場には金融政策が効く」とはいわない。まして財務省は絶対にいわない 「財務省のなかにも、この理論を知っている人はいるんですけど、絶対にいわないんですー と高橋氏はいう。 ガあるこどが公になると、財務省の権限を失うのでは 「なぜなら、飛ん以川にな替節の・手段、 ないかと心配しているからです。さらに、その権限を背景にして、天下りもあるわけです 財務省による為替介入は、為替市場に、もちろんある程度の影響を与える。しかし、高橋氏 経か書いた記事や書籍を読むと、その利権で何パーセントか稼ぐかいるという。 日 それを各金融 財務省が持っ外国為替特別会計それ自体が、いわばひとつの大きなフ る 語機関が運用している。それを使って財務省が為替相場に介入すると、運用している金融機関に , 刀 ち手数料のようなかたちで利益が生まれる。しかも、それは一〇〇兆円 x 数ベーシスポイント 者 ( 〇・〇一バーセント ) というレベルで、かなり巨額の利益になるのだ。 レ ) → ' ・ ' ・・。・ - 、・柾竕摠している先進ロ = れほと大きな , 、一ドを持 0 る国は、日本以外 しるた。 日はあ一り・ , イ、なし一と 天 もし、金融政策で為替相場が変わることを理解しているなら、理屈では、日本銀行に任せれ 章 一一一ぎいい下それをしないのは、財務省の利権を筆頭に、前記のような理由があるからなのか 私が高橋氏とわずかに違うのは ( 細かいことだが ) 次の点である 125
高橋氏の話は、私が東大の大学紛争のときに体験したことを思い出させる あの時代、管理者でも学生でもない助手という宙ぶらりんの地位にあった私は、紛争が収ま りかけた頃に、助教授という「教える側」に属することとなった。そうして全学の広報委員会 の委員を仰せつかった。 しのはらはじめ 合 当時、広報委員長だったのは、法学部の篠原一先生だ。篠原先生は岩波新書などで有名な 進歩派の教授であり、私も親切にしていただいた。ここから書くことは、社会学としての一題 官 材であり、先生への個人的批判ではない。 当時、大学紛争が長引き、世間の批判やメディアの関心も高まっていた。篠原先生はそんな 状況に際して、「我々も東大記者クラブをつくり、良い部屋を開放して、報道記者を丁寧に待 むしろ役所の意見の代弁者になってしまう。 新聞がどれだけ役所の意向を気にするかーーーその典型的な例も、高橋氏は挙げている。大蔵 省官僚だった頃、ある新聞に頼まれて仮名で原稿を書いたところ、それが高橋氏の手によるも のだと知らないデスクがこんな文句をいったのだそうだ。 「勝手なことが書いてあるが、役所の確認は取れているのか ? 」 ことほどさよ、つに、役所とメディア、とりわけ新聞との結びつきは強く、そして歪だ。 「我々も東大記者クラブを」 いびつ 223
高橋洋一氏は、プリンストン大学留学中に何度もそう聞かされたという。「プアには貧し いというだけでなく、下手だという意味も込められている。 とりわけ非難の声が多かったのは、二〇〇〇年八月のゼロ金利政策の解除だ。ポール・クル ーグマン教授にいたっては、ヨーロッパから高橋氏に「これは失敗する」と、わざわざメール してきたとい、つ 日銀のデフレ対策は、世界の心ある経済学者の笑いものになってしまったということ 日銀がマネ 1 を増やしてデフレを解消し、緩やかなインフレ状態にもっていかない限り、日 衝本経済は復活しない。それをすることなくゼロ金利を解除してはいけない。それが、海外の学 日者たちの統一した意見だったのである。その見方が正しかったことは、その後の日本経済が証 明してしまった。 月 日銀が適切な金融政策を行っていれば、おそらく二パ 1 セント程度の緩やかなインフレにな 年 っていただろう。そうしてデフレを脱却していれば、実質成長率も二パーセント上乗せされて 〇 財政再建に大きく貢献していたはずで いた。そのことによる税収増は、なんと三一兆円 ある。 章 五 しかし、日銀には極端なまでにインフレを嫌、つ、いや恐れるがある : 第 171
閣僚たちは「ヤブ医者」の群れだった 二〇一一年一月、日本に一時帰国した際のことだ。サンフランシスコからの東京便に着席す かんなおと ると、機内で日本の新聞が配られた。ここに掲載されていたのは、当時の新内閣 ( 菅直人首 相 ) の閣僚名簿だった。 」よ、つカ・ 一言でいえば、驚愕だった。さらにいえば、おそろしく落胆させられた。 このときの心境は、ウエプサイト「現代ビジネス」における大阪市特別顧問、嘉大学教授 の高橋洋一氏との対談でも話したのだが、本書にも記しておきたい。日本の政治に対する私の 思いが凝縮されているからだ。 「デフレ不況で悩んでいる日本経済を治療しようとする医者たるべき閣僚に、よくもこれだけ 家内からは「人前で友人を失うようなことはいわないで」と釘を刺されていたが、国民の将 来を考えると、いうべきことはいわすにはいられなかった。日本経済と日本国民のこれからを あんたん 考えると、この組閣には暗澹たる気持ちにさせられた。そして、のちに振り返ってみても、私 の恐れはほば的中してしまったのである。 閣僚は、医者であるはずなのに、経済体系の解剖学、すなわち高橋洋。「・氏グ調するバラン スシートの基本が分かっていない人たちばかりだった。経済がどのようなメカニズムで動くの 『ャプ医者』を揃えたなという感じがしましてね。びつくりしました」
第七章「官報複合体」の罠 すー 「金融研究所に一年間いて元の職場に帰ってくると、人が変わってしまう人が結構いるんで そう高橋洋一氏は語る。「日銀記者クラブの閉鎖性は突出してします」ともいう 日銀総裁を「起立、礼」で迎える記者 このところ、記者クラブ制度が、日本におけるマスコミの最大の問題点として騒がれるよう になった。そのせいもあって、民主党政権になってからは、記者クラブか開放されつつあるの は確かだ。フリ 1 の記者を中心にした「自由報道協会」という新しい流れも出てきた。 しかし、依然として閉鎖的なのが、日銀記者クラプだという。 ここにはメディアの人間なら誰でも入ることができる、というわけではなく、それができる のは、大手の新聞やテレビの記者のみ。フリ 1 のジャーナリストや雑誌メディアに属する人間 は、記者会見を取材することさえ許されない。 このような記者クラブのシステムは、先進国では日本だけだ。 しかも、である。高橋氏によれば、日銀クラブの会見に総裁が出席する際には、記者たちは 「起立、礼」をして総裁を迎えていたという。まさに異常な光景というほかない まるで学校のようだが、日銀総裁と記者の関係は、まさに先生と生徒のように、「教えてあ 2 げる」立場と、「教えてもらう」立場となっていた。だから「生徒」である記者は総裁に対し 0
て ( 日銀に対しても ) へりくだる。記者たちは、日銀からえてもらわないと記事を書くこと ができオいのである そんな関係であれば、メディアが日銀を批判することなどありえないことになる。 、冫費税で癒着する財務省と新聞社 牧野洋氏のベストセラ 1 『官報複合体権力ど・ ' 一体化すを新聞の大黽』 ( 講談社 ) によっ て、権力とメディアの癒着関係が多くの人に知られるところとなった。 高橋氏も以前から、経済論理の本質を冷静に見通しながら、自らの体験に基づいて、権力、 とりわけ財務省をはじめとする省庁の体質を批判してきた人物の一人である。組織の実情に詳 しいので、本書でもたびたび教えてもらった。 高橋氏によると、財務省と新聞社の癒着もひどいものだという。 彼も私に似て、「増税よりも先にやることがあるはず。それは金融政策であり、政府資産の 売却などである」という主張の持ち主である。 まいしん だが財務省は、政治家を陰で操り、増税へと邁進する。消費税アップは、財務省が自由に使 えるお金を増やし、権力を強化することにつながる。税率アップは、財務省の利権と密接な関 係にあるのだ。 消費税率がアップすると、まるでセットのように、企業への軽減税率やゼロ税率の話も出て まごのよ、つ 220
昇率がプラスになったら悪魔であるーとも語っていたそうだ。 「でも、消費者物価指数がちょっとプラスになったら悪魔というんじゃあ、世界中、悪魔だら けですよねー 高橋氏はそういって笑った。 重要なのは日銀の組織防衛なのか のバ 1 ナンキ議長は大硎究の朝舅それも世界的権威と呼ぶべき人物だ ( 私も 丿 1 マン・ショック後、では 一度お会いしたことはあるが、高橋氏のほうが親しい ) 。 大幅にバランスシートを膨らませた。いってみれば、貨幣の供給量を増やしたのである。 これは、他の国でも同じだった。マーヴィン・キング ( 世界的に尊敬されるファイナンスの 学者 ) が総裁を務めるイングランド銀行では、アメリカ以上に増やしている。欧州中央銀行、 ・・・・不・ズ・や・スツ、エ・・新デン・、。・、そ・し、で ' ア - ジアでは韓国も金融を大幅に緩和している。その結果、自 国通貨も そういった国々では、この政策が有効に働いた。少なくとも、そうした政策を続けている間 は、物価の下落を反転させ、アメリカでは緩やかなインフレの恐れまで出てきた。不況から も、ある程度は回復させることができたのだ ( 先進諸国との比較は図表 2 、図表 4 、図表 5 で 「 = 明した。発展途上国と比べても、日本だけが通貨高で、日本経済だけが低迷していることは 0 ′
金融論が専門で、日銀のデフレ志向の金融政策を長年批判し続けたのが学習院大学の岩田規 しめんそか 久男教授である私は、徹底した貨幣重視の論調を、いわば四面楚歌のなかで続けてこられた 岩田氏の、忍耐強い姿勢には尊敬の念でいつばいである。日本の ) ) 、ルトン・フリ 1 ドマンが誰か といえば ) 間違いなぐ彼だ。「法と経済学」でも大きな業績があり、次期日銀総裁の有力候補 に挙げられるべき人である。 元財務官僚い高橋洋一氏は、岩田氏の昭和恐慌の研究グループでも活躍したが、その数学科 出身の明晰な論理と、官僚体験から得た体験を結びつけ、やはり岩田規久男氏や本書の立場に 近い。本書でも、私が必ずしも周知しない官界のからくりについては、氏の書物などから多く のことを学び、本書にも引用させていただいた。 その岩田・高橋の両氏も主張するように、デフレと円高を阻止するには、簡単なことだが、 マ、不タリー・ べースを増加させればいいわけである。それが市中に回るお金の量を増やして円 やわ 高を阻止し、デフレを和らげるだけでなく、将来のインフレ期待にも直接働きかけて、円高を 防ぐことになる。 変動相場制のもとでは、基本的に、自国の物価、為替レート、雇用は、金融政策で左右でき る。変動相場制のル 1 ルのもとでは、各国が自由に金融緩和や為替介入を行えよ ) ) ( ししで、協 調介入の必要はない。 さらに、金融緩和をすれば、財政再建も比較的容易になる。デフレのまま増税すれば、橋本
まずは名目所得を高めて税収の自然増に期待し、その後に税率を上げる。その順番を間違え てはいけない。高橋洋」 ' ・氏がいうように、」・デ一プ・レ・を脱すれば、消費税の大幅引き上げも必要 なくなるかもしれない。 私は高橋氏のように財務の事情通ではないので、「増税の必要なし」とまでは断言はできな しかし、増税幅が少なくなり、 (--öQA-4 へのマイナスの影響も小さく済むのは確かだ。まず は金融緩和が第一、消費増税はそれでも税収が足りない場合にのみ、それも緩やかに行わなけ ればならない 金融緩和をすれば円高傾向をも逆転できる。それからでも増税は遅くない。そうすれば、ロ スがすっと少なくなるのだ。 策 政 デフレや円高が続く限り、金融緩和は国民経済にプラスになるのみ。現在は、将来に対する ま日本経済がデフレや円高の状態にあるのは困ったことだが、そのた 要危険は何も生じない。い 必 対め金融緩和政策に自由度が生まれているのだ。 普通、途上国などでは、政府の赤字財政を助けようとして中央銀行が公債を買い上げると、 税直ちにインフレにつながる。ところが日本では、当面、日銀か同じことをしても、すぐにはイ ンフレにはならす、インフレ期待も生まない。日本の経済成長の分析や、「トービンの」な はやしふみお 章 どについて世界的業績のある一橋大学の林文夫教授がいうように、「長期的にはお金を刷って 第 も生産能力が増えるわけではない。しかし当座は過剰設備を動かして、生産を増やす。それで 21 1
「デフレの正体」は人口減なのか もちろん、日本にも「先輩」「同志」と呼ぶべき存在がいる。デフレ問題に関しては、すで に述べた・学性発大笋 0 晋曲久丱を提どが「昭和恐慌研究会」をつくり、戦間期の日本にお ける昭和恐慌の原因について研究し、現在の政策問題に応用しようとしてきた。 その研究成果は、現在の政策問題にも直接的に役立つ。研究会の下で育った早直町大学の物・ 町部昌澄教授・や 1 大学の高橋嵂。一、教授といった人たちには、本書にもたびたび登場していた また、民主党にも「脱デフレ議連」ができた。ここ数年、我々のように考える人間が、まっ たくの少数派ではなくなってきたのだ ( もちろん世界の趨勢は我々の考え方が主流なのだ が ) 。その力を合わせることで、アメリカと世界がすでに知っている日本の復活を早めること もできるはすだ。 そんなことを考えながら高橋氏と対談した二〇一一年当時、日本では「デフレの原因は人口 もたにこうすけ 減少である」という内容の藻谷浩介氏の経済書がベストセラ 1 になっていた。聞けば、菅首相 も購入したとして話題になったのだという。 こうした「俗流経済学」が、い まも昔も人気になりやすいのは確かだ。とはいえ、「デフ レ」という言葉の定義を経済学とは違うかたちで使っていることだけでも、正しい経済学に則 すうせい