す。 一年半ほど前でしようか仕事で中国を回ったのですが、その時にもっていたパソコン にデジタル・カメラがついていました。そこで、何箇所かの画像を、コメント込みで丸山 さんに送ったのです。そのメ 1 ルを、面白がった丸山さんがウエプの記事としてアップし たのですが、なかなか新鮮な感興を受けました。何分大量に書いていますから、活字につ いては、かなりすれつからしで、大概のことには驚かないのですが、デジタル・ツールと インターネットを使って書くということの興奮を、その時知ったのです。 その秋から、『 E* * O 』が創刊され、コラムを連載することになったのです が、そのコラムは基本的には、はじめに中国から送った、丸山さん宛ての写真付メ 1 ルの 続きなのです。 ですから、ここにまとめられたコラムは、基調としては丸山さん宛ての私信という性格 があるのです。写真もそのつもりで撮りました。ですから、とてもプライヴェ 1 トなとこ ろもあります。ウエプというメディアがもっ特性もいくぶんか働いているのかもしれませ ん。通常、活字ではけして書かないことを、このコラムでは書いています。 あとがき 223
例えば、食事のこと。本文でも書きましたが、私はレストランなどについては、なるべ く同じ店に行く、通いつめることをポリシイとしています。ですから、そんなに多くの店 を知っているわけではないので、書くことはしまい、と戒めていたのです。それに、食事 と呑むことは、私にとって基本的な央楽、というか生きていく糧なので、あまり仕事にし たくないな、とい、つこともあります。 でも、このコラムでは、書いてしまっています。どれも、よく行く店ばかりなので、私 としては嘘のない、気に入った店ばかりです。でも、これが活字として、つまり本になる ことには、微妙な抵抗感があります。ほかにも家族のこと、休暇のすごしかたなど、活字 ではけして書かない、かなり個人的な、つまりはプライヴェ 1 トなことを書いてしまって います。いわば素が出ているのです。 自分として、これが面白いのかしら、という処もあります。さいわい『 co e — 0 』では好評で、いくつかのコラムはアクセス・ランキングの上位を占めていましたが、 さて、一体読者の皆さんは、何を面白がっているのだろう、という気分もないではありま せん。また、いくつかの店で、ウエプを見た方がいらした、という話も聞きました。 224
らば電話もかけられますし、パソコンを広げてメ 1 ルも打てるし、原稿のチェックとか、 短いコラムを書くこともできます。東海道線での移動にグリ 1 ン車を使うのも同じ理由 で、要するにパソコンを使うことができるのです。一時間あれば、コラムを一本書けます から、グリーン車代などは安いものです。 つまりは、仕事の時間は仕事の時間で、徹底的に効率化し、詰め込む、というのが私の やり方ですね。これはもう大袈裟にいえば人生哲学の問題になってしまうと思いますが、 仕事をしなから、万歩計などで健康にも気を使う、ということは私にはできないのです。 仕事は仕事、健康は健康。まあ、こういうやり方が本当に効率的かどうかは、専門家の意 見を聞かないとわかりませんが というわけで、散歩の話です。 このごろは、散歩もウォ 1 キングなどと呼ばれて、ある種のスポーツとなっているよ、つ ですね 私がよく歩く目白台のあたりでも、いわゆるウォーキング・シューズを履いて、ナップ ザックを背負った軽装の、中高年の方たちの小グループをよくみかけます。 1 18
そのコラムを丸山氏のすすめで本にするわけですが、さて、いかがでしようか 毎年、何冊も本を出している私ですが、今までにない著作ですので、どうお読みいただ けるか、心配をしつつ、楽しみにしています 平成十三年十二月二十日 福田和也 あとがき 225
この本を私は、出版したくなかった。 いきなり、著者にこう云われても困るでしようが、正直に云って今でも戸惑っているの です。 本書にあつめたのは、マガジン『 ()n * O 』に連載していたコラムです。 『』はもともと、この本を編集してくれた丸山孝氏がやっていたウエプ が、前身にありました。前に上梓した『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』も、もと もとはそのウエプ用に、私と丸山さんの間でやりとりしていたメールが発端になっていま 亠の A 」かさ 222
前回のコラムで京都のことを書きました。 今回は、地方都市について書いてみたいと思います。 京都は、奈良と並ぶ、日本を代表する古都であり、また同時に、日本の歴史的、文化的 アイデンティティの中心と位置づけられるべき都市です。 といっ 京都にあるいくつかの仏閣や庭園ーー西芳寺、東福寺、鷹ケ峯の光悦寺・ : た昜所は、ある一定の教養をもっていれば、どのような文化風土に育った人間にも、その 魅力を感知させられるだけの圧倒的な存在感と力をもっています。広大な大自然を背景に している場所は別として、市の域内にこのような場所を抱いている都市は、全世界にもご & 高知・ 021
くかぎられた数しか存在しません。 北京、西安、 ロ 1 マ、アテネ、イスタンプール、それにウィ 1 ンぐらいのもので 1 レよ、つ、か 京都の凄さは、ただ文化財を擁しているだけでなく、都市文化が、現役のものとして息 づいていることでしよう。その和食、懐石の水準の高さは感嘆すべきものですし、工芸品 や美術、演芸においても高い水準を保っている。この部分で対抗できるのは、東京と香 、冫ハリ、ニューヨークぐらいのものでしよ、つ。 つまりは、京都は世界に冠たる文化都市であるわけですが、その京都が、ここ数年の間 で、街並みを中心とした文化破壊にさらされているということが、前回のコラムのテ 1 マ でした。 けれども、この破壊はただ、京都を襲っているだけではありません。 京都という、きわめて文化的な都市、洗練された場においてこそ、それがきわめて露わ になっていますが、むしろ地方都市においてこそ、その破壊は深刻なのだと思います。 実際、一国の文化なり文明なりが、一都市の繁栄に支えられるのではなく、むしろ地方 180
ることである。そして必要があれば、その価値に応じた金銭を使うことである、というこ とです。価値観が伴ったとき遊びは、贅沢へと昇華されるのです。 と、言葉にしてしまうと野暮なので、福田さんは説明を上品に避けていますが、プロの 書き手でない私ならば、説明書きをしてしまう凡庸さを許される立場でしよう 批評家の仕事は、価値を示すことです。ならば本書の随所に、価値について蒙を啓かさ れる視点がちりばめられているのは、ごく自然なことです。 ちょうど連載開始から一年間が経ったので、本にしたい、ついてはタイトルは「贅沢入 門」でどうだろうとメ 1 ルを送ったところ、思いがけず央諾を得て、そのタイトルで発刊 することになりました。通常は、「いや、このタイトルで」と修正が入り、そちらで決ま るのがパターンだったのですが さて、私は連載のあいだ、極めて便利なガイドとしてこのコラムを利用してきました。 実際に自分で同じ場所に行ったり、同じことをやったりしてみたのです。というよりも、 要するに便利な虎の巻が欲しくてこの連載を続けていたというのが本音のところです。 おかげで極めて効率的に贅沢を堪能することができました。福田さんがここに書いてい 228
多岐にわたりますし、場所も西安からヴェネッィア、富山からナポリまで、いろいろな場 所にわたっています。 そうした経験から、このごろ認識せざるを得ないのは、ホテル様式の三派鼎立と、その 中での旧来の日本式の埋没ということでしよう。 ホテル様式の三派鼎立とは、何か。まあこういう荒つほい分け方をするのは、私くらい でしようがこの三派には、実際には私が最も好きなタイプのホテル、つまりはウィ 1 ン シュワルツェンベルグとか、ヴェネッィアのヨ 1 ロッパといった、昔の邸 のインパレー 宅、館の類を使ったものは含まれません。こうしたホテルは、人工の、つまりは建物とサ 男シャンルに属します ービスの設計主義とは別ものなので、京都や金沢の旅館とともにリ。 その上での、三派分立ということですが、基本的には、ヒルトン系、イギリス系、フォ シ 1 ズン系に分かれると思います。 それぞれのホテルがどういうものかの説明は、このコラムを読むほどの人はすぐに分か るでしよ、つから、省きます。 私が云いたいのは、日本式の「埋没」ということです。 190
そして、ナポリ。『— 0 』のコラムで書きましたが ( 一六二ペ 1 ジに収録 ) 、 この都市は、まさしく美食に祝福された街です。安価なピッツアリアから、星つきのリス トランテまでどこに行っても、感じるところがある、そ、つい、つよ、つな強力さを街全体が発 散をしている イタリア料理の強さ、多様さということを考えていると、イタリア人の生活ぶりという 問題に直面をします。ここ、二十年ほどの間で、少なくとも都市に関するかぎり、フラン ス人たちのライフスタイルは大幅に変化をしました。かってあれほど軽蔑していた、アメ リカ発のファ 1 スト・フ 1 ドが角々で溢れかえるようににぎわっていますし、かってのよ うに普通の勤め人か昼食にワインを飲みながら、悠々とオードプル、ポテトフライ付ステ 1 キ、そしてデザートをカフェでとる、といった光景はまれになっています。私は内心、 ここ数年フランスが文化的ポテンシャルが落ちているのは、伝統的な食生活のスタイルを 失ってアメリカナイズされたからだと思っています。 ところが、イタリアでは、まだまだ確固とした生活文化が残っている 事務所も店も、昼にたつぶり三時間から四時間休み、ゆっくり食事をして昼寝までして