「おはよう」の効用 出勤時間やごみを出す朝、特定の誰かと顔を合わせる時間帯がつらいという人がい ます。それは苦手な人と顔を合わせる時間だからではありませんか。 あなたにも、そんな人がいませんか ? たとえば駅の改札で顔を合わせて、会社ま でのわずか数分を一緒に歩くのが気まずい相手。お昼時や買い物に出かけるとき、微 妙に時間をずらしたくなる相手。 苦手な気持ちというのは不思議なもので、黙っていても相手に伝染します。 「もしかして、この人は自分が嫌いなんじゃないかな ? 、とあなたが思っているとし たら、相手もそう思っているもの。おたがい苦手オーラをかもしだすようになれば、 もっと気まずくなります。改札ロでその人を見かけたとたん、自動販売機に駆け寄っ て一緒にならないようにするなんて、くたびれるうえに、かなしい / / ト細工です。 苦手な人にこそ、こちらから近づいていきましよう。嫌われているだろうな、と思 、つ相 - キ . にこそ、しかけましよ、つ。
静かなしぐさ テープルにコップを置く。ドアを閉める。エレベータのボタンを押す。 こんなありふれた動作が、美しくも醜くもなります。 たとえば、がちやりと受話器を置くのではなく、相手が切ったのを確かめ、ゆっく り静かに置く。このような静かなしぐさは、美しさを生み出します。 電話の場合だとマナーとして身につけている人が多いかもしれませんが、あらゆる 場面に、同様の静かなしぐさをとりいれてみましよう。 コップをがちゃん ! と置かれたら、誰でもいやな気持ちがします。静かにゆっく りと置けば、おもてなしになります。 僕はときどき、駅で観察をします。研究テーマは、人は自動改札を通過するとき、 —O カード乗車券をどのように扱うか。 , 刀いつばい卩 きつけるよ、つにパ ンー・とやる人もいれば、かるくタッチするだけ の人もいます。高性能なシステムなので、どちらでも事足りるのですが、しぐさとは 第 3 章しなやかな人生のためのアロマ 105
木が香る地図 最寄りの駅から自分の家までを、あなたはどう道案内するでしよう ? 「改札を出て目の前の銀行を左、直進して三つめの信号を右折し、一階にコンビニエ ンスストアがあるビルの隣の、茶色いマンションですー たいていの人はこんな具合に言うはずです。たしかにわかりやすい説明ですが、豊 かではない気がします。 そこで木や花を使ってむに地図をつくりましよう。 見慣れた風景をとっくり観察し、街路樹、知らない家のべランダの花といった、ご くささやかな自然をていねいにすくいあげ、木が香る地図をつくるのです。 小さい花壇がありますから、そこを右へ」 「桜並木をしばらくまっすぐ行くと、 「大きな菩提樹の木が目印ですー こんな具合の道案内ができたら、すてきだと思います。 いつもの道だから、多くの人はあたりを見回すこともなく、無意識に歩いているこ 第 3 章しなやかな人生のためのアロマ
人それぞれであり、その人をあらわすものだな、と感心します。 びつくりするような音を立てて改札に定期入れを叩きつけた人が、電車に乗り込ん だとたん、どさっと空いたシートに腰を降ろし、隣に座っていた人が振動にびつくり こんな光景も珍しくはありません。おしとやかそうな女性なの してちらりと見る 、がさつなしぐさだったりすると、見ていて悲しくなります。 マナーとは、世の中に対しての礼儀作法です。別に慇懃無礼にしろというわけでは ありませんが、心の中で隣の人に「ちょっと失礼」と手刀を切るくらいの気持ちで、 静かにシートに座る。このはうが、男性でも女性でも、はるかに美しいものです。 マナーやルールは人から与えられるものではなく、自分でつくるもの。たとえ電 車の中でガムを噛むことが禁じられていなくても、「人前でくちゃくちややるなんて、 大人として失礼だ」と控えるのが、自分を律するということです。 しぐさはまたマナーの問題を超え、その人の心模様を映し出します。無意識にがさ つにふるまうときは、誰でも疲れていたり、心が荒れていたりするものです。 ところで、どんなしぐさをしているかを観察する対象は、世の中の人ばかりではあ りません。僕はむしろ、自分自身をよく観察します。 106
面倒くさいと = = ロわない 楽しく生きたい、幸せに生きたいなら、面倒くさいと言わないこと。当たり一則のこ とですが、どうにも忘れがちなので、思い出してほしいのです。 たとえば大切な仕事を頼まれて、「面倒くさい」と答えることは許されません。た いていの働く人はこのルールを守っているのに、どうしてほかのもっと大切なことを、 と切って捨ててしまうのでしよう。 「面倒くさい とは仕事のみならず生活のすべてで言ってはならない、考えてはなら ないことだとい、つがします。 世の中は、面倒くさいことをなくして便利になってきました。手間がかかってしか たがなかったものを、新しい方法を発明して改善する、その繰り返しで世の流れがで きているのです。 ところが、便利なものとは刃の剣。便利なものを使えば使、つほど、・楽・しみがこば れていくことにも、そろそろ気づいたほうがいい気がします。効率と便利さを追求し 面 く さ 1 3 8
僕が経営する古書店カウブックスの大切な仕事は掃除です。 六生立則に開店したときから、スタッフにはことあるごとに「見えないところをきれ いにしよう」と = = ロい続けています。 三十分あればひととおりの掃除はできるようなスペースを、毎日一一時間かけて掃除 する。これをばかばかしいと思う人もいるようです。毎日掃除しているのですから、 磨く場所が見つからないほどきれいなのです。ほとんどのスタッフが、「毎朝、無意 味なことをやらされている」と感じているようでした。 ところが、その中の数人は楽しそうに掃除をするということに、僕はやがて気づき ました。その一人にたずねてみると、こんな = = ロ葉が返ってきました。 毎日やると決めたのだから、「大変だ」とか「なんの意味があるんだろう」などと 考えず、楽しんで掃除をしようと決めた。すると、毎日磨いている積み重ねが自信に なって、お客さまに胸を張って「いらっしゃいませ」と = = ロえるようになった 去」レ小、らかレ」い、つ , 目 = = ロ 第 1 章すこやかな朝ごはん
関係を月てるとは、「こうしたは、つがいしー とか「そんな馬鹿な考えはやめろ」と ロ出しするのではなく、その人の立場で考えようと努力することだと思います。相手 の顔も見ずに自分が伝えたいことを優先するほど、危険なことはないでしよう。 「相手は今、どういう状况にあり、どんなことをしあわせだと感じるのか ? 何をさ れたら嫌で、何が好きなんだろうか ? 答えを知るための方法は二つ。相手をつ ふさに観察することと、気持ちを推し量る想像力をもっこと。 もちろん、植物と違って人は話すことができます。わからないことは訊ね、率直に 話し合うことも必要でしよう。しかし = = ロ葉は万能のツールではありません。 なぜなら、人は植物と違って聞く耳をもっているのに、僕たちはときどきそれを忘 れてしまうのです。知らないうちに相手の = = ロ葉に耳を傾けず、自分の言い分だけを押 し付ける間違いも犯します。だからこそ相手を観察し、想像力をもったうえで話し合 いましよう。持てる力をすべて使えば、関係をいつくしんでいけるでしよう。 〇相手のためと言って、自分の気持ちを押し付けてはいけません。 〇もの言わぬ植物の一一 = ロ葉を聞き取る細やかな気持ちで、相手の心を推し量りましよう。
「足りない病」を治す なにがあっても口にしたくない = = ロ葉があります。 と「時間がない それは、「お金がない 「趣味をもとうにも、お金もないし、忙しくてそんな時間がとれない」と言う人は、 あなたの身近にもいるかもしれません。 食材を買う、勉強をする、旅に出るお金がない。 料理をする、ゆったりする、勉強をする時間がない。 無造作にこんなことを = = ロってはばからない人は、自分をすこやかに保つことを、は なからあきらめている気がします。 なぜなら普通に仕事をし、普通に生活をしているのに「お金も時間もない」という のは、ある種の病気、いわば「足りない病」だと解釈しているからです。 もちろん、不慮の事故や病気、身内になにかあったとき、「大金が出てお金がない、 というのなら、わかります。 看病で忙しくて時間がないー 第 3 章しなやかな人生のためのアロマ 1 1 5
わからない箱 わからないことを、わからないと = = ロ、つ。 これは間違いなく、生きるための最良の知恵です。 知ったかぶりをせず、あいまいにごまかさず、何かわからないことがあったら「わ かりません」と正直に言う。 「わからない」と = = ロうことで、学ぶチャンスが得られます。 「教えてください と人に請うことは、决して恥ずかしいことではありません。 たとえすべては教えてもらえず、知識の断片しか得られなかったにせよ、その小さ なかけらを手に入れれば、それをきっかけに自分のカで学んでいくこともできます。 わからないことを ~ 衣明すると同・に、ほうっておかないことも , 入切です。 僕は『暮しの手帖』編集部の自分の机の引き出しに、箱を一つ置いています。使い 方は、ごく簡単。 本や新聞を読んでいるとき、また、人と話しているとき、わからないことというの
「やりたいことが、やらせてもらえない」と口を尖らせるのは、子どもだけではない のです。大人が漏らす不満や愚痴が、世界のあちこちにこばれています。 「成長できるチャンスが巡ってこないーなどと = = ロう人もいます。 しかし、仕事でも人生全般でも、やりがいがあって成長できる、自分にびったりの 彳割が巡ってくるなんてことは、起きる道理がありません。 なぜなら、人から「これをしなさい、あれをしなさい と = = ロわれたことが、あなた にびたりと合うという可能性は、とても低くて当然だから。 そもそも、チャンスを待っているとは、自分を宀兀璧にコントロールしてくれる誰か を待っているということです。そんな「待ち時間、が、楽しいわけがありません。 だからといって、「私は〇〇がしたいのですーと、自分から主張すれば良いという わけではありません。 「したいことと「本当にできて、役に立っこと」は違います。 自分の使い道 1 4 2