日本人だけの役員会議であれば日本語でなんとなく 通じ合い、あうんの呼吸で切り抜けられたところがあ っただろう。というよりも、わかりにくい表現をして いても、これまでは相手が理解に努めてくれていたの しかし、ゴーン社長のように非常に明快な話を展開 するコミュニケーションカに長けた持ち主と対等にや っていくためには、当人にもゴーン社長のようなきち んとした論理性が必要になってくる。これこそ、 A 役 員がいう「生まれて初めて指摘されたこと」であり、 ゴーン社長が要求する「話のわかりやすさ、論理性」 なのである。 日産は、新入社員から管理職、役員に至るまで、「論 理的な話し方、情報整理の仕方」の研修を導入したが、 それだけにとどまらず社内の昇格試験にまで論理的思 考の診断テストなども整備している。これは社内全体 のコミュニケーションカをアップさせる事例として先 駆的なものであろう。 「話がうまく伝わらない」のは、 ロべただから ? コミュニケーションカ 79
さすが日産は、このコミュニケーションカの重要性 にいち早く気づき、どの企業よりも早くトレーニング を始めた。私は同社の役員研修を担当し、超多忙な役 員の方々に対し、毎週土曜日にプライベートレッスン を 4 時間ていど行なっていたほどだ。 「話がうまく伝わらない」のは、 ロべただから ? ーこにおもしろい話がある。この研修を受け さて、 ていただいている役員の一人 ( 仮に A 役員としておく ) が、非常に興味深いことを私に話してくれた。それは 次のようなことだった。 「ゴーン社長に、『 A さん、アナタの話は何を言いた いのかわからないことがありますね』と言われてしま 。そんなことを言われたのは、生まれ ったんです・・ て初めてでしたよ・・・・・・」 A 役員は米国に赴任したこともあるだけに、その英 語力は十分である。にもかかわらず、 「経営会議の最中に 3 回ですよ、 3 回 ! ゴーンさ んに首を横に振られました。はっきりと、『もっとわか りやすく話してくれないか ! 』というサインだったん ですね」 よく勘違いされるのだが、英語が堪能だからといっ て、人は論理的に話せるわけではない。 77
日産自動車株式会社 ( 以下、日産 ) は、従業員数が 産 約 3 万 30 開人 ( 2006 年 3 月 ) 、管理職だけで実に 248 人 の もいる大企業である。しかし、以前は社員教育にかけ るコスト削減が続き、なんと限りなくゼロに近づいて いた。 ところが 2002 年を境に、社員一人ひとりにかける教 育時間とコストは年々増え続けている。きっかけは、 カルロス・ゴーン社長である。 「話がうまく伝わらない」のは、 ロべただから ? 同社ではゴーン社長の着任をきっかけに、 「仕事の生産性を高め、 コスト削減を図るために、 まずコミュニケーションカを向上させる」 との明確な考えのもと、その向上に力を注いだのであ ーこでいうコミュニケーションカとは、「話の明快 る。 さ、わかりやすさ、論理性、具体的には情報整理の仕 方」のことである。 コミュニケーションカが仕事の生産性を高めるとは、 例えばこのようなことである。 車のシャーシやエンジンなど、自動車重要部品の開 発には通常、数百億円かかるという。また、それに関 わる技術者も数百人以上の規模になる。 これほどの大規模のプロジェクトを進行させる際 各部門では計量担当者、設計担当者たちはそれぞれ各 人の技術を持ち寄り、それらの情報を整理し、情報交 換をし合う・・ といった膨大なやり取りをしなけれ 75
第一に、「頭の中で言いたいこと」がまとまっていな い場合、その人の話は、たとえ日本語であっても聞き 手にはわかりにくいものとなる。つまり、わかりやす い話をするには「頭の中で情報を整理しておく」必要 があるのだ。 一 . 「言いたいことを伝える力や情報整理のスキ ル」の乏しい人は、相手に自分のことをなかなか理解 してもらえないということである。 ということは、 A 役員が学ぶべきスキルは英語力で はなく、論理的な話し方そのものだったのだ。 英語での コュニケーンヨン 必要条件 英語での真の◆ コミュニケーション・◆ 論理 五ロ 十 必要十分条件 A 役員はゴーン氏が参加する会議に出席するごとに 「自分の思いを伝える」という、ごく当たり前のことが 実はどれほど難しいことなのか、そのことを理解し始 めていたようだった。 78