をし、「国債暴落論」を唱える人もいる。だがこの暴落論者は、可を空売りする勇気がある のだろうか。 ( 倫理上、取引ができない人もいるだろうが ) 身銭を切らないで、国民の恐怖だ あお けを煽って原稿料稼ぎをしてはいないか。実際には、市場、つまり世界中のプロの国債保有者 は、日本国債が暴落するとは見ていないのだ。 日本が絶対にギリシャにならない理由 かってのベストセラーにたとえるなら、日本は借金にあえぐ政府 ( 父さん ) と、海外にも大 きな資産を持っ民間部門 ( 母さん ) が支える家族のようなものだ。資産保有者が日本の国力に 裏付けられた円資産を持っということは、父さんと母さんを合わせた家全体に、お金を貸して いるのと同じ。だから円の将来には不安を感じないのだ。 政府は貧乏だから、国債つまり政府の債務を保有するときには少し不安がある。しかし、 まのところ、日本政府の将来の徴税力、言い換えれば国民の租税負担力を信頼しているから、 それが日本の国債に対する信頼にもつながる。そのため、国債の金利か低いのである。 日本政府がいますぐ破産するかのように論じる人は、国債市場が安定している事実をどう説 明するのだろうか 市場は、日本政府の財政状態、その将来を不安に思いつつも、国債に一応の信頼を置いてい る。国債暴落論者は、国債の売り操作を始める勇気があるのだろうか。国債の暴落が起こるの 200
ゼロ金利下でデフレが止まる条件 理論的には、ゼロ金利下では、短期国債と貨幣が産としてほば同じものになる。そのた め、長期国債オペや、株式や社債など他の証券の買いオペのほうが景気対策としては有効だ。 しかし、短期国債が資産として貨幣とほば同じになったとしても、まったく同じではない。 短期国債で買い物ができるわけではないから、貨幣と同じ流動性を持つわけではないのだ。し たがって、厳密にいうと「「 .- 、短期国債オ。もまったく効果がないわけではない。 くろきよしひろたちばなみのる 国 そこで興味深いのは、本多佑三、黒木祥弘、立花実の各氏による研究である。「量的緩和政 る す策ーー 2 0 01 年から 2 0 0 6 年にかけての日本の経験に基づく実証分析」 ( 「フィナンシャ 無 ル・レビュ 1 ー第九九号掲載 ) と題されたこの論文は、二〇〇一年三月から二〇〇六年三月ま を 識でのゼロ金利下での量的緩和政策が、景気回復に有効だったことを示している。 常 の 私がそのことを知らないうちに、二〇一〇年二月一 , ハ日の衆議院予算委員会では、学者より 〇も勉強家の五本幸一一一一衆議院議員が白川日銀総裁に、この研究について質問している。 三氏のこの研究では、マネタリー ・べース ( 現金と日銀当座預金を足したもの ) の増加が短 学 済期国債オペによるものなのか長期国債オペによるものなのかが区別されていないが、当時のオ べの大部分は短期国債および満期間近の長期国債で供給されている。満期間近の長期国債は、 章 一事実上の短期国債だ。そう考えると、短期国債オペによる量的緩和ですら、景気回復に着実な 効果を持ったことが分かる。
インフレという副作用がないのなら、どんどん日銀が国債を買ってしまえば良い」のである。 そのかぎりにおいて、たとえば復興公債の日銀買い上げ、またその引き受けも有効だ。、一、公債 を増やさないという目的、デフレ脱却という目的、ざらに災害復興という目的を、みな同時に 前進させることができる。まさに一石三鳥の政策なのだ。 こうして考えると、財務省はとにかく「消費税を上げたい」の一念で、それを国民経済の目 的にすり替えているのがわかる つまり、金融緩和によって景気を回復することも可能なのだが、それでは歳入欠陥が解消し てしまい、増税かできない。そのため、髙橋氏によると、「財務省はデフレを続ける日銀の 『隠れ支持者』になっている」のだ。 おそらく財務省は、消費税という形で自分たちが支配できる財源がほしいというだけでな 税率を引き上げるという権甚ぞのものを求めている。 一時的に消費税を増税しようとする案も、まったくのボタンのかけ違いだ。国民が災害で苦 しんでいるときに増税で苦しめて、将来その苦しみが癒されかかったところで消費税を軽減し よ、つとするなど、手順が、つとしかいいよ、つかない 「三方一両得」の金融緩和 余談になるが、与謝野馨氏と小沢一郎氏は碁仇であるという新聞記事を読んだことがあ ざ ち ごがたき 212
二〇〇八年秋のリ 1 マン・ショック以降、国内の金融破綻に対抗するため、英米両国は国債 以外の資産も大幅に買い上げる非伝統的な通貨政策を行って、通貨供給を増加ざ・すた。そのた 、・ ! 芙的ン、ドや米ドル・の・供給が増え、・。・相対的に品薄になった円が市場で高く評価さることにな った。ぞれが円高の基本的な要ーーー簡単な話である。 ハナソニック、シャ 1 など、輸出中心の しかし、この極端な円高が続いたため、ソニー 企業は世界の販路を失い、袞退しつ、つある。日本の高度成長を支えた根幹産業の一部が世界の 舞台から振り落とされそうなのである。海外で生産されたユニクロの衣類などと競争しなけれ ばならない国内企業も対外競争力を失い、日本全体が不況に苦しみ続けている。 これら産業では、製品の価格を下げない限り、輸出品の海外での競争、あるいは輸入品との 国内での競争に負けてしまう。こうして製品価格の引き下げ競争が起こり、国内のデフレ傾向 も助長される。 日本のデフレと円高は、日本銀行が一一〇〇六年の量的緩和政策解除以来、一貫してデフレ志 向の金融政策を続けた結果だ。これは、国際比較の図を見ても明らかである ( 図表 2 参照 ) 。 図表 2 が示すように、日銀のデフレ志向の金融政策は、世界の主要国で ( インフレを防ぐた めに為替価値を徐々に上げている中国を除いては ) 日本だけを通貨高の国とした。そのため実 質の成長経路は、図表 3 が示すように、日本を世界の先進国のなかだけでなく、アジア 新興国のなかでもテ 1 ルエンドの国とした。 8
経済行動に大きな変化を与えない可能性が出てくる。だからゼロ金利下では、短期国債や残存 期間の短い長期国債ではなく、長期国債や民間株式や債券の購入、あるいは外為市場における 円売り介入のほうが、デフレを止めるためにはより有効ということになる ( ちなみに日銀がも つばら買っているのは、長期国債といっても残存期間の短い長期国債だ ) 。 私はこれを、広義の「買いオペ。 ( 中央銀行が銀行から国債などを買うこと。代金が中央銀 行から銀行に支払われるため、通貨量が増える ) と呼びたい。 ゼロ金利下では貨幣を増やせばデフレは止まるが、その効果は弱くなる。そこで「広義の買 いオペを行えば効果はいっそう上がる」と付け加えれば完璧になるのではないか 実際、たとえば一一〇一〇年三月の金融政策会合では、金融機関に短期資金を貸し出す「新型 オペ」の規模を拡大することを政策の目玉とした。しかし、このような短期金融市場に働きか けるオペは、理論上あまり効かない。長期金利、円ドルレート、そして物価水準には、あまり 影響を与えないのだ。 つまり、あまり効かないことが分かっている薬を処方しておいて、「やつばりダメじゃない か」とする、日銀がよく使うトリックだったのである。ある新聞は、そんなやり方を、「緩和 のジェスチャー」だけをしていると評していた。まさにそのとおりだ。
り、需要不足のシグナルを発していた。また新車販売台数も、供給要因もあるものの、激減し ている。円高とともに、需要不足経済の基調も続いていたのである。 これに対し、自民党の町本幸一一衆議院議員ば、復興のための国債を二〇兆円規模で日銀に引 き受けさせることを提案した。当時、日本の需給ギャップを約二〇兆円と見て、復興の財源を お札を刷って賄おうとする正当な政策である 同じことは、日銀が現存の国債を買いオペレーション ( 公開市場操作 ) することでも達成で きる。政府が利子を払わねばならない国債を日銀が買い取ることで、救済費用を無利子の貨幣 で賄うわけだ。国債も減るし、デフレも解消する。これは一石二鳥のフリ ・ランチ ( ただ食 い ) のように見える ・ランチは許されない 普通、経済現象では、フリ 。この場合でも、ゼロ金利下であれば、 貨幣供給の増加が国債負担を減らしても、それがインフレ傾向を助長し、国民の実質所得を減 ・ランチとはならない。 価、事実上の課税となるため、フリ だが現在の日本では、皮肉な言い方だが、長いあいだ国民をデフレで我慢させたあとなの で、このフリ 1 ・ランチが可能なのだ。 日銀が長年続けてきた、いわば「デフレ志向」の金融政策の結果、買いオペはインフレをも たらさない。長いあいだ国民がデフレに苦しんだあとなので、拡張政策も、すぐには将来的な そ 物価上昇期待を生まない金融政策の有効性を削ぐ面では問題だが、国債負担を減らすには絶 2 ラ 6
が ( 良い選択かどうかは別として ) 残っている たにがきさだかす 二〇一二年の野田首相と自民党の谷垣禎一前総裁は、たとえ国民生活に悪影響を及ばして も、税率を上げることこそが政治家としての最終目的だ、というように見えた。そこに欠けて いたのは、なぜ増税が必要なのかという充分な説得力を持った議論だ。増税論者のほとんど唯 一のよりどころは、日本をギリシャにたと、んることだったよ、つに田 5 、んる しかし、端的にいって、日本がギリシャのような経済危機を迎えることはない。ここで、国 債の、積と円の通貨価値、そしてギリシャとの関係について、あらためて説明しておこう。な んつ、 お、この問題に関しては、上念一口氏の著書ー T 日本は破産しない ! 』 ( 宝島社 ) も参考になる。 ます、円高に悩む現在の日本は、 ( 的価値については、まったく心配する必要はな 策 、 0 政 世界中の投資家が「日本は破産しそうだ」と思っているのなら、誰も円や円建て資産を持 つわけがないのだ。そんなことがないからこそ、円高なのである。急に円の暴落が起きるとは 対考えられない もちろん、政府にはの二倍あまりの債務がある。債務を支払うためには、将来の税収 税をあてにしなければならない。ただし日本の国債は、短期国債も長期国債も、その金利が世界 的に低水準だ。それは、国債の保有者が日本の将来を不安に感じていないことを意味する。日 章 六本国債には、現在でも、内外の投資家が喜んで投資しているのである 日本の経済評論家、エコノミスト、学者のなかには、政府の返済能力に関して悲観的な観測 199
震災復興は公債で賄うのが当然 もちろん、政府の赤字はそれなりに困ることではある。とはいえ、円の暴落を心配する必要 はまったくないし、その・よ、ナな兆候し・ない。むしろ、円相場が一〇パ 1 セント、二〇パ 1 セン トと下落することは、デフレを収め、生産拡大するのに役立つのである。 ここまで、日本経済を家族にたとえながら、震災の例も出して説明してきた。そうなると、 震災復興の費用が気になるという人もいるだろう。 復興には、当然ながら国民の努力と復興投資が必要になる。もちろん、復興のためには民間 の活動だけでは不充分。政府による救済、保健活動、復興投資も重要だ。 ところが、日本の政府は大きな負債、つまり国債残高を抱えてしまっている。借金経営が自 転車操業といわれるように、将来の納税者をあてにして現在の政府が使い込みを続ける現在の あら 財政運営 : : : 大きな災害が起きると、問題が顕わになってしまう。 とはいえ、やはり復興の主役は「貧乏父さん」、すなわち政府。「金持ち母さん」、つまり民 間のお金を政府が巻き上げて復興にあてるのがひとつのアイディアとなる。つまりそれが、消 費増税だ。 これまでたとえてきたように、家族の間柄であれば、「金持ち母さんーが「貧乏父さんに お金を渡せば済むことである。しかし、 、と間の間では、単なる譲渡ではなく、税という 206
まかな 大きい。家族を養うため ( 景気対策、社会福祉、その他の財政支出を賄うため ) の収入 ( 税 収 ) を得ることができず、借金 ( 公債 ) に頼って自転車操業でやってきた。しかし、高橋洋一 底 . やコロンビア大のワインスタイン教授が指摘するように、日本政府はかなりの資産も持って いる しかも日本国民は、次に見るように、世界一の、資産を持っているのである 通貨価値は国民全体の資産で決まる 1 ド大学で行われた「日米関係プログラム」の討論では、私の前の報告者であった田 むらこ、ったろ、つ一 村耕太郎前参議院議員が、日本の総負債の比率の大きさについて、まるで日本が破産しかかっ ているかのよ、つに誇大に強調した。 彼はイエール大学の卒業生であり、親しい友人としてたいへんお世話になっている。だが私 は、この意見に対しては賛成できなかった。 現在、具体的な数字が出ている二〇一一年末時点で見てみると、日本の対外純資産は二五 三・一兆円。諸大国の中でトップである。世界最大の債権国なのだ ( 図表川参照 ) 。 アメリカ、イギリス、イタリアはマイナス、つまり純債務国だ。アメリカにいたっては世界 一の大借金国、二九〇兆円近い純債務がある。 日本政府は国債という形で大きな借金を背負っているが、その大部分は日本の民間セクター 204
「広義の買いオペ」を このようにデフレを放置したまま消費増税を行、つのは、日本経済を穴のあいた風船のように しばませてしまう政策である。現在の日本に求められているのは、「リフレ政策 - である。 、」」〈一プ・レ・政・策 - ど、は、・・・・ディ ~ ・レ・が・ら・の - 却を目指し、一一バーセントあるいは三パーセントとい、つ、 。戻すための。政策の、ごどその主な手段が、積極的な金融緩和 国 る す このリフレ政策に批判的な学者たちもいる。彼らが主張するのは、「ゼロ金利の状態では、 視 無『流動性の罠』に陥っているため、貨幣の増加はすぐに比例的に物価に影響するわけではな 識 い」とい、つ点だ。 常 の 短期名目金利がゼロないしそれに近い水準になると、将来の債券価格変動による損失のほう 年 〇が金利収益より大きくなるリスクが増える。そのため誰も債券を持とうとしなくなり、代わり に貨幣を持とうとする。それがケインズが説いた、かの有名な「流動性の罠ーである 学 済 つまり、ゼロ金利の状況では、短期国債と貨幣はほば同じ条件になってしまう。「ほば同 経 じ」とは、経済学の用語でいえば、「ほば完全代替資産」。資産としては、貨幣を持っても短期 章 一国債を持っても大きな違いがない、ということだ。 したがってゼロ金利の状況では、日銀が貨幣を増やそうとして短期国債を買っても、人々の わな