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1. 法学セミナー2016年05月号

事実の概要 123 科刑上一罪の処断刑としての「その最も重い刑」 ( 刑法五四条一項 ) の意義 た。その上で罰金刑を選択した場合、その多額は、 被告人は、被害者宅に侵入した上、被害者に対し、 2 つの罪のうち最も重い刑を定めた住居侵入罪の 「 10 万円」であると解するのが相当であるとし、本 その左腕および右肩付近を手でつかむ暴行を加え 件の事案につき罰金刑で処断した場合、 10 万円以下 た。この事案について、原審富山地裁は、その事実 に対する法令の適用として、刑法 130 条の住居侵入 の罰金になると判断した。 これに対して、検察官は、手段・結果関係にある 罪 ( 3 年以下の懲役又は 10 万円以下の罰金 ) と刑法 住居侵入と暴行の処断刑は、 1 罪として重い住居侵 208 条の暴行罪 ( 2 年以下の懲役若しくは 30 万円以 入罪の刑によって処断することとなるものの、その 下の罰金又は拘留もしくは科料 ) は手段と結果の関 うちの罰金の多額については、暴行罪のそれ ( 30 万 係にある牽連犯であるので、牽連犯の処断刑を定め 円 ) によるべきであり、従って原審には法令適用の た刑法 54 条 1 項および刑の軽重の判定基準を定めた 誤りがあり、それは判決に影響を及ほすことが明ら 10 条を適用して、この 2 つの罪を、 1 罪として最も かであると主張して控訴した。 重い刑を定めた住居侵入罪の刑で処断することとし [ 名古屋高金沢支部判平 26 ・ 3 ・ 18 高刑速平成 26 年 140 頁 ( 破棄自判・確定 ) ] 月以上 5 年以下の懲役 ) を手段として詐欺罪 ( 1 月以上 10 年以下の懲役 ) を行った事案に重点的対 科刑上一罪の処断刑としての「その最も重い刑」 照主義を適用すると、詐欺罪の刑がその処断刑と ( 刑 54 条 1 項 ) の意義。 なる。しかし、このような方法を機械的に適用す ると、軽い私文書偽造の刑の下限を下回る懲役 2 数罪が科刑上一罪の関係にある場合、刑法 54 条 月の量刑も可能となってしまう。それゆえ、妥当 1 項は、「その最も重い刑により処断する」とし な結論とは言い難いとの批判が向けられてきた。 ている。そして、最も重い刑を定めるに当たって 判例には、傷害罪 ( 旧規定 : 10 年以下の懲役又 は、数罪の法定刑を対照してその刑の軽重を定め は 10 万円以下の罰金 ) と公務執行妨害罪 ( 同 : 3 ることになるが、選択刑が定められている数罪の 年以下の懲役又は禁錮 ) が牽連犯の関係に立つ事 比較対照方法については、各罪の重い刑種のみを 案につき罰金 2 万円に処した原判決を破棄し、刑 取り出して比較対照し、処断刑を決定することに 法 54 条 1 項の「その最も重い刑により処断する」 なる ( 重点的対照主義。最一判昭 23 ・ 4 ・ 8 刑集 とは、軽い罪である公務執行妨害罪の最下限の刑 2 巻 4 号 307 頁参照 ) 。この場合、その重い罪及び ( 1 月の禁錮 ) よりも軽く処断することはできな 軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めが い趣旨であるとして、懲役 3 月及び罰金 8 千円を あり、軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金 言い渡したものがある ( 最判昭 28 ・ 4 ・ 14 刑集 7 刑の多額よりも多いときは、罰金刑の多額は軽い 巻 4 号 850 頁 ) 。また、詐欺罪と犯罪収益等隠匿罪 罪のそれによるべきであると解するのが相当であ ( 5 年以下の懲役若しくは 3 百万円以下の罰金又 ・・・原判決が確定した判例・実務とする重点 る。 はこれの併科 ) が観念的競合の関係に立つ事案に 的対照主義は、刑の軽重を定めるについて、刑法 関しても、重い詐欺罪の刑に軽い犯罪収益等隠匿 10 条、刑法施行法 3 条 3 項を適用しなければなら 罪の罰金刑を併科できると判断した原判決を維持 ないとしているが、軽い罪との関係において、選 したものがある ( 最決平 19 ・ 12 ・ 3 刑集 61 巻 9 号 択刑である罰金刑の上限の扱いまで直接指示して 821 頁 ) 。このように最高裁は、判例の重点的対照 いるとはいえず、上記のような修正ないし補充を 主義を踏襲しながら、その機械的な適用から生ず 排除しているとまではいえない。 ・・従って、原 る問題を是正することに努めているといえる。 判決の法令適用の誤りは、判決に影響を及ほすこ 本件のような、重い罪及び軽い罪の双方に選択 とが明らかであり、原判決は破棄を免れない。 刑として罰金刑が定められ、重い罪の罰金刑の多 額が軽い罪のそれを下回る事案につき、明確な判 観念的競合や牽連犯のような科刑上一罪の処断 断を示した判例はなかった。本判決は、従来の判 の方法について、刑法は、「その最も重い刑によ 例の流れを踏まえて、 2 個の罪の社会的事実とし り処断する」 ( 刑 54 ① ) と規定している。「その最 ての一体性に基づいて、それらを包括的に評価し、 も重い刑」の判定方法について、判例は、刑法施 罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきであると 行法 3 条 3 項が「重キ刑ノミニ付キ対照ヲ為ス可 判断した。ただし、それが重い方の罪の刑で処断 シ」と規定していることを根拠にして、各罪の重 する重点的対照主義を是正したものなのか、それ い方の刑種の長期を比較対照して処断刑を選定す とも 2 個の罪を包括して、処断刑を形成したもの る重点的対照主義を採用している ( 最判昭 23 ・ 4 ・ 法学セミナー なのかは、検討の余地がある。 ( ほんだ・みのる ) 8 刑集 2 巻 4 号 307 頁 ) 。例えば、私文書偽造罪 ( 3 2016 / 05 / no. 736 最新判例演習室ーー刑法 裁判所の判断 立命館大学教授本田稔

2. 法学セミナー2016年05月号

刑事訴訟法の思考プロセス 113 ければならない。ただ、②強制手段に当たらな い有形力の行使であっても、何らかの法益を侵 生し又は侵生るおそれがあるのであるから、 状況のいかんをわ宀に言六されるものと るのは当でなく、必要、、急なども 慮した、え、具的状況のもとで当と認めら れる限度において許容される。 以上の判断プロセスと判断基準を示したうえ、最 高裁は、本件の警察官の行為は、 a 「性質上当然に 逮捕その他強制手段にあたるもの」とはできないと し ( ①のあてはめ ) 、 b 任意処分として、許容される 範囲を超えた不相当な行為ということは」できない としています ( ②のあてはめ ) 。判例も、 3 で述べた 思考プロセスに沿って、強制処分該当性を検討し、 本件捜査は任意処分に当たるとして ( a ) 、そのう えで任意処分としての適法性を踏まえて検討してい ることが分かります ( b ) 。下線部②は、任意処分 としての適法性の判断基準で、 197 条 1 項本文にお ける捜査の「目的を達するため必要」といえるかの 判断基準 ( 比例原則 ) といえるでしよう。 問題は、判例がどのような基準で、強制処分該当 性を検討したかです。昭和 51 年決定は、「有形力行 使の有無」というかっての通説の基準 6 をとらず、 下線部①のように判示しました。このうち、 ( ア ) 「個 人の意思を制圧し」、 ( イ ) 「身体、住居、財産等に 制約を加えること」が、判例の示した基準で重要だ とされています。 この判示自体は多くの学説によって支持されてい ますが、とくに、 ( ア ) を中心に、その理解にはや や争いがあります 7 。ここでは、その争いを詳細に みることはできませんが、昭和 51 年決定の ( ア ) ( イ ) 部分を、すべての捜査活動に応用可能な基準として 理解しようとする場合は、通説のように、 ( ア ) を「対 象者の明示又は黙示の意思に反すること」と、 ( イ ) を「法定の厳格な要件・手続によって保護する必要 があるほど重要な権利・利益に対する実質的な侵害 ないし制約」と理解することになります 8 。 ( ア ) に該当しない ( 同意がある ) 場合には、そもそも ( イ ) に該当することはないということから、強制処分該 当性判断については、 ( イ ) ( 以下、「重要な権利・利 益の侵害」とします ) が中心の基準となります。 判例・通説の考えを活用する場合の注意点 平 20 ・ 4 ・ 15 刑集 62 巻 5 号 1398 頁 ) 。同決定は、憲法 を理由に、強制処分該当性を否定しています ( 最決 受忍せざるを得ない場所におけるもの」であること 常、人が他人から容ばう等を観察されること自体は おける被告人の容ばう等のビデオ撮影について、「通 デオ撮影、不特定多数の客が集まるパチンコ店内に 判例は、公道を歩いている被告人の容ばう等のビ よう ) 。 と関連づけるべきかについては、議論はあり得るでし 強制処分該当性を判断する際に、常に憲法 33 条や 35 条 強制処分性は否定されることになります ( もっとも、 説明されます ) への侵入・侵害はないと評価され、 行われないであろうと合理的に期待できる場所などと 想定し得ない場所とか、他者による観察や聴取などが 護されている「私的領域」 ( 通常他者からの観察等を を侵害する可能性はあるものの、憲法 35 条により保 する「みだりに容ばう・姿態を撮影されない自由」 いる者をカメラで撮影する捜査は、憲法 13 条に由来 対する侵害となります。そうすると、公園を歩いて 条、憲法 33 条・ 35 条の保護する重要な権利・利益に 害とは、単なる権利・利益の侵害ではなく、憲法 31 このような説明によれば、重要な権利・利益の侵 と説明されているのです。 保護するほどの「重要な」権利・利益に対する侵害 原則 ( 憲法・刑訴法上の厳格な要件や手続 ) によって うな趣旨説明から、強制処分とは、この両者の原理・ ントロールも原則として必要とされます。以上のよ 33 条・ 35 条 ) により、強制処分には裁判官によるコ すべきことにあります 9 。さらに、令状主義 ( 憲法 自身による、国会を通じた意識的かっ明示的決断を う国民の権利・利益の侵害を許すかについて、国民 強制処分法定主義の趣旨の 1 つは、強制処分とい ちます。 「重要な」権利・利益の侵害に限定する根拠が役立 示されていませんが、この混乱の解決には、通説が 処分と考えてしまうといった混乱です。判例では明 分理解せず、感覚的にプライバシー侵害だから強制 第 1 に、「重要な権利・利益」の具体的意味を十 招くことがあります。 的に判例・通説の基準を活用する場合、やや混乱を 特にプライバシー侵害が問題となる場合に、具体

3. 法学セミナー2016年05月号

応用刑法 I ー総論 097 なる。こうして、未遂犯の処罰根拠は法益侵害の具 体的危険性に求められるので、実行の着手時期も法 益侵害の具体的危険性が発生した時点と解すべきこ とになる ( 実質的客観説 ) 。法益侵害の具体的危険性 とは、既遂に至る客観的危険性を意味する。 判例も、強姦の意図で通行中の女性をダンプカー の運転席に引きずり込む暴行を加え、 5km 離れた地 点において運転席内で姦淫したという事案におい て、「被告人が同女をダンプカーの運転席に引きず り込もうとした段階において既に強姦に至る客観的 な危険性が明らかに認められるから、その時点にお いて強姦行為の着手があったと解するのが相当」で あると判示して、強姦罪の実行の着手を認めており、 既遂に至る客観的危険性に着目して実行の着手を判 断している ( 最決昭 45 ・ 7 ・ 28 刑集 24 巻 7 号 585 頁〔ダ ンプカー強姦事件〕 ) 。 《コラム》 判例学習の注意点 初学者の中には判例の「結論」だけを記憶し ようとする傾向がある。しかし、判例の結論は、 一定の「事案」を前提になされた判断であるこ とを忘れてはならない。ダンプカー強姦事件で は、犯人が複数であったこと、ダンプカーの運 転席が高い位置にあるため被害者が容易に脱出 することが困難であることなどの事情があった からこそ実行の着手が認められたのである。そ こで、判例は「強姦罪においては自動車内に引 : きずり込んだ時点で実行の着手がある」などと 一般化することは誤りである。強姦目的で自動三 : 車内に引きずりこもうとした事案でも実行の着 : 三手が否定された裁判例もある ( 大阪地判平 15 ・ 4 ・ 1 1 判タ 1 126 号 284 頁 ) 。ある判例を学習する際に は、どのような事実関係が前提とされているか をきちんと把握することが重要である。 もっとも、既遂に至る客観的危険性という実質的 観点からの判断のみによると、危険には相当の幅が あることから、判断者如何では処罰範囲が不当に拡 大するおそれもある。そこで、密接性の観点からす る形式的限定にも合理的な理由がある。そこで、判 例実務では、実行の着手の有無は密接性と危険性と いう双方を考慮し、ある行為が当該犯罪の構成要件 該当行為に密接な行為であり、かっ、その行為を開 始した時点で既に当該犯罪の既遂に至る客観的な危 険性があると評価できるときに実行の着手を認めて いる。 [ 2 ] 実行の着手の判断資料 実行の着手の有無を判断する際の判断資料の範囲 については、客観的事情に限定する見解 ( 客観説 ) 、 客観的事情に加え行為者の故意のみを判断資料とす る見解 ( 故意限定説 ) 、客観的事情に加え犯行計画を も判断資料とする見解 ( 計画説 ) が対立している。 この点、判例実務は、伝統的に、客観的事情のみ ならず主観的事情をも考慮するという立場をとって いる。このうち、下級審裁判例の中には計画説を採 用したものも少なくないが ( 例えば、名古屋地判昭 44 ・ 6 ・ 25 判時 589 号 95 頁など ) 、従来、最高裁判例で は計画説を正面から採用するものはなかった。とこ ろが、クロロホルム事件最高裁決定は、計画的 ( 段 階的 ) 犯行の事案にあっては、実行の着手の判断資 料として犯人の計画をも考慮すべきことを最高裁と してはじめて明確に示したものとして注目される。 判例が、実行の着手の有無の判断にあたって行為 の客観面のみならず行為者の主観的事情を考慮する のは、主観面により行為の危険性が異なるからであ る。ある行為のもつ危険性は、行為者がその行為の 次にどのような行為に出ようと考えているか ( 行為 意思 ) を考慮しなければ適切に評価することはでき ない。例えば、 X が拳銃の引き金に指をかけて銃ロ を A に向ける行為であっても、それが脅すつもりか 殺害するつもりかで人の生命に対する危険性は全く 異なるといえる。 また、行為者の計画内容如何によって行為のもっ 危険性が異なることもある。特に、計画的犯行にお いては、構成要件該当行為に至る前の段階で、構成 要件該当行為を確実かっ容易に行うための準備的行 為が行われることが多く、行為者の計画を考慮しな ければ、その準備的行為の危険性を適切に評価する ことはできない。複数の行為を行うという内容の犯 行計画は、複数の行為意思の組み合わせであるから、 行為意思が危険性の判断資料に入るのであるなら ば、このような犯行計画も当然判断資料に加えられ てしかるべきであろう。 計画説に対しては、犯行計画を考慮することによ り実行の着手時期が不当に早くなり妥当でないとい

4. 法学セミナー2016年05月号

014 LAW FORUM 認知症事故、家族責任なし [ ロー一ラ 4 最高裁、監督義務は「総合的に判断」 裁判と争占 法学セミナー 2016 / 05 / no. 736 愛知県大府市で認知症の当時 91 歳の男性が徘徊し 小法廷はまず、「同居の夫婦だからといって、直 て列車にはねられ死亡し、 J R 東海が男性の家族に ちに民法が定める監督義務者に当たるとはいえな 約 720 万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、 い」と述べ、「妻を法定監督義務者とする根拠は見 最高裁第 3 小法廷 ( 岡部喜代子裁判長 ) は 2016 年 3 当たらない」と判断した。一方で、「自ら引き受け 月 1 日、「家族が賠償責任を負うかどうかは、介護 たとみるべき特段の事情がある場合は、『監督義務 の実態を総合考慮して判断すべきだ」との初判断を 者に準ずる者』として責任が問われることがある」 示した。その上で、今回の事故では男性の妻 ( 93 ) と指摘。認知症の人の監督義務者に準じる者に当た と長男 ( 65 ) は監督義務者には当たらず、賠償責任 るかどうかは①介護する人の生活状況②親族関係の は負わないと認定。賠償を命じた 2 審判決を破棄し 有無や濃淡③同居の有無④財産管理への関与など⑤ て J R 東海の請求を棄却した。家族側の逆転勝訴が 日常の問題行動の有無や内容⑥介護の実態 - ーーの 6 確定した。 項目を総合考慮し、客観的状況から判断すべきだと 民法 714 条は、責任能力のない精神障害者らが第 した。その上で、介護の状況などから長男と妻は監 三者に損害を与えた場合、監督義務者が責任を負う 督義務者には当たらないと結論づけた。 と定めている。一方で、監督義務者が義務を怠らな 0 介護家族らは判決を歓迎 かった時は免責されるとしている。認知症高齢者が 増加する中、在宅で介護する家族が賠償を負わない 長男は判決に「大変温かい判断をしていただき、 ケースがあることを示した今回の判決は、介護現場 心より感謝する父も喜んでいると思う」とコメン に大きな影響を与えることになりそうだ。 トし、代理人弁護士も「画期的判決」と評価した。 裁判官 5 人全員一致の意見。ただし、うち 2 人は 高齢化が進み、今回と同じような在宅での「老老介 長男について「監督義務者に準ずる者に当たる」と 護」のケースは増えるとみられる。そうしたケース 多数意見とは異なる認定をした上で、介護の状況な で監督責任を認めなかった今回の判決を、介護に携 どを検討して「監督義務は怠らなかったため、責任 わる関係者は「現場の実情に見合った判決」だとし は免れる」と同じ結論を導いた。 て歓迎している。認知症の家族を支える団体の代表 も判決後、「家族はミスをしたら全部責任があると ・ 6 項目の考慮要素を提示 言われたような気持ちだったが、最高裁判決で家族 事故は 07 年 12 月に発生。男性は要介護度 4 と診断 の苦労や努力が理解された」と喜んだ。 され、自宅から徘徊して駅の線路に入り込み、列車 国の政策や介護現場では、「認知症でも安心して にはねられた。男性には 00 年ごろから認知症の症状 外出できる地域づくり」の理念が広まりつつある。 が出始め、別居中の長男を中心に介護の計画を決め 家族に監督責任を認める傾向が定着すれば、家族ら た。介護は主に妻が当たったが、妻がまどろんだ隙 の介護を萎縮させることにつながりかねず、判決は に男性は外出した。 J R 東海は「事故で列車に遅れ 政策を後押ししているといえる。ただし、判決はあ が出た」として家族を相手に提訴。名古屋地裁は 13 くまで責任を負うかどうかはケースパイケースだと 年 8 月、長男を監督義務者に準ずると判断し、妻の しており、今後も家族が責任を負う例は出ることに 責任も認めて 2 人に全額の支払いを命じた。これに なる。被害を受けた側をどう救済するかという課題 対し名古屋高裁は 14 年 4 月、長男の監督義務は否定 も残る。専門家は「熱心に介護に当たる家族が救わ したが、妻には「夫婦としての協力扶助義務がある」 れるためにも、公的な制度づくりが必要だ」と指摘 として約 360 万円の賠償を命じた。 しており、引き続き議論が必要だ。 0 三 ( I )

5. 法学セミナー2016年05月号

応用刑法 I ー総論 1 01 と ( 重 ) 過失致死罪 ( 211 条ないし 210 条 ) が成立し、 後者は前者に包括されることになる。 しかし、既遂罪の構成要件と未遂罪の構成要件と は、既遂結果が発生したか否かという点だけが異な り、それ以外の面、すなわち、構成要件該当行為 ( 実 行行為 ) の点では両者の構成要件は異ならない。既 遂罪か未遂罪かは、事後的に判断し、構成要件該当 行為から既遂結果が発生した場合が既遂罪で、既遂 結果が発生しなかった場合 ( 因果関係が認められな い場合も含む ) が未遂罪である。これに対し、故意 は ( 結果が発生する前の ) 行為時の行為者の認識の 問題であるから、認識・予見の対象は、実行行為を 行うこと、その実行行為には結果を発生させる危険 があること、したがって、そのような実行行為を行 えば結果が発生することになるであろうということ である。そのような認識がなければ故意があるとは いえないのであって、それは既遂罪であろうが未遂 罪であろうが同じである。既遂罪か未遂罪かは行為 後の判断であって、行為時の故意を既遂の故意と未 遂の故意に分断することは妥当ではない。 このように考えると、【間題 2 】では、準備的行 為 ( 第 1 行為 ) 時に、当該行為によって結果を惹起 するという認識が乙に認められるかが問題となる。 そして、それは、乙の頭の中で結果を惹起するため にどのような行為を行おうと考えていたかを構成要 件の観点から評価し、それが 1 個の行為から結果を 惹起しようとしていたと評価されるのか、 2 個の ( 2 段階の ) 行為から結果を惹起しようとしていたと評 価されるのかを検討することによって判断される。 そこで、問題となるのは、乙が頭の中に描いてい た第 1 行為と第 2 行為に一体性が認められるか否か である。もし、こで一体性を否定すると、第 2 行 為によって結果を発生させると考えている以上、現 実に行った第 1 行為の時点で殺人罪の故意を認める ことができない。そのため、【間題 2 】の乙には暴 行ないし傷害の故意しか認められないので、傷害致 死罪が成立するにとどまる。 これに対し、前述のクロロホルム最高裁決定のよ うに、必要不可欠性、遂行容易性、時間的・場所的 近接性が認められることを根拠として 1 個の行為で あると評価すると、殺人罪の故意を認めることがで きる。なぜなら、行為者が認識していた事実は、構 成要件的に評価すれば、「クロロホルムを吸引させ て海中に転落させる行為」により殺害するという 1 個の構成要件該当事実であり、そのような行為から 結果を発生させるという認識が、現実に V にクロロ ホルムを吸引させるという準備的行為の開始時点で 存在したといえるからである。 [ 2 ] 因果関係の錯誤 準備的行為の当時、乙に殺人罪の故意があるとし ても、その後、行為者の認識とは異なる因果経過を たどって結果が発生しているので因果関係の錯誤が 問題となる。 因果関係の錯誤は、具体的事実の錯誤の 1 類型で あり、判例実務が採用する法定的符合説によれば、 認識した因果経過と現実の因果経過との間に齟齬 ( ズレ ) があっても両者が法的因果関係 ( 危険の現実 化 ) の範囲内で一致するのであれば、その齟齬は構 成要件的には重要でないので故意は阻却されないと される。 【間題 2 】において、乙の準備的行為 ( クロロホル ム吸引行為 ) と V の死亡の間には明らかに因果関係 が認められるし、乙が認識していた因果経過 (V に クロロホルムを吸引させた上で海中に転落させるとい う一連の行為によって死亡させる ) が現実に存在する と仮定した場合に法的因果関係が認められるので故 意は阻却されない。なぜなら、乙は、現実の因果経 過を認識していなくても、それと同じ構成要件的評 価を受ける因果経過を認識している以上、反対動機 の形成が可能であるから、発生した結果について故 意責任を問うことができるからである。 クロロホルム事件最高裁決定は、乙の故意責任に ついて、「実行犯 3 名は、クロロホルムを吸引させ て V を失神させた上自動車ごと海中に転落させると いう一連の殺人行為に着手して、その目的を遂げた のであるから、たとえ、実行犯 3 名の認識と異なり、 第 2 行為の前の時点で V が第 1 行為により死亡して いたとしても、殺人の故意に欠けるところはなく、 実行犯 3 名については殺人既遂の共同正犯が成立す るものと認められる」と判示し ( 前掲・最決平 16 ・ 3 ・ 22 ) 、因果関係の錯誤に直接言及はしていない。し かし、原判決は、クロロホルムを吸引させる行為が 殺人罪の実行行為に当たると認定する際、「なお、 その後、被害者を海中に転落させる殺害行為に及ん でいるが、すでにクロロホルムを吸引させる行為に より死亡していたとしても、それはすでに実行行為

6. 法学セミナー2016年05月号

LAW JO [ 飛、 A しロー・ジャーナル 006 れる犯罪事実の事案が重大であり、 これを処罰しな 5 司法と行政の距離 ければ著しく正義と衡平に反すると認められる場合 「善処」を要請する文書の提出 には、裁判所が縮小認定を行う義務を負うとしてい る ( 上記大法院 2009 年判決 ) 。このような考え方は、 本件では、韓国外交部から法務部に渡された文書 この文書 従前から採られてきた ( 大法院 1997 年 2 月 14 日判決な が、検察を通じて裁判所に提出された 5 は、日韓関係を考慮し「善処」を要請するものであ ど多数 ) 。たとえば、検察が殺人罪のみを公訴状に り、判決宣告前日に届けられた。 2015 年 12 月 17 日付 記載して起訴し、公訴状変更を行わなかったため、 の KBS 報道によれば、この文書は「量刑の参考資料」 傷害致死の認定がなされすに無罪が言い渡されるこ ともある ( 春川地裁 2015 年 7 月 3 日判決 ) 。名誉毀損 として提出されたという。そして、本件裁判所は、 罪についても、虚偽事実による名誉毀損 ( 刑法 307 判決の宣告に先立ち、この文書を朗読した。このこ 条 2 項 ) で訴追され、審理途中で当該事実の虚偽性 とは、司法の独立に疑問を抱かせる。 が否定された事案で、事実の摘示による名誉毀損 ( 同 韓国では、政治的判断が司法に持ち込まれること 条 1 項 ) の成立を認定しなかった原審の判断が肯定 がある。過去には、 2006 年の米韓 FTA を巡り、通 商部がアメリカから受け取った文書を裁判所に提出 されている ( 大法院 2008 年 10 月 9 日判決 ) 。 ちなみに、上記大法院 2009 年 5 月 14 日判決は、縮 したこともあった ( ソウル行政裁判所 2012 年 4 月 12 日 小認定を行うべきであるとした。この事案は、婚姻 判決 ) 。盧武鉉政権下では、与党が国会で少数となり、 関係にある者の手足を縛り、殴った上でべランダか 議会での解決が困難になった首都移転問題が憲法裁 ら突き落として殺害したという殺人事件である被 判所に委ねられた ( 憲法裁判所 2004 年 10 月 21 日決定 ) 。 韓国の司法と行政の距離感は、 ( 1 ) 権威主義体制期に 告人は、被害者を殴り、両手足を縛った事実を認め つつ、殺害の故意ゃべランダから突き落とした事実 司法が政権の手足として濫用され、両者の接近に抵 抗感が少ないことや、 ( 2 ) 民主化後の司法積極主義へ を否認していた。原審の光州高裁は、殺人について の転換なども影響していると思われる 6 合理的な疑いがない程度の証明が行われていないと した上で、傷害や暴行等の縮小認定を行わすに無罪 もっとも、本件では、「善処」しなくても無罪判 決を言い渡すことができた ( 3 ・ 4 参照 ) 。提出され を言い渡した ( 光州高裁 2006 年 12 月 29 日判決 ) 。これ た文書は事実認定に影響していないと思われる。加 に対して、大法院は、上記テーゼを確認した上で、 ( 1 ) 被告人が認めている事実を有罪と認定しても、そ 藤氏は、大統領府が追い詰められていた ( 本件が有 の防禦権行使に実質的な不利益をもたらすおそれは 罪の場合には国際社会から、無罪の場合には国内反 日勢力から批判を受ける ) と指摘した上で、文書は ないこと、 ( 2 ) 婚姻関係にあって互いに保護する義務 大統領府が裁判所に提出したものであると解してい がある被害者に対する犯行であり、縮小認定される る。そして、既に無罪判決を書き上げ、世論や大統 犯罪事実が軽微であるとは言えないことを挙げた。 領府を敵に回す怖さを感じていた裁判官の許へタイ そして、「検察官による公訴状変更が行われなかっ たという理由のみで他の犯罪事実を処罰しないこと ミング良く文書が届いたため、読み上げたのではな は、適正手続による実体的真実の発見という刑事訴 いかと推測している 訟の目的に照らし、著しく正義と衡平に反する」と 6 韓国内の評価と影響 8 ) 述べ、原審無罪判決を破棄し、事件を原審裁判所へ 高麗大・洪榮起教授は、韓国の法学者は本稿で挙 差し戻している。 げた諸判例を周知しているため、本件で有罪判決が 本件は、これらの判例を踏まえ、公訴状記載の特 宣告されることはないと考えていたと言う。また、 別法上の名誉毀損 ( 情報通信網法法 70 条 2 項 ) と、縮 検察も同様であるため、無理な起訴であると承知し 小認定によって認め得る刑法上の名誉毀損 ( 刑法 ていたのではないかと言う。同大学校の河泰勲教授 307 条 2 項 ) を比較し、本件記事の作成目的などを は、本件は検察への政治的影響が明確に示された事 考慮した結果、刑法 307 条 2 項による処罰をしなく 例であるとし、国際的な恥であると言う。 ても著しく正義と衡平に反しないと判断したものと このような見解は、当初から指摘されていた。本 思われる。 件記事公表直後の 2014 年 8 月 20 日には、ハンギョレ 0 二 =

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114 LAW CLASS 13 条に由来する「みだりに容ばう・姿態を撮影され ない自由」 ( 最大判昭 44 ・ 12 ・ 24 刑集 23 巻 12 号 1625 頁 ) が存在することを前提に、公道やパチンコ店内とい った、「通常他者から容貌等の観察自体を受忍せざ るを得ない場所」では、「みだりに容ばう・姿態を 撮影されない自由」は認められるものの、法定の厳 格な要件・手続により保護されるべきプライバシー は存在しないと判断したものといえまず 0 さらに、最決平 21 ・ 9 ・ 28 刑集 63 巻 7 号 868 頁は、 荷送り人の依頼に基づく宅配便業者の運送中の荷物 に対して、その外部から X 線を照射して内容物を観 察した事例について、「その射影によって荷物の内 容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、 内容物によっては品目等を相当程度具体的に特定す ることも可能」であることを理由に、「荷送人や荷 受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害 する」として強制処分該当性を認めています。この 判断は、同じ「観察」に関する平成 20 年決定とは異 なり、本件の荷物のような梱包物には、憲法 35 条に より保護される私的領域性が認められることを踏ま えたものといえます。このように考えると、プライ バシー侵害については、憲法 35 条による保護される 私的領域への侵入・侵害といえるかが、強制処分該 当性判断を左右することになります。 第 2 の混乱は、強制処分該当性の判断プロセスに 関する理解です。ときおり、「本件では、現実には 被対象者のプライバシーを大きく侵害していないの であるから、任意処分と評価される」という主張・ 答案に出会います。しかし、このような結論は、重 要な権利・利益の侵害の有無という判断は、「当該 処分は、その性質上、重要な権利・利益を侵害する ものか」という「一般的・類型的判断」だというこ とを十分理解していないと評価されることになりま す。すでに述べたように、強制処分については事前 規制型の規律が及ぶことになります。事前規制の対 象なのですから、当該処分の ( 事後的な ) 結果を考 慮することはできす、「その性質上、重要な権利・ 利益を侵害する処分」ということになるでしよう。 このような「一般的・類型的判断」と、「具体的に どの程度対象者の権利・利益を侵害したか」という 個別具体的判断は異なります ( 次回以降で述べるよ うに、後者は、任意処分の適法性判断で用いられます ) 。 もっとも、最高裁が、このような論理を、あらゆ る場面で一貫して採用しているかについては疑問が 残り、さらに検討が必要です ll 。もっとも、平成 21 年決定は、「その射影によって荷物の内容物の形状 や材質をうかがい知ることができる上、内容物によ ってはその品目等を相当程度具体的に特定すること も可能」であることを強制処分該当性の理由として います。本件の X 線検査の性質から、一般的・類型 的に、私的領域へ侵入するものかを検討していると も読めます。さらに、上述の GPS 捜査については、 私有地など「プライバシー保護の合理的期待が高い 空間に所在する対象車両の位置情報を取得すること が当然にあり得るというべき」にの点で、任意処分 である尾行・張り込みと異なる ) などとして、強制処 分該当性を認めた下級審判例もあります 12 。このよ うに近年の判例・裁判例は、上述の論理をとりつつ あると評価することも可能でしよう。 判例・通説の考えに対する批判 以上の判例・通説の考えに対しては、その基準に 不明確な部分が残るのではないかといった批判もあ り得ます。そこで、すべての権利・利益の侵害を強 制処分とすべきなどの主張もなされています 13 。す べての権利・利益の侵害を強制処分と評価すべきと する見解については、現実的ではないなどの批判も あり得ます。たしかに、この見解だと、すべての権 利・利益侵害について、強制処分法定主義により内 容・要件・手続を刑訴法で規定すべきことになりま す。もっとも、令状主義は、すべての強制処分に適 用されるわけではありません ( 現行法では法 221 条を 参照 ) 14 ) 。そうすると、侵害対象となる権利・利益の 重要性によって、法定の要件や ( 令状を必要とする かなど ) 手続の厳格さが異なることになり、重要で ない権利・利益の侵害についてはある程度包括的・ 抽象的な規定で足りると考えることも可能でしよう。 判例・通説の見解によれば、重要でない権利・利 益の侵害を含む任意処分については、裁判所の事後 的なケースパイケースの審査が及ぶことになりま す。このような審査などが有効な規制となりうるか との批判があるわけですが、上述の見解においても、 このような処分については、一定程度包括的・抽象 的な規律とそれに基づく審査がなされることになり ます。そうすると、説明のプロセスは異なるものの、 0

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059 今、なぜロースクールで学ぶのか 下さる実務家教員の先生がロースクールでは人気が あったように思います。たしかに、試験対策とか実 務の基礎というところでそういった要素はありま す。ただ、今感じるのは、ロースクールの学生とい う勉強に集中できるときに、学者の先生から基礎理 論とか問題提起、それから最新の学説状況といった ものを深く掘り下げて学べたということは、実は実 毛 ! 務に出てから役に立っていると感じます。私の業務 のなかでは、行政の分野で特にそれを感じることが ありまして、行政訴訟で、理論面から判例を乗り越 者の方がいらっしやった場面を設定されていたりし える立論をしたりとか、あるいは法制上の問題を提 ており、そういう設例を多く解いたことは、今の実 起して立法に影響を与えようというときに、ロース 務でも役立っているといえます。 クールで学んだ基礎理論とか法の観念といったもの 小塩私は法学部出身ではないですが、おそらく法 の裏付けは非常に重要になると感じています。 学部の授業では、基本書を用いて、法の基礎を学ぶ 重政ロースクールに入りますと、未修者コースで ことが多いと思います。もしかすると、法学部の授 すと、 1 年目に法律の基礎理論を勉強したうえで、 業の内容が、実務に出てそのまま活きることはそれ 2 年目からは既修者コースと合流して主に問題演習 ほど多くないのかもしれません。もちろん、基礎的 が中心の講義となってきます。問題演習のなかにも、 な内容は非常に重要であることは間違いありませ 司法試験に直結する民事系、刑事系、あるいは公法 ん。学生のみなさんからすると、弁護士であれば何 系の講義というものがありますが、その他に、慶應 でも知っていると思われるかもしれませんが、まっ のロースクールではテーマ演習といいまして、直接 たくそんなことはありません。勉強したことがない 試験には関係ないのですが、実務に入って役に立つ 法律もたくさんありますし、見たこともない条例も と思われる各自が興味をもった内容について深く掘 多くあります。分からないことと出会った場合は、 り下げて勉強していこうという演習がありました。 その都度調べます。その際の調べ方とか、だいたい 私は、ウィーン売買条約に関する判決や仲裁判断を このような感じだろうなと予想ができることが、い 読むテーマ演習をとっておりまして、これは、ウイ まみなさんが勉強していることで一番重要になるこ ーン売買条約という国際条約に関する英文の判例や とではないかと思います。法学部やロースクールで、 仲裁判断例のデータベースから自分で選択した判決 司法試験と関係のない授業を疎かにすることなく、 や仲裁判断を日本語に翻訳した上で、それを週 1 回 しつかりと勉強することも、必ず仕事に活きてくる 集まって発表するというものでした。実務に就いて と思います。幅広い能力を身につける、考え方の素 しばらく私はインハウス業務をやっていたのですけ 地をつけるということが一番重要ではないかなと私 れども、その際に、英文の契約書や利用規約を翻訳 は思います。 してそれを日本語に直して日本語の業務に馴染ませ 幅広い弁護士の仕事の世界 るという仕事がありまして、この演習で英語の法律 や契約関係独特の言い回しに馴染んだことが役に立 ちました。 小塩それでは、実際に、どのような業務をしてる 堀実務上の相談事というのは、混沌としていて何 かというところを、もう少し掘り下げて説明してい が法的に問題なのかということがわからないのです きましよう。 毛受私の事務所では、訴訟が多いので、少なくと けど、ロースクールの勉強はソクラテス・メソッド といって双方向の授業が行われるので、問題の抽出、 も 2 日に 1 回くらいは裁判所に行って裁判をしま す。実際の裁判では、すぐに証人尋問をするわけで 何が法的な問題なのかということを重視した授業が はなく、お互いの弁護士が、主張を記載した書面を なされていました。また、設例についても先生方が 事前に裁判所に出して進めていくということになり とても工夫されていて、会話形式であったり、相談 Extra Articles ( 阜物当大学程よ

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LAW CLASS みが及ぶことになります ( 強制処分については、①② の両者が及ぶことになります ) 。つまり、強制処分に 該当しない任意処分については、捜査機関による現 場の判断と裁量によって実行可能ですが、その「目 的を達するため必要な」捜査と認められる限度で ( a 捜査の目的を達成するために必要で、 b 必要であると して、その目的の達成のためにとられた手段の権利制 約の大きさがその目的達成の必要性と均衡がとれてい る場合 ) 、実行可能とされています ( いわゆる「比例 原則」による規律です。次回以降、詳細に扱います ) 。 強制処分とは異なり、事前に示された明文規定によ る要件を満たすとか手続を経る必要はない点で、事 後規制型の規律といえます ( 捜査の違法性などが問 題となった場合にはじめて、裁判所の事後的な審査の 対象となるわけです ) 。 捜査法の思考プロセス 憲法と刑訴法は、特定の犯罪について被疑者を発 見・確保し、証拠を収集・保全するという正確な事 実認定のための ( 準備 ) 活動である捜査について、そ の規律方法を区分していることが分かりました。そ して、その区分は、個別の捜査の違法性が問題となる 場合に、判断の根拠条文や判断基準を区分すること にもなります。この思考プロセスは非常に重要です。 たとえば、知人の弁護士さんから、「自分の依頼人 ( 被告人 ) の車両に、警察が GPS 装置 ( 位置情報取得 装置 ) を取り付けて、 3 か月間その位置情報を収集 していた。この捜査の違法性を主張したいと思うが、 どう主張すべきか ? 」との相談が、私に寄せられた としましよう。その際、私が頭に描くのは上述の思 考プロセスです。ます、この GPS を用いた捜査が強 制処分に該当するかを判断しなければ、関連条文や 判断基準を導くことができないので、どのように違 法性を主張するかが組み立てられません。そこで、 後述するように、この GPS を用いた捜査の性質など を踏まえて、強制処分に該当するかを考えます。も ちろん、この際に、すでにアメリカでは GPS 捜査に 令状が必要とされているとか、日本の学説でも議論 され論文が出されているなどの事前に獲得している 情報や知識も用います 5 。しかし、これらの情報や 知識も、上述の思考プロセスのうえで活用されてい るのです。 このような未知の問題に出会ったときこそ、思考 プロセスが活躍するときなのです。学説や判例も、 多くの場合、この共有財産というべき思考プロセス を踏まえ、様々な主張をぶつけ合って、自身の判断・ 選択が妥当だと述べているわけです。みなさんにと って未知の問題である、ゼミのテーマや試験の問題 についても、この思考プロセスに沿って考えること が 1 つの方法となります。もちろん、その思考プロ セス自体を見直さなければならないときもいずれく るでしよう ( その契機や対案を示すことも学説の 1 つ の役割でしよう ) 。 この捜査に関する思考プロセスで重要なポイント の 1 つは、強制処分に該当するかの判断基準だとい うことになります。ところが、刑訴法をみても「強 制の処分」の定義は示されていません。そこで、「強 制の処分」とはなにかという問題をめぐって、学説 や実務では激しい議論がなされてきたわけです。 強制処分と任意処分の区分 ー判例・通説の考え方 強制処分に該当するか ( 強制処分該当性 ) につい ては、判例の論理をどのように理解・評価するかで 一定の対立があります。強制処分該当性に関するリ ーディング・ケースとされる最決昭和 51 年 3 月 16 日 刑集 30 巻 2 号 187 頁は、物損事故を起こし、酒に酔 っていることが疑われる x を警察署に任意同行し、 呼気検査に応じるよう説得していたところ、急に X がイスから立ち上がり出入り口のほうへ小走りで行 きかけたので、警察官が X の左斜め前に近寄り、そ の手首をつかんだ事例について、以下のような判断 を示しています。 捜査において強制手段を用いることは、法律の 根拠規定がある場合に限り許容されるものであ る。しかしながら、ここにいう強制手段とは、 有形力の行使を伴う手段を意味するものではな く、①個人の意思を制圧し、身体、住居、財産 等に制約を加えて、強制的に捜査目的を実現す る行為など、特別の根拠規定がなければ許容す ることが相当でない手段を意味するものであっ て、右の程度に至らない有形力の行使は、任意 処分においても許容される場合があるといわな

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事実の概要 121 旨 ( 保証免責条項 ) が定められていた。 XI 信用金庫及び X2 銀行は、 Z から融資の申込みを 警視庁は、平成 22 年 12 月、国交省関東地方整備局 受け、東京信用保証協会 ( Y ) に対して、それらの 等に対し、 Z は、暴力団員が支配する会社であると 信用保証を依頼した後、融資を実行、 Y と X らとの して、公共工事の指名業者から排除するよう求めた。 間には、当該融資 ( 貸付 ) にかかる X に対する Z ら その後、 Z らが貸付債務を履行せず、 x らは、 Y に ( 主債務者 ) の債務を、 Y が連帯して保証する旨の 対し、 ( 本件 ) 各保証契約に基づき、保証債務の履 本件各保証契約が締結された。 Y と XI ・ X2 は、昭 行 ( 残債務の支払 ) を求めた。 Y は、主債務者が反 和 41 年 8 月、約定書と題する書面により信用保証に 社である場合、保証契約は締結しないところ、それ 関する基本契約を締結した。本件基本契約には、 X を知らずに同契約を締結したものであり、同契約は ( 金融機関 ) が「保証契約に違反したとき」は、 Y ( 協 要素の錯誤により無効であり、また、保証免責条項 会 ) は、 X ( 金融機関 ) に対する保証債務の履行に によっても保証債務の履行を免れる、と主張し、争 つき、その全部又は一部の責めを免れるものとする っている。 [ ①最三小判平 28 ・ 1 ・ 12 金判 1483 号 19 頁、②同・金判 1483 号 21 頁。ともに、裁判所 HP ] ている協会・金融機関の間の保証契約にかかわっ ( 1 ) 錯誤無効の成否、 ( 2 ) 付随義務違反の効果 て、融資 ( 信用保証 ) の実施後、主債務者が暴力 団等、反社であることが判明した場合に、当該保 ( 1 ) 保証契約上、「主債務者が反社会的勢力でない 証契約の法的効力はどうなるか、具体的に、協会 ・・・が当然に同契約の内容となっているとい は保証にかかる意思表示の錯誤を主張して、契約 うことはでき」ず、「本件基本契約及び本件各保 を無効にできるか。下級審において、肯定例 ( ① 証契約等に」当事者が想定できた事後判明の「場 事件第 1 審、原審ほか ) 、否定例 ( ②事件第 1 審、 合の取扱いについての定めが置かれていないこと 原審ほか ) が分かれていたところ、本件各最高裁 珮からすると」主債務者が反社会的勢力であること は、保証契約の ( 本来的 ) 性質論の観点及び約定 が「事後的に判明した場合に本件各保証契約の効 書及び個々の契約書 ( = 信用保証書 ) 等からする 力を否定することまでを」当事者「双方が前提と 当事者の法律行為の解釈論の観点から、これを否 していたとはいえない」。 < ①②事件共通 > 定した。協会の信用保証には、共通の約定書が利 ( 2 ) 「 X 及び Y は、本件基本契約上の付随義務とし 用されているので ( 金法 2005 ・ 132 ) 、この点にか て、個々の保証契約を締結して融資を実行するに かる本件最高裁の解釈論は、 ( 約定書を改正しな 先立ち、相互に主債務者が反社会的勢力であるか い限り ) 他の信用保証契約にも等しく及ぶ判断と 否かについてその時点において一般的に行われて なる。 いる調査方法等に鑑みて相当と認められる調査を ( 2 脇会の約定書 ( 例 11 条 1 号 ~ 3 号 ) には、保証 すべき義務を負」い、「 X がこの義務に違反して、 人 ( 協会 ) の保証履行責任を免除する、 3 つの保 証免責事由 ( 旧債振替、保証契約違反、故意重過 その結果・・・・・・保証契約が締結された場合には、本 件免責条項にいう X が「保証契約に違反したとき』 失による取立不能 ) が定められている。本判決は、 契約に先だって、普通レベル ( 相当 ) の反社調査 に当たると解するのが相当であ」り、その場合、 Y は「本件各保証契約に基づく保証債務の履行の をする基本契約上の付随義務が双方に生じている 責めを免れるというべきであ」り、「その免責の とし、金融機関の側が当該付随義務に違反するこ 範囲は、上記の点についての Y の調査状況等も勘 とは、保証契約違反 ( 例 11 条 2 号 ) と評価される 案して定められるのが相当である」。 < ②事件 > こととなり、その場合には、保証免責 ( 保証債務 消滅・最二小判平 9 ・ 10 ・ 31 参照 ) の法的効果が 信用保証協会は、中小企業者への金融機関から 生じる、という規範を打ち立てた。全国信用保証 の貸付金の債務を保証することを主たる業務とす 協会連合会「約定書例の解説と解釈指針」によれ る。中小企業が借入金を返済できなくなったとき、 ば、これらの免責は、「金融機関の債務不履行に 協会が同企業に代わりその金額を金融機関に支払 よる損害に相当する部分につき責任を問う」趣旨 い ( 代位弁済 ) 、それによる求償権を、その後、 の条項であるとされており ( 金法 1818 ・ 17 、 28 、 41 ) 、本判決も、協会側の調査 " も " 不十分であっ 中小企業に行使する ( 民 459 条。なお、協会は公 たときには、民法 418 条による調整がありうるこ 保険でリスクを一定外部化。中小企業信用保険法 とを示唆しながら、付随義務違反と相当因果関係 3 条参照。また、約定書で求償保証人も確保 ) 。 のある損害に相当する部分の保証債務消滅を考え ( 1 ) 政府反社指針 ( 平成 19 年 6 月 ) を受け、それぞ 法学セミナー ( どき・たかひろ ) れ監督指針レベルでも反社取引の遮断を要請され るようである。 2016 / 05 / n0736 主債務者が反社会的勢力と判明した保証契約の効力と同・付随義務違反の効果 最新判例演習室ーー商法 裁判所の判断 中京大学教授土岐孝宏