7.2 道路地図データベースの利用事例 743 し , 音声や地図表示によって誘導案内を行ったり , テレターミナルや路上ビー コンなどによる移動体通信によって交通情報を受信し , 最適経路の探索や所要 時間の推定を行うことも考えられている . 主なシステム事例として自動車用の ナビゲーションシステムの概要と AMTICS , 路車間情報システムを紹介する . 7.2.1 自動車用のナビゲーションシステム 自動車用のナビゲーションシステムは , 車輛の現在位置を知らせるカーロ ケーションシステムと , 現在位置から設定した目的地への誘導まで行うことの できるカーナビゲーションシステムに大別することができる . 現在実用化され ているシステムでは消防 , 警察 , タクシー会社などの指令業務 , および乗用車 のドライブガイドシステムがあげられるが , いずれもカーロケーション機能が 中心であり , 経路誘導を行う本格的なカーナビゲーションシステムの開発が現 在すすめられている . ( 1 ) システムの概要 本システムは各種センサや電波信号などを利用して , 自動車の位置を検出 し , 車載のディスフ。レイに表示された地図上に展開することで , ドライバに現 在地を知らせるロケーション機能を基本とする . さらに目的地を設定して現在 地からの経路誘導を行う . あるいは , CD ー ROM に収録された情報や , 無線で送 られる交通情報などのダイナミックな情報を適宜取り出すことができる機能な どを備えた車載型の地図情報システムであるといえる . そのシステムの一構成 を図 7.6 に示す . GPS ビーコン CD ー ROM 位置検出 0 ・地図情報 ・案内情報 カーロケーション / 経路誘導 各種案内情報の表示 方位センサ 距離センサ 図 7.6 ナビゲーションシステムの概念
〃 6 7 道路地図データベースの利用事例 を受信する方法もあるが , 自動車用のナビゲーションシステムで採用されてい る例はない . サインポストやビーコンの信号による航法では , 地図の図葉を示す 2 次メッ シュコードとサインポスト設置位置の座標を車載装置に送信する方法によっ て , 容易に精度良く地図上に自車位置を表示できる . GPS 方式では , 衛星から送信される原子時計の時刻信号を受信することで自 車位置の絶対緯度と経度を求めるものである . 受信機側の緯度・経度・高さを求めるためには 3 個の衛星の電波を受信すれ ば可能であるが , 衛星のもっ原子時計と受信機側の時計の誤差を計算するため に , 陸上では 4 個以上の電波を受信しなければ正確な測位ができない . した がってビル街などの遮蔽物が多いところでは測位できない場合がある . 測位誤 差は一般に約 30m 程度といわれている . GPS による測位の概念図を図 7.9 に示 す . 補正前の位置 補正後の位置 メ時間補正用の受信 C ・山 図 7.9 GPS による測位 7.2.2 AMT ℃ s ( 新自動車交通情報通信システム ) AMTICS (Advanced Mobile Traffic lnformation Communication System) は , ナビゲーションシステムを搭載した自動車に対して , 交通管制センターで 収集している交通情報や , 駐車場利用状況 , 気象情報などをリアルタイムに提
7.2 道路地図データベースの利用事例 75 ノ との開発経緯・目的の違い , 各省庁間の調整の遅れなどから , 標準化や基本 データベースの整備が必ずしも順調に進んでいるとはいえない . とりわけ車載 システムにおける地図データベースの世界標準フォーマットの設定などが自動 車ナビゲーションシステムの普及のキーとなると考えられている .
ノ 68 第 7 章 1 . 参考文献 「ナビゲーションシステム用 CD-ROM 地図データ統一フォーマット V 2.0 」 , ナビゲーションシス テム研究会第 1990 2 . 「全国デジタル道路地図データベース標準第 1.1 」 , 日本デジタル道路地図協会 , 1989 3 . 「自動車用ナビゲーションシステムの現状と将来展望」 , 武蔵野書房 , 1991 4 . 「路車間情報システム研究会個別通信部会報告書」 , 道路新産業開発機構 , 1990 5 . 「新自動車交通情報通信システム関西実験報告書」 , AMTICS 関西実験協議会 , 1991 6 . 「移動通信システムハンドブック」 , 電波システム開発センター , 1989 第 8 章 Testing The Digital Cartographic Data Exchange Standard", AM/FM Co れル尾れ ce 刈 John L. Porter Jr. , "AM/FM Standards Committee Status Report : AM/FM lnvolvement in 1989. 4 Stephen A. FoItz, " T な月がなあ AM/FM", AM/FM Co れル〃 ce 刈 Proceedings, Co 〃 / 催 2 〃 ce 刈 Proceedings, 円 89.4 RonaId D. ExIer, ・ 'T 厖 / 襯 0 / Standards 0 れ The AM/FM / れ d try " AM/FM " 厖 d 催 GeograPhic Exchange F 襯砒 " , FICCDC, 1986. 12 "The 月襯催尾〃 C grap ん催 " , Vol 15 , No. 1 コ 988. 1 1 . 久保幸夫 , 「国勢調査と地理情報システム」 , PIXEL No. 96 2 . 3 . 4 . 5 . 6 . 全 2 . 3 . 7 . 建設省国土地理院監修 , 「ティジタルマッヒ。ング」 , 鹿島出版会 , 1989. 4 Proceedings, 1989.4 日本国際地図学会編 : 「地図学用語辞典」 , 技報堂出版 . ータグラフィックス協会編 : 「コンヒ。ュ 日本コンヒ。ュ 1 . 鎌田靖彦 : 「地図情報システム人門」 , 日刊工業新聞社 , 1989 体 1989 ータマッヒ。ング入門」 , 日経新聞社 , 1988
7. 7.1 6.2.2 6.2.3 7.2 8.1 8.2 8 . 3 8.4 8 . 5 4 目次 意志決定支援地域情報システム・・ 消防地図情報システム・・ 道路地図データベースの利用事例 道路地図データベース・・ 7. 1 . 1 7.1.2 7.1.3 7.1.4 1 . 5 7.1.6 7 . 道路地図データベースの概要・・ 道路ネットワークデータ・・ 背景データ・・ 文字・記号データ・・ 付加情報・ 道路地図データベースの構造・・・ 道路地図データベースの利用事例・・ 7 ・ 2 ・ 1 7.2.2 7.2.3 7.2.4 自動重用のナビゲーションシステム・・ AMTICS ( 新自動車交通情報システム ) ・ RACS ( 路車間情報システム ) 将来展望と課題・・・ 8. 標準化の動向 標準化の利点・・・ 標準化の問題・・ 地理情報システムに関わる標準の種類・・ 日本におけるデータ仕様標準化の動向・・・ アメリカにおけるデータ仕様標準化の動向・・ 参考文献 索 引・ ・・・ 122 ・・・ 127 ・・・ 134 ・・・ 134 ・・・ 135 ・・・ 137 ・・・ 139 ・・・ 140 ・・・ 140 ・・・ 141 ・・・ 143 ・・・ 146 ・・・ 149 ・・・ 149 ・・・ 152 ・・・ 154 ・・・ 154 ・・・ 157 ・・・ 161 ・・・ 166 ・・・ 169
7.2 道路地図データベースの利用事例 地物の名称については , 文字列や記号の基準点を設定し , その位置を点情報 として定義する . 地形図のモデル化の概念図を図 7.3 に , ナビゲーションシステム研究会で検 一寸されているデータベースの構造例を図 7.4 に示す . ロロ市 0 / 47 0 0 インターチェンジ ロ 地勢図・地形図 モデル化 図 7.3 地形図のモデル化の概念 このフォーマットではデータベースの構造をディスクラベル , 描画パラメ タ , 地図データの三つに分類している . 地図データについては , ーっの地域に 対し記述密度の異なる複数の組の地図データ ( 図葉 ) を用意しており , この一 組の地図データをビ = ーセットと呼んでいる . 広域 ( 粗 ) から狭域 ( 密 ) まで ABC の 3 ランクに分類している . これは表示装置の分解能のギャップを埋め るためと , ューザが見る範囲をいつでも最適化した地図の状態にして提供する ことを目的としている . さらに , 各ビ = ーセットは , 複数のレイヤから構成さ れている . このレイヤは , 文字記号レイヤ , 背景レイヤ , サービスレイヤの四 つに分類される . このビュ ーセットの概念を図 7.5 に示す . 7.2 道路地図データベースの利用事例 道路地図データベースの代表的利用事例としては , 自動車用のナビゲーショ ンシステムがあげられる . このシステムでは , CD-ROM などの記録媒体に収録
24 定して表示する . 2 地図の表示法 選択は以下のような方法で行われる . ( i ) ( ⅱ ) ( ⅲ ) 利用者による選択 利用者自身が , 見たい図形の種類を選択し , 表示させる . 縮尺による選択 大きな縮尺で表示する場合は , 詳細な図形表示を行い , 小さくなる にしたがって代表的な図形に限って表示する方法である . たとえば , 大きな縮尺のときはすべての家屋を表示し , 小さな縮尺が選択された ときは , 公共施設など , 大規模な建物に限って表示するといったこと が行われる . 地域による選択 たとえば , ある用途地域のなかだけの表示をしたいといった要求に 応えるものである . 住宅地域のなかに , 商業を目的とした建物がどの くらいあるかを調べたいとする . その場合 , 利用者は特定の住宅地域 を選択し , さらに , 商業を用途とする建物を選択して画面に表示させ ることができる . 2.3.2 投影変換表示 ある投影法から別の投影法に変換して表示するものである . 典型的な例とし て透視投影像の表示がある . 地図は普通 , 地上を真上から見ているが , 目的に よっては斜めから見たいことがある . たとえば橋やビルなどの構造物を建てる 場合 , 仮に構造物を地図上において , 景観がどのように変化するかを調べるこ とがある . このような表示には , 座標データは 3 次元的であることが求められ る . 2.3.3 移動表示 自動車に登載しているナビゲーションシステムでは , 常に自車の位置を画面 の中心におき , しかも進行方向を上に見るように地図を移動回転して , 表示す
744 7 道路地図データベースの利用事例 ( 2 ) システムの構成 システムの目的によって構成は変わるが , 現在実用化されているシステムで 温度・振動などの耐環境性が高い構造となっている . 一般的なシステムの構成 これらの機器は一般のオフィス用に比べて車という特殊な条件下を前提に ステムも実用化されている . 専用の CD プレイヤと , 案内情報など付加情報用のフ。レイヤの二台を備えたシ 位置検出の利便性のために GPS ・自立型センサの両方を備えたものや , 地図 品ディスフ。レイに表示する方式が普及している . 自立型センサから検出した位置情報を 5 ~ 6 インチの CRT ディスプレイや液 は一般的に , 地図データベースや案内情報を CD-ROM に収録し , GPS または を図 7.7 に示す . CD プレイヤ CD -ROM 車載用 ディスプレイ CRT/LCD ナビ用 プロセッサ 各種受信機 位置特定装置 距離センサ 方位センサ 各種センサ 図 7.7 ナビゲーションシステムの構成例 ( 3 ) システムの機能 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ コンパス機能 ( 進行方向を示す ) ドライブガイド ( 設定した目的地の方向と距離を示す ) 地図表示 ( ディスフ。レイの地図上に現在位置 , 走行軌跡を表示する ) 自立型経路誘導 ( 設定した目的地までの最適ルートを求め案内誘導す 交通情報受信 ( 渋滞 , 事故などの交通情報を受信し表示する ) 管制型経路誘導 ( 交通情報などを基に経路指示を行う ) 情報提供機能 (CD-ROM や通信を介して案内情報を提供する )
/ 40 7.1 . 5 付加情報 7 道路地図データベースの利用事例 前述した地形図データを補完する付加情報として , 文字・画像・音声による 案内情報などがある . ナビゲーションシステムを実現する上で , この付加情報 は必須ではない 付加情報の例を以下に示す . たり , 地図上の記号を指示することによって検索することができる . や座標位置とポインタなどによって関係づけられており , 名称や目的を指示し のとして採用されている . 一般に付加情報は , 道路の交差点・施設を表す図形 の付加情報は有効であり , 業務遂行の円滑化・ドライブの楽しさを演出するも しかし目的地の決定や , 周辺状況の把握・経路や現在地の確認などにこれら ⑤ ④ ③ ② ① 7.1 . 6 道路地図データベースの構造 ドライブルートなど 季節の祭事や催し物の案内 施設や景観の写真・イラスト 交差点・インタチェンジなどの見取図 要・所在地・電話番号・駐車場有無・料金など ) 名所・旧跡・景観地・スキー場・ゴルフ場・レストランなどの案内 ( 概 るため閉合した図形によるポリゴン構造とする . 物形状は当該領域の境界線の形状で表現し , 領域の判定などの計算を容易にす 湖池沼や公園緑地・行政界などの面的な広がりを有する領域で表現される地 向を有する線分の集合として定義する . 道路や鉄道など線状の地物については , 当該座標系における特定の位置と方 するにあたっては , 点・線・面の図形要素によってモデル化を行う . は , カーナビゲーション機能の実現が難しい . したがって地形図などを数値化 減などを考慮すると , 地形図に表現された全項目をそのまま数値化したもので 道路のネットワーク化 , 水域などの領域の定義 ( ポリゴン化 ) , データ量の削
はじめに コンヒ。 ータマッピングまたは地理情報システム (GIS) , AM/FM といった 言葉が聞かれるようになって , すでに 10 年以上経過している . 今日では , 国 , 自治体 , 公益企業その他 , 多くの組織がこの技術を利用して , 自らの業務を行 いつつある . また , 自動車のナビゲーションシステムのように , 個人の生活に もこの技術が活かされ始めた . しかし , いまだ多くの問題を残しているのが現状である . まず , 紙を媒体に してきた地図をディジタルな媒体上に記録するためには , 従来の地図作成方式 を大幅に変更しなければならない点があげられる . 地図生産者は新しい設備投 資と生産方式の確立を目指さなければならない . 一方利用者は , 地図データと そのほかの情報を有機的に管理し利用する , 全く新しい仕組みを構築しなけれ ばならなくなる . また , 各機関がそれぞれの目的のためにシステム開発を行う ことが多いので , 地図データやソフトウェア等に互換性がなくなり , 多額の費 用をかけて開発したシステムを他の目的に流用することが困難になる . しかし , これらの問題に対しては , データ入力の自動化 , データ交換フォー マットの標準化 , 基本的なシステムの標準化 , 複数機関による共同利用システ ムの開発等 , さまざまな取り組みがなされている . 本書は , 現在急速に進歩しつつあるコンピュ ータマッヒ。ング技術について , その基礎から応用に至るまで幅広い解説をしている . ます第 1 章ではどのよう にしてこの技術が成立してきたかを述べ , その特徴を説明する . 第 2 章では地 図を表示するために必要な基礎知識について解説する . 第 3 章では地図データ ータの中でどのように記述し管理するかを説明する . 次に第 ヾース、をコンヒ。ュ 4 章では , 地理データベースの作成方法について , 紙地図のディジタイズ法 ( 手動 , 自動 ) を中心に解説する . 空中写真測量の技術を応用した , ディジタ ルマッヒ。ングの手法についても触れる . 第 5 章では , 行政情報システムを例に とり , 行政におけるシステム開発という観点から事例の紹介をしている . 第 6