少量生産への対応の遅れから、品質不良、納期遅れ、コスト高という三悪が赤字の原因でした が、そこでこの会社の幹部は、同業他社が取り入れている運動の採用に踏み切りまし た。しかし、全社員を巻き込んだこの eao 活動も、この会社の経営を改善するどころか、さ らに経営を悪化させました。 この導入にあたって、一部の幹部からは、 eao 活動のリスクが指摘されていました。 ea o 活動は、現場の不良製品追放とむだの原因追求や改善には有効であるが、現在の赤字はもっ と根源の深いところから生じているのではないか。不良製品の多発、コスト高、納期遅れは、 下請も含めた技術生産体制などの力量が他社よりはるかに劣るのに、製品や市場の重点化をせ ず、何でも作ればよい、売ればよいという経営方針上の無策がもたらした結果ではないか。 e ao 活動によって、これらの戦略上の解決課題が不透明になってしまわないか、という心配で す。経営幹部は、その声を無視して、 eao 活動で社員が責任をもって熱心に仕事をすれば、 すべての問題は解決できると考えました。 しかし、この意思決定が誤まりであったことは、時間が明らかにしました。数年後、企業の 体力に合った商品・市場・技術の集中化でしか苦況は脱却できないと気づいたときには、その 企業は他社に買収され、幹部は退職の勧告を受けることになったのです。 この失敗の原因は eao 活動で改善が進んだ会社もあるが、かえって経営が後退したところ 118
また環境変化に対応しようとしても、その変化のスピードが速いため、対応したときにはす でに手遅れということもしばしばです。たとえば、ある商品がヒットしているので、その消費 者の好みに合わせて、新商品を発売しても、今は売れるとはかぎりません。わずかなタイムラ グの間に消費者の好みが変わってしまうかもしれないからです。 こういう変化の時代に要なのは、世の中の変化に合わせる受身的な姿勢ではなく、自分自 身が世の中を変えていこうという積極的な姿勢です。そしてこの姿勢を支えるのが「夢とイマ ジネーション」です。 昭和四十年代から急成長したセコムという会社があります。この会社は、発足時は「日本警 備保障」という守衛さんの派遣業でした。この当時から、創業者飯田亮氏は security と com- munication を業としたいという新しく巨大な夢をもっていました。ですから、創業間もない頃 ~ からその頭文字をとって、というマークを使っていたのです。同社が他社に先がけ 定て、コンピュータ・システムを使った無人の警備システム網を全国にめぐらせることができた のも、この夢が端緒となっているのです。 纏これらは創業者の話ですが、私たちがとくに参考にすべきは、本田技研が今会社ぐるみで取 り組んでいる新しい試みです。本田技研も、創業者本田宗一郎氏と藤沢武夫氏の夢とビジョン 7 から創られた会社です。彼らの、ホンダの車を通して世界中の人が喜びを抱くことができるよ
③交渉力と意思決定力 交渉力というのは、一言でいえば自己のリーダーシップで利害を調整する力です。その背景 には、利害が対立したときに、どこで妥協するかという意思決定力が常に必要です。 国際的なビジネスでは、この妥協点を見つける意思決定力が重要になります。ここで、国際 的な交渉における意思決定の特殊性を挙げておきましよう。 第一に、日本人同士の交渉より、すばやい意思決定が要求されることです。これは彼らの国 民性もありますし、国際交渉では相手が多様な選択肢をもっているということもあります。た とえば、ある会社を買収しようとするときは、相手は必ず複数の会社に声をかけていると考え た方がいいでしよう。意思決定を遅らせていると、他社に買われてしまうわけです。また技術 べンチャーにするのか、技術提携でいくの 課導入交渉などでも、買収するのか、ジョイント・ へ力、即決していく必要があります。状況が明らかになるまで待とうとしても、相手がなかなか 定待っていてくれないというのが、国際交渉の実情です。 第二には、先を見通した交渉と意思決定をする必要があるということです。国際的なビジネ 繞スでは、当面の有利が将来の不利につながることが多いからです。 上 たとえば、ある技術を導入するのは、当面はいいわけですが、その技術が陳腐化して役に立 たなくなっても、ロイヤリティを払い続けなければならないという将来の不利が発生する危険 183
らない、というものばかりでした。この人たちも、一生懸命案についての情報を求めていたの で、結局他社の後追い調査に終始していたのです。 このチームは、目的設定の重要性に気づいたあと、目的を「自社がこれまで開発をしてきた ある分野のソフト技術の他産業への応用」に絞り、そこに力を集中して、新事業を立ち上がら せました。 このように、プロジェクトを上手に運ぶためには、たえず目的ー目標ー案ーリスク対 応の手法に添って進めていく必要があるのです。 3 会議の効率化 会議というと、時間ばかりかかっていっこうに結論の出ない「小田原評定」になったり、議 題の多さが原因で、すべて中途半端に終わるなど問題点が多いものです。ある会社では、あま りに意味のない会議が多いことから、定例会議はやらない、所要時間を一時間と決め、それを 厳守する、会議の場を会議室だけでなく屋上など思いもよらぬところに設定する、立ったまま 会議をする、昼食時間の直前にする、などの珍案、奇案を採用していると、 しいます。立ったま まやるのは疲れるので、なるべく早く会議を終わらせようと、各自、真剣になるから。昼食直 164
かが要求されているわけです。 モデルなき時代の中で、そういった目的設定を可能にしていくのは、その人のもつ「夢とイ マジネ 1 ション」です。いいかえると「ないものを見る能力」かそういう目的設定を可能にし ます。 こういう「夢とイマジネーション」をもっとも豊かにもっていたのは、戦争直後、焼け野原 から「戦後派企業」を興した数々の経営者たちでしよう。焼け野原に立ちながら、「ここに世 界一の自動車会社を作ろう」と誓った本田宗一郎氏。ペンペン草の生える原つばを見て「ここ に製鉄所を作ろう」と考えた川崎製鉄の西山弥太郎氏などです。 日本の産業が壊滅した戦争直後と、世界一の工業社会を建設した現在とでは、状況は天と地 ほどに違うわけですが、「夢とイマジネーション」か必要という意味では、よく似た時代だと 私は思います。 また、現在、「夢とイマジネーション」が必要なもう一つの理由は、環境の変化が激しいた め、状況分析型のアプロ 1 チだけでは、目的の設定が難しくなっているからです。たとえば、 今は技術の発達スピードが加速度をます一方です。だから既存の技術を組み合わせた商品は、 完成品ができた時点ですでに陳腐化していることもあります。開発している間に、他社が新技 術をシーズにした新製品を考えているかもしれないからです。 186
この結果、新しい事業がいくつか開発され、同時に旧ラインの人たちは少ない人数の中で も、それなりに生産の維持と改善の役割を十分に果たしたのです。間もなく、この事業部は黒 字になりました。同じ事業部長でも、ということを知っているかいないかで、大きな 差が出てしまうのです。 これをしてくれないなど 私たちはよく、会社や上司や、他の部門へのあれをしてくれない、 の不満をいいます。しかし、冷静になって、もし会社や上司や他部門が、自分の不満を全部満 たしてくれたらどうなるかを考えると、ゾッとします。多分そんな会社だったらやはり倒産し てしまうでしよう。本当に必要としていることは何なのか、の要求を明確にすべきで ー ) よ、つ。 現在、情報化社会の中で、仕事は多忙になる一方です。残念ながら、いわれたり、要請され 術 るた目標を全部やる時間はありません。また自分自身やりたいことも全部はやれないのです。し たがって、本当になことだけに集中すべきなのです。それは、本当になの 定か、なぜなのかを考えることが求められます。 何がであるかの判断は、Ⅲ、Ⅳ章で述べた、目的・目標をよく吟味することから出 てくるのです。 149
です。 プロジェクト・メン バ 1 は、即刻対策を見つけるために力をそそぎました。関連会社や外部 の企業での引き受け先はないだろうか、退職金を上積みして勇退を促進する方法はないだろう か、駐車場の管理、守衛、食堂などの軽作業に転換できないだろうか、思い切ってある年齢か 。それぞれの案を追求したのですが、いずれも可能性は小さく、 ら減給できないだろうか 部分的な解決にしかなりません。結局このプロジェクトはあまり成果をあげずに、「オヤジ泣 かすな、行く道じゃ」という名句を残して解散しました。 一方、別の会社では、同じような状況の認識の下で、プロジェクトが発足しましたが、ま ず、案に走ることなく、プロジェクトの目的の確認からスタートしました。「中高年プロジェ クトというか、目的はいったい何なのだろうか」ということです。結局、誰もが年をとるのだ 応し、中高年を単に邪魔物扱いするのはおかしいのではないか。ということで、目的は、「中高 法年の人たちが、年齢が高くなっても、明るく精一杯に能力を高め、発揮できる職場作り」とい 定うことになりました。そのような目的をベースに、関、い事ー寺情報の手順で、状況が分析され 思ました。 意 その結果、実際の仕事を調べてみると、中高年の人々の多くが、会社にとってかけがえのな 1 Ⅵ い重要な仕事を担当しており、むしろ若い年齢層の方が、業務に対する姿勢や自己啓発上まだ
ししすぎではないでしよう。 見ていたといっても、 一方で競争意識はプラス面も多いのですが、あまりに利己的に働くと、大きなマイナスとな ります。たとえば、「この仕事がうまくいきさえすれば、自分は出世できるかもしれない」と いう利己心が働くと、状况が悪化しても、まずプロジェクトの中止という意思決定はできませ ん。コンサルタントをしていると、ときおり体験するのですが、につちもさっちもいかないプ ロジェクトの放棄を提言すると、陰で「よくいってくれた」と感謝されることがあります。要 するに、内部的には放棄したときの担当者の責任が問われるので、誰もそれをいい出せず、ダ ラダラと続いているわけです。 競争心がもっと悪く働くと、「会社のためには必要かもしれないか、これが成功するとライ バルが出世するから反対しよう」などということになります。一見極端な例のようですが、派 カ閥のある会社では日常茶飯的に起こっていることです。こういう会社では、役員会はただ足の 思引っ張り合いの場になって、新しい意思決定はすべてつぶされてしまいます。 定あげくの果てに症状がこうじて、行くところまで行くと、自分以外を全部敵にしてしまいま 思す。個人的にはめずらしいでしようが、組織的にはよくあります。営業部門の長が「商品が売 れないのは、開発体制がなっていないからだ」などというのはその最たる例です。責任転嫁の Ⅲ ためにいっているのならまだしも、これを確信すると贈悪さえ生まれてきます。こうなると意
1 自己の目標管理の改善 多くの企業で、目標管理制度が導入されています。この制度では、まず年間の自分の業務目 標を、会社の方針にもとづいて設定します。次に、その目標に対する具体的な行動計画を、タ イムテ 1 プルの上に展開します。年度末には、その計画がどれだけ実行され、目標を達成でき たのか、自分で評価をします。そして、その結果をふまえて、また来年度の計画を立てます。 この計画と結果については、上司との間にすり合わせのミーティングが行われ、多くの場合に は、能力と業績の評価に反映されていきます。 このように定着したように見える目標管理制度にも、一方で多くの問題が見られます。 ①目標の作り方について ④どうすれば適切な目標が作れるのか分からない ⑥目標を作るときに、どのようにすれば良い情報が手に入るのか分からない 目標の組織内調整について ④上位の目標がどうやって決まったのか分からない ⑥会社の方針と部門目標がマッチングしていない 156
1 思考の手順化 思考の堂々めぐり いろいろな企業の相談を受けていると、こんな悩みをよく聞きます。「プロジェクトかうま く進まない」「会議に時間ばかりかかっていい結論がさつばり出ない」「部門間のコミュニケ 1 ションかいっこ、つによくならない」 こんなとき、当事者たちは真剣に考えているのに、 なぜいいプランが見つからないのでしよう。いちばん多いのは、思考過程が「堂々めぐり」し ているケースです。 たとえば「社員が一生懸命働かない」という問題があったとします。「社員が一生懸命働か 「会社がもう ないのはなぜだ」ー「給料が安いからだ」ー + ・「給料が安いのはなぜだ」・・ー寺 かっていないからだ」ーーす「会社がもうからないのはなぜだ」ーす「社員が一生懸命働かない からだ」 これが「堂々めぐり」の典型です。 なぜ思考の堂々めぐりか起きるかというと、第一は意思決定の目的を明確にしていないこ と、第二には必要な情報を集めていないこと、第三は思考に手順がないからです。 もう少し詳しくお話すると、「社員が一生懸命働いていない」では、意思決定の目的には