をあけてみて、おもわす、からだがこおったね。ろうかからさしこむ光 の中に : : : 」 けいびいん 警備員さんは、ひと息ついて、つづけた。 くろぬの 「黒い布のプルカをまとったおばあさんが、木と布でつくられた、古風 あたま な乳母車をおしていたんだ。、 フルカってい、つのは、頭からすつばりから うばぐるま だをつつむ服のことだよ。その乳母車の中には、やせこけたはだかの子 どもが、死んだようにして、ねていたんだ」 さむけ ばくは、寒気がして、からだがふるえた。 「わたしはただ、たちすくんだ。すると、乳母車の中の子どもがたちあ がったんだよ。そして、つぎつぎと、その顔がかわるんだ。目のとびだ うばぐるま かお うばぐるま ぬの こふ、つ ひかり 1 〇 6
たいりよう うばぐるまもぬし わんがんせんそう 「もしかしたら、乳母車の持ち主は、湾岸戦争のとき大量につかわれ だんほうしゃの , っ れつか た、劣化ウラン弾の放射能で、死んでしまったのかもしれない・ きよ、フし けいびいん 警備員さんは、あまりみせたくないのだがといって、教師からかりた しやしんしゅう という、一さつの写真集をひらいてみせてくれた し しやしんしゅう のう その写真集には、死んでうまれた脳のない赤ちゃんや、顔のくすれ かお ほうしゃのう た子ども、放射能にくるしむイラクの子どもたちの顔が、たくさんうつ っていた。 けいびいん 警備員さんはおわりに、しみじみとかたった。 かたち 「わたしのみた乳母車の子どものすがた、形が、この写真とそっくりお なじなんですよ , うばぐるま し しやしん かお 1 〇 9
とうさんの足 イタリアのある村に、ひとりの男かいた。ある日のこと、男はおかみ さんと子どもたちをまえにしていった。 「これまで、いっしようけんめいはたらいてきたが、どうやら、三人の やくめ いちにんまえ 子どもたちも一人前にそだってくれた。おれの役目もそろそろおわりだ くろ ざいさん な。おれの目の黒いうちに、財産をわけておきたい。たいした額ではな かぞく びようどう ぜんざいさん いが、これが全財産だ。家族五人、平等にわけよう」 けんもちひろこ 剣持弘子 6 7
どれいかいほう だいとうりよう れている話です。リンカーンが奴隷解放をおこなったすぐれた大統領だったから、 れっしゃえき ぶんかんえき こういう話もうまれたのでしようが、ひつぎをのせた列車が駅にあらわれて八分間駅 はなしきようみ の時計がとまるというと「ろか、この話の興味ぶかいところです。 ほ、つじ 「法事は、やりなおし」は、ひ孫にしかみえないひいじいちゃんの話です。ひいしい せんそう じだい てらおしよう くうしゅうや ちゃんは戦争の時代を生きぬいたお寺の和尚さんで、空襲で焼けだされた人びとの ほうじせき せんそうじだい めんどうをよくみた人だったのです。やりなおされた法事の席で、人びとは戦争時代 おもで の思い出をかたります。 「とうさんの足」はイタリアの民話です。イタリアでは子どもたちを「わっ ! 」とお どろかす話として、よくしられています。欲ばりむすめのおどろきあわてたすがたを おもいうかべてください ぼうれい 」し力し ゅうしよう 「じゃ、 ーイ」は、囲碁のしようすな子どもの亡霊が、大会で優勝する話です。 はなし さんれんせい 囲碁をしらなくても、この話のおもしろさはわかるとおもいますが、「三連星」とか、 「ばくの石を、すぐきってくる」とか、「うってがえし。とか、囲碁をしっている人が はなし はなし はなし みんわ はなし はなし 1 4 〇
す。 ほ、つ、じ してくれた人など、 いなかったではないか。法事はやりなおしだ」 ゅめ わたしはびつくりしてなきだして : 。それで目がさめたんです。夢 でした。 ゅめ ところが、おしいちゃんもおなじ夢をみたんですって。 しようつきめいにち それで、十日あとの、ひいしいちゃんの祥月命日に、やりなおしと なりました。 だんか 檀家のお年寄りにあつまってもらって、ひいしいちゃんだけの法事で おもで みんなか、思い出をかたってくれました。 く、つしゅ、つや 「わたしは空襲で焼けだされて、小さい子どもをかかえてにげてきた としょ ほつ、じ 4 7
きようは法事の日です。 ほんどう しやしん 本堂にふたりのいはいと写真をおいて、おしいちゃんとおしさんが、 きよう ′、レ小、つ お経をあげました。お墓まいりもして、ご供養のごちそうもたべて、み おもでばなし んなが、おばあちゃんの思い出話をはしめました。 「わたしは、はしめての子どもを一歳でなくしましてね、せつなかった てら とき、大黒さんがいってくれたんです。 ( お寺のおくさんのことを、そ うよびました ) 『ばうやはね、おかあさんのからだの中へ、もどっていったんですよ。 わたしかきくと、だまってにこにこしていました。 」しヤ」ノ、 ほ、つ、じ さし 7
げんきん 男はそういって、現金をひろげてみせた。 せいかっ 「これだけあれば、子どもたちも、なんとかあたらしい生活がはしめら し れるだろう ? ところで、おれのぶんだが、もしこの金をつかわすに死 まいそ、つ これがたったひとつの んだら、足にくくりつけて埋葬してもらいたい。 ゆいごん ゆいごん かぞく 男は、まもなく、死んだ。のこされた家族は、遺一言どおり、男のぶん まいそ、つ のお金を足にくくりつけて埋葬した。 ちちおや いえ けっこん むすこ ふたりの息子は結婚して、家をでていった。父親ののこしてくれたお 金のおかげで、くらしにこまることはなかった。 ちちおや けっこん ところが、家にのこったむすめは、結婚はしたものの、父親ののこし し 7 7
ちかくにいたら、ぜひたすねてごらんなさい。おもしろさがますかもしれません。 みんわ 「おいで、おいで」はロシアの民話です。インフルエンサで死んだ、おさないターニ うばぐるま ぼうれい ヤの亡霊にさそわれて、アーニヤののった乳母車が川の中へすいこまれていきます。 よたびだ 。ほ , つれい ゅめ げんじっ それは夢だったのですが、やがて現実となります。亡霊にさそわれてあの世へ旅立っ はなし “ほ、つれい ゅめし はなし 話は、わが国にもあります。亡霊と夢と死、ふしぎな話ですね。 わんがん うばぐるまかい 「乳母車の怪」は、戦争のおそろしさをリアルにったえる話です。一九九一年の湾岸 もぬし 、つばぐるま れつか せんそう 戦争のとき、イラクからはこばれてきた乳母車で、その持ち主は、劣化ウラン弾とい し う。はぐるま ばくだんほうしゃのう うおそろしい爆弾の放射能で、死んだかもしれないという代物なのです。乳母車の中 の子どもの目がとびだしたり、 顔がガイコッみたいになったり、というのは、たんな げんじっ かいだん せんそう る屋談ではありません。戦争がうみだした現実でもあるのです。だからおそろしいの です。 にんげん ぼ、つれい 「ふたりのケイト」はドイツの話です。亡霊というわけではありませんが、ある人間 そんざい かもうひとり存在するようにみえるというのが、ドッペルゲンガーです。 せんそう はなし かお はなし しろもの し 141