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1. 法学セミナー2016年05月号

036 特集 ヘイトスヒーチ ヘイトクライムⅡ 理論と政策の架橋 ヘイトクライム規制の憲法上の争点 福岡大学准教授 桧垣伸次 ヘイトクライムの憲法適合性を考えることは、京 る。 年にする ことが憲法上許されるのかが問題とな する一一たとえば、法定刑の上限を 2 年加重して 5 機に基づいて行われた場合であれば、法定刑を加重 は 50 万円以下の罰金」だが、これが人種差別的な動 ば、威力業務妨害罪の法定刑は「 3 年以下の懲役又 上げることが憲法上許されるか否かである。たとえ 動機として行われた場合に、法定刑そのものを引き 問題とするのは、ある犯罪が、人種に対する偏見を 因となる」 4 ) ことを指摘している。しかし、こで 動機が人種差別にあったことは量刑を加重させる要 京都地裁は、「刑事事件の量刑の場面では、犯罪の 判ではあるが、京都朝鮮第一初級学校事件において、 を、刑を重くする事情とすることはできる。民事裁 刑の範囲内において、人種に対する偏見という動機 て考慮できる要素であるとされる 3 。つまり、処断 決めることができる。動機についても、量刑に際し さまざまな要素を考慮したうえで、宣告刑の内容を 量刑に際して裁判官は、処断刑の範囲内において、 通常の犯罪よりも刑を加重するという類型である 2 るのは、ヘイトクライムであると認定された場合に 法には、いくつかの類型があるが、本稿で問題とす の憲法上の争点について検討する。ヘイトクライム を規制する法 ( 以下、「ヘイトクライム法」とする ) 目されてこなかった 1 ) 。本稿では、ヘイトクライム と関連する問題でありながら、これまではさほど注 犯罪」である。ヘイトクライムは、ヘイトスピーチ 族的出自、性的指向などに対する偏見を動機とする ヘイトクライムとは、「人種、宗教、肌の色、民 ヘイトクライムとは何か 都朝鮮第一初級学校事件で明らかになった、「この 国の法制度の限界」 5 を考慮するならは、非常に重 大な課題であるといえる。特定の個人や団体に対す るヘイトスピーチについては、一定部分は現行法で これに対して、不特定多数に 対処が可能である 6 対するヘイトスピーチを規制する法はない。そのた め、ヘイトスピーチの被害者に対する救済は十分に 図られないとの指摘があり、ヘイトスピーチ規制法 を制定すべきか否かが議論されている。しかし、不 特定多数に対するヘイトスピーチの規制は、表現の 自由に抵触するおそれがあると考えられている。そ れならばヘイトスピーチの被害者の救済を図るため に、ヘイトクライム法を制定するというアプローチ も一つの選択肢となりうるからである。 アメリカ [ 1 ] 概観 ヘイトクライム法の憲法上の問題を検討するため に、ヘイトクライムの規制について、先導的な立場 にあるアメリカを参照したい。アメリカは、一般的 に、ヘイトスピーチ規制には消極的であるといわれ ているが、ヘイトクライムについてはむしろ積極的 に規制している。 アメリカで初めて制定されたヘイトクライムを規 制する連邦法は、 1871 年のクー・クラックス・クラ ン法だとされる。同法は、南北戦争後の再建期にお いて、白人による黒人に対する暴力行為につき起訴 されないことが度々あったので、連邦の権限で起訴 できるようにしたものである 7 。次に、 1968 年の公 民権法 ( 18 U. s. c. A. 245 (b)) がある。同法は、 公民権運動の活動家等を保護するために制定された。 法学セミナー 2016 / 05 / no. 736

2. 法学セミナー2016年05月号

憲法と家族 、議家庭の朝諟 法と裁判第 5 号 【新刊図書のご案内】 2015 く平成 27 〉年 1 2 月 1 6 日大法廷判決の初めての本格的評釈 ! 変容する現代家族の問題を憲法学の視点から論点整理 辻村みよ子著 2016 年 4 月刊 A5 判上製 392 頁 ( 予定 ) 本体 4 , 300 円 + 税 ・近年相次ぐ家族をめぐる最高裁の憲法判断を詳細に検討・解説。 ・比較憲法学・憲法学のみならず民法学・社会学・歴史学・男女共同参画政策論な ど多彩な視座から、混迷する現在・将来の家族問題の論点を明確に示す。 「家事事件」「少年事件」の最新裁判例を発信 ! ′物・を・・第・第一 , 第人物を午に纏編い 第■の望と第物 0 ■ 法と裁判 家庭の 2016 年 4 月刊 B5 判 212 頁 ( 予定 ) 本体 1 , 800 円 + 税 代表安倍嘉人 / 副代表山﨑恒・西岡清一郎 / 顧問若林昌子 家庭の法と裁判研究会編 特集 TEL ( 03 ) 3953-5642 FAX ( 03 ) 3953-2061 ( 営業部 ) 第日爪加除出版 〒 171-8516 東京都豊島区南長崎 3 丁目 16 番 6 号 http: 〃 www.kajo.co.jp/ など好評連載多数収録 ー「初任者のための遺産分割講座第 4 回遺産の範囲の確定 ( 2 ) 」片岡武 ー公証家事実務 Q & A 第 1 回公証制度と公正証書大塚公証役場持本健司 司会・若林昌子 / コーディネーター・安倍嘉人 泉房穂 ( 明石市長 / 弁護士 / 社会福祉士 ) ニ宮周平 ( 立命館大学法学部教授 ) 池田清責 ( 弁護士 ) 鶴岡健一 ( 公益社団法人家庭問題情報センター事務局長 ) 菅原ますみ ( お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系教授 ) 近藤ルミ子 ( 弁護士 ) 離婚紛争における合意形成支援の現状と課題 ー離婚紛争と子どもの利益の実現日本臨床心理士会会長村瀬嘉代子

3. 法学セミナー2016年05月号

041 地方公共団体による ヘイトスピーチへの取組みと課題 特集 ヘイトスヒーチ / ヘイトクライムⅡ 理論と政策の架橋 北九州市立大学教授 中村英樹 法学セミナー 2016 / 05 / n0736 が見つかった事件をきっかけとして、 2002 年に同条 はじめに 例を制定した。この条例は、「不当な差別を助長す るおそれがあると認められる情報」などの有害情報 本稿では、まず差別問題ないしへイトスピーチ問 題に対する地方公共団体のこれまでの取り組みを概 を岡山市が管理する電子掲示板に書き込むことを禁 観し、次に地方公共団体が条例によりへイトスピー 止し、違反者には 5 万円以下の過料を科すこととし チに対する法規制を行うことについて、「理論と政 ている。もっとも、本条例が禁止する「有害情報」 策の架橋」という本特集のテーマを意識しながら、 は、プライバシー侵害、財産的不利益や精神的苦痛 を与える情報、性的情報など広範にわたっており、 若干の検討を行う。前提となる、法規制そのものの 有害情報以外に営利情報や政治的・宗教的中立性を 是非については他の論考に委ねることとして、本稿 損なう情報なども削除対象となっている。なお現在 では、できる限り地方公共団体に固有の論点に絞っ て考察する。 は、本条例の対象となる岡山市の電子掲示板は廃止 されている さて 2002 年、国会に人権擁護法案が提出され、激 これまでの取り組み しい議論となった。法案は審議未了廃案となるもの 憲法上の諸価値の実現が地方公共団体の当然の責 の、その地方公共団体版ともいえる全国初の総合的 な人権救済条例が 2005 年に成立した。「鳥取県人権 務であることに加えて、人種差別撤廃条約が「『積 極的作為義務』を締約国の中央政府と地方自治体に 侵害救済推進及び手続に関する条例」 ( 以下、「鳥取 課」している 1 ) ことからも、地方公共団体には、差 県条例」 ) である。同条例は、「人種等を理由として 別解消に向けた積極的取り組みが要請される ( 広義 行う不当な差別的取扱い又は差別的言動」、「人種等 の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該 の差別解消は、地方自治法 ( 以下「自治法」 ) 2 条 2 項 属性を理由として不当な差別的取扱いをする意思を にいう「地域における事務」である ) 。そこで、「人権 尊重の社会づくり条例」といった名称で、地方公共 公然と表示する行為」など ( 広義の ) ヘイトスピー 団体の責務や基本方針の策定、人権施策推進審議会 チを含む行為類型をはじめ、虐待やひばう・中傷、 の設置などを定めた条例が、西日本を中心に制定さ 著しく粗野または乱暴な言動の反復などを「人権侵 れている 2 。また、いわゆる『地名総鑑』問題や結 害」と定義し、これを禁止する。議会の同意を得て 知事が任命する 5 人の委員から成る「人権侵害救済 婚差別・就職差別問題に対処するため、同和地区へ 推進委員会」に対して人権侵害救済・予防の申立て の居住に関する調査を禁止する条例を、大阪府、香 がなされたときは、同委員会は必要な調査を行い、 川県、徳島県、福岡県、熊本県が制定している。 事案関係者に対して聴取、情報提供等の協力を求め 「表現」を対象とした規制としては、「岡山市電子 ることができる。正当な理由なく協力を拒んだ者に 掲示板に係る有害情報の記録行為禁止に関する条 は、 5 万円以下の過料が科される。委員会が必要と 例」がある。岡山市は、インターネット上の電子掲 認めるときは、被害者に対する援助、加害者に対す 示板に被差別部落の地名などが書き込まれているの

4. 法学セミナー2016年05月号

082 法学セミナー 2016 / 05 / no. 736 た同時履行の抗弁などを信販会社に対しても主張でき るようにしている ( 同法 30 条の 4 、 35 条の 3 の 19 。いった んは切断された抗弁をつなぐという意味で「抗弁の接続」と いう ) 。自動車や不動産をローンで購入する場合にも、 事情は同じであるが、こちらは通常のクレジットとは 別の形で規律されている。 4 労務提供型契約 民法は、労務提供型の契約類型として雇用・請負・ 委任・寄託の 4 種を定める。事務処理等の委託を目的 とする「委任」の要素がべースにあり ( 646 条 ) 、労務 の提供について、相手方の指揮命令に服するものが「雇 用」 ( 623 条 ) 、仕事の完成を目的とするものが「請負」 ( 632 条 ) 、物の保管を目的とするものが「寄託」 ( 657 条 ) であると考えてよいであろう。とはいえ役務給イ寸は、 あらゆる契約に内包されており、極めて多様である。 + 仕事の完成と報酬 + ものの預かり 寄託 ( 1 ) 雇用契約 労務の提供 相手方の指揮・命令 請負 雇用については、労働契約の条件等に関して、早く から労働基準法 ( 昭和 22 〔 1947 〕年法 49 号 ) を始めとす る労働三法 ( 労働組合法 [ 昭和 24 〔 1949 〕年法 174 号 ] ・労 働関係調整法 [ 昭和 21 〔 1946 〕年法 25 号 ] ) や労働災害補 償保険法 [ 昭和 22 〔 1947 〕年法 50 号 ] などが重要な役割 を演じてきたが、更に労働契約上のルールを整備すべ く、 2007 年に労働契約法 ( 平成 19 〔 2007 〕年法 128 号 ) が制定されて詳細な規定がおかれ、民法の雇用に関す る諸規定 ( 623 条 ~ 631 条 ) は、ほとんど意味を失った。 労働契約法では、労働者の雇用の安定と生存権を守る ため、解雇権濫用法理なども明文化されている ( 同法 16 条参照 ) 。他方、非正規雇用を多数生み出した労働者 派遣法 ( 昭和 60 〔 1985 年〕年法 88 号 ) やパートタイム労 働法 ( 短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律 [ 平成 5 年〔 1993 年〕法 76 号 ] ) などがもたらす多くの課題にも 直面しているが、詳細は労働法で学んでいただきたい。 ( 2 ) 請負契約 させ、他方 ( 注文者 ) がその仕事に対して報酬を支払 請負は、当事者の一方 ( 請負人 ) がある仕事を完成 うことを約東して成立する契約である ( 632 条 ) 。仕事 の完成を目的としている点で、他の契約類型と区別さ れる。報酬は、「仕事の完成」に力点が置かれている ことと関連して、完成した仕事の目的物の引渡しと同 時もしくは労務の終了時以降とされているが ( 633 条 ) 、 ときに実態に合わないため、可分の給付に関しては報 酬の分割請求も可能と解されている ( 最判昭和 56 ・ 2 ・ 17 去 967 号 36 頁。なお、改正法案 634 条も参照 ) 。 請負の代表は建設工事請負契約であるが、これには 建築基準法 ( 昭和 25 〔 1950 〕年法 201 号 ) や建設業法 ( 昭 和 24 〔 1949 〕年法 1 開号 ) 等の規制があるほか、多くの 場合、標準約款が利用され、その契約内容を形成して いる ( たとえば、建築士会・建築家協会・建設業協会などか らなる眠間 ( 旧四会 ) 連合協定工事請負契約約款」など ) 。 約款内容の当否はともかく、民法の規定に関連しては、 欠陥住宅など、仕事にキズ ( 瑕疵 ) があった場合の請 負人の担保責任と、危険の移転に関する重要な問題が ある。仕事に瑕疵がある場合、瑕疵の修補・損害賠償 のほか、建物等の土地の工作物についての請負を除い ては契約解除ができることになっている ( 634 条、 635 条。 改正法案では両条は削除され、売買と同様の契約不適合一般 を理由とする追完請求・損害賠償請求・請負報酬減額請求・ 解除などで対処される。なお不適合の場合の責任につき、改 正法案 636 条以下 ) 。 目的物に瑕疵がある場合、注文者は、信義則に反し ない限り、請負人から瑕疵の修補に代わる損害賠償を 受けるまで報酬全額の支払いを拒むことができる ( 634 条 2 項第 2 文参照。最判平成 9 ・ 2 ・ 14 民集 51 巻 2 号 337 頁 ) 。 また、判例では、建築請負の仕事の目的物である建物 に重大な欠陥があるために建て替えざるを得ない場合 には、注文者は請負人に立て替えに要する費用相当額 の損害賠償請求をすることができ、それは民法の規定 の趣旨に反しないとされている ( 最判平成 14 ・ 9 ・ 24 判 時 1801 号 77 頁 ) 。なお、住宅の品質確保に関しては、住 宅の品質確保に関する法律 ( 品確法 ) ( 平成 11 〔 1999 〕年 法 81 号 ) が重要である。 仕事が完成して引渡す前の目的物 ( たとえば家屋 ) の 所有権の帰属に関して、判例は、特約のない限り主た る材料の提供者に帰属するとしてきた ( 大判大正 3 ・ 12 ・ 26 民金耙 0 輯 1208 頁、大判昭和 7 ・ 5 ・ 9 民集 11 巻 824 頁 など。材料提供者帰属説 ) 。しかし、最近では、代金の支 払状況から当事者の合意を推定するなどして、注文者 に原始的に帰属させる判断力いている ( 注文者帰属説。

5. 法学セミナー2016年05月号

014 LAW FORUM 認知症事故、家族責任なし [ ロー一ラ 4 最高裁、監督義務は「総合的に判断」 裁判と争占 法学セミナー 2016 / 05 / no. 736 愛知県大府市で認知症の当時 91 歳の男性が徘徊し 小法廷はまず、「同居の夫婦だからといって、直 て列車にはねられ死亡し、 J R 東海が男性の家族に ちに民法が定める監督義務者に当たるとはいえな 約 720 万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、 い」と述べ、「妻を法定監督義務者とする根拠は見 最高裁第 3 小法廷 ( 岡部喜代子裁判長 ) は 2016 年 3 当たらない」と判断した。一方で、「自ら引き受け 月 1 日、「家族が賠償責任を負うかどうかは、介護 たとみるべき特段の事情がある場合は、『監督義務 の実態を総合考慮して判断すべきだ」との初判断を 者に準ずる者』として責任が問われることがある」 示した。その上で、今回の事故では男性の妻 ( 93 ) と指摘。認知症の人の監督義務者に準じる者に当た と長男 ( 65 ) は監督義務者には当たらず、賠償責任 るかどうかは①介護する人の生活状況②親族関係の は負わないと認定。賠償を命じた 2 審判決を破棄し 有無や濃淡③同居の有無④財産管理への関与など⑤ て J R 東海の請求を棄却した。家族側の逆転勝訴が 日常の問題行動の有無や内容⑥介護の実態 - ーーの 6 確定した。 項目を総合考慮し、客観的状況から判断すべきだと 民法 714 条は、責任能力のない精神障害者らが第 した。その上で、介護の状況などから長男と妻は監 三者に損害を与えた場合、監督義務者が責任を負う 督義務者には当たらないと結論づけた。 と定めている。一方で、監督義務者が義務を怠らな 0 介護家族らは判決を歓迎 かった時は免責されるとしている。認知症高齢者が 増加する中、在宅で介護する家族が賠償を負わない 長男は判決に「大変温かい判断をしていただき、 ケースがあることを示した今回の判決は、介護現場 心より感謝する父も喜んでいると思う」とコメン に大きな影響を与えることになりそうだ。 トし、代理人弁護士も「画期的判決」と評価した。 裁判官 5 人全員一致の意見。ただし、うち 2 人は 高齢化が進み、今回と同じような在宅での「老老介 長男について「監督義務者に準ずる者に当たる」と 護」のケースは増えるとみられる。そうしたケース 多数意見とは異なる認定をした上で、介護の状況な で監督責任を認めなかった今回の判決を、介護に携 どを検討して「監督義務は怠らなかったため、責任 わる関係者は「現場の実情に見合った判決」だとし は免れる」と同じ結論を導いた。 て歓迎している。認知症の家族を支える団体の代表 も判決後、「家族はミスをしたら全部責任があると ・ 6 項目の考慮要素を提示 言われたような気持ちだったが、最高裁判決で家族 事故は 07 年 12 月に発生。男性は要介護度 4 と診断 の苦労や努力が理解された」と喜んだ。 され、自宅から徘徊して駅の線路に入り込み、列車 国の政策や介護現場では、「認知症でも安心して にはねられた。男性には 00 年ごろから認知症の症状 外出できる地域づくり」の理念が広まりつつある。 が出始め、別居中の長男を中心に介護の計画を決め 家族に監督責任を認める傾向が定着すれば、家族ら た。介護は主に妻が当たったが、妻がまどろんだ隙 の介護を萎縮させることにつながりかねず、判決は に男性は外出した。 J R 東海は「事故で列車に遅れ 政策を後押ししているといえる。ただし、判決はあ が出た」として家族を相手に提訴。名古屋地裁は 13 くまで責任を負うかどうかはケースパイケースだと 年 8 月、長男を監督義務者に準ずると判断し、妻の しており、今後も家族が責任を負う例は出ることに 責任も認めて 2 人に全額の支払いを命じた。これに なる。被害を受けた側をどう救済するかという課題 対し名古屋高裁は 14 年 4 月、長男の監督義務は否定 も残る。専門家は「熱心に介護に当たる家族が救わ したが、妻には「夫婦としての協力扶助義務がある」 れるためにも、公的な制度づくりが必要だ」と指摘 として約 360 万円の賠償を命じた。 しており、引き続き議論が必要だ。 0 三 ( I )

6. 法学セミナー2016年05月号

127 B I 戦争に抗する 子ども法 そども法 ケアの倫理と平和の構想 岡野八代 = 著 大村敦志・横田光平・久保野恵美子 = 著 岩波書店 / 2015 年 10 月刊 有斐閣 / 2015 年 9 月刊 四六判 / 本体 2800 円十税 A 5 判 / 本体 2500 円十税 戦争に抗する深い思考へのいざない 「子ども」をめぐる法 本書は、 9.11 以降のテロとの戦争の中で犠牲になった 子どもは、一個の人格として尊重され、その権利が守ら 人々や、「慰安婦」被害者など具体的な生の経験から、反 れるべき存在である。そして、家族や社会を通して成長し、 暴力・反戦争について思考する。 2015 年夏、日本に住む やがては社会の新たな担い手となっていく。しかし、その 多くの者たちが立憲民主主義が揺るがされる不安に直面し 成長の過程では、親や学校等と非対称な関係に置かれる危 た。私たちにはこの時代を生き抜き未来の平和に繋ぐため うい存在でもある。いじめや虐待、非行といった問題がと の、理論と思考が必要である。そして立ち向かう情萍も りざたされるなかで、子どもの過去や現在だけではなく将 戦争は、「市民の命を犠牲にしてまで国益を守るための 来を見据えて、いかにその人格を尊重し、その権利を守る 手段であ」り、立憲民主主義とは相容れない。では、どの ことができるのだろうか。 ように戦争に抗するのか。本書では、立憲主義の原点に集 本書は、「子ども」をめぐる様々な法を分かりやすく教 結し、個々人が「民主主義的な活動を広げ、私たちの手に、 えてくれる。各章は経験した、あるいは耳にしたことのあ 政治の価値を取り戻すことである」と述べられている。本 るような事例をもとに、そこでの問題点、関連する法制度、 書は、戦争が人間を傷つけるという戦争の本質から目をそ 望ましい解決の方向性を読者に示している。重要な条文が らさない。戦争とは何か、国家とは何か、立憲主義、民主 随所に掲載され、法学の基礎知識にも触れているため、初 主義とは何かといった根本的な問いを読者に投げかけ、暴 学者にも読みやすい。かって「子ども」だった方だけでな カ・戦争に抗するための思想を紡ぎ出す。 く、今「子ども」の方にも、手に取って欲しい一冊である。 死刑に直面する人たち WTO ・ FTA 法入門 グローバル経済のルールを学ぶ 佐藤大介 = 著 小林友彦・飯野文・小寺智史・福永有夏 = 著 岩波書店 / 2016 年 1 月刊 法律文化社 / 2016 年 2 月刊 四六判 / 本体 2600 円十税 A 5 判 / 本体 2400 円十税 我々は皆殺人者である グローバル経済のルールを学ぼう ! あなたは人を殺したことがありますか。この問いにピン 最近、新聞やテレビで TPP ( 環太平洋バートナーシップ ) とこない人は、是非この本を手に取ってほしい。国家とし に関するニュースをよく見かけるのではないだろうか。 て死刑制度を残すということは、国民が、殺人を行ってい TPP をはじめとする地域貿易のルールである自由貿易協定 ることにほかならないからだ。自分の手で人の命を殺めて (FTA) とはどのようなものだろうか。そして、国際貿易 いるという事実は極めて重たいはずだが、なぜそれを実感 のルールである世界貿易機関 (WTO) と FTA との関係は できないのか。本書はこの問題に正面から取り組む。 どうなっているのだろうか。本書は、 WTO と FTA とを対 死刑の是非を問うための前提作業として、本書は、死刑 比させるという新しいアプローチをとりながら、グローバ 囚の日常やその執行のあり方に迫る。その上で、死刑囚に ル経済のルールについて分かりやすく説明している。また、 対するアンケート、 ( 元 ) 死刑囚の家族及び被害者への調査、 初学者にも分かり易い解説でありながら、その内容は充実 各分野の専門家へのインタビューなどを通じて、死刑制度 しており、 WTO はもちろん、日米欧が締結している FTA に対する色々な意見が偏ることなく紹介されている。 までも取り扱っている。従来の国際経済法のテキストは、 なかなか身近に感じることのない死刑制度ではあるが、 分量が多く難解なものが多かった。本書は、国際経済法の 例えば、本書にも紹介のある刑務官という職業を、自身の 入門書として簡潔で内容も充実しており、法学部生にはも 進路選択の一つとして選択しうるかというあたりから考え ちろん、法学を学んだことのない方にも是非お勧めしたい てみるのもいいかもしれない。 一冊である。 戦争に抗 平和 死刑に 直面する大第 人たち 0 ・ FTA 法人

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126 I 新時代の「情報法」、 B こに現る ! R A R 1 本書のタイトル、執筆者 3 名の名前、装丁そして 目次に目を通したとき、本書は「情報法」科目の決定 版の基本書になるであろうという「予感」があった。 本書を通読した今、その「予感」は「確信めいたもの」 へ変貌を遂げている。 私がロースクール生であった約 1 0 年前と異なり、今 では『情報法』や『インターネット法』の名を冠する 優れた概説書は他にもいくつかあるが、そうした洪水 のような出版状況の中で、本書が「オンリーワン」で ある理由とは何であろうか。本書「はしがき」では① 実務家を交えない大学研究者 3 名の共著であること、 ② 3 名という少人数の共著であるため叙述の統一性が ーキテクチャによる規制」、政府規制と自主規制の混 合による「共同規制」、情報媒介者を国家の代理人と して捉える「代理人による検閲」、民の手による「自 主規制」などの概念が積極的に提唱・活用されるよう になってきている。本書はこれらの各規制方式を巧み に統合すると共に、情報の発信者・受領者・媒介者と いうレイヤー別の区分を構想してレイヤーに応じた分 野横断的な規律を試みようとしており、まさに情報法 の新時代を感じさせる。 3 この特徴は、本書が取り扱っている法分野にも影 響しているように思われる。例えば、第 1 章・第 2 章 の情報法総論部分を執筆された曽我部真裕教授の執筆 部分以外でも、経済法・競争法の専門家である林秀弥 教授執筆部分の第 4 章「情報基盤をめぐる競争と規制」 確保されていること、③ 基礎的な内容のみならず 新しい論点までカバーす る工夫をしていること、 の 3 点の特徴が挙げられ ている。しかし、本書を 「オンリーワン」たらし めているのは、このよう な形式的な理由ではな 2 本書の最大の特徴 は、プラットフォーム事 業者等の情報媒介者の存 在を顕在化させ、法的規 R E V I E 情報法概説 W 『情報法概説』 曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕 = 著 弘文堂 / 2016 年 1 月 /A 5 判 / 本体 3300 円十税 ではプラットフォームの 視点から競争法が整理さ れている。著作権法の専 門家である栗田昌裕准教 授執筆部分の第 1 0 章「著 作権侵害」でも、凝縮さ れた著作権法の解説に加 えて、いわゆる書籍の「自 炊」問題や侵害主体の拡 張法理であるカラオケ法 理等の媒介者の役割が特 に問題になる点について 囲み解説で強調されてい る。一方で、従来、情報 律の可能性を探っている点に求められるのではなかろ うか。プラットフォームとは、インターネット上のポ ータルサイト、 SNS 、電子掲示板、動画共有サイト、 検索サービス等の民間事業者が運営するものを指す。 インターネットは国境がないという越境性や中央管理 組織をもたないという分散性を有しており、国家単位 の法的規制が機能しにくくなっている。このようなコ ントロール・ポイントとして国家の希薄化・消失とい う現代の情報化社会の課題を前にして、国家に代わり 存在感を示す民間の情報媒介者をいかに法的に捕捉し ていくか、ということが情報法の大きな関心事になっ ている。近年では、主に若手情報法学者を中心として、 国家による法的・直接的規制に並置・代替される規制 方式ーーー具体的には物理的な環境操作を通じた「ア 法の枠内で取り上げられることの多かったマスメディ アの報道・取材の自由等や公文書管理法・情報公開法 といった行政情報法については、民間の情報媒介者の 問題ではないためか、その扱いは小さい。 4 最後に、本書のもうーっの大きな特徴として、情 報法分野における最新事例が豊富に取り上げられてい ることも挙げられる。扱っている法律自体も改正速度 の速いものばかりであり、既に行政機関個人情報保護 法の大幅改正も控えている状況である。第 2 版、第 3 版へのアップデートに伴う執筆者らの辛苦 ( あるいは 喜び ? ) が直ちに想起されるが、やはり時宜に応じた 改訂が期待される。 おおしまよしのり 峅護士大島義則 ]

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044 な被害が発生しているのかについての的確な実態調 査と分析に基づいて条例が制定されたかどうかが問 題となる。そうした調査・分析を経すに制定された 条例は、裁判所によって立法事実の存在を否定され る可能性があるのみならず、そもそも施策の目的が 不明確となり、実効的な問題解決は期待できないで あろう。 ②、③に関しては、原則として国が法令で規制を 行う場合と同様の憲法適合性が要請される。②につ いて、鳥取県条例の場合は規制対象の不明確性・広 汎性が批判されたところ、大阪市条例は、対象をへ イトスピーチに限定したうえで、表現の「目的」「内 容または態様」「場所または方法」による三重の絞り をかけるなど、かなり意を用いていることがうかが われる。また③について、条例の実効性を担保する、 あるいは義務の履行を確保しようとする場合、地方 公共団体が投入しうる手段としては、指導・勧告、 それらに従わない場合の公表のほか、行政刑罰とし て「 2 年以下の懲役若しくは禁錮、 100 万円以下の 罰金、拘留、科料若しくは没収」、行政上の秩序罰 として「 5 万円以下の過料」がある ( 自治法 14 条 3 項 ) 。 その際、表現の自由を制限する以上、目的達成のた めのより制限的でない手段でなければならない。 以上のような法的問題とは別に、行政刑罰は手続 に多大なコストを要すること、警察による捜査や検 察による起訴が不確実であることなどから、実際に は活用が難しいと指摘されている 22 。それに対して 過料は、地方公共団体の長が行政処分として科すこ とができるため、簡易迅速性が期待できる。しかし、 相手が任意に支払わない場合 ( 確信的ヘイトスピー チ事案の多くはこちらであろう ) 、地方税滞納処分の 例により強制徴収する必要があるため、やはり相応 の徴収コストがかかることになり、確実な執行を期 待することは難しい 23 ) 。そこで、比較的執行コスト の低い、公表という手法が各地の条例で採用されて いる。この点、鳥取県条例は、人権侵害中止勧告に 従わない場合の公表と併せ、調査への協力拒否に 5 万円以下の過料を科していたが、大阪市条例は、当 該表現活動のヘイトスピーチ該当性とそれを行った ものの氏名・名称などを公表する措置のみにとどめ ている。もっとも、公表による実際の社会的制裁効 果は大きく、いったん情報が公になると原状回復も 困難なため、慎重な手続的配慮が必要とされる。い ずれにしても、ヘイトスピーチ規制に対する司法判 断の積み重ねがないなかで、地方公共団体の訴訟リ スクや執行コストも考えると、できる限り制限的で ない手段を採用したうえで、条例の目的達成を不断 に検証しながら見直しをしていかざるをえないと思 われる。さらに、ヘイトスピーチが帯びる「歴史性」 「非対称性」 24 の認識を欠いた社会への制裁手段の投 入は、「日本人に対する " ヘイトスピーチ " は処罰さ れないのに」といった反発を容易に引き起こす。問 題の現場により近い地方公共団体の場合、それが地 域社会の分断を招きかねないことにも注意が必要で ある。実効性のある啓発活動の開発や普及 25 ) は、地 方公共団体においてこそ、より喫緊の課題である。 ④に関しては、規制の方法によっては、ヘイトス ピーチの審査・認定機関の設置が必要となる。独立 性の高い行政委員会を条例で設置することはできな い ( 自治法 138 条の 4 ) ため、当該機関は執行機関 ( 首 長 ) の附属機関とせざるをえない。その場合、極端 な例ではあるが、附属機関の代表を首長が兼ねるこ とも法律的には可能とされる 26 。審査・認定機関の 実質的な独立性、公正性を確保するため、委員の構 成や選任方法の工夫、事務局の編成や処遇などへの 配慮、情報開示の徹底、予算執行上の配慮などが求 められよう。また、当事者参加の観点から、ヘイト スピーチを向けられる当事者を委員に加えるべきで あるという考え方もあるが、住民に近い地方公共団 体における関係者との密接な接触に基づく決定は、 客観性を担保し基本権を保障するために重要な「住 民との距離」を失わせる危険性がある 27 ことにも留 意しなければならない。こうした点を踏まえると、 審査・認定機関は、執行機関と住民双方から適切な 距離を確保した専門的機関とするのが妥当ではない かと思われる。それに対して、被害者の救済・回復 の場面では、当事者団体や支援団体との連携が本質 的に重要である。それ故、被害者の救済・回復まで を制度の視野に入れるのであれば、ヘイトスピーチ の審査・認定機関と救済機関とを明確に分離し、後 者において関係者の「実践知」を最大限活用すると いう方法も考えられてよいのではないだろうか 28 ) その他の課題 自治法 244 条は、地方公共団体が設置する公の施

9. 法学セミナー2016年05月号

日評べーシック・シリーズ ■本体 1 , 900 円 + 税 新井誠・曽我部真裕・佐々木くみ・横大道聡【著】 憲法の基本を、深く理解する。 憲法の基本が深く理解できる教科書。判例とそれに挑戦する学説それぞれ の考え方を丁寧に解説し、憲法学の世界に読者を誘う。全 2 巻。 ※『憲法 I 総論・統治』は 7 月刊行予定 シリーズの特徴 物権冫去秋山靖浩・伊藤栄寿・大場浩之・水津太郎【著】 実力ある ・好評発売中・本体 1 , 700 円十税 執筆陣が参加 ! 担保物権法 田髙寛貴・白石大・鳥山泰志圄 ・好評発売中・本体 1 , 700 円十税 法学部の授業で 家族冫去本山敦・青竹美佳・羽生香織・水野責浩【著】 使用でき、通読できる ! ・好評発売中・本体 1 , 800 円十税 基礎をしつかりと 労働法 和田肇・相澤美智子・緒方桂子・山川和義【著】 身につけられる ! ・好評発売中・本体 1 , 900 円十税 Basic Series 憲法Ⅱ 積大道総 日解ペ - レ , レーズ 女一ョロ既 特徴 TEL : 03-3987-8621 /FAX : 03-3987-8590 ( ) 日本言平言侖ネ土 〒 170-8474 東京都豊島区南大塚 3 ー 12 ー 4 こ注文は日本評論社サービスセンターへ TEL : 049-274-1780/FAX : 049-274-1788 http://www.nippyo ・ co.jp/ [ 第 2 版 ] 中田邦博 + 鹿野菜穂子【編】 シンプルな事例で消費者法の基本から応用までを解説。 集団的消費者被害回復のための特例法等の法改正に対応した改訂版。 ■第 1 部諸法からひもとく消費者法 ・第 3 部特別消費者法 第 1 章消費者法とはなにか 中田邦博 第 14 章消費者紛争の個別類型と消費者法 第 2 章消費者と民事法 鹿野菜穂子 ①金融商品取引と消費者 ・・上柳敏郎 第 3 章消費者と行政法 第 1 5 章②不動産取引と消費者 ・中川丈久 ・松本克美 第 4 章消費者と刑法 第 1 6 章③消費者被害としての高齢者問題 ・・佐伯仁志 坂東俊矢 第 5 章消費者と経済法・ 第 1 7 章④医療と消費者 ・・・川濱昇 ・高嶌英弘 第 1 8 章⑤複合契約と消費者 寺川永 ■第 2 部一般消費者法 第 19 章消費生活と安全確保 第 6 章消費者契約法①総論・契約締結過程規定 ・鹿野菜穂子 ①主な規制法と製造物責任法 角田真理子 第 7 章消費者契約法②不当条項規制・ 中田邦博 第 20 章②消費者安全法と行政の動き 黒木理恵 第 8 章特商法 第 21 章広告・表示と消費者 南雅晴 ①総論・訪問販売・電話勧誘・クーリング・オフ・・・大澤彩 第 9 章②通信販売・インターネット取引・ ■第 4 部消費者の権利の実現と救済 宮下修一 第 1 0 章③マルチ商法・連鎖販売取引・ ・圓山茂夫 第 22 章消費者と民事手続法 山本和彦 第 1 1 章④特定継続的役務提供 ・丸山絵美子 第 23 章消費者団体訴訟の実際と課題 長野浩 第 1 2 章消費者信用取引①総論・割賦販売法 ・後藤巻則 第 24 章実録・団体訴訟 町村泰買 第 1 3 章消費者信用取引②貸金規制 ■ A5 判 / 本体 2 , 700 円十税 6BN978-4-535-52189-6 0 = ' 00 しれ ~ , 、・ C00000 , 000 基本講義消費者法 3 CONTENTS 03-3987-8621 /FAX : 03-3987-8590 ( ) 日本言平言侖ネ土 〒 1 70-8474 東京都豊島区南大塚 3-12-4 TEL : ・ 049-274-1780/FAX : 049-274-1788 http://www.nippyo.co.jp/ こ注文は日本評論社サービスセンターへ TEL . -- 慮法Ⅱ人権… 基本消費者法

10. 法学セミナー2016年05月号

059 今、なぜロースクールで学ぶのか 下さる実務家教員の先生がロースクールでは人気が あったように思います。たしかに、試験対策とか実 務の基礎というところでそういった要素はありま す。ただ、今感じるのは、ロースクールの学生とい う勉強に集中できるときに、学者の先生から基礎理 論とか問題提起、それから最新の学説状況といった ものを深く掘り下げて学べたということは、実は実 毛 ! 務に出てから役に立っていると感じます。私の業務 のなかでは、行政の分野で特にそれを感じることが ありまして、行政訴訟で、理論面から判例を乗り越 者の方がいらっしやった場面を設定されていたりし える立論をしたりとか、あるいは法制上の問題を提 ており、そういう設例を多く解いたことは、今の実 起して立法に影響を与えようというときに、ロース 務でも役立っているといえます。 クールで学んだ基礎理論とか法の観念といったもの 小塩私は法学部出身ではないですが、おそらく法 の裏付けは非常に重要になると感じています。 学部の授業では、基本書を用いて、法の基礎を学ぶ 重政ロースクールに入りますと、未修者コースで ことが多いと思います。もしかすると、法学部の授 すと、 1 年目に法律の基礎理論を勉強したうえで、 業の内容が、実務に出てそのまま活きることはそれ 2 年目からは既修者コースと合流して主に問題演習 ほど多くないのかもしれません。もちろん、基礎的 が中心の講義となってきます。問題演習のなかにも、 な内容は非常に重要であることは間違いありませ 司法試験に直結する民事系、刑事系、あるいは公法 ん。学生のみなさんからすると、弁護士であれば何 系の講義というものがありますが、その他に、慶應 でも知っていると思われるかもしれませんが、まっ のロースクールではテーマ演習といいまして、直接 たくそんなことはありません。勉強したことがない 試験には関係ないのですが、実務に入って役に立つ 法律もたくさんありますし、見たこともない条例も と思われる各自が興味をもった内容について深く掘 多くあります。分からないことと出会った場合は、 り下げて勉強していこうという演習がありました。 その都度調べます。その際の調べ方とか、だいたい 私は、ウィーン売買条約に関する判決や仲裁判断を このような感じだろうなと予想ができることが、い 読むテーマ演習をとっておりまして、これは、ウイ まみなさんが勉強していることで一番重要になるこ ーン売買条約という国際条約に関する英文の判例や とではないかと思います。法学部やロースクールで、 仲裁判断例のデータベースから自分で選択した判決 司法試験と関係のない授業を疎かにすることなく、 や仲裁判断を日本語に翻訳した上で、それを週 1 回 しつかりと勉強することも、必ず仕事に活きてくる 集まって発表するというものでした。実務に就いて と思います。幅広い能力を身につける、考え方の素 しばらく私はインハウス業務をやっていたのですけ 地をつけるということが一番重要ではないかなと私 れども、その際に、英文の契約書や利用規約を翻訳 は思います。 してそれを日本語に直して日本語の業務に馴染ませ 幅広い弁護士の仕事の世界 るという仕事がありまして、この演習で英語の法律 や契約関係独特の言い回しに馴染んだことが役に立 ちました。 小塩それでは、実際に、どのような業務をしてる 堀実務上の相談事というのは、混沌としていて何 かというところを、もう少し掘り下げて説明してい が法的に問題なのかということがわからないのです きましよう。 毛受私の事務所では、訴訟が多いので、少なくと けど、ロースクールの勉強はソクラテス・メソッド といって双方向の授業が行われるので、問題の抽出、 も 2 日に 1 回くらいは裁判所に行って裁判をしま す。実際の裁判では、すぐに証人尋問をするわけで 何が法的な問題なのかということを重視した授業が はなく、お互いの弁護士が、主張を記載した書面を なされていました。また、設例についても先生方が 事前に裁判所に出して進めていくということになり とても工夫されていて、会話形式であったり、相談 Extra Articles ( 阜物当大学程よ