1 % 第 V 部介椎動物ゲノムの進化 端動原体染色体をもっている (Minouchi, 1936 ; Taylor, 1967 ). ゲノム量が極 端に小さいということは現存のホヤ類の普遍的な特性であるので , そのオタマ ジャクシ型幼生が脊椎動物の原型を提供したはずのほぼ 4 億年前のホヤ類様生 物も , やはり同様に少ないゲノムをもっていたと仮定してほぼ間違いないと思 . われる . 現存のナメクジウオの研究をすることによって , 幼形進化によって出現した 最初の脊索動物のゲノムはどのようなものであったかという問いに対する答え をある程度もっことができよう . 頭索亜門のナメクジウオもまた非常に微小の 染色体をもっことで注目されてきた . 日本産のナメクジウォい忸履砌ー ℃んのでは 2 倍体の染色体数は 32 である (Nogusa, 1960 ). ナメクジウオの一種 ス忸履 0 ェお加 eol 観について測定してみると , そのゲノム量は有胎盤哺乳、 類のゲノム量のわずか 17 % であった . すなわち , 半数体の染色体セットは , およそ 0.60X10 ー 9mg の DNA を含んでいる (Atkin & Oh Ⅱ 0 , 1967 ). 後に示すように , 魚類やすべての脊椎動物でみられる最小のゲノム量は , ナ 言い換えれば第 メクジウオのゲノム量とほぼ同じか , わずかに多い程度である . 魚の多種多様な種がもっている最小ゲノム量は , ナメクジウオのゲノム量とそ れほど変わらないということである . このことを根拠として , オルドビス紀も しくはシルル紀のいずれかの時期に起こったホヤ類型生物からナメクジウォ型 生物への幼形進化は , ゲノム量の 2 ~ 3 倍の増加 , すなわち有胎盤哺乳類ゲノ この増加 ム量のおよそ 6 % から 17 % への増加を伴ったと敢えて推察したい . がまったく直列重複だけで達成されたのか , それとも直列重複に 4 倍体性を組 み合わせて達成されたのかということは今のところ解決することはできない . 2. 魚類てみられるゲノム量の極端な多様性 17 の異なる目に属し , 6 種の亜綱を代表する魚類の代表的な種のゲノム量が 表 3 に示されている . すでに議論された原始的な脊索動物のゲノム量も示され ている . 私たちの一連の研究 (Ohno & Atkin, 1966 ; Atkin & Ohno, 1967 ; Ohno ・ 観 . , 1967 ; Muramoto 観 . , 1968 ; Ohno et 観 . , 1969 ; Wolf et 観 . , 1969 ) にお、
第 19 章遺伝子重複に関する大自然の偉大な試み 197 ては , コンデンサーで細胞をおしつぶす装置のついた Deeley 型積算顕微密度 分光計 (Deeley, 1955 ) を用いて , それぞれの種の細胞核内の Feulgen 反応で染 められた色の強さが , ヒトの細胞核の Feulgen 反応で染められた色の強さと比 較された . したがってゲノム量の生のデータは , ヒトのゲノム量の百分率とし て表わされている . ヒトおよび他の有胎盤哺乳類の半数体 DNA 量はおよそ 3.5x10 ー 9mg であるので , それそれの百分率から換算した半数体 DNA 量をも 表 3 に示してある . Hinegardner(1968) も螢光測定法を用いて , いろいろの真 骨魚類のゲノムの大きさについて , かなり広範囲な研究をしている . 多くの種 が Hinegardner と私たち自身によって調べられたが , どの種についても得られ た値はほぼ同じであった . 表 3 に示されている値のうち , 星印の入ったものは Hinegardner によるものである . 表 3 から , 多様な目に属する真骨魚で , 類縁性のほとんどない種が , 脊椎動 物でみられる最小ゲノムをもっていることがわかる . スメルト , ニゴイ , ソー ドティル , カレイ , シタビラメ , タッノオトシゴ , フグなどのゲノムは , 有胎 盤哺乳類のゲノム量の 17 % にすぎないナメクジウオのゲノムよりもやや大き いか , ほぼ同じである . しかし , それぞれの近縁種は非常に大きなゲノム量を もっているようである . たとえば , スメルトもギンザケも同じサケ亜目 (Sal- ・ monoidea ) に属しているが , 前者が最小量のゲノムをもつのに対し , 後者は有 胎盤哺乳類とほぼ同じ大きさのゲノムをもっている . このような違いは同じ属 ニゴイの一種召 s レ佖 20 範佖が最小の大きさのゲ 内ですら見出されている . ノムをもつが , 召い s ? ・ 6 おは表 4 に示すように有胎盤哺乳類の 50% のゲ / ムをもっている . 最小量のゲノムをもっということは , いわゆる。原始的 " ということを意味 しない . 全頭類 , 軟質類あるいは全骨類などのより古い型の魚類のいずれも , ゲノム量はこれほど小さくない . メクラウナギもャツメウナギも , 脊椎動物進 化の中で最も古い無顎状態を代表する例であるが , 共にかなり大きなゲノムを もっている . 表 3 に示されたすべての種のうちで , 総鰭類の系統の数少ない現 . 存種のうちの一つである肺魚は , そのゲノム量が有胎盤哺乳類の 35 倍も大ぎ
第 v 部脊椎動物ゲノムの進化 218 4. 哺乳類 有胎盤哺乳類のいろいろな種のゲノム量を DNA 量の測定から決めようとし た初期の試みは , 多少困惑させる結果をもたらした . DNA の絶対量に再現性 のある値がほとんど得られなかったのである . ウシ精子当りの半数体 DNA 量 は , Mirsky と Ris ( 1949 ) の測定によれば 2.80mgx10 ー 9 であるが , 他方 Leuch- tenberger ら ( 1951 ) は同じ材料で 3.49 mgx10-9 という値を報告している . Mandel と彼の協同研究者ら ( 1950 ) は , ヒト , ウシ , ヒッジ , ブタ , イヌの・ それそれの 2 倍体核はおよそ 7.0mgx10 ー 9 ( 半数体値あるいはゲノム値は 3.5 mg x 10 ー 9 ) の DNA を含んでいて , この値より大きくもないし , 小さくもない ことを明らかにした最初の研究者たちであった . 最近 , Atkins ら ( 1965 ) は , 顕徴分光測光法を用いて , 有胎盤哺乳類におけるゲノムの大きさが一定かどう かという問題を再検討した . 四つの目をそれそれ代表する多様な染色体数をも つ次の 6 種を選び , DNA 量が測定された . すなわち , 霊長目のヒト ( 〃 0 襯 0 、 覊が e 範 s , 2 れ = 46 ) , 食肉目のイヌ ( C 佖 s 血を s , 2 範 = 78 ) ( 図 28 ) , 奇蹄目の ウマ ( E 製 c 勧観 s , 2 れ = 64 ) , 齧歯目のマウス (Mus の sc ん s , 2 れ = 40 ) , ゴ ールデンハムスター (Mesocricetus 観げ佖切 . s , 2 れ = 44 ) , ハイハタネズミ石 c ァ 0 s ego , 2 れ = 17 / 18 ) ( 図 28 ) の 6 種である . ヒト , イヌ , ゴールデンハムスター マウスの間には , ・ DNA 量の有意な差異はなかった . 10 % 低い DNA 量をもつ ハイハタネズミが唯一の例外であった . この種 (Ohno 矼 , 1963 ) は , 有胎盤 哺乳類で最小の 2 倍体染色体数をもっているという点で , 同じ亜科に属する他 のメンバーん 6 施 s lutescens ( 2 れ = 17 ) (Matthey, 1953 ) と同じ特徴を共有して いる . 染色体数のこのような大きな減少は , 転写されない DNA 塩基配列に相ー 当する異質染色質分節の実質的な消失を伴ったと考えられる . ハイハタネズミ で観察された 10 % 低い DNA 量は , このような生活機能に必須でない異質染 色質の消失によって説明できるだろう . 事実 , 有胎盤哺乳類で観察されている ゲノム量の小さな差異 ( 土 10 % 余り ) は , 必須でない異質染色質の量に帰しう るものである . Schmid と Leppert ( 1968 ) はハタネズミ亜科 (Microtinae) に属す る歯類 13 種のうち , ヒトのゲノムより少しだけ大きいゲノムをもつ種は ,
第 V 部脊椎動物ゲノムの進化 に , 倍数体化はもちろんのこと直列遺伝子重複も , およそ 3 億年前のデポン紀 はもとより , さらに最近の時代においても , 何回となく繰り返し魚類で生じた に相違ない . a) 直列重複だけによるゲノム量の変化 ゲノム量の変化が直列重複の繰り返しだけで生じてきたのならば , その変化 は 2 倍体染色体組の全体の様相には , なんら影響を及ぼさなかっただろう . 魚 類の特色の一つに , 非常に類縁性の乏しい種が 48 本の末端動原体染色体から なる非常によく似た核型を示すことがある (Nogusa, 1960 ; Roberts, 1964 ; Post, 1965 ; Ohno & Atkin, 1966 ; Chen, 1967 ; Taylor, 1967 ). 表 3 に挙げられてい るもののうち , メクラウナギ , カリフォルニア産力タクチイワシ ( アンチョビ ) , ソードティル , サンフィッシュ , カレイ , シタビラメなどは , 48 本の末端動 原体染色体をもつものである . ーっは無顎綱に属するが , その他のものは真骨 類の四つの異なる目に属している . 外見上同一の核型にもかかわらず , そのゲ ノム量は , ソードティル , カレイ , シタビラメでみられる 20% 程度の低い値 から , メクラウナギでみられる 80% という高い値まで変化し , サンフィッシ ュの 30%, カリフォルニア産力タクチイワシの 40 % はこれらの中間値を表わ している . これらのものはゲノム量の変化が直列重複だけで達成されてきた系 列を構成しているということは全く明らかである ( 図 25 ). 直列重複だけによってゲノム量が増加したという証左は , 同じ科に属する非 常に近縁な種にも見出すことができる . 表 4 に , コイ科に属する 9 種の魚のゲ ノム量が示されている . 9 種のうち 6 種は 48 から 50 の染色体から構成されて いる核型をもっており , 染色体腕の数は 80 から 90 の間に分布している . けれ ども , そのゲノム量は 20 % という低い値から 40 % という高い値まで変化して いる (Muramoto . , 1968 ; Wolf . , 1969 ). 表 3 で明らかなように , ナマ ズ類 ( ナマズ亜目 , Siluroidea) の 2 種では , ゲノム量はアメリカナマズが 30 % であるのに , ョロイナマズは 125 % という値を示している . この 4 倍もの大き な差異も直列重複に全面的によっていると考えられる . というのは , これまで 調べられたナマズ類のすべては非常によく似た核型をもっており , 2 範 = 54 か
第 20 章両棲類から鳥類と哺乳類への進化 かるように , 二つのグループのゲノム量は , それそれが異なる進化系統に属し ているという事実を反映している . 肺魚の祖先種で起こったのと同じ事態が有尾類でも起こったと考えられる . これら二つのグループにおいては , 直列重複だけでもたらされたゲノムの漸進 的な増加が逆戻りできない値を越した結果 , ゲノムは膨大な遺伝的冗長さを保 持したまま凍結したに相違ない . 有尾類は比較的少ない染色体数 , すなわち 22 という低い値から高くて 38 という染色体をもっという特徴を保有している . しかし , 個々の染色体は非常に大きい (Frankhauser & Humphrey, 1959 ; Don- nelly & Sparrow, 1963 ; Kezer 観 . , 1965 ). 表 5 に示されている 6 種の有尾類 のうち , 最小のゲノムでも有胎盤哺乳類のゲノムの 7 倍であり , 最大のものは 哺乳類のものの 27 倍にも達している (AIIfrey 矼 , 1955 ; Joseph Gall, 私信 ) . アカエライモリ ( “ ? ・忸“ 0 “ s ) は , ゲノム量だけでなく , 2 倍体染色体 数でも , 南米産の肺魚が面 s e れ pa 面紐にかなり似ている . 一方は両棲類 , 他方は魚類のこの 2 種は同じ染色体数をもっているが , この両棲類のゲノム量 は 2780 % であり , この魚類のそれは 3540 % である ( 表 3 と表 5 ). 同じ属 ( ョーロッパイモリⅲげぉ ) に分類される 2 種のイモリは似た染色 体組をもっている . すなわち , トサカイモリ ( T. c s s ) では 2 範 = 24 で , ドリイモリ ( T. の記 esce 烱 ) では 2 範 = 22 である . しかし , 後者のゲノムは前者 のゲノム量のほぼ 2 倍である ( 表 5 ) . 有尾類と肺魚類の双方で , ゲノム量の大 規模な増大はほとんど直列重複によってもたらされたということに疑いの余地 はまったくない . 両棲類の空椎類系統は明らかに脊椎動物進化上の袋小路に入 り込んだ側枝である . 有尾類とは極めて対照的に , 無尾類は全体として妥当な大きさのゲノムを保 持している . 表 5 に列挙されているゲノムのうち , 最小のものは有胎盤哺乳窺 のゲノム量の 40 % であるが , 異腔亜目 ( A Ⅱ omocoela ) に属するヒキガェルの一 種 & んん s は , ヒトや他の有胎盤哺乳類ゲノム量のわずか 20 % のゲ / ムを もっていることが明らかにされている ( KIausRothfeIs , 私信 ) . 20 % という値はあらゆる脊椎動物ゲノム量の最小値を表わし , この大きさ 209
目 次 1. 脊椎動物の祖先であった被嚢類様生物のゲノム量・ 2. 魚類でみられるゲノム量の極端な多様性 a) 直列重複だけによるゲノム量の変化・ b) 直列重複だけに頼ることの無意味さ・ c) 機能的に多様化した重複遺伝子を獲得する方途 としての 4 倍体化の有効性・ d) 陸棲脊椎動物の多系統起原の可能性・ 第 20 章両棲類から鳥類と哺乳類への進化ならびに 爬虫類段階での大自然の実験の突然の終結・・ 1. カエル対サンショウウオ・ 2. 双弓類に属する爬虫類と鳥類・・ 3. 爬虫類の単弓類系統・・ 4. 哺乳類・・ 第 21 章ヒトはどこから由来したのか 1. ゲノム量の均一性と重複遺伝子座の数・ 2. 有胎盤哺乳類の多様化は既存遺伝子座の突然変異 だけに依存していただろうか・ 3. 将来の必要性を先取した進化の機構 訳者あとがき・・ 索引・ XV ・・ 195 ・・ 196 ・・ 200 ・・ 202 ・・ 204 ・・ 205 ・・ 208 ・・ 208 ・・ 211 ・・ 215 ・・ 218 ・・ 221 ・・ 221 ・・ 223 ・・ 226 ・・ 233 ・・ 235
212 有鱗目 Sq 0 佖 キジ目 G 観 ? ・襯ぉ 、ト目 Co 襯碗 fo 忸 es オウム目 召 s c 0 ア忸 es スズメ目 佖工 0 アの ~ es 表 6 双弓類系統の爬虫類 種 アメリカ産力メレオン 0 S ca ? ・ 0 れ召れ S ~ S Ge ア ? ・ん 0 0 こ S I C 佖 ? 佖こ社 S ボア ( 王蛇 ) お 0 佖 CO S こ CtO ア佖 ? れ 0 佖 月ん ro s j 佖 ? ・佖 c 佖 南アメリカ産ハフ・ 南アメリカ産キセノドン 種 ニワトリ Se ア乞れ S C 佖れ佖ア ~ カナリア れん s 厄 c s 2 い記社厄 t s セキセイインコ Col 財忸 6 佖佖 0 忸 es c s カワラノくト Gallus 0 佖 I ん s 面襯 es s 染色体数 ( 2 れ ) ) 内は徴小染色体数 36 ( 24 ) 46 または 48 ( 26 ) 36 (20) 30 ( 14 ) 36 ( 20 ) ( 60 土 ) 土 80 ( 36 ) 土 58 ( 60 土 ) 土 80 ( 60 土 ) 78 ) 内は徴小染色体数 染色体数 ( 2 ? D ゲノム量 60 65 60 67 60 59 44 55 45 ゲノム量 す有胎盤哺乳類の半数体ゲノム量を 18 としたときの半数体ゲノム量 . ア ( & ? 朝 sc の社 s , 2 れ = 80 士 ) の雌の核型とを比べたものである . ガラガラ - 図 27 は , ガラガラへビ ( C sc 佖 s s , 2 れ = 36 ) の雌個体の核型とカナリ 組に存在している . で述べた徴小染色体が , 爬虫類のこのグループと鳥類との両者の 2 倍体染色体 目リ . 早 有鱗目の爬虫類と鳥類とのメンバー間の類似性はゲノム量だけではない . 類のゲノム量は哺乳類ゲ / ムの 44 % から 59 % の間にある ( Atkins 観 . , 1965 ).. ゲ類のゲノム量は有胎盤哺乳類のものの 60 % と 67 % の間に分布しており , 鳥 もう一方では鳥がそれそれかなり均一なグルーフ。を構成している . ヘビとトカ 表 6 からわかるように , ゲノムの大きさに関しては , 一方ではヘビとトカゲ , 、 爬虫類から進化してきたことを思い出しておこう . ら由来するものである . 鳥綱に属するものも , 双弓類系統に属するジュラ紀の うち , 有鱗目のヘビとトカゲ , ワニ目のワニとアリゲーターは双弓類の系統カゝ
152 第Ⅳ部遺伝子重複の機構 に , 自然淘汰は L 鎖と H 鎖との遺伝子の重複の度合の甚だしい不一致を許し てきたのである . 直列重複に関する第 3 番目の , そして多分非常に重大な欠点は , その遺伝子 : 活性を制御する調節遺伝子を重複せずに , 構造遺伝子だけを重複させる傾向が . あるということである . 調節遺伝子産物は拡散性であり , そのため調節遺伝子 座は必ずしもその調節する構造遺伝子座に密に連関している必要はないし , 実 際に連関していない ( 第 14 章 ) . 直列重複が一つの調節遺伝子座の支配下にとどまる限り , 重複したものが異 なった機能を獲得する望みはあまりない . 個体発生過程で機能的に多様化した 重複遺伝子が分別的に使用されるということは , 重複した構造遺伝子のそれぞ れが , 個々の調節遺伝子の重複を伴う場合にのみ生じうる可能性である . この ときにのみ , 構造遺伝子のレセフ。ター部位とその調節遺伝子とは独立の 1 単位 として相伴って進化することができる . 後に述べるように , 肺魚やサンショウウオの場合 , そのゲノム量の莫大な増 加は , 部域的重複によってのみ達成されたと考えられる . 南米産肺魚のゲノム 量は哺乳類のゲノム量の 35 倍もあり (Ohno & Atkin, 1966 ) , アンヒュ (amphiuma, サンショウウオの一種 ) のゲノム量も 28 倍に達している ( MirskY &Ris, 1951 ) . しかし , ゲノム量に比例して非常に多くの機能的に多様化した 重複遺伝子をもっているという何らの証拠もない .Com ⅲ gs & Berger, 1969 ) . 肺魚とサンショウウォ類は , 遺伝子重複を達成させる手段として直列的重複 たけに依存するということの悲劇的結末を明らかに示している . 直列重複した 遺伝子が単一の調節遺伝子座の支配下にとどまる限り , 繰返し直列重複を行 なって , たとえどんなに多くの構造遺伝子のコビーを獲得しようとも , 核小体 オルガナイザーにある 18 S と 28 S の rRNA 遺伝子の多くのコピーが行なって いるのと同様 , 重複されたコビーはただ単に同一の遺伝子産物をより多く生産 するのに役立っているにすぎない ( 第 10 章 ). そのゲノム量が非常に増大する につれて , その細胞の大きさもまた非常に増大した . そこには , それぞれの遺 伝子産物をより多く産生するための明白な必要性があった . 肺魚やサンショウ
195 第 19 章 被嚢類様生物から魚類への進化における 遺伝子重複に関する大自然の偉大な試み 1. 脊椎動物の祖先てあった被嚢類様生物のゲノム量 ほぼ 5 億年前 , カンプリア紀に生存していた種々の無脊椎動物のうち , 被嚢 類 ( ホヤ ) 様生物を経過して最初の脊椎動物を生み出したのは , 単純な着生性の 生物であった . では , これらの未拘束型の生物のゲノムはどのようなものであ ったろうか . 、私は , ゲノムもまた , やっと必須の数の構造遺伝子を含み , 遺伝 , 的冗長さが最小であるような未拘東の状態にあったに相違ないとあえて推量し . たい . このような状態から出発することによってのみ , ひきつづきつくり出さ れる遺伝子重複を利用して , 後生動物の進化の新しい章を書きはじめることが 可能となったのである . 現存の原始的な脊索動物のうち , 太平洋岸に棲むホヤ ( ュウレイボヤ , C 物翹 ) は , 被嚢類亜門 (Tunicata) に属し , 自由に遊泳するオタマジャク シ型幼生を生みだす . 私たちの測定によると , ュウレイボヤのゲノム量は有胎 盤哺乳類のゲノム量のわずか 6 % にすぎない . すなわち , 染色体の半数体セッ トはおよそ立 21X10 ー 9mg の DNA を含んでいる (Atkin & Ohno, 1967 ). イナ ゴのような数種の無脊椎動物は , 哺乳類のゲノム量に相当する位のゲノムをも っているわけだから , このホヤのゲノム量はまことに小さなものである . Boveri(1890) の時代以来 , 現存の原始的な脊索動物は , 幅 1 々以下の細長く , 小さい , 小数の染色体をもっているという特徴が知られていた . ュウレイボヤ ( 2 れ = 28 ) の 2 倍体染色体組は小さい末端動原体染色体を 14 対もっているが , 別の目に属するホヤ ( シロポヤ , & がのは 16 対の同じように小さい末
1 田 第Ⅳ部遺伝子重複の機構 まで転写と翻訳を妨げる . したがって , 誘導物質の存在下でのみ , 遺伝子産物 の適切な量がつくられる . 脊椎動物の第 2 次抑制型制御の作用様式は , 大腸菌 の c オペロン系の抑制型制御の様式によく似ている . 大腸菌の c オペロン系では , のガラクトシダーゼ ( 調節をうける遺伝子の 産物 ) の合成速度はレフ。レッサーのレベルの逆数に比例する (sadler & Novick, 1965 ). 簡単のため , 正常な状態では , 大腸菌は半数体であり , そのゲノムは ーっの調節遺伝子とーっの lac オペロンとをもっているとしよう . 1 : 1 の遺伝 子量比のときには , この系は見事に働くが , この比が 2 倍体細胞でのように 2 : 2 に変わると , 過剰抑制が起こる . 誘導物質が存在しない条件では , 2 倍体 が実際に合成するのガラクトシダーゼ量は半数体より少ないし , さらに つある酵素遺伝子のそれそれによって合成される酵素量が最大になるには , いレベルの誘導物質が必要となる . 哺乳類のように 2 倍体が正常な状態である 生物では , 調節遺伝子と調節をうける遺伝子間の量比は 1 : 2 の方が 2 : 2 より 好ましい状態であろうと考えられる . 実際 , 極端な種間雑種の発生過程におい て , それぞれの構造遺伝子の母親由来の対立遺伝子だけが発現する傾向がある という事実は (Hitzeroth . , 1968 ; Castro-Sierra & Ohno, 1968 ) , 2 倍体生物 にあっては , 母親由来の調節遺伝子だけが働いて , 父親由来の調節遺伝子は休 止状態にあることを意味していると解釈できる . 2 倍体において調節遺伝子と 調節をうける遺伝子との間の実際の量比がどのようなものであっても , 新生し て間もない 4 倍体では調節をうけるすべての遺伝子は , 恐らく過剰抑制のもと におかれているであろうと考えられる . 過剰抑制の実例がマウスの悪性腫瘍形質細胞で知られている . 特定の免疫グ ロプリンをつくっているミエローマを倍数性に従ってクローン化すると , すべ ての 2 倍体クローンは免疫グロブリンの産生を続けるが , 4 倍体クローンでは 半数だけが免疫グロブリンをつくっており , 8 倍体クローンはどれも免疫グロ プリンをつくらないことが見出されている ( cohn , 1967 ). 有用性の乏しい産物 の合成は , 倍数性が高くなるというだけで打ち切られてしまうのである . 恐らく , 高等脊椎動物にみられる 4 倍体接合子の致死性は過剰抑制によるの