レを防ぐまでには、二〇年もの時間が必要だ。だが自分の持っ薬を使えば、金融緩和はその日 のうちにでもできる。それをしない口実のために、二〇年かかる手段を一生懸命に考察してい いのだろうか とをメディアは批判しない。産業界も、日本の輸出産業を円高で破壊し、日本の空洞 化を推し進める野田内閣を歓迎する、といっていた。患者自身が「良い医者だ」と、ヤプ医者 を褒め上げているような状態だ。 また記者たちも、政治家と同じように経済音痴なのだろうか。あるいは、政府の抱いている 間違った経済像の理解、政策効果に対する理解を正すガッツがないのか : たむらひで ムゞ知る限り、正しく経済を理解し的確な評論をしているのは、産経新犠別言者の田村秀 男氏ほか数えるほどしかいない。田村氏はこの「円高対応緊急パッケージーが円高防止には役 に立たず、財務省の利権を増やすだけで、日本の空洞化を助けることを、明央に論じている 小泉首相に伝えた重要なこと こいずみじゅんいちろう それより前、小泉純一郎首相と竹中平蔵氏が経済政策を担っていた時代は、民主党政権よ りだいぶましだった。当時、私は内閣府の経済社会総合研究所で所長を務めさせてもらってい たが、その職を辞し、アメリカに戻るときのことだ。おそれ多いことに、小泉首相は、小料理 屋で送別の食事会を設けてくれた。 お たけなかへいぞう 8
工 1 ル大Ⅱ早大の朝河貫一記念フェローなどである。野村證券、トヨタ自動車、ジェトロ・ニ ュ 1 ヨークなどからいただいた研究費にも感謝でいつばいだ。 これらの奨学金や援助には、自分で努力して獲得したものもある。しかし、先述した方々、 機関の善意なしには、私の研究生活は成り立たなかった。たとえばフルプライト留学生で渡米 しなかったとすると、どういう学者生活が待っていたか想像もできない だから今度は、自分が若者を援助する立場にならねばならない。「東大友の会」などを通じ て少しはしているのだが、これだけのご恩をお金でお返しするのはほとんど困難である。自分 勝手かもしれないが、本書のような形で、つまり自分の知り得た、あるいは研究の結果得た知 識を国民にお伝えするかたちでご恩返しをするしかない 二〇一二年一〇月三〇日、政策決定会合が開かれ、日銀の記者会見があったという。白川総 裁に関しては、相変わらす金融緩和を引き延ばそうとして、物価の目途も二〇一四年だったの を二〇一五年に変えているようだった。童話「猿かに合戦」に出てくる将来の柿の約東は、ま すます遠くなった。 総裁記者会見で最も気になった、いや、国民の未来を考えると怒りさえ覚えるのは、多くの 記者が緩和の効果に疑念を示していることである。「資金調達ができても貸し出しは増えな い」というのはバーナンキ等の「信用加速理論」があることをまったく知らない議論だし、 266
0 ' 閉鎖性が突出ーー日銀記者クラブ ここまで書いてきたような内容は、新聞やテレビではなかなか取り上げられることがない 海外のメディアでも、日銀の策を強く批判するような記事を見かけることは少ない その原因は、メディアにとっての最 一ユースソースか日金、ることだ。金融記事 に関しては、金融当局である日銀に取材してカらでないと書き・に・、いのが現状なのである 海外のメディア、あるいは国際機関である ( 国際通貨基金 ) や 0QOQ ( 経済協力開 発機構 ) に対しても、日銀の職員は丁寧に「説明するだけでなく、「説得」もするという。 中立であるべき存在を「身内ーとして、引き込んでしまうのだ。 よくから、日本が財政再建に積極的に取り組むべきであるという論調のニュ 1 スが発 せられる。高橋洋一氏によると、これはに出向している財務官僚が発信している、との こと。 日艮よ、、、 このこと し力にしてメディアの情報をマニピュレート ( 操作 ) しているのか は、私もイエ 1 ル大のゼミで学生たちと勉強してきた。そこで一般的なテ 1 マになってくるの は、日本における審議会と記者クラブの役割だ。 日銀では、金融研究所という組織が、他の省庁における審議会のように使われている。そこ に学者を招き、個室を与え、研究費を与えるのだ。 218
遇しなければならない。各省とも、良い部屋や秘書的業務の提供などサ 1 ビスに努めているの ですよ」と語っていた。 どれだけ東大の記者クラブが充実したかは覚えていないが、進歩的学者である篠原先生の意 しまでも記億に残っている 外な一面を見た気がして驚いたことは、、 ベストセラーは日銀機関誌の連載から しけカみあき さて、で記者とキャスタ 1 を歴任した池上彰氏は、い まの日本で最も有名なジャー ナリストの一人だろう。キャスタ 1 として「週刊こどもニュース」を担当。以前、帰国した際 に、「日本の子ども番組は充実しているな」と、大人ながら感心したことがある。 フリーとなってからもさまざまなテレビ番組でレポ 1 トやニュ 1 スの解説を精力的に行い、 著作もよく売れている。一般庶民の目線で、分かりやすく平易な一言葉で解説するところは、私 も見習わねばならないと思っている。情報をいかに届けるかという点について、池上氏の功績 は大きい 池上氏の有名な著書に『日銀を知れば経済がわかる』 ( 平凡社 ) がある。タイトルどおり、 日銀について分かりやすく解説したものだが、この本、元になっているのは、「池上彰のやさ しい金融経済教室」という、日銀の広報誌「にちぎん」上の連載なのである。 その事実をもって、池上氏を「日銀の手先ーというつもりはない。だがそういう連載をして 224
第七章「官報複合体」の罠 すー 「金融研究所に一年間いて元の職場に帰ってくると、人が変わってしまう人が結構いるんで そう高橋洋一氏は語る。「日銀記者クラブの閉鎖性は突出してします」ともいう 日銀総裁を「起立、礼」で迎える記者 このところ、記者クラブ制度が、日本におけるマスコミの最大の問題点として騒がれるよう になった。そのせいもあって、民主党政権になってからは、記者クラブか開放されつつあるの は確かだ。フリ 1 の記者を中心にした「自由報道協会」という新しい流れも出てきた。 しかし、依然として閉鎖的なのが、日銀記者クラプだという。 ここにはメディアの人間なら誰でも入ることができる、というわけではなく、それができる のは、大手の新聞やテレビの記者のみ。フリ 1 のジャーナリストや雑誌メディアに属する人間 は、記者会見を取材することさえ許されない。 このような記者クラブのシステムは、先進国では日本だけだ。 しかも、である。高橋氏によれば、日銀クラブの会見に総裁が出席する際には、記者たちは 「起立、礼」をして総裁を迎えていたという。まさに異常な光景というほかない まるで学校のようだが、日銀総裁と記者の関係は、まさに先生と生徒のように、「教えてあ 2 げる」立場と、「教えてもらう」立場となっていた。だから「生徒」である記者は総裁に対し 0
ーハーがないと記者たちは 役所のヘ 「霞が関の役人にとって、マスコミを意のままに操るのは、朝飯前である。そもそも官庁詰め の記者と役人は一体化しており、記者は身内のようなものだからだ」 髙橋氏は『日本は財政危機ではない ! 』 ( 講談社 ) のなかで、そう記している。 その原因となっているのは、記者クラブ制度だ。各省庁の建物、その一室が各紙の記者に与 えられ、そこをベ 1 スにして取材が行われていく。関係が密接になるのも当然の話だ。しかも このスペ 1 スは、税金で賄われている 記者クラブ所属の記者には、アポイントメントなしで役所内の部屋を訪問できるという特権 もある。なんのためかといえば、ネタをもらうためだ。 そして、記者たちが特にほしがるのが、役所が出すべー パーだそうだ。高橋氏は、財務省時 代、あまりにも「紙ーをほしがる記者たちを見て、「これではまるでヤギじゃないかーと思っ たと皮肉をいっている 実際、役所と記者クラブの関係は、「餌を与えるものーと「餌をもらうもの」の関係に等し しつら い。極端な表現を許してもらうなら、記者クラブの記者たちは、役所のなかに設えられた部屋 で飼われ、ペ 1 1 という餌をもらって生きているのである そんな関係である以上、批判的な記事は許されない。もしくは、無意識に規制してしまう。 0 0 0 2 2 2
両伊藤氏は立派な経済学者であり、また優れた啓蒙家でもある。しかし、地震の被害の負担 に関しては、両氏の意見に賛成できない。病み上がりの子供に重荷を負わせて、「もっと具合 かよくなったら荷を下ろしてあげる」といっているようなものだからだ。 財政政策に関する意見は別にしても、伊藤隆敏氏はインフレ・ターゲットを学者の立場から 推奨している。国際会議を飛び回り、日本の中堅マクロ経済学者としての大活躍は国際的によ く知られている。日本の金融論やマクロ経済学の旗手といっていい。 だから、民主党に日銀副総裁への就任を拒否されたときは、本当に私も残念だったし、本人 も「夜討ち朝駆け , の記者の取材に消耗したそうだ。彼のすぐれた力量から、伊藤隆敏氏を、 私は日銀総裁の候補として推薦したい。 増税のメリットはあるのか もちろん、増税のメリットも考えておかなければならない。それがフェアなやり方とい、つも のだ。 いまの日本の財政赤字は、政府の税負担を先延ばしにしてきた政策の結果である。国民に良 い顔をして、その財源調達を、税によらず借金 ( 公債 ) で賄おうとしてきた。もし勇気を持っ て増税して、財政赤字を解消し、そのことで公債累積を防げると分かれば、公債の元利払いに よる後世代の税負担が解消される。そのことで、国民全体を覆う、もやもやとした不安感がな 196
積が厳然としてある。 不況に関していうなら、経済学においては、以下の大恐慌時代の教訓が重要とされている。 「金本位制をそのまま維持していたので、経済がさらに悪くなった」 「アメリカも、より早く金本位制を離脱していれば、そして貨幣供給を増やしていれば、大不 、冫を和らげることができたはずだ」 これらが厠缶の譓だ望ところが、私たちが若い頃に学んだマルクス経済学では、「金本位 制が壊れたために、資本主義がダメになった」と説明されていた。まったく逆の理屈になって いるのだ。 政治家たち、そして金融政策無効説を唱える学者たちには、、ーま・でも・マ・ル ' グ・み経学い影響ー が残っているのではないだろうか。少なくとも固定為替制下の既成観念にとらわれているよう つかさど に思える。若い頃に習った、つまり数十年前の知識で、現在の政治や経済を司ろうとしてい るわけだ。 これは、医者にたとえるなら、やはり「ヤプ医者ーであろう。自分が若い頃に学んだ知識だ けを頼りに患者を治療しようというのだから。 ままで面識かないと思っていた もっとも、ここで自己批判もしておかなくてはならないい 政界の実力者や日本銀行の幹部から、「実は浜田先生の法学部の『近代経済学』を受講しまし た」、あるいは、「教養課程の少人数のゼミにいました」と声をかけられることが多いのだ。 0 8
「三方一両得」の金融緩和 第七章「官報複合体」の罠 閉鎖性が突出ーー日銀記者クラブ 日銀総裁を「起立、礼ーで迎える記者 消費税で癒着する財務省と新聞社 ーパーかないと記者たちは 役所のペ 「我々も東大記者クラブを。ち ベストセラーは日銀機関誌の連載から 2 日銀か説明に使、つ詐術まかいのグラフ 2 世界一の対外資産を持っている国民 通貨価値は国民全体の資産で決まる 震災復興は公債で賄うのが当然 徐々に消費税を上げる方策をとると。 内閣府時代の思い出 0 一石三鳥の政策とよ可、 ( ー 1 刀 21 2 219
0 財務省の為替介入は、それにふさわしい金融政策が採られなければ有効ではないという高橋 氏の指摘は正しい。しかし、財務省の介入で為替レートが変わると思っている市場関係者や国 民も多いのだから、財務省も時には介入を示唆したり実際に介入したりして、玖府が円高を阻 止しようとする態度を国民に・シグナルとして伝えてもよいのではないか 私はそう考える みぞぐちせんべえ 二〇〇三年から二〇〇四年にかけて、財務省財務官の溝ロ善兵衛氏 ( 現・島根県知事 ) は、 アメリカのジョーン・テイラ 1 財務次官と携帯電話で連絡をとりながら、巨額なドル介入を行 った。だが現在の財務省は、ほどんど本格的な介入をしていない 日米の記者の経済原則理解の水準 ゆが ここまで繰り返し書いてきたように、日本のマクロ経済政策は、非常に歪んだ、あまりにも 孤立した状態にある。他の国では当たり前に考えられている経済原則、すなわち経済学二〇〇 年余りの積み重ねを無視しているからだ。 0 レ経済学、の・常我に賍の ) 、 ' 遵切いー ~ 一一一・い換、んれば当た前の ) ・。・政策をど、を〕ど・いⅡぞルを田・す田、 ーをは復活・す・る 9 ・一てれがなかなかできないできたのは、日表 - や攻家たぢ - 、「そん・に学者 - ゃ。「み・ り。も「身内の論理に凝り固まり、自分が所属する糸織・の利害だげを考】ん、、、、印分 勝手な枠糸でカ、冫を考えられなくなってまオカらとカ呷オし では、海外の経済学者たちは、経済学の現状をどのように見ているのだろうか 126