子重複と , この重複した遺伝子の同じような 分別的な利用とがみられる . 本章と前章で述べたタイフ。の遺伝子重複を , いわ ば重複確立の途上にある状況としてとらえうる機会はめったに与えられない . 幸いにも , コイ科 ( Cypri ⅲ dae ) のある種で起こった 6 ー PGD 座の重複は , この 色体数が平均 52 の 2 倍体種である . ライン河のニゴイの一種 ? ・い . sb 6 ぉ ミノウ , コイ , 金魚はコイ科の淡水魚である . ような機会を私たちに与えてくれている . ミノウ類の大部分は 2 範の染 体は , 六つの 6 ー PGD のパンド , すなわち A2 , AB2 , AB3 , B 第 B2B3 を示す ( 図 示す . A/A,B3/B2 のような二つの遺伝子座の一つがヘテロ接合である 4 倍体個 な 2 重ホモ接合個体は , 2 倍体のヘテロ接合個体と似て , 三つの酵素バンドを 遺伝子として組み込んだであろう . したがって , 4 倍体種の A / A , B/B のよう 倍体種は , 多分 6-PGD の対立遺伝子であった二つを , ゲノムに別座の二つの 1 で三つの酵素バンド ( A2 , AB , B2 ) を示す ( 図 10 ). ゲノム全体の重複による 4 ( A2 ) の単一 , くンドを形成するが , A/B のようなへテロ接合個体は期待比 1 : 2 : で , 2 倍体種の A / A のようなホモ接合個体はデン粉ゲル電気泳動でこの酵素 多くの対立遺伝子をこの座に保持している . 6-PGD は 2 量体になっているの つもっていて , それぞれの種は 6 ー PGD の電気泳動での変化型を支配している えられる . 多くの 2 倍体種のゲノムは 6-PGD の常染色体遺伝性の遺伝子を一 ゃありふれた金魚やコイは , 100 以上の染色体をもっているので , 4 倍体と考
第Ⅲ部遺伝子重複の意義 のであろうか . 遺伝子重複が起こった後に , 特定の遺伝的制御機構の発達が続 いて起こったときにはじめて , 重複遺伝子はアイソザイム遺伝子となった . 遺 . 伝子の重複が起こり , その重複コヒ。ーの一つに最初の禁制突然変異が生成する という事象が続くと , どのようなことが起こるだろうか . ゲノムは依然として 特定の機能を果たす遺伝子座を一つもっているので , 突然変異した重複遺伝子 の一つがっくる無用のポリペプチド鎖は生物にとってまったく無害である . 事 実 , 突然変異した重複コヒ。ーは今や冗長な遺伝子座となったのである . 自然淘 汰は , 冗長な座を無視し , その上 , 遺伝子内組換えにも助長されて , 自由に禁 制突然変異を次から次へと蓄積していくようになる . その結果として , このよ うに禁制突然変異を蓄積した冗長な遺伝子によってつくられるポリペフ。チド鎖 は , もとの遺伝子がもっていた機能とまったく異なる機能を遂に獲得すること になるであろう . このような方途で , 以前には存在しなかった機能をもつ新し い遺伝子が次から次へと進化途上で出現してきたに違いない . 古い遺伝子の冗 長な重複コヒ。ーからの新遺伝子の創生は , 遺伝子重複が進化途上で演じた最も 重要な役割である . 116 トリフ。シンとキモトリプシンの場合 食物として腸管に入ったタンパク質の消化は , 二つの重要なタンパク質分解 酵素であるトリプシンとキモトリプシンによって行なわれる . これらの酵素は , 膵臓でつくられ , 管を通って腸管に分泌される . 活性トリプシンと活性キモト リプシンはそれらを生産した膵臓細胞を内部から分解して殺してしまうであろ うから , トリフ。シンとキモトリプシンの二つの遺伝子は , 実際には , トリプシ ノーゲンとキモトリプシノーゲンといわれる少し長い不活性のポリペフ。チド鏡 の合成を支配しているのである . トリプシンとキモトリフ。シンとの重要な違いは , これらの酵素がタンパク質 のペプチド結合を切断する座位の特異性にある . トリプシンは , リジンやアル ギニンのような塩基性アミノ酸のカルポキシル末端側でポリペプチド結合を切 り , 他方キモトリフ。シンは , フェニルアラニンやチロシンのような芳香族アミ . 1.
目 次 1. 脊椎動物の祖先であった被嚢類様生物のゲノム量・ 2. 魚類でみられるゲノム量の極端な多様性 a) 直列重複だけによるゲノム量の変化・ b) 直列重複だけに頼ることの無意味さ・ c) 機能的に多様化した重複遺伝子を獲得する方途 としての 4 倍体化の有効性・ d) 陸棲脊椎動物の多系統起原の可能性・ 第 20 章両棲類から鳥類と哺乳類への進化ならびに 爬虫類段階での大自然の実験の突然の終結・・ 1. カエル対サンショウウオ・ 2. 双弓類に属する爬虫類と鳥類・・ 3. 爬虫類の単弓類系統・・ 4. 哺乳類・・ 第 21 章ヒトはどこから由来したのか 1. ゲノム量の均一性と重複遺伝子座の数・ 2. 有胎盤哺乳類の多様化は既存遺伝子座の突然変異 だけに依存していただろうか・ 3. 将来の必要性を先取した進化の機構 訳者あとがき・・ 索引・ XV ・・ 195 ・・ 196 ・・ 200 ・・ 202 ・・ 204 ・・ 205 ・・ 208 ・・ 208 ・・ 211 ・・ 215 ・・ 218 ・・ 221 ・・ 221 ・・ 223 ・・ 226 ・・ 233 ・・ 235