レンマが起こる。もしューロ主要国が、問題のある国に融資して、危機が一度は過ぎ去ったと しても、近い将来に同じことが再来することはないとは、誰にも言い切れないのだ。 さらに根本的な解決方法は、本当に政治的に統合された国家をつくって、ヨ 1 ロッパを一国 にしてしまうことだ。とはいえ、それには長い時間と多くの政治的抵抗か伴うだろう 世界一の対外資産を持っている国民 みぞう 二〇一一年三月一一日、日本は未曾有の大地震に見舞われた。私が住むアメリカのテレビで も、街が一瞬のうちに津波の犠牲になる光景が何度となく放送された。 その映象よ イ ( いかにもあっけないが、だからこそ、「この短い時間で、いったい何千人の尊い 命が失われたのかーと呆然としたものだ。 その後も私はアメリカにいながら、テレビを通して、被災地の日本人が黙々と、そして整然 と、前向きになって生きていく姿を見つめ続けた。ハ リケーンに見舞われた際のニューオリン ズのような暴動もなければ、捨てばちになる人もいなかった。大災害に遭いながらも自暴自棄・、 にならなかった日本人の国民性に対しても、世界中から注目と賛が集まったのは記億に新し とりわけアメリカでは、取材に赴いた < O テレビのキャスター、ダイアン・ソーヤーに対 してまで、わずかな食料を分け合おうとした日本人の姿が、驚きと感動をもって迎えられた。 202
をし、「国債暴落論」を唱える人もいる。だがこの暴落論者は、可を空売りする勇気がある のだろうか。 ( 倫理上、取引ができない人もいるだろうが ) 身銭を切らないで、国民の恐怖だ あお けを煽って原稿料稼ぎをしてはいないか。実際には、市場、つまり世界中のプロの国債保有者 は、日本国債が暴落するとは見ていないのだ。 日本が絶対にギリシャにならない理由 かってのベストセラーにたとえるなら、日本は借金にあえぐ政府 ( 父さん ) と、海外にも大 きな資産を持っ民間部門 ( 母さん ) が支える家族のようなものだ。資産保有者が日本の国力に 裏付けられた円資産を持っということは、父さんと母さんを合わせた家全体に、お金を貸して いるのと同じ。だから円の将来には不安を感じないのだ。 政府は貧乏だから、国債つまり政府の債務を保有するときには少し不安がある。しかし、 まのところ、日本政府の将来の徴税力、言い換えれば国民の租税負担力を信頼しているから、 それが日本の国債に対する信頼にもつながる。そのため、国債の金利か低いのである。 日本政府がいますぐ破産するかのように論じる人は、国債市場が安定している事実をどう説 明するのだろうか 市場は、日本政府の財政状態、その将来を不安に思いつつも、国債に一応の信頼を置いてい る。国債暴落論者は、国債の売り操作を始める勇気があるのだろうか。国債の暴落が起こるの 200
得する将来の働き手、つまり若者に、就職難というかたちで重荷を課しているのである。要す るに、各企業が無駄な雇用まで抱えてしまっているということだ。 日銀による超緊縮政策のために、若者の働き口がなくなり、それが技能や新知識の習得を防 ちょ、つら ~ 、 ぎ、日本企業の生産性をそぎとっている。このことが将来、日本経済を凋落させる原因にな る。つまり、潜在成長そのものに対しても脅威となるのだ。 日本は見かけの失業率こそ高くないものの、実質的な失業率はかなり高い状態にある。企業 が人を雇いながら効率の悪いことをやり、損失を出しながらも、それを助成金で我慢している のが現状なのだ。 ちなみに、アメリカの日本経済研究の大御所で、日銀政策委員会審議委員の白井さゆり氏の 師である、コロンビア大学教授、ヒュー パトリック氏も、私の金融政策に対する意見に大い に賛成してくれた。 経済学の天才たちの日本経済批判 ここまでに紹介した経済学の大家たちのほかにも、日本経済に興味を持っている人がいる たとえば、ノ 1 ベル経済学賞受賞者のジョー ・スティグリツッとポール・クルーグマンの二人 である。スティグリツッとはイエール大で、クルーグマンとは—で知り合ったが、若いと きから先輩を圧倒する雰囲気を持った大秀才であった。 しら 118
くなる。国民の将来に希望が生まれ、日本経済は立ち直れる このことは、二〇〇年前の一九世紀の初頭、イギリスの天才経済学者リカードが考察してい 「財政支出を一定とし、公債を発行しても税金をかけても人々が正しい予測を持ち、資本市場 が完全であれば、マクロ的には結果は変わらない。なぜならば、政府が国民の税負担を減らそ うとして公債を発行しても、人は現在の消費を増やさず、自分の孫や子の税負担を考えて消費 を控えようとするからである」 これが、リカ 1 ドの「税と公債の中立命題」である この命題は、「経済を刺激しようとして、課税の代わりに公債を発行して国民の負担を引き 政延ばそうとしても、それは役に立たない , というかたちで用いられる。これを現在の日本に当 つら 要てはめると、「増税していまは辛くても、将来の国民の負担がなくなるので、見通しが明るく 必 対なり、国民生活は改善する」とい、つことになるだろ、つ といっているのであ しかしリカ 1 ド命題は、「いっ税をとっても長期的には変わりがない 税って、「増税したほうか良くなる」とはいっていない また、次のような問題もある。それは、誰もが子や孫を持っているわけではない、というこ つまり・、リカードム叩 とだ。国民全員が子や孫のことを考えて合理的に行動するとは限らない。 第 題は崩れて、先述したように、増税は失業と景気沈滞をもたらす。 る。 197
第三章天才経済学者たちが語る日本経済 要がある。それに対し、強い国であるドイツが反対している」と、明央に述べている。 クの臼グマンは、日本経済〈の対策も、「日本には、根本的に高齢化と少・子化、@」既題があ る。しかし日本が三 5 四パ 1 セントのインフレになれば、事情は変わってくるどうやってイ ンフレを起こすかというと、お金をもす一・ ) いい・ 0 刷し続けるど紛朿すること。そこには 将来の期待が大いに関係する」と述べている。 皮よ日本の長いデフレのあとでは、デ 私は「もの、すごいみいで」とまでは言い切れないが、彳 ( フレ期待を払拭するのが難しいと見ているのであろう。 彼はこ、つ続けた。 「二〇〇五年から二〇〇七年にかけて、日銀が思い切ってインフレ率をプラスにすると約東す べきだった。それなのに金融引き締めを行ってしまった : : : ひどい失策だ」 では、もし彼が日銀総裁だったらどうするだろうか 「まずインフレ・タ 1 ゲットを公表する。日銀の量的緩和は控え目すぎて、まったく足りな 、 0 一バーセントのインフレ目標を発表したところで、きっとそこまでのインフレにはならな いと国民は思っている。本当は四パ 1 セントが望ましいが、二パ 1 セントでもすいぶん状况は 変わるだろう。財安にするだけで、将来は明るくなる」 これ以上、私がここに付け加えることは何もない。 ふっしよく 121
「国内金融を緩和しても海外に資金が流れる」という意見に関しては、それで何が悪いのだと いいたい。資金が流出すれば円安 0 の、 - ・・ぞれで輸出需要が恥がをか・らである。 これらの質問は、金融、国際金融に関する学部生レベルの常識を持っていないことを示す。 すでに引用した田中正造の言葉がますます現実性を持ってくる。 安倍晋三氏の著書のように、日本に帰るたびに、私も日本は「美しい国」だと実感する。自 然の美しさにとどまらず、心の細やかさもある国である。病院で検査の採血をしてもらうだけ でも、治療の細やかさ、やさしさが伝わってくる。このような美しい日本が、金融政策を「し め よばいレベルに保っているために、毎年、若年失業率の高い、設備稼働率の低い、態を続 戻け、さらにはそれが将来への長の活ガを奪づぞ・りるのは、残念で仕方がない 取 私はホテルの周りを取り巻く長い空車タクシーの列を見るたびに、日本経済の現状に思いを を それが 馳せてしまう。円高、デフレ、空洞化を解消して、「美しい国」を取り戻してほしい。 国 私の切なる願いである。 し 美 私は二〇〇九年九月、頸部の内出血を患い、ステントを血管に入れる手術で命を取り留め き た。三年経って、ほとんど普通と変わらない生活ができるようになった。仕事ができるような と状態を授かったからには、これからは自分の経済学の知見を国民の将来のために一生懸命伝え るのが天命であるように思える。 267
ここでは掲げないが、経済の活力の指標である株価指数の国際比較を見ても、日本株の低迷 は顕著。かって奇跡の成長を遂げた日出ずる国の凋落ぶりを思うと、本当に情けなくなる。 その傾向が、特にリー マン・ショック以降はなはだしい。円高とそれに伴うデフレ基調は、 大新聞の論調がいうように日本に降りかかってきた災難ではなく、日本が印引の・金融政策によ って招き「可せ・たもの・な・のだび 唯一の解決策とは何か この事態から脱するにはどうしたらいいのか。答えは簡単である。円資産が相対的に品薄な ため超円高になっているのだから、円資産の供給を増やしてやルばしし 他通貨に対して日本の通貨の価値が上がった円高、財に対する通貨の価値が上がったデフレ は、ともに貨幣的な現象だ。リンゴが品薄なら、リンゴの供給を増やせばいいのと同じこと。 日本が円通貨を増加させることこそ、円高題の・根本解決につながるのだ。 金融政策なしの円高対策は、ハムレット劇をデンマークの王子なしで演ずるようなもの、骨 抜き芝居である。 もちろん円を保有するかドルを保有するかは将来に向けての選択であり、市場に出回る資産 の量だけでなく、それらの収益率の差、さらには将来に向けての収益率の期待に影響される。 したがって、円高そのものに直接対処する基本的な政策としては、金融を緩和するだけでは ちょ、つらく
が ( 良い選択かどうかは別として ) 残っている たにがきさだかす 二〇一二年の野田首相と自民党の谷垣禎一前総裁は、たとえ国民生活に悪影響を及ばして も、税率を上げることこそが政治家としての最終目的だ、というように見えた。そこに欠けて いたのは、なぜ増税が必要なのかという充分な説得力を持った議論だ。増税論者のほとんど唯 一のよりどころは、日本をギリシャにたと、んることだったよ、つに田 5 、んる しかし、端的にいって、日本がギリシャのような経済危機を迎えることはない。ここで、国 債の、積と円の通貨価値、そしてギリシャとの関係について、あらためて説明しておこう。な んつ、 お、この問題に関しては、上念一口氏の著書ー T 日本は破産しない ! 』 ( 宝島社 ) も参考になる。 ます、円高に悩む現在の日本は、 ( 的価値については、まったく心配する必要はな 策 、 0 政 世界中の投資家が「日本は破産しそうだ」と思っているのなら、誰も円や円建て資産を持 つわけがないのだ。そんなことがないからこそ、円高なのである。急に円の暴落が起きるとは 対考えられない もちろん、政府にはの二倍あまりの債務がある。債務を支払うためには、将来の税収 税をあてにしなければならない。ただし日本の国債は、短期国債も長期国債も、その金利が世界 的に低水準だ。それは、国債の保有者が日本の将来を不安に感じていないことを意味する。日 章 六本国債には、現在でも、内外の投資家が喜んで投資しているのである 日本の経済評論家、エコノミスト、学者のなかには、政府の返済能力に関して悲観的な観測 199
不充分である。つまり、日本銀行が将来に向けて、これまでのデフレ志向の金融政策の姿勢を 改めること、これを、はっきりとしたシグナルで示すことか必要になるのだ。 つまり、これまでのように、円高が進行して為替介入が話題になると申し訳程度に金融を緩 和するという、米紙「ウォ 1 ル・ストリート・ジャーナルの評した「い」・お・い・ー劵 円高は解消しない。 具体的には、自由民主党衆議院議員で元大蔵官僚の山本幸三氏が主張するように、相当な金 国額、たとえば二〇兆円の国債を日本銀行が引き受けるというのが、有効なシグナルの一案だ る す これは財政法の条文、すなわち財政法第五条によって原則として禁止されている日銀の国債 視 無直接引き受けかどうか解釈が分かれるところだが、形式論理を使って日銀の都合のいいように 識主張するのは、国民の福祉をないがしろにした日銀御用学者の議論である。 常 の もし直接引き受けが望ましくないならば、市場に国債を発行したあと、同額を日銀が買い上 年 〇 げると宣一言するかたちでもいい。引き受け、ないしは大規模な買い上げを宣言することで、マ 〇 、不タリー ・べース ( 現金 + 金融機関の日銀預金残高 ) が拡張し、量の効果で円高傾向が抑制さ 学 済れる それだけではない。「将来は、日本銀行も、過去二〇年にわたって産業界と国民に押し付け 一てきた引き締め政策をやめるだろう」と市場に受けとめられれば、そのことが期待を呼んで、 円高に歯止めがかかる。 やまもとこ、つぞ、つ
恩師、館先生が指摘したように、「政策は分配の争いを裁くよりも、当事者がみな豊かにな る方向に向かうとき、最も有効となる」のである。日銀は、そうなることで、過去の誤りか明 らかになり、面目を失することを危しているのかもしれないが、中央銀行の面目と国民や産 業界の利益、そのどちらが大事なのだろうか まして、東日本大震災のような甚大な災害に 私も将来的な増税が不要だとまではいわない 見舞われた日本には、大きな財源が必要となることは理解している。ただ、いまはその時期で とい、つことなのだ。 言い方を変えれば、未曾有の国難に瀕しているいまこそ、一国の経済を司る人々が「石頭」 から脱却するチャンスでもあるのだ。 策 政 不況とデフレが共存しているからこそ、金融緩和が副作用のインフレなしに景気を立て直す 要ことができる。絶対のピンチがあるところに、起死回生の方策が待っているのである。 必 対 絶 税 増 章 第 ひん 2 巧