のです。たとえ時間があり余っていても、「ついでにちょっとーと自分の利益になる 別の仕古尹をしてしまうなど、ありえないことだと思います。 これが僕の このケースで言えば、本屋にはいっさい足を踏み入れずに帰国する 欲張らない姿勢であり、清潔さを保つ努力でもあるのです。 僕自身の例を出しましたが、普段の生活の中には、似たようなことはたくさんある と思います。たとえば、急ぎの仕事で必要だからではなく、自分が疲れていたから乗っ てしまったタクシー代を会社に請求してしまう。あるいは、町内会の募金活動で集め たお金のうちから、活動者の慰労のための缶ジュース代を出してしまう。一つ一つは 」さなことですが、これが積み重なるように欲張りになっていくと、品格にすら影響 するかもしれません。 同じように、まんじゅうに大勢の人が手を伸ばしていたら、自分はいちばん最後に しいことなんて訪れません。 したいと僕は思います。人を押しのけて欲張っても、 逆に一言えば、そこまでしてやりたいことなど、滅多にないと思うのです。 〇公私のけじめがきちんとついているか。自分を厳しく律しましよう。 〇欲張らずに人に譲る。そうすれば本当に欲しいものは手に入ります。 第 4 章おだやかな晩ごはん
自分が矢面にたって何かするなら、賛否両論あって当然です。むしろ向かい風が強 いほど、則に進んでいるように思えます。 いちばんさひしいのは、い、 ( も悪いも、どんな声も聞こえてこない無反応、無関心。 その意味で、『暮しの手帖』に来る正面きっての抗議など、うれしい便りとすら言え ます。実際、就任して二年たっ今でも、抗議の手紙に返事を書くのが僕の仕事であり 勉強でもあるのです。 ノーを = = ロわれたということは、関、いはもってもらえているのですから、そこからが スタート。仕事に限らずプライベートでも、それくらいの気持ちでいます。 もし、あなたが陰ロや噂話が気になってたまらないなら、こう考えてみましよう。 第一に、人はあなたが気にするはど、あなたに注目してはいないし、二十四時間あ なたのことを考えてもいません。「今頃、自分の陰口を言っているだろう」と思う相 手は、あなたのことなどころりと忘れて、デートでもしているかもしれません。 第二に ネガテイプな声は自然に耳に入ってきても、ポジテイプな声はひそやかで 聞き取りにくいものです。あなたの仕事なり、性格について批判や悪口を言っている 人が一〇人いたとしたら、その陰にあなたの仕事を評価し、感じのいい人だと思って
ゆったりするための一時間 いつもより一時間早く起きた朝は、ゆったりできます。 つもはバスに 朝ごはんをのんびり食べてもいし ていねいに顔を洗ってもいし 乗る道を、てくてく歩いて出かけてもいし 僕が八時に会社に行くのは、始業時間が九時十五分だからです。人より早いこのお よそ一時間は、自分だけのひととき。早くスタートを切れば、その日一日の仕事に余 裕が生まれます。 自分をゆったりさせるための時間は、ことのほか貴重です。自分ひとりでやらなく てはいけない仕事を、誰もいないうちにひととおりすませておけば、始業時間にやっ てくる職場の人たちと、しつかり向き合うこともできます。 僕たちの毎日は放っておくと、三十分かかる仕事を無理やり十分ですませようとい う競争の連続になってしまいます。しかし、「一時間余裕があるな」と思っていると、 そんな焦りから解放されるのです。 第 1 章すこやかな朝ごはん
は一日にいくつも出てきます。 その場でたずねて解决するものは相手に聞いてしまいますが、仕事では、そうもい かないケースもあります。 「ごめん、ちょっとわからないから、簡単に教えて」と言えるときもありますが、大 勢での会議のときは難しいでしよう。みんなの仕事の流れを止めることになるので、 、昜面です。また、自分で調べればすむことで、いちいち煩わせては 控えたほ、つかしし士 相手の迷惑になる場合もあります。 そんなとき、僕はわからないことを紙に圭日き、ピリッとちぎって机の由・に置いた箱 に入れます。 読み方がわからない漢字も、新聞を読んでいて、「みなし弁済ってなんだろう ? 」 という疑問が愑いたときも、その = = ロ葉をメモした紙を箱に入れます。 一カ月に一度くらい、仕事が一段落したときなどに、おもむろに箱を開けます。一 かさ 日一枚でも三〇枚たまることになりますから、けっこうな嵩です。 ノンドラの箱ならぬ「わからない箱ーは、自分が何を知らないのか、苦手なジャン ルを教えてくれます。 第 3 章しなやかな人生のためのアロマ
たとえば人づき合いの量。所有するモノの量。仕事の量。 むやみに多くの人とかかわって関係がおざなりになってはいけないし、管理しきれ ないほどモノをもつのはやめようと前述しました。 仕事についても同様で、自分を决して壊れない機械みたいに扱ってはいけません。 たとえば、自分には一五〇〇 8 のエンジンしかないのに、二〇〇〇 8 と同じスピー ドが出ると思ってあれこれやれば、心も体も無理を重ねて、病気になってしまいます。 会社や人を責める前に、キャパシティを把握して自己管理できていたかどうか、もう 一度、確認する必要があるのではないでしようか。 そもそも人は、求められる生き物です。 会社はたくさんの仕事を求めてきます。家族やさまざまな人間関係も、さまざまな 役割を求めてきます。いろいろな意味で、無理な要求というのは、誰にでも日々たく さん降りかかってくるものです。 それにどう応えるか、応えないかーーー・正しい判断をすることが、自分の暮らしと相 手を守ることにつながります。 日ごろから自分を観察し、自分のデザインを知っておきましよう。そうすればキャ 1 4 6
いう目で見ていけば、好き・嫌いを超えた判断基準が研ぎ澄まされます。 美術展の帰り、一枚だけ買ってもらえるポストカードをどれにするかも、絵とはま た違う、僕にとっては真剣な選択でした。 おもちゃ屋さんに行ったときも、毎回、どのミニカーにしようかと、実に真剣に選 んでいました。あまりものを買ってくれる親ではなかったので、結局は「また今度ねー と一言われることも多いのですが、今度のために選んでおかねばと思っていたのです。 知らぬ間に親が施してくれた、ものを選ぶ訓練。これは大人になってからの財産に なっています。僕はよく仕事が早いと言われますが、それは作業や書くことが早いの ではなく、判断が早いためだと思うのです。 暮らしも仕事も、選択の連続です。誰かとランチに行くか行かないかでさえ、選ば ないで保留にしていると、自分にも相手にも負担になります。イエスもノーも抱え込 んだまま一人で考えていたら、む地よいリズムで生きるのはむずかしくなります。 とくに仕事での判断を保留にし、いつも「ちょっと時間をください」などとやって いたら、流れは確実に止まり、まわりの人にも迷惑をかけてしまいます。 そこで僕は、今でも選ぶ訓練を続けています。 第 4 章おだやかな晩ごはん 1 3 3
面倒くさいと = = ロわない 楽しく生きたい、幸せに生きたいなら、面倒くさいと言わないこと。当たり一則のこ とですが、どうにも忘れがちなので、思い出してほしいのです。 たとえば大切な仕事を頼まれて、「面倒くさい」と答えることは許されません。た いていの働く人はこのルールを守っているのに、どうしてほかのもっと大切なことを、 と切って捨ててしまうのでしよう。 「面倒くさい とは仕事のみならず生活のすべてで言ってはならない、考えてはなら ないことだとい、つがします。 世の中は、面倒くさいことをなくして便利になってきました。手間がかかってしか たがなかったものを、新しい方法を発明して改善する、その繰り返しで世の流れがで きているのです。 ところが、便利なものとは刃の剣。便利なものを使えば使、つほど、・楽・しみがこば れていくことにも、そろそろ気づいたほうがいい気がします。効率と便利さを追求し 面 く さ 1 3 8
生かしどころがある約束 約束とは、あいまいさがないものです。 真剣であるほど、「絶対に守ってほしい」という思いで約束をかわします。そんな 強いものであるからこそ、どこかに相手の逃げ場を残した約束にしましよう。 その約束がどれだけ大切でも、 = = ロうことを聞かせるような物一言いをしてはいけませ ん。相手が友だちや仕事の仲間、大切な人ならなおさらです。 相手が約束を守り、自分の思い通りになったとしても、それで追い詰めてしまった ら何のための約束かわからなくなります。 約束するときは、おたがいが納得する妥協点を見つけておく。そのためにまずは、 約束に相手の逃げ場がふくまれているかどうかイメージしてみましよう。 さて、個人ですると約束ですが、仕事であれば契約になります。そのとき必要なの は「生かしどころーです。 契約はお金が絡み、約束よりもっと厳しいものとなります。たとえば同じような会
うららかな笑顔 極上のプレゼント。生きるうえでのお守り。毎日をすてきにする秘密。 笑顔は、その全部を兼ねた魔法の杖です。 電車で乗り合わせた赤ちゃんがにこっと笑った瞬間、誰でもあたたかなものを受け 取った気がするでしよう。赤ちゃんだけではありません。家族や友だち、会社の人も 駅の売店の人も、誰の笑顔でもすべて同じ力をもっています。 笑顔さえ忘れずにいれば、たいていのトラブルは乗り越えられます。 たとえば外国で = = ロ葉が通じなくても、笑顔があればなんとかなります。仕事でピン チになったときも、笑顔を忘れなければ切り抜けられます。本当に困ったとき、解决 策より先に必要なのは笑顔です。 笑顔は日々を輝かせます。いつもニコニコできる自分でいられたら、 魔法の杖を手にしたのも同然、暮らしも仕事も豊かになります。 ↓もっと↓も、 いくら笑顔が大切だからといって、うわべだけにこやかに 第 1 章すこやかな朝ごはん
楽しみの発見・よろこぶ工夫 「最近、何か楽しいことはあった ? 」こうたずねられたとき、「どうかな、特別に楽 しいことはなかったな」などと、あっさり答える人がいます。そのたび、僕は、ああ もったいないなと思うのです。楽しみは、発見するもの。よろこびは、工夫から生ま れると僕は信じています。 息をつく間もない忙しさ、気持ちのごたごた、どうみても大変な仕事ーーーこんなと きこそ、楽しみを発見しましよう。そうしなければ、山みたいにそびえたっプレッ シャーを乗り越えるのは、よけいに苦しくなります。 僕はそれを、本物の山の中で知りました。『プルータス』という雑誌の仕事で、ア メリカのトレッキング・ルートを旅したときのことです。そこはジョン・ミューア・ トレイルという、踏破するには一カ月かかる長い歩道でした。 ョセミテ渓谷につながる道は、標高三〇〇〇から四〇〇〇メートル級。いくつもの 国立公園に囲まれ、厳格に保護された自然の中を歩く行程は、きついものでした。 第 1 章すこやかな朝ごはん