る す 二〇一一年の東日本大震災は、主に不充分な金融緩和のために過去五年間続いてきた需要不 活 復足が解消しないところに襲ってきた。 す 震災は、生産供給能力の低下によって価格上昇圧力になる。しかし、他方、資金面では、非 ま 常時に備えた貨幣需要や保険金支払い準備のための資金環流を通じて、円建て資産の需要を増 本やす。 日 これはデフレ圧力を助長する。阪神淡路大震災後には一ドル七九円台の円高となったし、東 章 日本大震災後には、過去最高値の七六円台を記録した。 終 震災直後の市場統計指標、たとえば百貨店、外食、旅行の売り上げは、大幅に減少してお のでしよ、つか ? また、どうして日本の学者も実務エコノミストも、同じような ( 日銀に近い ) 見解しか述べ ないのでしようか ? 金融政策と金融論には、日本流の伝統理論と日本的でない ( 世界共通 の ) 伝統理論があるのでしようか ? 世界の常識は、日本の異端なのでしようカ ? 浜田私もまったく同じ感想を持ちます。普通は違った意見を戦わせるパネル・ディスカッシ ョンで、これほど賛成してもらえたのは生まれて初めてです。本当にありがとう。 「たた食い」が可能な日本経済 255
恩師、館先生が指摘したように、「政策は分配の争いを裁くよりも、当事者がみな豊かにな る方向に向かうとき、最も有効となる」のである。日銀は、そうなることで、過去の誤りか明 らかになり、面目を失することを危しているのかもしれないが、中央銀行の面目と国民や産 業界の利益、そのどちらが大事なのだろうか まして、東日本大震災のような甚大な災害に 私も将来的な増税が不要だとまではいわない 見舞われた日本には、大きな財源が必要となることは理解している。ただ、いまはその時期で とい、つことなのだ。 言い方を変えれば、未曾有の国難に瀕しているいまこそ、一国の経済を司る人々が「石頭」 から脱却するチャンスでもあるのだ。 策 政 不況とデフレが共存しているからこそ、金融緩和が副作用のインフレなしに景気を立て直す 要ことができる。絶対のピンチがあるところに、起死回生の方策が待っているのである。 必 対 絶 税 増 章 第 ひん 2 巧
好の条件がそろっているのだ。 すでに述べたように、金融緩和をせすに消費税率を一挙に上げれば、所得が減り、つまりは 税収が減り、日本経済は壊滅する。しかし、政府や政治家がうまく日金を説得して金融緩和を 行い、デフレ圧力を払拭してから増税をすれば、消費者、産業界、そして財務省の三者にと って ( 落語ではないが ) 一一 とはいえ、東日本大震災のあとの日本経済では、個別商品の価格上昇が起きる可能性があ る。仮にそうなっても、個別価格の上昇が一般的な物価 ( 生鮮食品を除くコア消費者物価指数 の上昇に結び付かないようにしなければならない 三パ 1 セント程度のインフレ・ター そのためには、なるべく早く、たとえばコア O 二 5 しし・イン すゲットを設定し、デフレに対してだけでなく、インフレヘの歯止めも設けておけば、、。 復フレ・ターゲットは、デフレ脱却のためだけでなく、インフレ防止のためにもいっそう有効な すのである。 ま 本 、冫費税の引き上げ幅は圧縮できる 日 国債の日銀引き受けでデフレを打破できれば、国の財政状態も自然増収で一息つける。その 章 ことで、消費税の引き上げ幅を圧縮できる可能性も出てくる。 終 私も、決して増税そのものに反対しているわけではない。政府の財政が不用意では、東日本 2 ラ 7
しかし、二〇一二年三月と四月のマネー平均残高は、むしろ前年よりも減少していた。 「二〇一一年は、東日本大震災があったために貨幣を増やしたので、今年はそれを回収してい るのです」と日銀は答えるかもしれない。しかし日本のデフレ解消のためには、それは役立た 日銀は「七月と八月はマネーを増やしています」と反論するかもしれないが、事実としてバ レンタインデーの政策変更以後、変化していない日本経済の体温というべき株価も円レート も、元に戻ってしまったのだ。もちろん、デフレが解消する気配もない なぜ、そのようなことになってしまったのか 撃 衝 ハレンタインデ 1 の政策変更が、短期間ではあれ効果があったのは、「日本銀行のスタンス の 日 が変わった」というマインドが市場に広まったからだ。日本がデフレを脱却できるような政策 一を日銀が示したことで、円の価値が下がるのではないかという「期待」を市場参加者が持った 月 一一のである。 ところが、その後の白川総裁の内外講演やスピーチからは、「日銀はデフレを解消できるわ 〇けではない」という本音が衣の陰の鎧のように見え隠れしていた。結局、市場参加者は、「日 銀法改正の動きもあるから、いやいや政策変更しただけなのだな」と、見透かしてしまったの 章 五である。 また、日銀が本気でインフレ「目途」を達成しようとしていたなら、二月の政策決定会合だ よろい 169
現在でもデフレが継続し、円高が産業を苦しめていること自体、日銀や財務省の為替政策が 優柔不断であり、量的に不充分だったことを示している 一つのバロメーターである為替レートをとってみても、実質実効為替レ 1 トをリ 1 マン・シ ョック以前の状態 ( 名目レートが一ドル九〇 5 一〇〇円の水準 ) に近付けることが望ましい 変動相場制のもと、協調ないし単独で行う為替介入に頼らなくても、欧米との金融緩和の程 度の違いで、円高を防ぐことができる。金融だけで、為替レ 1 トは充分に変えられるのだ。 東日本大震災は、負担を将来に先送りし続けてきた公債依存型の財政の弱点を顕わにした。 しかし、消費増税で一気に財政を改善しようとしても、それは国民経済のパイ全体を小さくし てしまうことになる。それによってもたらされるのは、歳入の減少に過ぎない 増税を急ぎすぎると、むしろ日本経済にダメージを与えることになるのだ。 ます必要なのは、充分な量的緩和によって、デフレ、需要不足、低成長から脱すること。そ してそれは、経済を学んだ人間なら、世界中誰もが知っているはすの常識である。 そこに、日本復活への鍵がある。言い換えるなら、世界は日本経済の復活を、すでに知って いるのだ。 あら 260
0 ニ〇兆円もの需給ギャップを抱えた理由 この終章では、ここまでの説明をまとめつつ、日本経済復活への道を提示したい。政治家 を、失礼ながら「ヤプ医者ーと書いた私なりの「処方箋」である。 東日本大震災後、失われた供給力の回復を急ぐ課題を日本経済は背負っている。それに加え て、中東情勢悪化による原油価格の高騰は、貨幣面ではなく、実体面から困難な状況をもたら している。それは各国共通の問題だが、どうして日本だけが諸外国、発展途上国はもとより諸 先進国と比べても悪いマクロ経済のパフォーマンスを続けているのだろうか 各国とも原油価格の高騰という逆風のなかを航海しているのだが、そのなかで日本だけがい っそう置いてきばりにされている理由はなんだろうか それは、日本経済だけが、デフレや円 - 部こ、ししデ謐呀不足に図んで、 - 当・・ーーーー しるからだ。諸先進国 丿ーマン・ショック以後、金融緩和を極端に拡大したなか、日本だけが拡張しなカオ そのために日本が通貨高で苦しんでいるの・であ・る。 この需要不足がなぜ生じたのかを説明しよう。 マン・ショック印 ( ( 」こよ、不良貸し出しが含まれているため実際には価値のないサププラ イムローン ( 信用力の低い個人向け住宅融資 ) と、それを「金融工学」の名のもとに合成した 証券か流通していた。しかも、それが価値のあるものと考えられていた。 248
〈 ( 日銀が ) 長期国債を買っていけば、その分だけ財政が一息つける。それからマイルドなイ ンフレになれば、経済全体にはもっと良いことが起きると思います〉 確かに、戦争、内舌、 ' ・・・・・・・・ーーーーし・、・ー大災害のあとのよ、つに、国民生産に大打撃が加わると、ものと貨幣の 策 ハランスか崩れてハイハー ・インフレになることがある。た一輯町窈ヨーロッパ諸国や現在の途 政 済上国にもその例がある の だが、東日本大震災以後の日本では、にデフレ圧力が直らなかった。これは、日銀の出す め マネーの量が少な過ぎ、しかもその出し方が下手だったからだ。 の 省 後日本では、日銀が、迫るインフレの前に金融を引き締めて、うまく抑え込んできた。こ 務 財の点は、大いに褒められていい。インフレが始まり、物価が上がる ( もしくは上がると予想さ 銀れる ) と、金利が上がり始める可能性もある。日銀がそれを不安視しているのはわかる。また 日 反リフレ派の人々は、経済を刺激しインフレ期待が上がることで金利が上がるのを心配する 章 しかし、金利は予想インフレ率ほど上がらす、実質金利が下がって経済にプラスの効果があ 第 る。このことは、すでに、ノ 1 ベル経済学賞受賞者のロバート・マンデルによって証明されて 現在から見れば、むし くらいです〉 が少なくて大不況からの回復が遅れたと言ってもよい
「経済書は岩波新書を一冊読んだだけ」の経済財政相 「円高対応緊急パッケージ」は、世界に通ずる経済学の基本を踏みにじるものだった。誰が踏 みにじっていたのかといえば、対策を起草する彳であり、それを統轄する大臣であり、政党 の首脳だ。また、政府・日銀の主張をそのまま報道するマスメディア、充分な批判を述べな い・・学者、エ・コ・・ / ・ミ、スドも、同罪であな、。 残念なことに、二〇一一年九月二日に発足した野田内閣の布陣では、「円高対応緊急パッケ ージーのような不条理な経済政策を引っ込め、円高そのものをタ 1 ゲットにした金融政策に転 の換することは絶望的だった。 日本からの報道や友人からの情報をもとに野田内閣の性質を一言で評せば、まさに不適材・ 尸の、適格内閣だっオ。 昨今の日本にとって喫緊の課題は、円高とデフレを克服し、東日本大震災という国難を乗り 銀越えること。そのためには、経済に明るく、日銀や財務省のいいなりにならない内閣をつくら なければならない ところが野田内閣は、首相からして完全に財務省の操り人形と化していた。蚯訂・百柧気箜 ーの出身。 ( 政府の無駄を省くことにより ) ( 税ロ家論 T ・を昌・えだ箜を之明氏が・ら畆發、 きっきん
自慢の神が岩戸の扉を開け放ったという。 ーセントだ この神話にたとえれば、バレンタインデ 1 の政策変更は、岩戸がかすかに ( 一。 け ) 開かれたようなもの。下界の人々は日の光を喜んだ。にもかかわらず、その後の講演や談 話における白川日銀総裁の言葉は、「太陽のわらわが顔を出しても世の中は明るくならない」 といっているよ、つなものだった。 これでは、日銀の本心がどこにあるのかが分からなくなる。つまり、本心から改心して優し い女神となったのか、それとも見せかけの優しい仕草を見せただけで、やはり厳しいままなの 力とい、つことだ。 撃 衝 もし前者、すなわち日本銀行が本当に世界の金融論の伝統、国際金融論の正道 ( それはかっ の 日て総裁自身も信奉していたものだ ) に戻ったということならば、これほどうれしいことはな 、。いつも私に「今度の政策は合格点か ? 」と聞いてくるジョルゲンソン教授にも、「イエ 月 ス。シラカワは私のいうことを聞いてくれた」と答えることができると思った。 年 、 0 2 、 ノレンタインデー以降、実質的には、追加的 しかし残念ながら、そうではなかったらしし 〇な金融緩和は行われなかったのだ。 ・べースの伸び 東日本大震災後の金融緩和があったせいもあるが、三月、四月のマネタリー 章 五は止まっていた。インフレ「目途」によって、やっと八〇円台前半に上がった円・ドルレート 」こよ一ドル一〇〇円を超えていたわけだ も、七〇円台後半に逆戻りしてしまった。この三年前 ( (
大震災のようよとき、機動的な対策を打てない。しかし、増税の前にできることがいくらでも あるといいたいのだ。そして、もし増税が必要だとしても、然るべきやり方がある。 金融を緩和しないまま消費税を引き上げるのは、最悪の場合、消費税収そのものが減ってし まいかねない。 そうでなくても、税率上昇による経済活動の鈍化のために、所得税や法人税の減収が消費税 の増収を帳消しにすることは、すでに述べたを本龍太郎内閣の教訓からも明らかだ。 当時、わすか二パ 1 セントの増税でも、財政収入が減少してしまったのだ。ましていま、災 害後 0 国民 0 苦しむ時期を狙 0 たか 0 よう」税負担をかけようとする 0 は、順序からしも かしい 仮に消費税を上げざるをえないとしても、そのことで景気を悪化させずに済み、しかも長期 「的には望ましい歳入歳出のバランスを回復しようとするなら、が提一言するように、消費 税を毎年一バーセンドずつ、たとえば一〇年間上げていく政策を私は薦めたい。 ぜんしん それでも、課税による効率の低下をまったく避けることはできないのだが、その影響は漸進 ふかおみつひろ 的なものとなる。慶応大学の深尾光洋教授が強調するように、将来の増税を避けようとする国 民による消費の前倒し効果も期待できる。 税金がすべて効率上の損失を生むとは限らない。たとえば環境税のように、人々が環境汚染 をもたらすインセンテイプを取り除こうとする税もある。それは税収を上げながら環境を浄化 てき 2 ラ 8