しこをふんでみせました。 くろ 「あや、黒おにはいるかい。おら、たいじ にきたんだ。」 くろ 「黒おにはいまいないの。でも、じきにか。 えってくるでしよう。今夜は、この山のふ ひとみごくう もとの村の人たちから、人身御供のむすめ があげられる日だといって、にかにかして いたもの。」 ひとみごくう くろ 「なに、人身御供だって ? 黒おにのやっ め、ここでもそんなわるいことをしている のか。」 くろ 「なんでも、黒おには、このあたりいった , 第・ いの水のもとを、おさえているのですって むら こんや 0
「むすめよう、むすめよう、おまえ、 くろ たすかっただそ。黒おには、このわ かいお人がたいじしてくれただに、 さ、しつかりせいよ一つ。 くろ むら おうい、村のしゅうよう、もどってこいやあ、黒おには岩になっちまっただよう。」 さあ、大さわぎになりました。いままでなん十年、いや、なん百年となくくるしめられ くろ てきた黒おにが、たいじされたというのです。ふもとの村の人たちは、なみだをながして おれいをいいました。 くろ ふもとの人たちのはなしによると、黒おには、このあたりいったいの、水のみなもとを ひとみごくう とし けんじようぶつ にぎり、まい年まい年、山のような献上物や、人身御供をとりあげるばかりでなく、すこ くろく、も しでも気にいらないことがあると、黒雲をまきおこして、なん十日となく日の光をさえ さく , もっ ぎったり、あるときはひょうをふらせて作物をぜんめっさせ、あるときはこうずいをおこ とし ねん むら ねん ひかり
すキ甌 . くろ 黒おにだ。もう、おらたちがたいじしたんだよ。そうだ、、 4 おと じいさま、さっきものすごい音をきかなかったか くろ ね。そのときだ、黒おにが岩になったのは。」 そうか、わしらはま 「え、あのときが : た、この世のおわりかとおもってのい。ほ くろ んなら、黒おにがたいじされたのは、ほ んとうのこったな。あああ。」 こえ じいさまは声をあげてなきだしま しらき した。そして、ふるえる手で白木の こしのふたをあけました。そこに は、まっ白なきものをきたうつく しいむすめが、ぐったりと気をう しなって、ねかされていたのです。 88
たっ り、ぶつぶついったりしていましたが、ひょいと龍の こたろうき 子太郎に気がついて、あんぐり口をあけました。 「おんや、おまえ、いっここへきた。」 あか 「こら、赤おに。あやをかえせ、かえさないと、 二つにたたんではなをかんでしまうぞ。」 「なんだあ、ばかげにでかい口をきくではないか、あ やはも一つここにはいね」 「どこへやった。」 くろ おやぶん 「黒おにの親分さまがつれてった。おらはたった一ペんだけ、あやのふえを くろ ゆっくりききたいとおもっておったに、一ペんもきかんうちに、黒おにさまにつれていか れてしまった。まがわるいとはこのことじゃ。」 あか 赤おには、げつそりしたかおでいいました。 くろ 「ふん、で、その黒おにはどこにいる。」 3 5
龍の子太郎が、でかい声をあげながらちかづいてみますと、道ばたに弖・第 ~ 一。、 ~ しらキ、 うっちゃられた白木のこしに、ただひとり、じいさまがうつぶせになっ て、よりかかっていました。 「じいさま、じいさま、なんでみんなにげだしたんだろ。おらたち、あ やしいもんじゃないに。」 たっ こたろう じいさまは、おそるおそるかおをあげ、龍の子太郎とあやをじっと見 つめましたが、やがて、ながいながいためいきをつきました。 くろ 「あああ、おまえさまがたは人間だのい。だが、どこのお人かの、黒お にさまのおっかいかのい。」 「黒おにさまだ 0 て ? 黒おにさまは、もうと 0 くに岩にな 0 てしま 0 ~ たよ。」 「えつ、岩に ? 」 くろ 「ん、ほらあれだ。あそこにまっ黒な、でつかい岩があるだろ、あれが
を ` こ 3 かえりをいそぎました。 いわやま ゅうひ やがて、まっかなタ日が、のんのんのんと岩山のか げにおち、まっくらな夜がきましたが、村の人たちの 意気はあがるいっぽうです。とうとうじいさまが、手 当をう 0 てうたいだしました。 4 、 ヨーイトオ くろ 黒おにめが くろ 黒おにめが どどんどでらん どんどんと 山こえ よる むら
、← たっ こたろう 龍の子太郎は、赤おにをたかだかとさ しあげ、なげあげようとしました。 「まて、ちょっとまってくれ。」 「なんだ、赤おに。」 くろ 「これからおまえは、黒おにのところへ くろ いくんだな。あの黒おには、なににでも すがたがかえられるじゅっをもっている で、気をつけろ。そのときは、 ナムウンケイアラビソワカ と、三べんとなえろ。そうすれば、おま えもすきなすがたにかえられる。おらの いっておくことはこれだけだ。」 あか 「よし、わかった。なら、赤おに、天へ てん
ぎたきた 「ここからもっと北の北の岩山に、くろがね山という山がある。だが、まずそこへいった ら、いのちはないど。」 「そうか。」 たっ 龍の子太郎は、そこまできくとたちあがりました。すると、赤おにがあわてて手をふり ました。 「まて、あわてるな、はなしがある。」 「はなしたなんだ。」 くろ 「黒おにさまのことをいろいろとおしえてやろう。そうだ、それにだんごもある。」 「だんごか。」 たっ こたろう 龍の子太郎はにこにこしました。 こめ くろ 「そうだ、それも米のだんごだ。黒おにさまにいただいたのだ。おまえなんか生まれてか ら、ただの一ペんもくったことがないだろう。まっていろ。」 あか 赤おにはながい手をさげて、のそのそとざしきからでていきましたが、すぐもどってき こたろう いわやま 8 5
くろ 黒おにとのたたかい きやく 「おまえの兄か。それなら客にしないでもないが、おれは、おれよりつよいものでなくて きやく きやく は客にせん。どうだお客、はらもすいたで、いりまめのくいくらべでもするか。そして、 勝ったほうがまけたほうをとってくう、なんとだ。」 あやはそれをきくと、さ 0 そく大なべをもちだして、からからとまめをいりはじめまし こたろう た。しかし、龍の子太郎のほうをいるときは、水をふ 0 てやわらかくいり、おにのまめに は小石をがらがらといれてくわせたので、くいくらべには、らくらくと龍の子太郎が勝ち ました。 「これはおそれい 0 た。では、こんどはすもうだ。お客、おもて〈でて、すもうといこう。」 くろ いわやそと 黒おには、岩屋の外へおどりでて、 あに
だいおんきよう たにま くろくも ものすごい大音響がひびき、目もくらむようなふかい谷間から、むくむくと黒雲がたち くろ のぼり、そのままかたまって、おにのかたちをした黒い岩になってしまいました。 あやは、なにがなんだかわけがわからず、ぶるぶるふるえながら、たちすくんでいまし た。こわいのか、うれしいのか、ただふるえてくるのです。すると、耳もとでげんきのよ い声がしました。 くろ 「あや、見たかい。黒おには、とうとう岩になってしまったど。おら、赤おににおそわっ くろ たじゅもんではちになり、黒おにをたいじしたんだよ。あや、ふえをふいておくれよ。お ごえ さあ、たいへんです。いのししはうなり声をあげて、うしろ足でたちあがり、耳をこす り、はなをこすり、もんどりうってはころげまわったあげく、いきなりめちゃくちゃにか ぜっぺき けだしたかとおもうと : あっというまに、絶壁からころげおちてしまいました。と、 こえ トトトトトやトッ