て、米連邦準備〔制度〕理事会に追随し、実質ゼロ金利政策を復活させたものの、 資産購入を増やし量的金融緩和の観点でバランスシ 1 トを拡大し始めたのはようやく最近〔二 〇一二年〕になってからだ。 、欧州中央銀行 (æopa) 、イングランド銀行 ( 英中央銀行 ) は、二〇〇八ー〇九年 の金融危機の最中にバランスシ 1 ト拡大の方向に大胆に舵を切っている。しかし、日銀は主要 中銀〔中央銀行〕の中では唯一、そうした動きに同調しなかった。その結果が、円レートの急 上昇である。 済 経 日銀はその後遅ればせながら量的緩和に踏み出し、今年〔二〇一二年〕二月には消費者物価 本 日の前年比上昇率一 % という事実上のインフレ目標を導入した。遅きに失したとまでは言わない。 齬しかし、この程度で日本経済が二〇〇八年以降の円高で被った初期のダメージを修復できるか ち といえば、答えはノ 1 だ。他の主要中銀、何よりがより積極的な量的緩和を推し進めて 者 いることを考えれば、日銀の政策は不十分としか言いようかない。 学 済 資産バブルの発生リスクなど量的緩和の副作用をめぐる懸念があることは私も理解してい 経 才る。しかし、現実の問題として、が〔二〇一二年〕九月に発表した量的緩和第三弾〔 〕は実施期間について期限を設けないという極めてアグレッシプなものだ。円高の長期ト 章 ちゅ、っちょ 一一一レンドを逆行させようとするならば、日銀に躊躇している暇はないはすだ。 むろん、ゼロ金利下での金融政策の効果を疑問視する声があるのはうなすける。だが、主要
信用力の低い人々に貸し出された債券の価値が低いことは、誰にでもわかるはすだ。豊かで 。止日り手の財布を正確 ない人は、借金を返せるかどうか ( もしかすると自分でも ) 分からないイ に把握していない貸し手にとっては、いくら借り手が「必ず返しますーといっても、本当に返 ってくるかど、つか分からない 従来の論によれば、借り手の破産がランダムに起こるのであれば、危険な証券も分散して持 てば良いということになっていた。だから、合成した証券に価値があるという神話が生まれ、 抵当を基礎にした証券 (>CQCO) が、 ( 危険は多くても ) 高利の証券として売買されていたの である。 しかし分散投資の原理は、景気が悪くなり、ほとんどの持ち家の借り主がほば同時に返済不 す能になるような社会では成り立たない。 マン・ショックが起きたのであ こうして co に価値かないことか分かったために、リー する。皆が富と思っていたものが、まるでシンデレラ物語に出てくる真夜中のカボチャの馬車の ように、突如として消え失せてしまったのだ。 諸先進国の中央銀行は、貨幣の増発、特に種々の資産を大幅に買い上げる量的緩和 (CQ) でこれに対処した。特にアメリカは、日本が金融緩和を怠ってデフレに陥ってしまったことを 一方の日本は、不動産投資信託 (xæ—e) などを買い上げる「包括量的緩和」を最初にや 「反面教師」として、いち早く対応した。 249
ゼロ金利下でデフレが止まる条件 理論的には、ゼロ金利下では、短期国債と貨幣が産としてほば同じものになる。そのた め、長期国債オペや、株式や社債など他の証券の買いオペのほうが景気対策としては有効だ。 しかし、短期国債が資産として貨幣とほば同じになったとしても、まったく同じではない。 短期国債で買い物ができるわけではないから、貨幣と同じ流動性を持つわけではないのだ。し たがって、厳密にいうと「「 .- 、短期国債オ。もまったく効果がないわけではない。 くろきよしひろたちばなみのる 国 そこで興味深いのは、本多佑三、黒木祥弘、立花実の各氏による研究である。「量的緩和政 る す策ーー 2 0 01 年から 2 0 0 6 年にかけての日本の経験に基づく実証分析」 ( 「フィナンシャ 無 ル・レビュ 1 ー第九九号掲載 ) と題されたこの論文は、二〇〇一年三月から二〇〇六年三月ま を 識でのゼロ金利下での量的緩和政策が、景気回復に有効だったことを示している。 常 の 私がそのことを知らないうちに、二〇一〇年二月一 , ハ日の衆議院予算委員会では、学者より 〇も勉強家の五本幸一一一一衆議院議員が白川日銀総裁に、この研究について質問している。 三氏のこの研究では、マネタリー ・べース ( 現金と日銀当座預金を足したもの ) の増加が短 学 済期国債オペによるものなのか長期国債オペによるものなのかが区別されていないが、当時のオ べの大部分は短期国債および満期間近の長期国債で供給されている。満期間近の長期国債は、 章 一事実上の短期国債だ。そう考えると、短期国債オペによる量的緩和ですら、景気回復に着実な 効果を持ったことが分かる。
9 から、産業界のハードルの高さは変わっていない ゼロ金利のもとでは、金融の量的緩和は有効とはいえ、効果が弱くなる。効果を強めるに は、人々に通貨にしがみつかせないため、「期待」に働きかける必要があるのだ。 ハレンタインデ 1 の政策変更は、「期待ーに働きかければ金融政策が有効だということを示 してくれた。だが日銀は、物価上昇の目標を「目途」と名付けることで、人々が充分に信じな いようにプレ 1 キをかけたといえる。そしてそれ以後、追加金融緩和のフォローアップも充分 ではなかった。 日銀が本気だと主張するならば、デフレ、円高のトレンドを反転してから、ドルが少なくと も〇円口になってからいってほしい。こ、つなると、日銀の本心は変わっていないと見るしか ない。白川総裁のコメントも、このことを裏付けている。 いま、心ある政治家からは、日本銀行法改正の声が上がっている。それもあって、日銀はデ フレ対策にも真剣であるようなジェスチャーを見せたのではないか。そしてそのことで、日銀 法改正をやめてもらう免罪符にしようとしたのではないか。 しかし、本心としてはデフレを保っておきたい。そのためにインフレ「目途」を一。 トにとどめた。あまり効きすぎると、いままでの日銀の策が間」しだったことが匀カてし き小、つ、か、らに。 二〇一二年三月以降、緩和を積極的に続けなかったことには、そんな背景があるのだろう。 166
平蔵大臣となった。そして、堺屋大臣の補佐をするはずだった私が、期間でいうと竹中大臣に いちばん長く仕えることとなった。 けんさん 竹中氏は、内外で経済学の研鑽を積んでおり、学者としても優秀な思考の持ち主だった。私 が意見をいえば、一言二言で内容が分かってしまう。長々と説明する必要はなかった。しか も、価格メカニズムを生かすために政府の介入を減らすという主張を持っており、それを助け るために、・ テフレを防ぐような金融政策が必要だと考えていた。 したがって、経済財政担当大臣としては、日本銀行が量的緩和を離脱しようとするときな ど、必す金融緩和の必要性を説いた。細かなことを気にせす、世間の印象とは違って、黙々と 政策の正道を歩む大臣であった。その後、郵政担当大臣となって、命がけで郵貯改革を行った 功績は大である。いうまでもなく、竹中氏も日銀総裁の候補の一人である このように上司の大臣が代わったので、めまぐるしくはあったが、おかげで後に日本の要と ふくだ なる方々と知り合いになれた。諮問委員会のあとには軽食の集まりかあり、そこで当時の福田 やすお 康夫官房長官や安倍晋三官房副長官など、将来の首相にも、親切にしていただいた。 一石三鳥の政策とは何か さて本論に戻ろう。いかに緩やかにではあっても、消費税を増税するからには、金融緩和か 絶対の前提となる。 210
間違いなくいえるのは、日銀当座預金残高の増加は、鉱工業生産にはっきりと影響を及ばし ているとい、つことだ。 しかもこの研究では、量的緩和政策が株価の動きを通じて国民経済に影響を及ばしているこ とも明らかにされている。これは私の師ジェ 1 ムズ・トービンが主張した、「貨幣量の変化が 経済主体の資産選択を通じて国民経済に影響を与えていく効果」にほかならない。 「貨幣を増やせばテフは止まる、というのは、ゼロ金利下ですら、充分に正しい真理なので ある しかも、広義の買いオペ、つまり貨幣を増やすとき諸証券を買うとその効果が拡大すること は、のバーナンキ議長のにおける抵当裏付け証券に対する介入成果が証明してい る。 広義の「買いオペ」を「包括緩和」と名付けて、実施したのは日本のほうが早い、というの が日銀の自慢だが、その規模はあまりに小さいものだった。そのため、物価、円レ 1 ト、そし て株価には、ほとんど効果が及ばなかったのである
るいは数量的な後押しをしなかった ( 図表 1 参照 ) 。 しんびよう 期待が効くとはいっても、それが信憑性のあるものでなければ有効ではない。七月、八月 になって、マネー・サプライにやや増加傾向が見られたほかは、信憑性を裏打ちするものはほ とんどなかった。 すなわち、バレンタインにチョコレートをあげますという国民への宣言は、「将来新たな資 産買い入れを一〇兆円積みますーということではあっても、「いつ、どれだけの資産を買いま す」とはコミットしていないのである。目的であったはずのデフレがまったく解消せず、円も 一ドル七〇円台の後半に戻ってしまったのが何よりの証拠だ。 ちなみに「バレンタインデー緩和」から数カ月経ったとき、私は安倍プロジェクトの聞き取 みわよしろう り調査の一環で、東大退官目前の三輪芳朗教授にインタビュ 1 した。氏は引っ越し準備中に時 間を割いてくれて、金融に関するマスコミの無理解を憂う私と大いに意気投合した。 すると、白川総裁と親しい三輪氏も、「約東だけしても真水の貨幣を出さないのでは、緩和 の効果はないーと見抜いていた。 インフレ目標に達しない中央銀行総裁は では、日本の金融緩和は他国といかに違うものなのか。ここでは、三菱リサーチ & コ かたおかごうし ンサルティング主任研究員の片岡剛士氏の解説を参考にしながら、最近の日米の金融緩和を比
現在でもデフレが継続し、円高が産業を苦しめていること自体、日銀や財務省の為替政策が 優柔不断であり、量的に不充分だったことを示している 一つのバロメーターである為替レートをとってみても、実質実効為替レ 1 トをリ 1 マン・シ ョック以前の状態 ( 名目レートが一ドル九〇 5 一〇〇円の水準 ) に近付けることが望ましい 変動相場制のもと、協調ないし単独で行う為替介入に頼らなくても、欧米との金融緩和の程 度の違いで、円高を防ぐことができる。金融だけで、為替レ 1 トは充分に変えられるのだ。 東日本大震災は、負担を将来に先送りし続けてきた公債依存型の財政の弱点を顕わにした。 しかし、消費増税で一気に財政を改善しようとしても、それは国民経済のパイ全体を小さくし てしまうことになる。それによってもたらされるのは、歳入の減少に過ぎない 増税を急ぎすぎると、むしろ日本経済にダメージを与えることになるのだ。 ます必要なのは、充分な量的緩和によって、デフレ、需要不足、低成長から脱すること。そ してそれは、経済を学んだ人間なら、世界中誰もが知っているはすの常識である。 そこに、日本復活への鍵がある。言い換えるなら、世界は日本経済の復活を、すでに知って いるのだ。 あら 260
する効果がある。 アメリカのエネルギ 1 省が推定した二〇一〇年の日本の温暖化ガス排出量に基づいて、同省 案の炭素税を課すとすれば、約八〇〇〇億円の税収が見込めると、クーパ 1 教授はいう。これ では充分でないかもしれないが、財政再建のためには真剣に考慮されるべきではないだろう また環境税の効果は、水や空気をきれいにするだけではない。イノベ 1 ションを通じて新た な需要を生み出すきっかけになる。それにより、日本は低成長から脱する糸口をつかめるかも しれない。 る す 世界は日本経済の復活を知っている 復 変動相場制のもとでは、アメリカの金融緩和は、日本に景気収縮的な影響を及ばす。アメリ す力のは、真剣に金融緩和姿勢を続けている。一方、日本は表向きだけ緩和の姿勢を見せ ま るが、本腰であるよ、つには田 5 えない 本 日銀総裁の発言から、「二〇一二年二月のバレンタインデー緩和は効かなかった」「効いても 日 らっては過去の日銀の立場がないので困る」「デフレの犯人は人口構成だ」という本音が透け 章 て見えてしまうから、二〇一二年九月の金融緩和には、市場はほとんど反応しなかった。バレ 終 ンタインデ 1 や九月の緩和宣一一一一口自体が、「見せ金」に等しい政策であることは、すでに述べた 2 ラ 9
を批判しておきながら、議長になってから徹底した緩和政策を取れないのを見て、「日 銀だけを非難してきてすまなかった。も同じ間違いをしたのだから」といったことがあ る。それに対して日銀マンが「クル 1 グマンが謝った。と鬼の首を獲ったようにいうのを見 て、私はあきれるばかりであった。 日銀の自画自賛的体質は、もはや喜劇に見えたものだ。 またクルーグマンは g-«の「。•—で次のように語っている。 Z のインタビュ ーのときにも感じたが、日銀流理論を先入観としているらしい聞き手の反応も面白い。以下は 私なりの抄録である。 まず、歳出削減案に対しては、「削減の三分の二は低所得者層の役に立っプログラムの削 減。富裕層への課税を減らし、貧しい人への援助を減らす政策ばばかげている」。の ( 量的緩和第三弾 ) に関しては、「バーナンキの決断は大賛成。消費者から見れば低金利 でローンを組みやすくなるし、適度のインフレになれば返却も容易になる。そうなれば民間企 業も売り上げが伸びて、ドルも減価するので、輸出産業も競争力を持つだをつ。共和党側は、 この政策は悪性インフレを呼び込むというか、いま通常の金融政策はまったく効き目がない。 ほかに策はない と評価している また、通貨の問題点については、「単一通貨であるのに、政府が一つでないこと。弱い 国の経済を助けるために強い国が財政を弱め、ユーロ圏全体である程度のインフレを起こす必 120