mRNA - みる会図書館


検索対象: 遺伝子重複による進化
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1. 遺伝子重複による進化

20 第 I 部塩基間の固有の相補性に基づく生命の創生 理的な過程であった . この分業が確立するや , DNA の片鎖の塩基配列だけカ : まリペプチド鎖の形で物質化されるようになった . このような過程を経て , 漿 核性生物の DNA 環 , 引き続いて真核性生物の染色体が進化したに違いない・ 4. リポゾームの出現 遺伝メッセージの翻訳機構が複雑さを増すに伴い , リポゾームという細胞内 顆粒が新生してきた . 現存のすべての生物においては , tRNA によるメッセン リポゾームはそれぞ ジャーのコドンの解読はリポゾーム上でしか起こらない . れ直径 10 ないし 20 mg のリポ核タンパク複合体である。リポゾームは , 大き さの違う二つのサブュニットが結合した形で構成されている . 真核性生物では , 大きいサフ・ユニットは 60 S の大きさであり , 小さいサフ。ュニットは 40 S であ る ( なおバクテリアなどの原核性生物では , それそれ 50 S と 30 S である ). 、 40 S サブュニットは mRNA を受けとり , 付着させるが , 60 S サプュニットは . 二つの tRNA が結合するくぼみを持っており , 細胞質中の小胞体の膜部に定 着している . mRNA の 5 ′末端近傍がリポゾームと会合して , 初めて , ポリペプチド鎖の・ 合成が開始される . アミノ酸を結合した tRNA はくぼみに位置し , . くばみの 頂にあたる 40 S サフ・ユニット上の mRNA のコドンを識別する . mRNA はテ ープレコーダーのヘッドを通過するように , リポゾーム上を転移するにつれて 読みとられ , ・ペプチド鎖の伸長が起こる . mRNA の 5 ' 末端は最初のリポゾー ムから遊離すると , すぐに第 2 のリポゾームと会合し , 二つ目のポリペフ。チド 鎖の合成が始まる mRNA の鎖停止コドンがリポゾーム上を通過すると , 完 成したポリペプチドの最初のコビーが遊離してくる、一つの mRNA からポリ ペフ。チド鎖の多くのコピーが連続的につくられるので , ある時点では , ーっの mRNA はいくつものリポゾームと会合している . 糸 (mRNA) 上の粒子 ( リポ ゾーム ) からなるこの単位はポリゾーム ( polysome ) と呼ばれている . たとえば , ・ 600 塩基から措築されている mRNA は , 200 アミノ酸残基からできているポリ べプチド鎖を暗号化しており , およそ 8 個のリポゾームと会合している .

2. 遺伝子重複による進化

第 4 章 DNA シストロンの塩基配列の変化としての突然変異 39 ことが生じるだろうか . 変異型チロシン tRNA は UAG を識別し , 伸長過程 にあるポリペフ。チド鎖にチロシンを付加するようになる . UAG はもはやナン センスコドンとして機能しなくなる . ナンセンス変異によって機能を喪失して いた構造遺伝子は , その変異型 mRNA の全塩基配列が再びポリペプチド鎖に 翻訳されるようになり , にわかにその機能が回復することになる . 大腸菌では , チロシン tRNA 遺伝子座に起こったこのような突然変異は , サプレッサー 3 、 ( 覊 3 っとして知られている ( Garen , 1968 ). しかし , このような突然変異は両 刃の剣である . サプレッサーは明らかにナンセンス変異によって機能を喪失し ている構造遺伝子の機能を回復させるが , これと交換に , あるポリシストロン 性 mRNA が UGA を正常な鎖停止の信号としてもちいていれば , この mRNA に転写される連接した二つの遺伝子はきっとサプレッサー変異の影響をこうむ るだろう . ポリシストロン性 mRNA は独立した二つのペフ。チド鎖ではなくて , 単一の長いポリペプチド鎖に翻訳されることになる・ b) 解読をあいまいにする突然変異 正常には , mRNA 中の 5AAG8 ・コドンは , 3 ・ UUC5 ・アンチコドンをもっと考 えられるリジン tRNA によって識別される . もしグルタミン tRNA 遺伝子座 . の突然変異によってアンチコドンが 3 ・ GUC5 ・から 3 ・ UUC5 ・に変わると , どのよ うな事態が生じるだろうか . 多種多様な mRNA にある AAG コドンはリジン tRNA だけでなく , 変異型グルタミン tRNA によっても識別されるように なる . 変異型グルタミン tRNA 遺伝子をもつゲノム中にある構造遺伝子の mRNA が AAG コドンをもっているとすると , その遺伝子は二つ以上の異な るポリペプチド鎖 , すなわちリジンの位置にグルタミンをもっているという占 でのみ差異のあるべプチド鎖をつくるようになり , 解読にあいまいさ ( ambi - guity ) が生じることになる . tRNA のアンチコドンに起こるこのような突然変 異は , 恐らく一つの特定の mRNA だけでなく , 多くの異なった構造遺伝子力、 ら転写されたいろいろな mRNA の解読にもあいまいさをもたらすであろう . ウマ ( E c 佖″佖 s ) は , およびという 2 種の異なるモグロビン化 鎖をつくっている . との唯一の差異は 60 番目の位置のアミノ酸にあっ

3. 遺伝子重複による進化

第 4 章 DNA シストンの塩基配列の変化としての突然変異 35 外の部分は正常な配列をしている . 同じことが , トリフ。レットの插入に対比し て , ーっあるいは連接した二つの塩基の插人についても言える . b) ナンセンス突然変異 突然変異は塩基の欠失や插入としてよりも , より頻繁に塩基置換として起こ っている . ナンセンス突然変異 (nonsense mutation) はペプチド鎖伸長の終止 をもたらすので , 塩基置換のうち最も著しい生物効果を示す変異の一種である . ・ 64 のコドンのうち , 三つが鎖停止コドンとして区別されていたことを思い出 していただきたい ( 表 2 ). 現存の生物ゲノムが産生するどの tRNA 種によって も , UGA, UAG, UAA の三つのコドンは識別されない . mRNA の翻訳は鎖停 止コドンが占める位置で終止する . ナンセンス突然変異は , アミノ酸に対応し ているコドンが鎖停止コドンに変わる塩基置換によるものである . 次のような構造遺伝子を想像してみよう . 遺伝子は 145 個のアミノ酸残基か らなるポリべプチド鎖の生成を支配していて , その mRNA の 20 番目のトリ フ。レットは AAG と読まれる . すなわち , 野生型ポリペフ。チド鎖のアミノ末端 から 20 番目のアミノ酸はリジンが占めている . 1 塩基置換によってこの AAG コドンがナンセンスコドンの UAG に変わると , 変異型 mRNA の翻訳は 19 番 目のトリフ。レットのところで終止し , 変異遺伝子は 19 個のアミノ酸残基から なるポリペプチド鎖の生成を司るだけになる . ポリシストロン性 mRNA として一まとまりに転写される強く連関した遺伝 子群の場合には , 停止コドンをアミノ酸に対応するコドンに変える塩基置換も また顕著な強い効果をもたらすであろう . ポリシストロン性 mRNA は , それ それ特定の機能をもつ二つの独立したポリペプチド鎖に翻訳されずに , ーっの 長いポリペプチド鎖に翻訳されてしまうことになる・ c) ミスセンス突然変異 構造遺伝子に変化をもたらす最も頻繁に起こっている塩基置換は , ポリペフ。 チド鎖の特定の位置に , アミノ酸置換をもたらすものである . たとえば , GUU コドンの GUC コドンへの変化はバリンをアラニンに置きかえる . このような 突然変異はミスセンス突然変異 (missense mutation) と定義されている . ある

4. 遺伝子重複による進化

134 第Ⅲ部遺伝子重複の意義 ーターの塩基配列を識別できないようになる (GiIbert&MüIIer-Hill, 1966 ; Riggs & Bourgeois, 1968 ; Riggs 観 . , 1968 ). このようなやり方で , ラクト ス代謝にかかわる構造遺伝子は , 大腸菌がラクトースの存在する環境におかれ たときだけ , 転写のスイッチが入って , 発現するのである . 哺乳類のチロシンアミノトランスフェラーゼ系の場合も同様に , 調節遺伝子 産物は , インデューサーと結合してアロステリックな配位の変化が起こらない かぎり , 核酸の特異的な塩基配列を識別して結合し , 転写と翻訳を阻害しつづ ける . 大腸菌の厄 c レフ。レッサータンパク質は 2 本鎖 DNA の塩基配列を識別 する . したがって , 転写だけを阻害する . 哺乳類のレフ。レッサーが転写と翻訳 . を同時に止めるためには , DNA シストロンとそれから転写された mRNA の 特定部位を構成している塩基配列とを識別できなければならない . これは恐ら く , レフ。レッサーが 1 本鎖の塩基配列を識別しうるときにのみ可能であろう . 大腸菌のような原核性生物では , mRNA の寿命の半減期は非常に短いので ( 数分のオーダー ) , 抑制性の転写制御だけでも非常に効果的である . 一方 , 脊 椎動物や他の後生動物の場合 , 成体での分裂していない体細胞では , mRNA. の半減期は非常に長い ( 日の単位 ) に相違ない . 脊椎動物が転写と翻訳の制御に 第 2 次抑制性調節機構を使用していることは理にかなっている . 高等生物のか・ らだでは , 個々の体細胞がおかれている環境は個体全体の支配のもとにある・ 基質 ( あるいはその誘導体 ) よりも , むしろホルモンが往々にしてインデ = ーサ ーとして働いているということは驚くにあたらない . ホルモンは酵素やタンパ、 ク質の特異的なインデ = ーサーになりうるし , また組織だった刺激効果をもも ちうる . ホルモンがもっている後者の作用は , サイクリック AMP ( アデノシ ーリン酸 ) によって媒介されていると考えられている . たとえば , イ ンシュリンは細胞膜のアデニル酸シクラーゼを刺激し , その結果多量のサイク リック AMP の生産が起こる . 解糖作用にかかわる多様な酵素のいわば無差別 なインデ = ーサーとして働くのがこのサイクリック AMP なのである (R0bin- son . , 1968 ) . 調節機構の階層の基底では , 完成したポリペプチド鎖の機能はポリペプチド

5. 遺伝子重複による進化

40 第Ⅱ部突然変異と自然淘汰の保守的な本性 て , / ではグルタミンであるが , ではリジンである . このペフ。チド鎖の 24 番目の位置でチロシンとフェニルアラニンの置換が関与している置換型の対立 遺伝子の存在 ( 第 6 章図 6 ) が明らかにされるまでは , ウマのゲノムは , と に対して別々の遺伝子座をもっていると考えてもさしつかえなかった . あ るウマ個体は 24 番目の位置にチロシンかフェニルアラニンのどちらかをもっ ているホモ接合であるが , へテロ接合のウマでは , 24 番目の位置のアミノ酸 に関して 2 種類の鎖を生産している . 最も興味ある事実は , すべてのヘテ ロ接合個体は 2 種ののみならず , も 2 種類つくっていることである . そ れらは , -Phe-Gln-, -Phe-Lys-, -Tyr-G1n-, -Tyr-Lys- である (Kilmartin & Clegg, 1967 ) . 上述の発見について考えられる説明の一つは , との両方がウマのゲノ ム ( 半数体セット ) の単一遺伝子座で決められており , その mRNA の AAG コ ドンの解読にあいまいさがあって , 60 番目の位置にグルタミンまたはリジン のどちらかがとりこまれるとするものである . ウマの鎖の 7 番目や 11 番目 のような他の位置のリジンはグルタミンによって置き変わらないが , このこと は mRNA のこれらの位置のリジンが他のコドン (AAA) で決められていると仮 定すれば説明できる . 種分化の過程で , 現在のウマが実際に 3 ・ UUC5 ・アンチコ ドンをもった変異型グルタミン tRNA のホモ接合体になったとするなら , ウ マがつくるすべての mRNA にある AAG コドンの解読にあいまいさが現われ るであろう . へモグロビン鎖だけでなく , 酵素あるいは非酵素性タンパク質を 構成する他のポリペプチド鎖にも , リジンとグルタミンのどちらかが互換的に とりこまれていることが観察されるに相違ない . tRNA 遺伝子のこのような突 然変異は多様なポリペプチド鎖に広範な破局をもたらすものであり , 恐らく , 生物の正常な発生と両立しないものであろう . ウマのヘモグロビン。鎖での発 見のもうーっの説明は後章で与えられる . tRNA 遺伝子の突然変異についての上述の議論から , 遺伝コードの普遍性に 対する私たちに愛着のある信念は , 暗黙のうちに受けいれられている仮定にも とづいていることをはっきりと理解しなければならない . 生物進化の歴史を通

6. 遺伝子重複による進化

34 第Ⅱ部突然変異と自然淘汰の保守的な本性 誤りは非常にまれにしか起こらないということの証左を与えている . しかし一 方 , DNA 複製機構がこのように正確であるおかげで , 自然淘汰の作用に耐え た新しい変異が , 新しい遺伝形質として存続しうるのであん 本章では , 突然変異のいろいろ異なるタイプを定義し , さらに , ポリペプチ ド鎖の特異性を決める構造遺伝子に影響する突然変異と tRNA 遺伝子に影響 する突然変異とを比較 , 考察することにしよう・ 1. 構造遺伝子の突然変異 a) フレームシフト突然変異 構造遺伝子の定まった機能に最も大きく影響する突然変異のまれなタイプの ーっが , フレームシフト突然変異 (frame-shift mutation) である . このタイフ。 の突然変異は , ーっの塩基あるいは連接している二つの塩基の欠失または插入 によって生ずる . 変異遺伝子から転写された mRNA が翻訳される場合 , 伸長 過程にあるポリペフ。チド鎖は欠失あるいは插入の起こった座位まで正常なアミ ノ酸配列をもっている . しかし , 解読機構はトリフ。レットを単位にしているの で , 変異座位からカルポキシル末端側では , アミノ酸配列が完全に変わってし まって , 野生型ペプチド鎖と変異型ポリペフ。チド鎖とに相同性がほとんどなく なるだろう . スクテリオファージのリ 単一塩基の欠失によるフレームシフト突然変異は , ゾチーム遺伝子座で実際に見出されている . 野生型リゾチーム遺伝子から転写 された mRNA の一部分は -AGU. CCA. UGA. CUU. AUU. ーという塩基 : 配列を もっていて , これは -Ser-Pro-Ser-Leu-Asn- というアミノ酸配列に翻訳され る . 遺伝子に欠失が生じて , 最初の A が変異型 mRNA の対応する座位から失 われると , メッセンジャーは -GUC. CAU. CAC. UUA. ーと解読されるように なり , -VaI-His-His-Leu- ・に翻訳される (Terzaghi 矼 , 1966 ). 構造遺伝子 の欠失の場合 , ーっあるいは連接した二つの塩基の欠失は , 三つの連接した塩 基の欠失より顕著な効果をもたらすという興味ある点を付け加えておこう . ト リフ。レッ - トの欠失は遺伝子産物から一つのアミノ酸欠失を引き起こし , これ以

7. 遺伝子重複による進化

第 2 章 A-T, G-C の相補的塩基対合に基づく核酸の複製 17 田 yX ) はアデ = ン ( A ) の誘導体であるが , A と異なり , U のみならず , C や A とも対合しうる . したがって , ' CGA ' アンチコドンをもつアラ = ン tRNA は 5 ・ GCU3 ・コドンのみを識別するであろうが , 3 ℃ G Ⅱ YX5 ・アンチコドンをもつアラ ニン tRNA は , アラニンの四つのコドンのうち三つ ( GCU , GCC , および GCA) を識別しうる . さらに , 表 2 で三つのコドン (UAA' UAG' UGA) が鎖停にコドン (termina- tingcodon ) と記されていることに注目しよう . このコドンはナンセンスコドン (nonsense cod0 れ ) とも呼ばれている (Kaplan 観 . , 1965 ; Weigert . , 1966 ;. Garren, 1968 ). 大腸菌 ( 桿状腸内細菌 ) のゲノムは , UAA' UAG' UGA の各コ ドンに対合する , 機能をもった tRNA の生成を支配する遺伝子をもっていな いらしい . したがって , 少なくともこの , くクテリアでは , mRNA の塩基配列の ポリペフ。チド鎖のアミノ酸配列への翻訳は , ナンセンス言いかえれば鎖停止コ ドンのところで終止し , その一つ前のコドンで決められるアミノ酸がポリペフ。・ チド鎖のカルポキシル末端となる . 鎖停止の信号は , 長い核酸が一つの長い リペフ。チド鎖に翻訳されるのではなく , 二つ以上の独立なポリペフ。チド鎖に翻 訳されるのに , 明らかに有用である . 現存の生物におけるこのような核酸は , ポリシストロン性 mRNA と呼ばれている (Attardi 観 . , 1963 ). 現存の生物がポリペフ。チド鎖の合成にもちいている 20 種のアミノ酸のうち , メチオニン 1 ) はただーっのコドン (AUG) で決められているという点でユニ ークなものである . 大腸菌の無細胞 ( 0 ) 系における人工 RNA のポリペプ チド鎖への翻訳は , メチオ = ンのコドン AUG が 5 ' 末端にあるとき , 著しく効 率がよくなる . 実際 , 大腸菌が合成するすべてのペプチド鎖ではないとしても , 大部分のものは通常アミノ末端にホルミルメチオニン ( アミノ基がプロックさ れているメチオニン ) をもっている (Marcker & Sangery1964 ; Adams & Capec- chi, 1966 ). この事実から , 大腸菌では mRNA の AUG ー鋭開第台ドン (initia- t ⅲ gc 。 d 。れ ) として働いていると推察される . 生命体の誕生のごく初期から , メ チオニン tRNA はこのユニークな特性を備えていたのであろう . 逆に , 鎖開始 コドンは , ペプチド鎖合成機構の複雑化した装置として , 後に進化したもので

8. 遺伝子重複による進化

第Ⅲ部遺伝子重複の意義 を説明できないことはきわめて明白になってきている . というのは , 進化の大 変化は , 以前になかった機能をもつ新しい遺伝子座の獲得によって可能になる からである . 活性中心部位に起こる禁制突然変異の蓄積があってはじめて , 遺 伝子座はその基本的性質を変えうるのであり , また新しい遺伝子座となるので ある . 絶え間ない自然淘汰の圧力から逃れる手段は , 遺伝子重複の機構によっ てもたらされる . 遣伝子重複によって , 遺伝子座の冗長なコピーが新生する . 自然淘汰はこのような冗長コピーの存在を往々にして無視するし , 無視されて いる間に , 冗長な遺伝子コピーは , それまで不可能であった禁制突然変異を蓄 積し , 以前にはなかった機能をもつ遺伝子座に生まれ変わる . このようにして , 遺伝子重複が進化の主要動因として登場してくるのである . 分子生物学の黎明以前でさえ , Ⅱ alda Ⅱ e ( 1932 ) のような , 先見の明をそなえ た多くの遺伝学者は , 進化において遺伝子重複が果たす役割の重要さを熟知し ていた . しかし , 遺伝暗号の解読機構が解明され , 遺伝子の直接産物に反映さ れている進化的変化を説明しうるようになるまで , 重複がいかに大切であるか を正当に評価することは不可能であった . 重複機構の役割としては , 冗長性をもたらすことによって新しい遺伝子を創 このほかにも生物が重複機構からこう 造することが最も重要なものであるが , むる利益がある . ある生物が物質代謝に必要な特定の遺伝子産物を多量に入用 とするとき , ゲノムがその遣伝子座の複数コヒ。ーをとりこむことでその要求を 満たすことが多々ある . したがって , これは同じ遺伝子産物を多くっくるとい う役割を果たすタイプの遺伝子重複である . 1. rRNA 遺伝子 第 2 章で述べたように , 真核性生物はたった 4 種の rRNA, すなわち 5 S, 5.8 S, 18 S, 28 S rRNA を必要とするだけである . rRNA は種としては少ない 種について , 恐らく幾百ものコヒ。ーをつくっているからである . 普通の体細胞 と会合して起こるのが普通であり , ーっの細胞はそれそれ異なる mRNA 分子 ーっの mRNA の翻訳は数個のリポゾーム が , 多量に生産されねばならない .

9. 遺伝子重複による進化

132 第Ⅲ部遺伝子重複の意義 れていることを意味しているため , 不首尾な意味内容をもっている . したがっ て , いろいろの体細胞タイフ。の分化過程は , 個々の構造遺伝子が慚進的に発現 されなくなることであると度々考えられた . 受精卵は , ゲノムの一部だけが活性化されて , 発生を開始するというのが事 実なのである . 発生初期胚の未分化細胞は特殊化した機能を行なうことなしに 増殖するだけなので , 多くの遺伝子産物を必要としない . これらの遺伝子産物 が母体によって卵の細胞質にすでに貯えられているだけでなく , 胚の核で初期 に転写される遺伝子のセットは , 卵形成過程で活発に発現し , その産物を卵に - 貯えるのに役立った遺伝子と同じ種類のものと考えられている . ウニの胞胚核 で売加加に合成される mRNA は , 母体によって卵細胞質中に貯えられてい る mRNA と同じ種類のものであることが , DNA-RNA ハイフ・リッド法を用い て明らかにされている (Whiteley 観 . , 1966 ; Slater & Spiegelman, 1966 ). 胚分化は休止状態にある遺伝子を選択的に賦活化する過程であって , 活性化 . 状態にある遺伝子を抑制する過程でないことはきわめて明白になっている . 真 核性生物の染色体 DNA 鎖は , なんらかの作用をうけないかぎり , 第 3 章で述 べたように , ヒストン ( 塩基性タンパク質 ) によって非特異的に被われている . したがって , 真核性生物の遺伝調節機構は賦活化型の正の制御を使用しなけれ ばならないと考えられる . というのは , ある構造遺伝子の転写が起こるために は , 調節遺伝子産物が DNA 鎖のこの部分から選択的にヒストンを除去しなけ ればならず , そのあとではじめて RNA ポリメラーゼが DNA に会合し , 転写 が始まるからである . これが真核性生物と原核性生物との根本的な相違点であ る . 原核性生物は非特異的なレプレッサー ( ヒストン ) を用いていないので , 大 腸菌の lac オペロン ( ラクトース代謝オペロン ) 系で明らかになっているように 遣伝調節機構は抑制型の負の制御 ( Jac 。 b & Monod' 1961 ) を原則として使用し ている . 。二つの細胞が同じゲノムをもっているのに , そ Jacob と Monod ( 1963 ) は , れらが合成するタンパク質が異なっているならば , その二つの細胞は相互に分 - 化している " と , 分化を定義している .

10. 遺伝子重複による進化

第 2 章 A-T, G-C の相補的塩基対合に基づく核酸の複製 3. DNA と RNA の分業 あらためて記すほどのことではないが , 現存の生物の遺伝子は二つの働きを ・している . 遺伝子は受精卵に含まれていて , この卵に由来するからだを構成し ているすべての細胞に伝達され , かっ生殖細胞を経て , 次世代を構成するすべ ての子孫に伝達されねばならない . 塩基間の相補性を基にした , 正確なコビー をつくる DNA 複製の機構が , 遺伝子のこの第 1 の働きを可能にしている . の働きに加えて , DNA 分子中に暗号化されている遺伝情報は , 個体発生過程 で , ポリペプチド鎖に解読され , 形質発現されなければならない・この果 個体は核内に存在する遺伝的プログラムに従って形成されるのである . しかし , DNA の塩基配列はポリペプチド鎖のアミノ酸配列に直接翻訳されるわけでは ない . 塩基間に固有な相補性をもちいることによって , DNA の 2 本鎖の片側 がまず RNA (mRNA, tRNA, およびリポゾーム RNA (ribosomal RNA, 略して rRNA ) ) に転写され , mRNA の塩基配列が tRNA によって解読されるのである . このように , DNA と RNA とに機能のはっきりした分業が起こっている . 自 己複製する DNA は遺伝メッセージの保存と子孫への伝達の働きをしており , 丑 NA は DNA に含まれる遺伝メッセージを物質化するさいの中間体として働 いている . しかし , ごく初めの始源期には , 未成熟な生命体の個々の核酸は , 一方では 自己複製し , 他方ではその塩基配列が一つあるいは複数のポリペフ。チド鎖のア ミノ酸配列に翻訳されるという , 2 重の働きをしていたにちがいない . 自己複 製は互いに相補的な二つの塩基配列をつくりつづけるので , これは避けること のできない不経済な過程である . 両塩基配列が tRNA によって解読されると , まったく関連性のないアミノ酸配列をもった二つのポリペフ。チド鎖がっくられ る . ポリペフ。チド鎖の片方が特定の機能に有用であるなら , 他方のポリペプチ ド鎖がまったく関係のない機能にもちいられる可能性はないとはいえないが , 恐らくそのような機会は完全に無に近いだろう . このような系は自然淘汰によ って効率よく組立てを変更・調整しうるものではなかっただろう . したがって , DNA と RNA との分業は , 未成熟な生命体がたどらねばならなかった最も論 19