2 章 光の伝わり方 2.1 透明で均質な物質の中での光の伝わり方 地球から 10 億光年 , 100 億光年離れた銀河や恒星 , あるいは近くではわれわれの 太陽からの光 , さらにもっと身近では懐中電灯や蛍光灯からの光は , どのような形で 空間を伝わってわれわれの目に認識されるのか . また最近では , 7.4 節で述べる光フ ァイバーを使って , 国内の都市間はいうに及ばず , 太平洋や大西洋を越えての国際電 話や通信が盛んに行われている . その光ファイバーは石英 ( 水晶 ) のきわめて細い線 でできていて , その中をレーザー光が伝わっていろいろな信号が送られているのであ るが , 石英のような物質中では光はどのように伝わるのか . 19 世紀後半までは , 光 を伝える特別な物質 ( ェーテル ) が真空や物質を含めた全宇宙に充満していて , それ が光を伝えると考えられていたが , 現在ではその考えは否定されている . 実は , 電磁 波である光が恒星 , 蛍光灯やレーザーなどの光源から , 目 , 光電管などの光検出器ま で到達するには , 恒星と地球間のように何もない ( 実際には , ほとんどないというほ うが正しい ) 真空 * 1 であっても , 水 , ガラスといった物質中であってもさしつかえ ないのである . 電磁波である光は何の介在物 ( ェーテルのような ) がなくても , 真 空 , 水やガラスといった空間を伝わることができる . ただ , 光の通り道にあるそれら の物質と相互作用をするので , 光の通り道によってその伝わり方が異なる現象が現れ る . この章では , そのような光の伝わり方について述べる . 真空以外の媒質 * 2 中では , 光の進む方向によって屈折率 , いいかえると光の速度 が異なったり , 偏光面 ( 2.1.2 項参照 ) が変化したりする場合があるが , こでは , 水やガラスのように光に対する性質が光の進む方向に関係なく一定である , いわゆる 等方的で均質な媒質中での光の伝わり方について考える . また , 媒質中での光の吸収 料恒星間のような真空と思われている空間には , 原子や電子のような素粒子の数はきわめて少ない が , 電磁波が充満していると考えられている . * 2 光が伝わる空間を媒質とよぶ .
54 き , A: 4 章光の回り込み P: ( a ) フラウンホーファー回折 平面波 図 4.3 2 種類の回折 スリット : S 球面波 ( b ) フレネル回折 ・ P 図 4.4 フラウンホーファー回折とフルネル回折の区別 , 十一わ 2 < ス これらの量の関係が光波の波長スに対して , ( 4.5 ) を満たすとき , 光波の波面は実質的にはほとんど平面波とみなしてよい . すなわち , わ , やだが ( 4.5 ) 式を満たしているとき , このようなスリット S による回折はフ ラウンホーファー回折としてよい . この条件が満たされない場合は , フレネル回折と して取り扱う . 同様のことは小さい遮へい物についてもいうことができる . この場 わは遮へい物の大きさである . ほとんどの現実的な場合 , 回折現象はフラウンホーファー回折が起こるような条件 下で観察または観測される . したがって , 以下の節では , 主として数学的に取り扱い やすい具体的な開口部についてのフラウンホーファー回折について述べる .
3.3 重ね合わせの原理 39 (Young) の干渉の実験とよばれるもので , 光が波の性質をもっていることをはじめ て明らかにし , 光の波動説を確実にしたものである . 第 2 はマイケルソン・モーリー (Michelson-Morley) の実験である . この実験では , とまっている車のヘッドライト からやってくる光も , 動いている車からやってくる光も , 車の速度に関係なく , 光は 一定の速度でやってくるという光速度一定の法則を確かめた . この結果から , われわ れをとりまく世界を物理学的に理解するための理論の重要な柱の 1 っとなった , Ein- stein の相対性理論が提案されたのである . 図 3.3 に示すように , スリット S を通った光は , あたかも池に石を投げたときに できる波紋のように , スリットを中心に円形状または球面状に広がっていくと考えて よい . この波紋の先端部が 2 次波源となって , 2 次波が発生し , その包絡面が新たな 波面となって , このことを順次繰り返し光が進行するというのが , ホイへンス (Huygens) の小波の原理である . この原理を用いて , 干渉や回折の現象 , 屈折率の 異なる 2 つの媒質の境界面での反射や屈折を , 定性的に説明することができる . ホイ ヘンスの原理によるこれらの現象の説明はそれぞれの項で紹介する . 3.3 重ね合わせの原理 光の干渉や回折現象は , 本質的に電磁波すなわち光波の重ね合わせ ( 合成 ) の原理 で理解することができる . 重ね合わせの原理とは , 空間のある点に複数の電場川 , E2, E3, ・・・が作用している場合 , そこの電場 E はこれら複数の電場を表す電気べク トルの和で表されるというものである . これを式で表すと , E = EI 十 E2 十 E3 十・・ である . 媒質中を伝搬する光波を考える場合には , EI, , E3, ・・は種々の光源 ( 3.9 ) ( 原子など ) からの光波による電場である . 磁場についても同じことがいえる . これ らの電場や磁場の振幅は , ( 2.9 ) または ( 2.10 ) 式で表されているように時間的に変 化している . 水や空気のような分極の生ずる媒質内では , 光の強度 , すなわち電場の振幅 E が あまり大きくない光に対しては , それらの光の重ね合わせを考えるとき , ( 3.9 ) 式を 適用してさしつかえない . 電気べクトルの加算について , このように電場の 1 乗に比 例した量だけを加算できる現象を線形現象という . しかし , レーザーのような強力な 光が媒質中を伝搬する場合には , 電場の 2 乗 , 3 乗 , ・・・に比例する分極が引き起こさ れるので , ( 3.1) 式の関係はなりたたなくなり , 非線形現象として知られる現象が発 生する . 以下では , 非線形現象が起こらない程度の強さの光による干渉や回折の現象
光の回り込み ( 回折 ) 4 章 4.1 光の回り込みの取り扱い方 1 章で簡単にふれたように , 池の波紋が岩の陰にまで回り込む現象を回折という . このような現象は池の中の波紋にとどまらず , 日常の生活でも起こっている . たとえ ば , ラジオ波の波長は長いので山の陰でもラジオ放送を聞けるが , テレビの電波は短 いので , 山に邪魔されてその陰では受像できないのはよく知られていることである . 同じ電磁波でも波長が長いと山の陰でも受信され , 短いとなぜ受信されないのか , そ れと似た現象が電磁波である光でも起こる . その理由をこの章では詳解する . 図 4.1 に示すように , 遠くで発生した光や水の波が平面波となって , スリット ( 開 ロ部またはすきま ) や水門にやってきたとする . もし光や水の波が直進する性質しか もっていないと , 矢印 AB で示すように , スリットや水門の開いている部分を通っ 光光光 図 4.1 波動の回折現象
1 . 2 光を波として取り扱う波動光学 3 波面 反射波 波源 図 1 . 2 波の回折現象 小岩 の進行方向 波の回り込み : 回折 しろには波は観測されない . しかし , 小岩から離れた背後では , 岩のうしろにあたる ところでも波が見られる . このことから , 波はある程度物体の背後に回り込む能力を 有することがわかる . この現象を回折という ( 4 章参照 ). 光が回折現象を示せば , 光は波 ( 波動 ) であるといえる . 次節でみるように , 回折現象は物体と波の長さが同 じくらいでないとその効果が顕著にならない . 光の波長は非常に短いので , 回折を直 1 . 4 節で示すように , 光は非常に速く振動す 接観察することはむずかしい . さらに るので , 振動に追いつく測定器がない . したがって , 回折は普通には直接観測できな い . しかし , 干渉という効果を使ったち密な実験をすることによって回折現象が観測 されるので , 光が波動であることがわかる . 物理的に波動とは , 時間に対して周期的に変化するある物理量がある方向に一定の 速度で移動していくものである . すなわち場所を固定して考えれば , 物理量が時間的 に振動しており ( 図 1 . 3 ( a ) ) , 時間を固定して考えれば , 物理量が場所的に変化し ている ( 図 1.3 ( b ) ). 池の波で考えれば , 変化する物理量は水面 ( 水位 ) である . 物理量 (a) 時間ゴ 物理量 (b) 振幅 図 1 . 3 波長 : え 空間 波動
96 6 章光のエネルギー , モーメント , モードおよび強度計測 る . このような温度上昇の現象を利用するのが , いわゆる熱的光検出器であり , 光熱 電対 , ゴレーセル , 光音響検出器がこの型の代表的なものである . 一方 , 励起状態にある電子をそのまま利用する方法を量子型検出器という . この方 式には , 固体の外部光電効果 ( 光電子放出 ) あるいは内部光電効果を直接利用する方 法 ( 無接合型 ) と , 半導体の pn 接合を用いる接合型とに大別できる . 各方式の原理 を簡単に述べる . あるエネルギー以上の光が金属にあたると伝導帯中の電子が外部に放出される現象 を , 外部光電効果という ( 図 6.3 ). フェルミ準位と外部すなわち真空準位とのエネ ルギー差 , いわゆる仕事関数以上のエネルギーの光を電子が吸収すれば , 電子は真空 準位より大きいエネルギーを得て , 光のエネルギーと仕事関数の差の運動エネルギー をもって固体外へ放出される . この現象が外部光電効果 ( 光電子放出 ) である . Cs などある種のアルカリ金属の仕事関数は , 近赤外光領域の光のエネルギー程度である から , 光電子放出を用いて光検出器を作ることができる . この種の検出器の代表的な ものが , 光電管および光電子増倍管 ( フォトマルチプライヤー ) である . 光電管を用 いる場合には , 光電管内の光電子を放出する金属陰極に一 ( マイナス ) , 陽極側に + ( プラス ) 電圧を印加して , 放出された電子を陽極で収集する . そのとき発生した電 流が光子数に比例しているとして , 光強度を計測する ( 図 6.3 ). フォトマルチプラ イヤーでは , 光子の衝突によって金属陰極で放出された電子を高い印加電圧で高速に 加速し , 金属陽極に衝突させる . 高速 , すなわち大きな運動エネルギーをもった電子 は , 金属陽極に衝突した際その運動エネルギーを金属中の電子に与え , そこから複数 個の電子を放出させる . すなわち , 放出電子数が数倍増加 ( 増幅 ) される . この増幅 を繰り返すことにより , 電子数が雪崩現象的に倍増されていくので , 高感度の検出器 になる . その増幅率は 105 ~ 106 にもなる . すなわち , 1 つの光子が金属陰極に衝突 し , 光電子が 1 個発生すると , その 1 個の光電子から 105 ~ 106 個の電子が発生し , これを電流に変えて光強度を測定するしくみである . 光電管の場合には , 光子 1 個で 光電子 1 個しか発生しなかったので , それと比べると , フォトマルチプライヤーは格 段に高い光検出感度をもっている . 固体中を電子が高速で走る場合にも雪崩現象は起 こる . この現象を利用して高感度化した検出器もある . 前頁でも述べたように , 真性半導体では許容帯の最高エネルギー位置まで電子が詰 まっている . 図 6.3 および 6.4 に示すように , その詰まっている許容帯の一番高い帯 を価電子帯という . 価電子帯から禁制帯を隔てたすぐ上のエネルギー帯を伝導帯とい う . 真性半導体を構成する原子より原子価が多いまたは少ない原子を , 不純物として この半導体に導入すると , 価電子帯と伝導帯の間の禁制帯中に不純物準位とよばれる 孤立したエネルギー準位が生じる . 有限の温度では , それらの準位から電子を伝導帯
52 4 章光の回り込み た光や水の波はまっすぐ進むだけで , P 点のような陰の部分では波は観測されない . しかし , 水の場合には , 岩の陰に波が回るのと同じように , 水門の陰にも波紋が広が るのはよく知られている事実である . 水門の陰にも波が広がるのは , 3 章で述べたホ イへンスの原理でも理解できる . 光の場合にも注意深く観察すると , スリットの陰に なっている P 点で光が観測される . この回折現象はわれわれの日常生活では , 望遠 鏡で遠い星を観測するときの像や顕微鏡の像の解像力などに深く関わっている . ま た , 一般的ではないが , 光の波長ごとの吸収率や発光のスペクトル分布を測定する分 光学に用いる回折格子として , 光の回折は重要な役割をもっている . 空間のある点 P で起こっている回折現象を調べることとは , P 点をとりまくあら ゆる方向からやってくる光が P 点にどのように作用するかを検討することである . いいかえると , あらゆる方向から P 点にやってきた光波の重ね合わせを検討するこ とである . 回折現象の定性的な様子はホイへンスの原理で説明できるが , Fresnel と Kirchhoff は P 点に及ばす光の全作用を数学的に取り扱い , フレネル・キルヒホッフ (Fresnel-Kirchhoff) の表式として知られている精密な数学的表現で光回折の原理 を説明した . この章では , その結果を用いて種々の開口部による回折現象を紹介する . 4.2 光の回り込みを表す式 ( フレネル・キルヒホッフの表式 ) 図 4.2 に示すように , 空間のある点 P に及ばす光の作用を考える . 実際の場合に は , P 点を含み , かっ開口部に平行なスクリーン上にどのような光の模様 ( 回折像 ) ができるかを検討することになる . 前節で述べたように , P 点にやってくるすべての 光の作用を考慮しなければならないが , 多くの場合 , 開口部以外は遮へいされている 開 部 (S) 遮へい部 リ ン・ (S) 図 4.2 観測点 P への光の作用
1 . 3 幾何光学と波動光学の比較 5 なるのであろうか . ラジオ波とマイクロ波との差が波長 ( 場所的繰り返しの長さ : 図 1 . 3 ( b ) ) であることはよく知られている . したがって , 光とラジオ波などとの違い も波長が異なるのであろうと推定される . さらに , 太陽の光が虹をつくったり , プリ ズムでさまざまな色に分けられることもよく知られている . これらの事実から , 可視 光は電磁波の一種であり , いろいろな波長の波からなりたっていると結論される . 精 密な実験により , 可視光は波長約 700nm から約 400nm の間の電磁波であり , その 範囲より長波長側や短波長側にも , われわれの目には感じない成分の光があることが 知られている . 可視光より長い波長の光は赤外光 , 遠赤外光 , 一方短い波長の光は紫 外光 , 真空紫外光などとよばれている . 短波長側はさらに波長の短い X 線 , / ( ガン マ ) 線へとつながっている . 各名称を分ける境界波長は定義されておらず , 習慣的な ものである . 電磁波の名称とその振動数 ( = 光速 / 波長 ) , 真空中の波長 , 波数 , ェ ネルギーを図 1.4 に示す . 以上のように , 光を波 ( 波動 ) として扱う分野を波動光学 という . 1 . 3 幾何光学と波動光学の比較 幾何光学と波動光学について述べたが , 光学的現象を観測するとき , どのような場 合に幾何光学で説明できるのか , どのような場合に波動光学的扱いが必要なのであろ うか . 詳しいことは次章以下で明らかになるので , こでは正確さを多少犠牲にして 簡単に述べることにする . 再び池の水面の波を考えよう . 図 1 . 2 で波の回り込みの程度をみると , 岩の前面 ( 波の来る側 ) の水面には , 波長の長い " うねり波”や波長の短い、、さざ波 " などい ろいろな波長の波が混じっているのに対して , 岩のすぐうしろ側の水面では " うねり 波 " しか見えない . 海中の岩に打ち寄せる波を見ると , この現象がより明らかに見ら れる . このことは障害物の大きさに比べて波長が長ければ , 波特有の回り込み現象 ( 回折現象 ) の効果は大きいことを示している . また幾何光学においては , 点として 取り扱う光源は 0 次元であり大きさはなく , 光線は 1 次元であり太さはないとしてい る . しかし , 実在の光の源 ( 光源 ) には必ず大きさが伴うし , 光の道筋には必ず太さ がある . すなわち , われわれが扱う光の道筋は光線ではなく光束である . このような かんげき 光束を , 狭い間隙 ( スリット ) や小穴 ( ピンホール ) を通して波長と同程度までに細 くし , 光線にしようとしても , 回折効果が顕著に表れ細い光の線とはならない *. れらのことから , 光の現象を近似的に幾何光学的に取り扱えるのは , 波長に比べて障 * 実際には回折効果は同じなのだが , 光束が太いと端の効果しか見えないのに対し , 細いと全体の効 果が見える .
4 . 3 回折現象の種類 53 ので , 開口部からの光のみを考えればよい . この系では , 開口部は光源 A から r' の ところにあり , また注目する点 P から r のところにある . このような系を取り扱う出発点は , 次式に示すグリーン (Green) の定理である . ー ( い U ーいい dS 丿ア気い「 ' U ーい「气つ d レ ( 4.1 ) 左辺は遮へい部および開口部を含む面 (S) 上での面積積分 , 右辺はこれらの面で囲 まれた空間 (V) での体積積分である . U とレが光の電場 E を表す波動関数で , ( 4.1 ) 式を満たし , かっ , exp(—iwt) の形の時間の関数であるとする . すなわち , は光源 A から開口部へ向かう球面波の振幅であり , また , れ々 r 十 ~ ) U=UO は開口部から P 点へ向かう収束球面波の振幅とする . 0 ( 4 . 2 ) ( 4 . 3 ) 種々の条件を考慮して , ( 4.1) 式を用いて開口部から P 点に及ばす光の全作用 , すなわち振幅 Up を求めると , Up は次のような簡単な式で表される . Up=C etkrdS ( 4 . 4 ) こで , すべての定数は C に含ませた . また , dS は開口部の微小面積要素である . さて , こでは , 開口部からのみの光を考えているので , P 点での光の作用を求める には , ( 4.4 ) 式の積分は開口部のみで行えばよい . 4.5 節以下で , ( 4.4 ) 式を用いて 具体的な開口部による回折現象を検討する . 4.3 回折現象の種類 回折現象は , 光源から開口部までの距離 r ' と開口部から観測点 (P 点 ) までの距 離 r の長短によって , フラウンホーファー (Fraunhofer) 回折とフレネル (FresneI) 回折の 2 種類に分類されている . フラウンホーファー回折はドおよび r が非常に大 きく無限遠とみなしてもよく , 図 4.3 に示すように , 人射波も回折波もともに平面波 と考えてよいような場合である . 一方 , フレネル回折の場合は , ドおよび r が有限 で , 光源からの光波は球面波 , 開口部からの光波は P 点に向かう収束球面波のよう な場合である . 両回折を区別するはっきりした境界はないが , おおよその目安とし て , 次のように考えてよい . 図 4.4 に示すように , 光源 A からスリットまでの距離を 心スリットから観測点 P までの距離をらスリットの幅をわ ( 《心月とすると
6 1 章はじめに 害物が大きい場合や光束が太いときといえる . 幾何光学は波動光学の近似であると述べたが , 両者の間には本質的な差もある . そ れは強度 ( 振幅の 2 乗 ) に関してである . 幾何光学はおもに光の道筋を扱うだけなの で , 特別な場合を除いて , 光の強度や発光過程そのものについては問題にしない . 波 動光学では , 光は電場・磁場の振幅の変化を扱うのだから , 光の強度も問題にできる であろうことは推定できる . 事実 , 光の強度を問題にするときには波動光学で扱う ( 1.4 節参照 ). したがって , 反射・屈折現象をその強度を問題にして定量的に扱うに は , 2.1 節で述べるマクスウェル (Maxwell) の方程式の電場 ( お ) , 磁場 ( 〃 ) の 境界面に平行な成分が連続であるとの条件を課して , その解を求めることになる . さ らに , 光の強度を測定するには , 一般に光のエネルギーをなんらかのほかの物理量に 変換する必要がある . したがって , 光はなんらかの物体へ吸収される必要がある . そ の吸収量を温度や電流 , 電圧 , ひずみなどほかの物理量として検出測定する . 物体か らの発光の場合 , 発光も通常は物体内の光以外のエネルギーが光のエネルギーに変化 して放出されるのだから , エネルギーの質の変化 ( 変換 ) が必要である *. したがっ てそれらを論ずるには , 光と物質との相互作用を直接取り扱う , いわゆる光物性ない しは分光学的考察もあわせて必要になる . 6 章以降で扱う光の検出においては , この ような取り扱いをすると同時に , 次節で述べる量子論的扱いも若干取り人れる . 1 . 4 量子光学 近年 , レーザー光が発明されて以来 , 光学の新しい一面がみえてきて , 種々の光学 的現象は若干異なった扱いがされるようになった . ときとして , その扱いは量子光 学 , あるいは光エレクトロニクスなどとよばれる . 通常光学 ( 幾何光学および波動光 こでは簡単にふれ 学 ) と量子光学 ( レーザー光学 ) との差は 8 章で説明するので , るだけにしよう . レーザー光の特徴をひと言でいえば , (a) 単色性がよく ( 振動数が一定 ) , (b) 干渉性にすぐれ ( 一連の波が時間的・場所的に長く続いている ) , (c) 強度 , いいか えれば波長あたりのエネルギー密度が大きい , ということである . これらはすべて同 じことを現象別にいい表しているともいえる . それは , 8 章で扱うレーザー光の発生 こでは , 普通光とレーザー光の可干渉性の 法や発生原理をみればすぐ理解できる . 差について簡単に説明するにとどめる . 波動の特徴として , 強度があまり大きくな が含まれる . * 波長変換過程においても , 非線形効果を利用する方法を除き , 一般にはエネルギーの質の変換過程 く , 現象が線形で扱える範囲では、、重ね合わせの原理 " がなりたっ . すなわち , 2 っ