Point> ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化 1 彼は文化の違いを定義する言葉として「ハイコンテ クスト文化とローコンテクスト文化」というものを用 いている。 こで言う「コンテクスト」とは、コミュニケーシ ョンの「共有基盤」のことである。具体的には、人と 人とが互いに理解し合ううえで必要な「言語」「知識」 「体験」「価値観」「ロジック」等を指す。「ハイコンテ クスト文化」では、これらを濃密に共有しており、「ロ ーコンテクスト文化」ではほとんど共有していない。 このように識別すると、各領域におけるコミュニケ ーション・スタイルの違いに気づく。 それを図を参考にしながら説明すると、さまざまな 「共有基盤」を持っている「ハイコンテクスト文化」で なぜ、日本人は論理的に 話すのが苦手なのか ? ーション環境 コュニケ ハコンテクスト イコンテクスト文化 ( コンテクストを濃厚に共有 ) ローコンテクスト文化 ( 言語に依存 ) ドイツ系スイスよ ドイツ スカンジナビア祠 アメリカ フランス イギリス ギリシャ アラブ 中国 日本 97
米国式では、なせ役に立たないのたろうか ? そもそもローコンテクスト文化である米国ではコン テクストを共有していない分、わかりやすい話し方の 基準を決め、それに則った話し方のスキルを身につけ る。これによってコミュニケーションを円滑に進めよ うとするのだ。ディベートやプレゼンテーションの仕 方を学校で教えたり、ロジカルシンキングなどが米国 で作り出されたのもこのためである。つまり、通じに くい環境であるがゆえに、通じやすくするためのスキ ルが必要なのだ。 このように日本のコミュニケーション環境とは正反 対の素地から生まれたスキルをそのまま日本人に持っ てきて当てはめても、役には立たないのは当然である。 論理的に話すための アウトライン・トレーニング ローコンテクストのスキルは そのままでは日本人に 役立たない プレゼン ロジカル シンキング そこで有効なのが、 2 章 (Part2) で紹介した「話 の設計図」を書いて「情報の構造整理」をするという 方法である。これは日本人の文化的な背景 ( ハイコン テクスト文化 / 日本語の特質 ) を考慮し、日本人に合 った方法なのである。
兄や対象に それでは、 ハイコンテクスト文化を持つ日本人は どのようにして 左右されない、 わかりやすく、論理的な コミュニケーション・ス幇司 を習得できるのか それには前述した文化的な特性を考慮に 入れたスキル習得でなければならない。 えばよく耳にする話だが、「米国で開発され た論理的思考法が日本人のコミュニケーシ ョン下手を改善するのには役立たない」と いったことだ
は、言語情報があまり求められない。つまり言葉によ るコミュニケーションが多くなくても意思疎通ができ るということだ。一方、「ローコンテクスト文化」では 「あ・うんの呼吸」は期待できないから、勢い、言葉に よるコミュニケーションが重要になってくる。 そして「わが日本はどうか」と見てみると、世界で もまれに見るハイコンテクスト文化の国であることが わかる。 あ・うん ペチャクチャ ツーといえば 多いハイコンテクスト コミュニケーションの共有基盤の ペチャクチャ 形をかえて言うよ もう 10 回繰り返すよ ほとんどないローコンテクスト コミュニケーションの共有基盤が
なせ、日本人には そんな問題が起きてしまうのか ? ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化 Point1 日本は世界で最もハイコンテクストな社会 Point2 「通じる」ための環境が逆に落とし穴 Point3 「話し方のトレーニング」を誰も受けたことのない国 Point4 しかし、「通じる」ことにも限界が・ Point5 自由な構造の日本語がわかりにくさを生む Poi nt6 相手に理解を委ねる日本語の難点 Point7 び。 2 ション っミュ′・ ケ ュ つニ
2 なせ、日本人には そんな問題が 起きてしまうのか ? ロジツ 「欧米人の話は論理的でわかりやすい」「日本 人の話はわかりにくい」という話を聞いたこ とはないだろうか。これはコミュニケーショ ンやロジックを学ぶときに、日本人にトラウ マのごとく襲いかかってくる。 そんな評価に異論を称える学者がいる。その ような差異は「コミュニケーション能力の優 劣の問題」というよりは、「文化的な違い」 だというのだ。 アメリカの文化人類学者 Edward 工 H 訓が彼の 論文「 Beyond culture 」でそう解説している。
はじめに 私はかれこれ二十数余年の間、企業を対象にした研修 で「ロジック」を教えてきました。 はじめは「英語プレゼンテーション」の方法をそのま ま導入していました。ご存じの方も多いと思いますが、 例の「イントロダクション、ボディ、コンクルージョン」 と情報を整理していくものです。 これはいくら英語を話せる人であっても、伝える順番 を間違えると話が通じなくなるので、「最も効率的な伝え 方のルール」を学ばうというものです。その後、米国か ら輸入された「ロジック」の考え方も取り入れたことが あります。 しかし、結論から言うと、「日本人が日本で使うには肌 に合わない」と感じました。 なぜなら、それらの手法は欧米など、いわゆる「通じ ない文化環境」で使う手法だったからです。「あ・うん」 の呼吸が通じない環境だからこそ、彼らは「簡単なルー ルを共有してコミュニケーションをはかる」ことが必要 であり、その目的に沿ってつくられたものなのです。 ところが、日本人は世界で最も「通じる文化環境」の もとで生まれ、教育を受け、働いています。つまり、そ ういった工夫の必要性を感じる機会がもともと少なかっ
日本人に共通する 「話し方の問題点」とは ? ロたとえ話や事例を積み上げて話を構成する ロ話の先の展開が予想できない ロ短い単語、句、センテンスを用いる ロ重要な内容と瑣末な内容が混在する ロ言葉数が少なく、コミュニケーションに対する意欲が低い ロ質疑応答の直接性を重要視しない ロ話の内容が連鎖的に変わる 口論理的飛躍が許される ロ話の主体性が見えない ロ曖昧な表現を好む ロ結論がはっきりしない ロ相手に理解を委ねる日本語の難点 ロ自由な構造の日本語がわかりにくさを生む ロしかし、「通じる」ことにも限界が・・・ ロ「話し方のトレーニング」を誰も受けたことがない国 ロ「通じる」ための環境が逆に落とし穴 ロ日本は世界で最もハイコンテクストな社会 ロハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化 そんな問題が起きてしまうのか ? なぜ、日本人には
安田正 ( やすだただし ) パンネーションズ・コンサルティング・グループ代表取締役。 1953 年、宮 城県生まれ。 76 ~ 77 年、英国留学。 78 年、神奈川大学卒業。兼松パ ーソナル・サーピス国際文化事業部部長を経て、 90 年に企業向け語 学研修機関 ( 株 ) パンネーションズ・コンサルティング・グループを設立。 自ら講師としても活躍。主な著書として、「会議力」 ( 日本経済新聞社 ) 、 『日本人のための英語プレゼンテーションの技術』 ( いずれもジャパン タイムズ ) 、『ビジネス最前線の英語上達法」 ( 日興企画 ) など多数。 株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループホームページ http//www.pan-nations.co.jp/ 安田正のプログ http 〃 www.pan-nations. CO. jp/mt/ ロジカル・コミュニケー 2007 年 1 月 20 日初版発行 2012 年 7 月 20 日第 18 刷発行 ション⑩ 発行者 発行所 「女日 OT. Yasuda 2 Ⅲ ) 7 杉本淳一 東京都文京区本郷 3 ー 2 ー 12 〒 113 ー 833 齢日本実業出版社 大阪市北区西天満 6 - 8 ー 1 〒 530 ー開 47 編集部谷 03 ー 3814 ー 5651 営業部谷 03 ー 3814 ー 5161 振替開 170 ー 1 ー 25349 http: 〃 www.njg. CO ・ jp 印刷 / 壮光舎 製本 / 若林製本 この本の内容についてのお問合せは、書面か FAX ( 03 ー 3818 ー 2723 ) にてお願い致します。 落丁・乱丁本は、送料小社負担にて、お取り替え致します。 ISBN 978 ー 4 ー 534 ー 04174 ー 6 Printed in JAPAN
しかし、「通じる」ことにも限界が・・・ Point> こうして考えてみると、「ハイコンテクスト文化」と は、効率的なコミュニケーション・インフラが整備さ れたハイウェイ環境ということもできる。じつに素晴 ーこに大きな落とし穴がある。それ らしい。しかし、 は、ハイコンテクスト型のコミュニケーションは、コ ンテクストを共有しあった者どうしの間でしか、その 効率性を保てないということだ。 この環境がちょっと崩れただけで、コミュニケーシ ョンは一気に崩壊してしまう。「通じない環境」に対応 するだけのコミュニケーション・スキルを持っていな いのだから当然といえば当殀だ 急に精緻で効果的な話し方をしなさいと言われても、 具体的には何をどうすれば良いのか想像さえつかない 状態に追い込まれる。 5 なぜ、日本人は論理的に 話すのか苦手なのか ? 1 「通じない環境」に対応する コミュニケーション・スキルがない