て、かおをつきだしました。 たっ こたろう 「龍の子太郎、おらのかわりに、ちょっとこのたい こをたたいてくれ。おらがここへだんごをもってく おと るまででいい。おらはたいこの音をきいていないと、 どうもはらのぐあいがわるいのだ。」 「よし、おらはおまえよりうまいぞ。きいていろ。」 ~ & たっ 龍の子太郎はトントコ、トントコ、たいこをたた きはじめました。じぶんながらなかなかうまいとお もうと、すっかりおもしろくなって、 トントコトントコ テケテンテン トカトカトントン こたろう
るほどしかられるが、なあに、きようはだいじようぶだい。 きのう、にわとり十羽、くろがね山へおとどけしておいたもんな、 くろ いまごろは黒おにさまは、にわとりくって、ひるねだべ。」 あか 赤おには、こゝ をカにかわらいながらあるいていましたが、上がたいらな 岩を見つけると、よろこんでたちどまりました。 「ん、いいどいいど、この岩ならじようとうだ。おらがこの上にのぼって、たいこをたた く。すると、山じゅうのけものたちがこのまわりにあつまって、しんとしてききほれる。 なんせ、おらほどのたいこのじようずは、まあ、ちょっとおらんて。そこで、わざわざし んせつに、 ここまできかせにきてやるというわけだ。さあて、けものたちをあつめるとす るか。」 こえ あか 赤おには手を口にあてると、山じゅうびりびりするような、でつかい声でさけびました。 「ものども、あつまれえ、どんどろ山の赤おにさまのおでましだぞ。とくべつのおぼしめ しをもって、おまえたちに、たいこをきかせてやるどう。あつまれえ。」 いわみ
すキ甌 . くろ 黒おにだ。もう、おらたちがたいじしたんだよ。そうだ、、 4 おと じいさま、さっきものすごい音をきかなかったか くろ ね。そのときだ、黒おにが岩になったのは。」 そうか、わしらはま 「え、あのときが : た、この世のおわりかとおもってのい。ほ くろ んなら、黒おにがたいじされたのは、ほ んとうのこったな。あああ。」 こえ じいさまは声をあげてなきだしま しらき した。そして、ふるえる手で白木の こしのふたをあけました。そこに は、まっ白なきものをきたうつく しいむすめが、ぐったりと気をう しなって、ねかされていたのです。 88
「むすめよう、むすめよう、おまえ、 くろ たすかっただそ。黒おには、このわ かいお人がたいじしてくれただに、 さ、しつかりせいよ一つ。 くろ むら おうい、村のしゅうよう、もどってこいやあ、黒おには岩になっちまっただよう。」 さあ、大さわぎになりました。いままでなん十年、いや、なん百年となくくるしめられ くろ てきた黒おにが、たいじされたというのです。ふもとの村の人たちは、なみだをながして おれいをいいました。 くろ ふもとの人たちのはなしによると、黒おには、このあたりいったいの、水のみなもとを ひとみごくう とし けんじようぶつ にぎり、まい年まい年、山のような献上物や、人身御供をとりあげるばかりでなく、すこ くろく、も しでも気にいらないことがあると、黒雲をまきおこして、なん十日となく日の光をさえ さく , もっ ぎったり、あるときはひょうをふらせて作物をぜんめっさせ、あるときはこうずいをおこ とし ねん むら ねん ひかり
しこをふんでみせました。 くろ 「あや、黒おにはいるかい。おら、たいじ にきたんだ。」 くろ 「黒おにはいまいないの。でも、じきにか。 えってくるでしよう。今夜は、この山のふ ひとみごくう もとの村の人たちから、人身御供のむすめ があげられる日だといって、にかにかして いたもの。」 ひとみごくう くろ 「なに、人身御供だって ? 黒おにのやっ め、ここでもそんなわるいことをしている のか。」 くろ 「なんでも、黒おには、このあたりいった , 第・ いの水のもとを、おさえているのですって むら こんや 0
たっ こたろう 龍の子太郎は、八十と九つめのむすびを手にもって、ばくりと一口かじりましたが、 きゅ - つにかおがくしやくしやになったかとおも一つと、 と、おだんごほどもあるなみだをおとして、なきだしました。といううちに、おうおう、 こえ むら おうおう、声をあげてなきだしましたから、村の人たちはたまげてしまいました。なにし くろ えいゅう ろ、黒おにをたいじした英雄が、むすびをかた手にもったまま、おうおうないているので すから : 「どうしたの、くるしいの。」 と、あやがせなかをさすれば、じいさまたちも、 「はらでもいたむかや。」 ぽろ一つり ぽろ一つり ひとくち 103
「さあさあ、よっておくれ。」 「さあさあ、足をのばしておくれ。」 「さあさあ、ふろがわきましたに。」 むら たっ 龍の子太郎とあやをむかえて、村じゅうは、ときならぬおまつりとなりました。 くろ 「あのわかいしゅうが、黒おにをたいじしたんだってや。」 「わかいもわかい、まだ子どもでねか。」 「たいしたもんだのい。」 「これでこの村も、やっとあんきにくらせるのい。」 「ほんとによう、おら、うれしくてなみだがとまらないに。なんぼごちそうしてもたりね えよう。」 「ほいほい、おら、うつかりしていた。おら、川へさかなをとりにいくんだった。」 「ほいほい、おらもうつかりはなしこんじまった。おら、山へきのこをとりにいくんだっ たで。」 ころ - う・ むら 9 9
こえ おかあさんのりゅうは、ひくい声でいいました。 「いわなはたった三びきしかなかったのだよ。それを、だれかがたべて、だれかはひもじ いおもいをする、そんなことはゆるされない。くるしい山のくらしの中の、それはおきて なのだよ。」 「ちがう、ちがう。おらがいいたいのは、もしそのとき、いわなが百びきあったら、って ことなんだ。うんまい、米のにぎりめしが百あったら、ってことなんだ。 くろ むら そうだ。黒おにをたいじしたときのじいさまの村、あそこの村くらい、うまいものがた くさんあったら : ・・ : 。」 たっ こたろう 龍の子太郎はじだんだふみました。 こい、ふな、どじよう、うなぎ、と川のもの。 きのこ、ぜんまい、ほしぐり、ほしがき、と山のもの。 そして、ほくほくゆげのたっ、うまそうなむすびの山。 そうです、それだけあったら、みんなはらいつばいたべて、だれがよけいくった、など こめ むら 170
夜あけ。 たっ こたろう 龍の子太郎は、しつかりとたびのしたくをすると、ばあさまがはうようにしてつくって むら くれたひえのだんごをこしにさげ、あやをさがしに村をでました。あやのじいさまは、ご たっ んごんせきをしながら手をふりまわし、おらもいっしょにいくといいはりましたが、龍の こたろう 子太郎は、 「だいじようぶ、おら、きっとあやをつれてきます。おにをたいじしてみせます。」 たっ こたろう といいきりました。ばあさまはそれをきくと、きゅうに龍の子太郎のせたけまでのびたよ たろう うにおもわれてなりません。そのうえ太郎は、あやを見つけだしたら、そのまま、おかあ さんをさがしにいくというのでした。 おとなになったらって、ばあさまはいうけど、おら、まてね。おらきっと、おかあさんを あや、たすけにいくよー
だいおんきよう たにま くろくも ものすごい大音響がひびき、目もくらむようなふかい谷間から、むくむくと黒雲がたち くろ のぼり、そのままかたまって、おにのかたちをした黒い岩になってしまいました。 あやは、なにがなんだかわけがわからず、ぶるぶるふるえながら、たちすくんでいまし た。こわいのか、うれしいのか、ただふるえてくるのです。すると、耳もとでげんきのよ い声がしました。 くろ 「あや、見たかい。黒おには、とうとう岩になってしまったど。おら、赤おににおそわっ くろ たじゅもんではちになり、黒おにをたいじしたんだよ。あや、ふえをふいておくれよ。お ごえ さあ、たいへんです。いのししはうなり声をあげて、うしろ足でたちあがり、耳をこす り、はなをこすり、もんどりうってはころげまわったあげく、いきなりめちゃくちゃにか ぜっぺき けだしたかとおもうと : あっというまに、絶壁からころげおちてしまいました。と、 こえ トトトトトやトッ