きく立ち遅れていました。しかし、「基準」として、一年で他社のレベルを追い抜く開発計画 を立てました。当初はとても無理のように思われましたが、困難な点を挙げていくと、過去の 開発で失敗経験のあるところが今回も難しいことが分かりました。そこで、過去の失敗の原因 を調べて同じことが起きないように計画を立てました。過去の失敗のほとんどが、部門間のコ ミュニケーションの不足から生じていたので、徹底的にそこに手を打ったのです。この計画は 見事に実を結びました。 このように、「基準」をもって考えることは、自分の中で、思考の側面と心理の側面か互い に刺激しあい、思考を確かなものとしていくのに役立ちます。 基準は、個々の意思決定の「目的」そのものではないのですが、「目的」を設定するときの 自分の精神的な支えとして確立しておくべき価値あるヒントです。 ③という尺度を使う 意思決定手順で目標を考えると、複数の目標が出てくることはすでに述べました。たとえ ば、新しくエ場を建設しようとするときには、「優秀な従業員が採用しやすいこと」「水資源が 得られやすいこと」「排水上の問題が処理しやすいこと」「製品の出荷がしやすいこと」「地価 が坪当たり x 円以下」など、数十項目の目標がすぐに出てくるでしよう。 146
盛り込まれたのです。 他社は、この zoe 分析をしておらず、単純に感度を多少上げるレベルでしか 開発を進めていなかったので、富士写真フィルムに追いつくのに一年以上かかってしまいまし このように比較することは、改善のヒントをたくさん提供してくれますが、ただなんでもよ いから比較すればよいというものでもありません。悪いお手本と比較したり、あまりにもレベ ルのかけはなれた相手と比較してみても、有効なヒントは得られないのです。自分の現在のカ 量を前提として、一つ二つ上のレベルぐらいと比較するのがまず最初の手がかりとなるでしょ う。比べ上手になろう、という考え方を常にもっことです。 術比較のもう一つの目的で、共通点の発見ということがあります。日米の経済摩擦が叫ばれ、 る文化の相違が多く語られていますが、よく比較をしていけば共通点も多いのです。経営上必要 跏となる機能は、日米を問わず一緒ですし、その機能を運営していくためのビジネスの仕組み 定も、ほとんどかわりがありません。二国間マネジメントが重要で、相違点の融合が語られてい 思ますが、その前に共通点を認識して共有化していく方が、運営はうまくいくのです。 また、創造性の開発手法に、まったく異なったものから共通点を見つけて、その共通点を軸 に発想を拡大していく手法 ( アナロジー ) があることを先に述べました。たとえば、新しい 135
分析的思考能力は、①現状を正確に理解し、②現状と過去、または過去と将来の因果関係を 明らかにしようと努める能力です。 ①の現状を正確に把握するのに必要な技術は、物事を細分化してとらえることです。「分離」 (separation) と呼んでいますが、物事は分けて見ていけば分かりやすいということになりま す。分けていく過程で、比較するというアイデアを活用すれば、さらに細分化が楽になりま す。あなたが乗用車を買おうとするとき、一つだけの車について性能やデザインを調べようと するよりは、他の一、二の別の車を調べて比較してみると、より多くのチェックポイントに気 づくはずです。分析するときのコツは、まず「分ける」、そして「比べる」ことでしよう。 アウトサイドの欲求をつかむには、単に社会・市場・顧客の欲求を分析すればすむわけでは ありません。その背景にある技術の進歩、競合他社の動き、社会の変化など、周辺の状況につ いても広くつかむ必要があります。また、要所については、深く突っ込んだ理解も必要です。 この広さと深さのバランスを感度よくとった分析の能力が求められるのです。 次の②因果関係については、現在を過去の要因の結果としてとらえる、つまり過去このよう なことがあったから現在こうなっているのだ、という見方や、現在こうなっているのだからそ れが原因となって、将来このような結果が起きるはずである、という見方で、状況をとらえら れる力です。世の中のことは、すべて原因と結果の因果でつながっているのだ、という考え方
イド欲求としての自己実現意志の確立」「両欲求を結びつけるものとしての意思決定プロセス の習得」について述べました。特に意思決定プロセスについては「目的」と「目標」の役割に ついて強調しましたが、ここが本書の最大の狙いであり、第Ⅲ章以下に、事例を使って詳しく 紹介しましよ、つ。 3 意思決定のプロセスと思考能力 意思決定の基礎 意思決定のプロセス自体は、先に述べたように、きわめて簡明です。自己の欲求とアウトサ イドの欲求との接点を目的化し、それに合った「目標」「案」「リスク対応」と思考を展開すれ ばよいのですから、誰にもできるものなのです。 ー・寺「テークバック」・ーを「ダウンスイ はしかし、これはゴルフにたと、んれば、「アドレス」 A 」 ー + 「フィニッシュ」といっているのと同じで、昨日始めた人も、何十年とやっている 定ング」 プロも、同じ手順を踏んでいるのですが、そのクオリティ ( 質 ) には、それぞれのステップ で、比較にならない差があるのです。 アウトサイドのニーズのとらえ方、自己のインサイドの欲求の高め方、意思決定プロセスの
かわる意思決定、「評価」にかかわる意思決定、「情報システム」にかかわる意思決定です。各 プロックに、関連する主な意思決定の細部が示されています。 次に、各プロックを簡単に紹介しましよう。 戦略的意思決定 戦略的意思決定には、まず会社の目的を決定することがあげられます。これは、会社が存在 する理由を述べたものです。なぜ、当社が必要とされているかを、社内外に示すものです。信 条や理念は、この目的を達成する上での行動基準や心構えを述べたものです。戦略を改革する には、たえず社会や経済などの環境を予測しなければなりませんし、それに基づいて、戦略の 指針が設定されていくのです。戦略の指針を定めるのに欠かせない視点が、自社の商品と市場 の範囲を選択することです。今後、長期にどのような市場と商品を基にして経営をいとなむか についての確固たる方針の決定です。その方針が固まれば、それを実現するために、どうして も乗り越えなければならない課題が明らかになります。成功の鍵をにぎる要因を key factors for success ということで、・・と呼びます。これさえ乗り越えれば、目標は達成でき るのです。・・が明らかになれば、ヒト・モノ・設備・技術、そして裏付けとなる資金 など、どの程度の資源が必要かが明確になるのです。
このように、国際的なビジネスの場面では、まず対立点をおそれずに明確化し、それがなぜ そうなっているかの背景を確認し、要因にそった解決策が求められるのです。 日本人は、おおむね了解であれば、細かい点についてはいちいち議論しない習慣がありま す。しかし、この細かい部分が、価値観や文化の上で問題となることがあります。発言の機会 を与えることをつい忘れてしまったことが差別としてとらえられたとか、日曜出勤をしている 人をほめたところ馬鹿にしたと非難されたとか、ちょっとしたことが大きな問題となることが 多いのです。したがって、日ごろから、何が相違点で、何が共通点であるかを冷静に分析する 、い構えをもつようにつとめるべきです。 対立点と共通点を早く見分けるためには、やはり思考のヒントで述べた、分離と zoe の思考技術を身につけることでしよう。どんな分類項目で分けて見たり考えたりするの 、かの手引きを、自分なりに構築しておくことでしよう。人、モノ、金、をさらに細分化してお 定くこともよいでしようし、文化・習置をさらに細分化しておいてもよいでしよう。そして、対 立点が明確になったときには、その背景に対する理解を冷静に行い、自分の意見についても、 繞その背景を具体的に分かりやすく述べられるようでなければなりません。当然、日本の文化に 上 ついての説明が行える勉強も必要です。 179
題です。二人でやっている仕事を一人でやればコストは大幅に下がります。逆に一人が二人分 の仕事をすれば、利益は拡大するのです。 そのために、やるべきことは何でしようか。まず第一に、今やっていることをやめてしまう ことを検討すべきです。次に、今やっていることを、より少ない時間でやれるようにすること です。第三に必要なことは、より付加価値の高い仕事へと、自分の仕事の内容をあげていくこ とです。 業務効率化へのこの三つの対処のために行うべきことは、Ⅱ章で述べた関心事に基づく状況 分析です。効率化したいと思っている対象である自分のまたは部門の業務について、それが実 際にどうなっているのか、またなぜそうなっているのかをしつかりと見つめることです。ある 会社の本社部門での業務効率化で状況分析をしたところ、全事務の四〇 % が資料の検索に使わ れていることが分かりました。誰もが、まさかそんなことはあるまいと思った結果でした。 このような場合に役に立つのが、関心事の手法です。たとえば、「クレーム発生時の顧客か らの資料要求への対応で、一日の半分がとられる」という関心事があがります。そこで、Ⅱ章 で述べた質問で、「本当はどうなっているのか」「なぜそうなっているのか」とくりかえしなか ら事実を見ていくのです。 そうすると「自動車メーカーは、当社品に不良品があると、過去五年間の同種の不良の 170
Ⅵ 上級意思決定者への課題 本章では , さらに高度な意思決定の課題について述べ ています。 まず , これからますます必要になる国際ビジネスマン に必要な対立点・共通点を明確にする技術 , 共通思考言 語の活用 , 交渉力について考えてみましよう。 次に , 経営に欠かせない自分のビジョンのための夢と イマジネーション作りや中心能力の明確化について解説 します。 さらに , どうすれば創造力を発揮できるかについて , 自分の思考の型をやぶる , チャレンジ思考をするといっ たことから考えてみます。
決定ではきわめて重要です。しかも、先ほど述べたような多数の複雑な要素をコントロールし ていかなければならないのです。 私たちの研究結果によると、相対的に良い結論を出し、成功率の高い人は、このプラック・ ボックスといわれる思考過程で、数多くの要素を、上手に処理する考え方や技術を、自分なり に確立しているのです。 " 頭の切れる人〃とは、そのような意思決定の手法を自分なりに磨い ている人のことなのです。 もう一度まとめますと、 「意思決定」 「基本的欲求」 ー・寺・「関心事 , 」 ー↓ , 「行動」 というサイクルで、私たちは毎日考えたり、行動したりしていて、その中で「意思決定」はプ ラック・ポックスで見えにくいが、思い出すことによって田 5 考の手順を確認できる。そして、 その思考の手順は、精密性と効率性という対立する要件をうまく調和させるものでなければな らない。そこには田 5 考の技術が必要だということです。
るのです。 この能力基軸の選択こそ、先に述べたビジョンや夢のコアの部分です。夢やビジョンは、自 分と自分の組織が達成しようとする主体的な目的であり、能力はその芯となるものです。ま た、社会に対し貢献ができるとすれば、このようにして選んだ能力をもとに、社会に対して意 味のある実績を残せたときでしよう。 最近、戦略的経営を推進すべしという声が高まっていますが、これは企業や部門単位で自己 を差別化する能力をはっきりさせよという意味なのです。特定分野の技術開発力なのか、低コ スト型生産能力なのか、販売能力なのか、物流能力なのか、特定の市場の掌握力なのか、資金 能力なのかなど、よって立つべき能力をしつかりさせて、その能力に集中的に資源を配分して いくことを、戦略的経営と呼ぶのです。当然それらの経営をリードしていくのは″リーダ であるし、またその組織の人たちであるから、戦略的な基軸を強い意志としてもっている個人 が、すべての根本として必要とされるのです。 192