8.3 レーザー光放射のしくみ 121 るものである . 実際に単一モード発振させるためには , それ相当の工夫が必要であ る . また , 誘導放射量が自然放射量を上まわるためには , ある程度以上のエネルギー 密度ル ( / ル 0 ) が必要である . このエネルギー密度を誘導放射 ( 発振 ) のしきい値 (critical value) とよび , その値は短波長の光ほど大きくなる . それは , ( 8.10 ) 式 にみられるように , 自然放射確率 4 ⅱがレ 03 に比例して大きくなっていることからわ かる . レーザー光が強力であるのは , いままでの説明からわかるように , 多くのモード ( 振動数 ) に分布して放射されているエネルギーを , 1 つないし少数のモードに集中 するからである . 自然放射光のスペクトル幅」レは , 可視光 ( レ ~ 1015HZ ) で」レ ~ 10 凵 Hz くらいで , その中には多数のモードが含まれる . 一方 , レーザー光のスペ クトル幅は」レ ~ 103HZ にすることが可能である . 単位時間 , 単位体積あたりの放射 光の出力は ( スペクトル幅 ) x ( 強度 ) であるから , レーザー光の尖頭出力は自然光の 108 倍にもなる . 1.4 節で述べたレーザー光の特徴は , 上に述べた「放射エネルギーがそこに存在す る光と同期して , 同モードに集中される」ということからすべて説明される .
85 すなわち , とよぶ . 透過光は H 波のみとなる . このような入射角を , Brewster ( プルースター ) 角 H 波の反射係数加は 0 となるので , H 波は 100 % 境界面を通り抜ける . 付録 面での反射損失なしにレーザー発振をさせることができる . プルースター角以外の角 で素子内へ光が侵入するようにしておくと , H 波に対しては反射率が 0 なので , 端 平行な電気べクトルをもつ光 (E 波 ) は端面で反射される . 両端面でプルースター角 の反射率は 0 であり , この光だけが端面を通過して 100 % 素子内へ侵入する . 端面に プルースター角で端面に入射すると , 端面に垂直な電気べクトルをもつ光 (H 波 ) 動する電気べクトルをもっている . これが反射鏡で反射されて端面に返ってくるとき いる . レーザー光発振物質内で発生した光は , その進行方向に垂直な種々の方向に振 プルースター角は , 図 5.9 に示すように , レーザー光発振素子の端面に応用されて 度で光を端面に入射させると , 5.4 節で述べた反射が発生し , 端面での反射損失が生 じ , レーザー発振の妨げとなる . 刊波の電気べク トルの振動方向 プルースター角 反射鏡 レーサー光 V. 1 入射角と反射角 端面 ( 境界 レーサー光発振素子 H 波の電気べク トルの振動方向 図 5.9 レーザー光発振素子におけるプルースター角 反射鏡 プルースター角 図 5.1 において , 入射波 , 反射波ともに媒質 I 内を進むので , 両者の光の速さは等 しい . したがって , AA ・ = CC ・である . △ AA'C' と△ ACC' において , AC' は共通 , / AA ℃ ' = / ACC ・ = 直角である . したがって , △ AA ℃ ' と△ ACC ' は合同で , ZA' AC' = / CC'A である . 住とは境界面と法線のなす角 90 。から / A'AC' または / CC ' A をひいた角であるから , 住 = , すなわち , 入射角と反射角は等しい . これが 反射の法則である .
38 3 章光の波の重ね合わせ c : = Co ん である . これは前頁で述べた可干渉長である . たとえば , 可視光の波長幅」スは約 0.0001nm なので , ( 3.8 ) 式によると , ス = 500 nm の光波に対する可干渉長は約 2.5m となる . p. 36 で紹介した可干渉長約 1 ~ 3m はこれである . 一方 , 極端な例としてはレーザーがある . その振動数幅」レは 103HZ 以下なので , 可干渉長は 300 km にもなる *. 3.2 波自身が次の波の源 ( ホイへンスの小波の原理 ) さて光の干渉の現象は , 日常的にはシャポン玉や水に浮いた薄い油膜の七色に見る ことができる . この現象はきれいなので目を楽しませてくれる . また , めがねやカメ ラのレンズが薄紫や薄緑に色づいているのに気がついたことがある人もいるだろう . これはレンズの表面に誘電物質を薄く蒸着したもので , この章で紹介する多重反射に よる干渉を応用したものである . この膜で眼鏡やカメラのレンズを通る光の損失を軽 減しているのである . 一方 , 世の中を物理的学な目で見てみると , この光の干渉の現 象は , 歴史上非常に重要な 2 つの役割を果たしていて興味深い . 第 1 はヤング ( 3.8 ) 2 次波源 図 3.3 ホイへンスの小波の原理 * すべてのレーザーからのレーザー光の可干渉長が 300m というのでなく , レーザーの種類によっ て可干渉長は異なる . 2 次波 包洛面 : い新しい波面
6 1 章はじめに 害物が大きい場合や光束が太いときといえる . 幾何光学は波動光学の近似であると述べたが , 両者の間には本質的な差もある . そ れは強度 ( 振幅の 2 乗 ) に関してである . 幾何光学はおもに光の道筋を扱うだけなの で , 特別な場合を除いて , 光の強度や発光過程そのものについては問題にしない . 波 動光学では , 光は電場・磁場の振幅の変化を扱うのだから , 光の強度も問題にできる であろうことは推定できる . 事実 , 光の強度を問題にするときには波動光学で扱う ( 1.4 節参照 ). したがって , 反射・屈折現象をその強度を問題にして定量的に扱うに は , 2.1 節で述べるマクスウェル (Maxwell) の方程式の電場 ( お ) , 磁場 ( 〃 ) の 境界面に平行な成分が連続であるとの条件を課して , その解を求めることになる . さ らに , 光の強度を測定するには , 一般に光のエネルギーをなんらかのほかの物理量に 変換する必要がある . したがって , 光はなんらかの物体へ吸収される必要がある . そ の吸収量を温度や電流 , 電圧 , ひずみなどほかの物理量として検出測定する . 物体か らの発光の場合 , 発光も通常は物体内の光以外のエネルギーが光のエネルギーに変化 して放出されるのだから , エネルギーの質の変化 ( 変換 ) が必要である *. したがっ てそれらを論ずるには , 光と物質との相互作用を直接取り扱う , いわゆる光物性ない しは分光学的考察もあわせて必要になる . 6 章以降で扱う光の検出においては , この ような取り扱いをすると同時に , 次節で述べる量子論的扱いも若干取り人れる . 1 . 4 量子光学 近年 , レーザー光が発明されて以来 , 光学の新しい一面がみえてきて , 種々の光学 的現象は若干異なった扱いがされるようになった . ときとして , その扱いは量子光 学 , あるいは光エレクトロニクスなどとよばれる . 通常光学 ( 幾何光学および波動光 こでは簡単にふれ 学 ) と量子光学 ( レーザー光学 ) との差は 8 章で説明するので , るだけにしよう . レーザー光の特徴をひと言でいえば , (a) 単色性がよく ( 振動数が一定 ) , (b) 干渉性にすぐれ ( 一連の波が時間的・場所的に長く続いている ) , (c) 強度 , いいか えれば波長あたりのエネルギー密度が大きい , ということである . これらはすべて同 じことを現象別にいい表しているともいえる . それは , 8 章で扱うレーザー光の発生 こでは , 普通光とレーザー光の可干渉性の 法や発生原理をみればすぐ理解できる . 差について簡単に説明するにとどめる . 波動の特徴として , 強度があまり大きくな が含まれる . * 波長変換過程においても , 非線形効果を利用する方法を除き , 一般にはエネルギーの質の変換過程 く , 現象が線形で扱える範囲では、、重ね合わせの原理 " がなりたっ . すなわち , 2 っ
4 . 11 立体的な像の保存 69 スリットに相当する反射面 ( のこぎりの歯形の溝 ) の数は 105 ~ 6 個になる . 表面 の平らさは光学的平面といって , 凸凹が波長の 1 / 100 ( 約 5X10-6mm ) 程度のきわ めて平らな面である . また , 溝の間隔は 1 m 程度であるから , ちょっとした温度の 変化でも熱膨張で板の寸法が変化し , 溝の間隔が不規則になるので , 板はもちろんの こと , 溝を刻む装置全体を恒温恒湿の部屋に設置して作業を行わなければならない . また , 図 4.16 ( c ) のように , 上面を球の表面の一部の形に研磨し , それに溝を刻ん だものもある . このような回折格子では , 球状表面が回折光を集める効果がある . さて , 図 4 . 16 ( b ) のような回折格子での回折効果を調べてみよう . この回折格子 に白色光を人射させると , 各反射面から① , ② , ③ , ・・・の反射光が得られる . もし , ①と② , ②と③ , ・・・のそれぞれ隣りあう反射光の光路差が 1 波長 ( 応 ) ずつあると , 各反射光の位相が一致し , その方向で波長応の光が強く観測される . 溝の数は 105 ~ 6 個程度あるので , その回折像は非常に鋭い . 白色光の中には , 図 4.16 ( b ' ) の , Ⅲ , ・・・の方 ように波長んの光も含まれていて , 波長ス 2 ずつの光路差のある I , 向で強めあう . この波長応とス 2 の光による回折像の離れ具合 ( 分解能 ) は , 図 4.15 で説明したのと同じである . 4.11 立体的な像の保存 ( ホログラフィー ) ホログラフィー (holography) とは , 立体的な像をつくりだすことである . これ は波面再構成とよばれ , 立体的に情報を記録したり , 将来は立体テレビなどの応用も 考えられているものである . この基本的な考え方は , 1947 年 Gabor により提案され このような立体像をつくりだすためには強力で干渉性のよい光が必要なため , 強力な光のレーザー光が使えるようになるまでは , あまり注意をひかなかった . この方法では , 物体から反射された光の波面をホログラムとよばれる写真乾板に記 録する . ホログラムをつくるには , 図 4.17 ( a ) に示すように , まずレーザー光を 2 つの光線に分割する . 一方の光線で物体を照射し , それからの反射光と , もう一方は 鏡から反射された参照光とよばれる光で , 同時に写真乾板を照射する . 写真乾板に は , 物体からの散乱光と参照光との干渉で複雑な干渉模様が形成される . この乾板上 に記録された複雑な干渉模様がホログラムである . この縞模様に物体の像を再現する ために必要なすべての情報が記録されている . 現像されたホログラムをレーザーからの光線で照射する ( 図 4.17 ( b ) ). このとき 用いるレーザー光はホログラムをつくったときと同じレーザー光でなければならな い . ホログラムを通った回折光の波面は , 物体から反射されたもともとの反射光の正 確な 3 次元の波面の情報を再現している . ホログラムを見ている観測者は 3 次元の像
8 1 章はじめに 位体積あたりに一定の個数あり , それらが移動することによって運ばれるエネルギー である . たとえば , 100W の高圧水銀灯から毎秒放射される光子数は約 6X10i8 個で ある . レ、一ザー光の場合にはエネルギー密度が高く , それは光子数ルが多いことを 意味する . 同時に , それらの光子は位相のそろった波としての性格をはっきり表 す * 1. 光を粒子として扱うと , 光の波としての性格があいまいになるので , それらの 光子の位相がそろうことを議論するのは矛盾しているようにみえる . すなわち , 電気 べクトル E をもち , ェ方向に進む光波 ( 平面波 ) として , E=Eocos ( んェ・エー研十の = Eocos ( んェ・エー 2 応ツ十の ( 1 . 1 ) 」ェ・」んェ >—が要求されるからであ を考えれば , 不確定性原理から」レ・謝ーー 2 兀 ' 4 応 る . これらについては次のように考えれば矛盾のないことがわかる . すなわち , レー ザー光では普通光とは異なり , 光子数 ( 光子の縮重度 ) が大きく , たとえその存 在個数に」のゆらぎがあったとしても , 」 N / くル〉は小さくなる * 2. すなわち , コ ヒーレント状態では , 」 / く > = 1 / くル 1 / 2 〉であるから , →大で」ル / く N 〉→ 0 で ある . すなわち , 光子数の相対的ばらっき数はほとんどなく , あたかも数が確定した ようにみえる . したがって , 一定の波動のようになるので位相も十分正確に決まり , 古典的波と同じように扱えることになってくるのである . 参考までに , 一般にいわれているレーザー光の特徴とその物理的特性を表 1.1 に示 す . レーザー光の特性 単色性 方向性 ( ビームの細さ ) 表 1 . 1 レーザー光の特徴 可干渉性の成り立つ量 時間 空間 エネルギーの集中する量 振動数 波動べクトル 料実際の密度としては下記に示すようにかなり小さいが , エネルギー的には 1 として扱える . * 2 例 : 通常光として空洞放射光を考えると , 1 自由度 ( モード ) あたり配分される光子の平均数は , 7 、 = 6000K , ス = 600nm で , く N 〉 = 7X10 ー 3 である . 一方 , 誘導放射光 ( レーザー光 ) では , その モードの光の場の強さ ( 光子の縮重度 ) 自身に比例して増加し , あるモードのく〉を簡単に 1 以上にできる .
120 8 章レーザー する . このような条件で , ア状態の原子数を / 状態の原子数より多くすることがで き , これらの準位間で負温度状態をつくることができる . 召げ > 劫行十川行であるた めには , ア準位から / 準位への放出遷移確率が低い必要がある . ( 8.4 ) 式からわかる ように , ア準位から / 準位への誘導放出量は , ア準位にある原子数 , と原子がいる 空間中の光密度ル ( ル 0 ) に比例している . 一方 , 自然放射量は・のみに比例してい る . したがって , いったん光が放出されれば , 誘導放出量が自然放出量を上まわるこ とが可能であるし , その上まわる量はル ( んレ 0 ) が大きいほど大きくなる . ル ( ル 0 ) を大きくするためには , 放射された光をこの遷移体系が存在している空 間に閉じ込めておけばよい . これを出現する体系が共振箱である . したがって , 誘導 光 ( レーザー光 ) 放射をするには , 上に述べた負温度の実現のほかに , 共振系の存在 が必要である . 一番簡単な共振系としては , 図 8.3 に示すように 2 枚の鏡を平行に配 置し , 一方の鏡の反射率 (R) を 100 % に , 他方を ( 100 ーの % にし , 6 を小さくして おけばよい . 共振箱中の発光体系から出た光は , 3 章で述べたように両方の鏡の間を 往復 , 干渉し , 定在波を形成する . この定在波場によって誘導放射が増強される . し たがって , 放射される光のモード , 位相は , 形成される定在波のモード ( 振動数 ) お よび位相と一致したものだけになる . さらに , 放射光のエネルギーはそこに形成され た定在波の振動に集中し , 位相も定在波のそれに一致したものになる . 放射量に関す る ( 8.4 ) 式からわかるように , 光の放射量はそのモードの光のエネルギー密度ル ( んレ 0 ) に比例しているので , いま , ある定在波のモードの光がほかのモードに比べて 強ければ , その光のみが強くなる . その極限が単一モード発振レーザーとよばれてい 鏡 : = 100 % レーサー発光体 鏡 :R = ( 100 ーの % レーサー光 定在波 : 実際の 光の定在波の波 数はきわめて多 波長 : 数百 ~ 数千 [ nm ] 図 8.3 レーザー発光に用いる共振器の一例 ( 反射率を大きくとり Q 値を大にする )
8 . 3 レーザー光放射のしくみ 119 ギー密度によらないので , 元は , 原子と光が熱平衡にないときにも使用する ことができる . 固体のときには , エネルギーバンド中の準位をとり , フェルミ分布 1 を用い , 川の代わりに人 ( 1 ー幻 , をの代わりに ( 1 —fi) と して考えればよい . 縮重度 0 はフェルミ分布中に含められる . 8.3 レーサー光放射のしくみ ( 8.6 ) 式を変形すると , 一々 1 n - ざ。乙佐 - kB / 切 ( 8.11) Nt である . 温度 T は正であるから , ーー・ > ー -- - ノーであり , 通常の状態では一こ < ーーーには なりえない . さらに , ( 8.5 ) 式も考えれば , 2 準位間の光の吸収・放出だけで ( 放射 量 ) > ( 吸収量 ) にすることは不可能である . 放射量が吸収量を上まわるようにするた めには , 準位 / と - / の 2 つの準位以外のほかの準位を存在させたり , 光吸収以外の励 起方法 , たとえば原子・分子間の衝突や電気的励起などを用いてを > をにする必 要がある . このように , エネルギーの高い準位にある原子の数が , 低い準位にある原 子の数より多い状態を負温度の状態という . すなわち , レーザー放射を行わせるに は , この負温度の状態を実現させなければならない . 負温度状態を得る方法の一例を図 8.2 に示す . 図のように , 光吸収で / 準位から . / 準位へ励起し , 最初の励起状態を . / 準位につくる . . / 準位に励起された電子は , 無放 射遷移により 2 番目の励起状態アに移る . / から . / を通りアへ遷移する確率召。 , が , アから / への遷移確率 ( 曾 + 員司より大ならば , ア状態の原子数はしだいに増加 、無放射遷移 レーサー放出 : れ 吸収 : ん Et 図 8.2 3 準位レーザーでの光放出模型
1 . 4 量子光学 7 の波が同時刻に同じ場所に来ると , その場所の波の振幅は 2 つの波の振幅を位相を考 慮してたし算したものになるという規則が成立する ( 3 章参照 ). もし , 2 つの波が同 じ振動数でかっ連続して続いているならば , それぞれの波の位相も当然連続して変化 するから , 2 つの波の相対的位相差は一定である . したがって , 合成された波は一定 の初期位相をもった連続した波となる . この現象を干渉という * 1 レーザー光は , 8 章で述べるように , ある光に同期させた形で誘発させた光なの で , 単色性 ( 波長の一定性 ) がよい . また , レーザー光は時間的にも空間的にも長い 一連の波で , かっ位相は連続しているので , 干渉できる時間が長く続き , かっ干渉で きる場所も広い . 波動光学で , レンズによる結像作用や光コンピューティング作用に フーリエ変換・たたみこみによる空間周波数フィルタリング技術をよく用いるが , の方法はレーザー光を扱うときにより有効である . このような解析手段による光学を フーリエ光学とよぶこともある . 一方 , 普通光はランダムに起こる個々の発光の集合なので , 単色性が悪く若干波長 の異なった多くの光を含んでいる . すなわち , 普通光の場合 , 単色光といっても有限 の波長幅をもっている . したがって , ひと続きの波の継続時間が短く , 通常それは約 3 x 10 ー 9 s であり , 一連の光波の長さとしては約 1 m である . そのため , 一定の干渉 効果の継続時間は約 3X10 ー 9s と短く , 通常の観測方法では異なった光源から来る 2 つの波の干渉効果は観測できない . 通常 , 普通光の干渉を観測するには , 3 章で述べ るように , 1 つの波を 2 つに分け * 2 , それらの 2 つの光を干渉させる方法をとらなけ ればならない . すなわち , 1 つの波を分割すれば , もとの波の位相が変わっても , 分 割された 2 つの波の相対位相差は一定なので , 干渉効果としては一定のものが得ら れ , 観測可能となる . 最後に , この本ではほとんど扱わないが , 通常光学 ( 幾何光学および波動光学 ) と 量子光学 ( レーザー光学 ) との相関についてひと言ふれておく . 扱う物質や空間が小 さくなり , 極微の世界に入ってくると , 物質や現象は量子として扱うべきであること はよく知られている . 光も例外ではなく , 粒子性と波動性を有する光子 (photon) として取り扱われる . この光子は質量をもたない . 光が光子として扱われるとき , 振 動数レの光波はエネルギール , 運動量ルな = ん / スの粒子 ( 光子 ) である . んはプランク (Planck) 定数とよばれる作用量子量で , ん = 6.63X10 ー 27 [ erg ・ s ] であ る . 光をこのように扱うと , 振動数レの光波の強度とは , ルのエネルギーの光子が単 料振動数が等しくなくとも干渉は起こる . 振動数が近い場合に干渉により、、うなり " を生じる . この 場合 , 振動数の大きい波が振動数の小さい波で変調された波となる . * 2 波面分割と振幅分割がある .
2 章 光の伝わり方 2.1 透明で均質な物質の中での光の伝わり方 地球から 10 億光年 , 100 億光年離れた銀河や恒星 , あるいは近くではわれわれの 太陽からの光 , さらにもっと身近では懐中電灯や蛍光灯からの光は , どのような形で 空間を伝わってわれわれの目に認識されるのか . また最近では , 7.4 節で述べる光フ ァイバーを使って , 国内の都市間はいうに及ばず , 太平洋や大西洋を越えての国際電 話や通信が盛んに行われている . その光ファイバーは石英 ( 水晶 ) のきわめて細い線 でできていて , その中をレーザー光が伝わっていろいろな信号が送られているのであ るが , 石英のような物質中では光はどのように伝わるのか . 19 世紀後半までは , 光 を伝える特別な物質 ( ェーテル ) が真空や物質を含めた全宇宙に充満していて , それ が光を伝えると考えられていたが , 現在ではその考えは否定されている . 実は , 電磁 波である光が恒星 , 蛍光灯やレーザーなどの光源から , 目 , 光電管などの光検出器ま で到達するには , 恒星と地球間のように何もない ( 実際には , ほとんどないというほ うが正しい ) 真空 * 1 であっても , 水 , ガラスといった物質中であってもさしつかえ ないのである . 電磁波である光は何の介在物 ( ェーテルのような ) がなくても , 真 空 , 水やガラスといった空間を伝わることができる . ただ , 光の通り道にあるそれら の物質と相互作用をするので , 光の通り道によってその伝わり方が異なる現象が現れ る . この章では , そのような光の伝わり方について述べる . 真空以外の媒質 * 2 中では , 光の進む方向によって屈折率 , いいかえると光の速度 が異なったり , 偏光面 ( 2.1.2 項参照 ) が変化したりする場合があるが , こでは , 水やガラスのように光に対する性質が光の進む方向に関係なく一定である , いわゆる 等方的で均質な媒質中での光の伝わり方について考える . また , 媒質中での光の吸収 料恒星間のような真空と思われている空間には , 原子や電子のような素粒子の数はきわめて少ない が , 電磁波が充満していると考えられている . * 2 光が伝わる空間を媒質とよぶ .