だ内山保さんだった。 内山さんは加藤の写した一家の写真を大切に持ち、加藤を探して いた。やっと住所を突き止め、懐かしさをしたためたのである。こ れが縁で一一人の交流が続くカー 、、たずら盛りの少年は商工会長に成 長していた。その後、月の沙漠記念像や記念館が整備されたのは内 山さんらの尽力だ。 ところで加藤は記念像を見た女学生から「王子さまとお姫さまは それからどこへ行ったのですか」と問われ、「僕も知らないんです」 ととばけている ( 昭和五十一一年九月「月刊絵本」 ) 。 記念館では二十一世紀を迎えるにあたりこの問いかけを全国に発 し、絵画を一般公募した。大賞に選ばれたのは「サタン大陸横断中」 ( 池田忠利氏 ) という抽象的な作品。 地図にルーべをかざして見えた二人はまだ、とばとばと孤独の旅 を続けていた。

北原白秋記念館 福岡県柳川市大字沖端町 55-1 TEL. 0944-73-8940 9 ℃ 0 ~ 17 : 00 年末年始休館 「この道」「待ちばうけ」などの作詞で 知られる北原白秋ゆかりの品々を展示 佐佐木信綱記念館 三重県鈴鹿市石薬師町 1707-3 TEL. 0593-74-3140 9 : 00 ~ 16 : 30 月・第三火・年末年始休館 「夏は来ぬ」の作詞者、佐佐木信綱の 遺品や資料を展示。生家も開放 サトウハチロー記念館 岩手県北上市立花 13-67-3 TEL. 0197-65-5401 10 : 00 ~ 15 : 00 ( 12 月 ~ 2 月 ) ~ 17 : 00 ( 3 月 ~ 11 月 ) 1 2 月 30 日 ~ 2 月 7 日休館 「かわいいかくれんぼ」などの作詞者・ サトウハチローの生涯を振り返る記念館 佐藤義美記念館 大分県竹田市大字竹田 1735 TEL. 0974-63-2650 9 : 00 ~ 17 : 00 月・祝日の翌日休館 「いぬのおまわりさん」の作詞者・ 佐藤義美の遺品を彼の旧居を再現して展示 高野辰之記念館 長野県下水内郡豊田村大字永江 1809 TEL. 0269-38-3070 9 : 00 ~ 1 7 : 00 月・祝日の翌日・年末年始休館 「ふるさと」「春がきた」「おほろ月夜」 などの作詞者・高野辰之の遺品を展示 唱歌・童謡 ゆかリの記念館 東村童謡ふるさと館 群馬県勢多郡東村大字座間 367-1 TEL. 0277-97-3008 9 : 00 ~ 17 : 00 2 月 20 、 21 、 22 日休館 「うさぎとかめ」「キンタロウ」などの 作詞者・石原和三郎の自筆原稿などを展示 おほ ' ろ月夜の館 長野県下高井郡野沢温泉村豊郷 TEL. 0269-85-3839 9 : 00 ~ 17 ℃ 0 月 ( 祝日の場合は翌日 ) 休館 「おぼろ月夜」の作詞者・高野辰之の原稿、 遺品、収集品などを展示 霞城館 兵庫県龍野市龍野町上霞城 30-3 TEL. 0791-63-2900 9 ℃ 0 ~ 17 ℃ 0 月・祝日の翌日休館 「赤とんほ」の作詞者・三木露風の遺品 などが展示されている 156

157 野口雨情記念館 茨城県北茨城市磯原町機原 130-1 TEL. 0293-43-4160 9 : 00 ~ 16 : 30 月 ( 祝日の場合は翌日 ) 年末年始休館 「七つの子」「赤い靴」などの作詞者・ 野口雨情の遺品や資料を展示 浜辺の歌音楽館 秋田県北秋田郡森吉町米内沢字寺の下 17-4 TEL. 0186-72-3014 10 : 00 ~ 17 : 00 月・第 3 日・年末年始休館 「浜辺の歌」の作曲者・成田為三の業績を 歌教室が定期的に開催され、自由参加できる いてのさまざまな展示物が並んでいる。また、唱 地元鳥取はもちろん、国内、世界の子供の歌につ 第 3 水 ( 祝日の場合は翌日 ) 年末年始 9 : 00 ~ 17 : 00 TEL. 0857-22-7070 鳥取県鳥取市西町 3-202 わらべ館 当時の楽譜や彼の遺品などを展示 「早春賦」の作詞者・吉丸ー昌。 無休 8 : 30 ~ 17 : 00 TEL. 0972-63-7999 大分県臼杵市市浜 980 吉丸ー昌記念館早春賦の館 本居長世の直筆楽譜などを展示 「七つの子」「赤い靴」などの作曲者・ 月 ~ 木 ( 6 、 7 、 1 、 2 月 ) 休館 10 : 00 ~ 17 : 00 TEL. 0598-29-6715 三重県松阪市下村町 2203 本居長世メモリアルハウス ロポット・ピアノ自動演奏で紹介 瀧廉太郎記念館 大分県竹田市大字竹田 2120-1 TEL. 0974-63-0559 9 : 00 ~ 17 : 00 年末年始休館 「荒城の月」の作曲者・滝廉太郎の旧居を 改装、遺品を数多く展示 月の沙漢記念館 千葉県夷隅郡御宿町六軒町 505-1 TEL. 0470-68-6389 9 : 00 ~ 16 : 30 水 ( 祝日の場合は翌日 ) 休館 「月の沙漠」の作詞者・ 加藤まさをゆかりの品々を展示 てるてる坊主の館 浅原六朗文学記念館 長野県北安曇郡池田町大字池田 3203-5 TEL. 0261-62-6666 9 : 30 ~ 17 ℃ 0 月・祝日・年末年始休館 「てるてる坊主」の作詞者・浅原六朗の 文学作品や日記、蔵書などを展示 中山晋平記念館 長野県中野市大字新野 76 TEL. 0269-22-7050 9 : 00 ~ 17 : 00 ( 3 月 ~ 11 月 ) 9 : 30 ~ 16 : 00 ( 12 月 ~ 2 月 ) 月 ( 12 月 ~ 3 月 ) 年末年始休館 「背くらべ」「てるてる坊主」などの 作曲者・中山晋平ゆかりの品々を展示 日本国際童謡館 熊本県南阿蘇郡久木野村久石 3516 TEL. 09676-7-2577 10 : 00 ~ 17 : 00 ( コンサート 10 : 30 、 14 ℃ 0 ) 火 ( 祝日の場合は開館 ) 12 月 ~ 3 月下旬まで休館 懐かしい曲、埋もれた佳曲、新しい曲、童謡のすべてを楽 しめる。専属歌手による毎日 2 回のコンサートで、懐かし い曲から新しい曲まで童謡・唱歌のすべてがナマで楽しめる 訪館の際には念のため、休館日・営業時間・所在地をご確認ください。

教科書解剖 ( 上 ) 遊びに走リ、乱れた日本語 教科書解剖 ( 中 ) あふれる外国曲、ポピュラー曲 教科書解剖 ( 下 ) 日本語を重視し、一から編集をーー 8 あとか ) 唱歌・童謡ゆかリの記念館ーーー 156 154 1 田 装丁ⅱ新昭彦 ( ツーフィッシュ ) 装画 = 加藤千香子 写真提供日本近代音楽館 産経新聞社 共同通信社

くいな さみだれと水鶏の組み合わせも「源氏物語」に見られるというので ある 記念館の佐野由未子さんによれば、佐佐木は五歳の時、平安後期 の歌人、西行の歌を集めた「山家集」を暗唱し、十二歳で漢詩を詠 んだという。子供向けの唱歌ー こも万葉集や平安文学の蓄積を披露す るひたむきさには脱帽させられる しず 佐佐木が最初に作った歌詞では現在の一一番の「早乙女」が「賤の 女ーとなっている。古文ではよく使われるが、身分の卑しい女性を 指し、差別的なニュアンスがある。このため昭和七年、「早乙女 , に改められた。また五番の「さっきやみ」が「夏は来ぬ」と歌われ た時期もあった。 ところで、佐佐木は筆まめな性分であるにもかかわらず、「夏は 来ぬ」に関してはあまり語っていない。その理由について、歌詞よ り軽快なメロディーのほうがよいというのが世間の評判で、佐佐木 はそれを気にしていたとの指摘がある

うになった。 金と銀、二つのかめ、王子さまとお姫さま、対のらくだ。この歌 には常に二つのものが登場し、一一番、三番と進むにつれて場面が変 わる。さらに月が照らす沙漠、王子さまらはおそろいの白い上衣と ビジュアルだ。 月の沙漠記念館 ( 千葉県御宿町 ) の養老正也館長は「歌う人が具 体的なイメージを描きやすい加藤の叙情画家らしさが見事に発揮 されている」と解説する 一一人の行く砂丘は生を拒絶せずどこまでも人間をやさしく包み込 む未来への道だ。加藤は「沙漠」という文字にこだわり、「砂漠」 と書かれるのをきらった。乾いた固いものを連想させる石偏ではな く、潤ったイメージの三水偏でなければならなかった。 大震災後訪れることもなかった加藤は、亡くなる一年前の昭和五 十一年、御宿に居を移した。きっかけは昭和四十一一年春に届いた一 通の手紙差出人は加藤が御宿滞在時にカニを捕まえたりして遊ん

「てるてる坊主、 ( 作詞・浅原鏡村Ⅱ本名・六朗、作曲・中山晋平 ) は、遠足や運動会の前日などに晴天を祈って子供たちがてるてる坊 主をつるす風習を歌ったものだ。風習はいまなお生きているが、曲 は昭和四十五年を最後に教科書から消えた。首を切り落とすという 三番がヤリ玉にあげられた。 「子供の願いに対して、晴天という成果がでればよいが、雨が降れ ば首を切るというのは残酷だと、現場教師から批判がでた」と出版 社は説明する 浅原の文学記念館「てるてる坊主の館」 ( 長野県池田町 ) の中野 幸子さんは「子供はおもちやを壊したり、虫を殺す残虐な一面をも っている。歌全体の優れた点を見ず、残虐といわれるのはおかしい と反論する この曲には幻の一番があることが昭和六十一年確認された。 「てるてる坊主てる坊主あした天気にしておくれもしも曇って ないてたら空をながめてみんななこう」 128

ということではなく、雪の中を歩いているだけだ」と返事した。だ が、ダーク・ダックスらが歌うにつれて曲の舞台は独り歩きする 昭和五十一年、山形県鶴岡市に " 発祥の地…ならぬ「発想の地」 の記念碑が建てられた。同市では六十一年から毎年音楽祭が催され、 必ず「雪の降る街を」の大合唱で締めくくられる。中田は平成十一一 年五月に亡くなるまで、欠かさず出席した。これにはわけがある 戦時中、学徒動員でフィリピンなどで重爆撃機のパイロットをし ていた中田は引き揚げ後、食うものにも困る生活だった。音楽学校 の同期生を通じて知り合ったのが、斎村 ( 現鶴岡市 ) の素封家・菅 原喜兵衛さんである 音楽好きの菅原さんは各地で音楽会を開いており、中田にも声を かけた。以後、中田は何度も鶴岡市を訪れた。自作の学園歌発表の ためやってきたある冬の夜、駅を降りた中田は雪の降り積もった街 を馬ソリに揺られて菅原さん宅へ向かった。 「作曲はあの夜をイメージしたのではないですか。。後年、菅原さ

月の沙漢 マルチ人間が生んだメルヘンの世界 「月の沙漠」はエキゾチックで日本離れしているからこそ珍しく、 歌い継がれてきたのかもしれない。舞台が鳥取砂丘だと思っている おんじゅく 人が結構いるが、房総半島の先、千葉県御宿町の「砂丘で得た幻想 である」と、作詞した加藤まさを ( 一八九七ー一九七七年 ) 自身が 明かしている 教師の家に生まれた加藤は、中学生のころから叙情画を描き始め た。立教大学英文科時代、最初の児童画集「カナリヤの墓ーを出版。 夢見るような少女や若い女性をセンチメンタルに描いた叙情画は受 ふきやこうじ けて、竹久夢一一、蕗谷虹児とともに「叙情画三羽鳥」と称せられた。 絵や詩ばかりか、後年、本の装丁、レコードジャケット、作曲まで 筰詞】 かと - つまさを 明治釦年、静岡県藤枝市生 まれ。立教大学英文科卒。 学生時代から「少女画報」 「少女倶楽部」「令女界」に 抒情画と抒情詩、童話を発 表、小説も書いた。童謡 「月の沙漠」は佐内木すぐ る作曲で今なお愛唱され続 け、千葉県御宿に記念像が ある。昭和年新月 1 日没。 一 8 一

「待ちぼうけ」「この道」は山田耕筰 ( 一 原白秋 ( 一八八五ー一九四一一年 ) という一時代を画した音楽家と詩 人による記念碑的歌曲である 「待ちばうけ」は大正十三 ( 一九二四 ) 年、南満州教育会が満州で 暮らす日本人の子供向けに作った「満洲唱歌集」一、一年用に掲載 された。白秋の詩は紀元前一一一世紀の中国の思想家、韓非子の「守株 待兎」という農夫の説話をもとにしており、五章構成でバラード化 した。前奏部は大連で聞いた馬車のチャルメラのメロディーにヒン トを得たとされ、ユーモアと異国情緒が同居する曲だ。 また「この道」は白秋が同十四年、樺太 ( サハリン ) 観光団に加 巨匠の明暗 ( 下 ) 「ゆとり教育」にのまれた山田の歌曲 八八六ー一九六五年 ) 、 【作詞】 きたはらはくしゅ - っ 明治衵年、福岡県柳川市生 まれ。早稲田大学英文予科 中退。大学中退後、パンの 会を興し耽美主義運動を推 進。「明星」「スパル」など に作ロåを発表し、明ム g 貶年、 詩集「邪宗門』を刊行、以 後詩歌各分野で幅広く活躍 し、詩歌壇の重鎮となる 昭和年月 2 日没。