050 各人の状況を把握するというテロ対策自体が、個人 の人格的自律に直接的な侵害を与えるというより も、イスラム・コミュニティ全体に対する差別的な 権力の行使となっているということである [ 難波 2015 : 31 ] 。これを、従来の監視社会論でしばしばイ メージされてきた「高度に洗練された統治技術」と 呼ぶことは憚られる。このような監視の犠牲者は、 多くの場合旧植民地出身者とその子孫、難民や移民、 あるいは精神障害者といったマイノリティの被差別 集団だからである。 もうーっの例は、 2016 年 8 月に発覚した「大分県 警隠しカメラ事件」である。これは、同 7 月に実施 された参議院選挙に大分選挙区から立候補していた 民進党の現職議員らを支援する労働団体の事務所が 入居する同県別府市の建物の敷地内に、同 6 月に同 県警別府署員が選挙期間中に隠しカメラを設置し、 この建物玄関と駐車場の人の出入りなどを録画して いたという事案である。カメラ設置とその場所は同 署が判断・決定したという。最終的に同県警は同署 幹部ら警察官 4 人を建造物侵入容疑で書類送検し、 関係者も処分した。 ところで、本件で捜査に当たっていたのは公安警 察ではなく、刑事事件の捜査畑の警察官である。各 種報道によれば、ある県警幹部は「この警察官は選 挙捜査で功を焦ったのではないか」と述べ、県警も 労組に対する継続的な監視ではないと説明してい る。おそらくその通りであろう。その意味で本件は、 公安警察による野党監視の代表例としてしばしば挙 げられる神奈川県警公安一課による日本共産党幹部 自宅の盗聴事件 ( 1985 ~ 86 年 ) とは、その性格が異 なる。しかし、まさにその点、すなわち本件が公安 警察ではない、刑事警察による安易かっ恣意的な監 視活動である点に危惧を覚えるのである。 なお、本件に関連して警察庁は同 8 月 26 日付で「捜 査用カメラの適正な使用の徹底について」という通 達を発し、ビデオカメラによる撮影は「必要な範囲」 と「相当な方法」であれば「任意捜査として許され る」との判断を示した。このような捜査方法には憲 法が要請する令状主義に照らして重大な疑義がある ものの、しかし現実にはかなり日常化しているので はないかという懸念は拭えない。監視の目的は、ま すます多様化・一般化しているのである。 「手段」としての監視から「目的」としての 監視へ : 近代国家の変容 ? このように、警察の役割として公共の安全維持と 同じくらい個人の安全の確保への関与を強調し、さ らには社会的紐帯の形成維持という役割、はては教 育面への関与まで求める動きがあるのが、監視社会 論から見た現在の日本警察の特徴である。そこに、 2016 年の刑事訴訟法改正による警察権限の大幅な拡 大が重なる。それと並行して「マイナンバー : 気楽 に活用して『得』しよう : 監視社会到来との批判も あるが真面目な国民にはプラス」 ( 『月刊テーミス』 24 巻 12 号〔 2015 年〕 3 31 頁 ) という粗雑な言説が、 粗雑であるがゆえに社会に通用し、その監視社会化 を促す世論形成に貢献する。そして、こうした警察 権限の拡大をともなう監視社会化の傾向は、 2020 年 の東京五輪・パラリンピックに向けて今後一層強ま ることが予想される。しかも、 こうして強化された 監視は、おそらく五輪後もそのまま残存するのであ る [ ライアン・田島 2104 : 139 ] 。いったん進行し た監視社会化の動きが逆行することはまずありえな いし、政府もそのようなことは毛頭考えていない。 もちろん、このような動きは日本特有ではない。 実際、北米や西ヨーロッパでは大衆がカメラを受け 入れるどころか要求さえしており、監視カメラが無 かったらなせカメラがないんだと、「カメラを設置 する権利」がロにされることもあるという [ ライア ン・田島 2014 : 135 ] 。監視カメラの犯罪「抑止」 力は相当疑わしいにもかかわらず、である [ 石川 ( 編 ) 2010 : 101 ー 102. 寺中誠発言 ] 4 ) 。そこには、ライア ンが言うように、メディアがテクノロジー信仰を助 長しているという事情もあるだろう [ ライアン・田 島 2014 : 136 ] が、より深層の部分で市民が監視の 受動的な客体にとどまらず、能動的に客体たらんと する傾向がみられること、さらに市民が監視主体の 側に組み込まれる動きも並行して進行しているとい える。 ところで、以上のような現下の監視社会化とそれ にともなう警察の役割拡大の一部は、従来から「警 察の民衆化」および「民衆の警察化」とも呼ばれ、 それ自体はとくに新しい傾向ではない 5 ) 。同様に ポリツアイ学 ( ポリス学 ) の伝統を有するヨーロッ パでも、歴史的に警察の役割は多様であった。しか
022 うな社会が実現することを望み、自らも活動を行っ ている。このような市民の活動は、表現の自由によ って保障されるだけでなく、それ自体が個人の幸福 追求権の一環であるということができるものと考え る。これは、表現の自由が、自己実現と自己統治の 価値を併せ持っ ( 芦部信喜『憲法学Ⅲ〔増補版〕』〔有 斐閣、 2000 年〕 248 頁 ) と指摘されているのと通ずる ところがあるものと考えている。 そして、このような市民の活動は他者とのコミュ ニケーションが不可欠であり、このコミュニケーシ ョン過程が保障されることが必要である。他者との 意見交換なしには、個人の人格の発展も民主社会に おける意思決定も行うことはできないからである。 ところで、このような市民の活動は、公権力、な かんすく警察によって、その活動を監視されること を拒否する。警察が監視を行うということは、市民 活動を敵視していることの現れであり、この監視は、 市民を活動から遠ざける効果をもたらす。監視は、 コミュニケーション過程を破壊するものに他ならな い。つまり、警察の監視活動が行われれば、市民の 活動に対して極めて強い萎縮効果が働き、結果的に 市民活動の自由を行使することが不可能となってし まうからである。 このような理由から、「個人に関する情報を承諾 なくみだりに収集等されない自由」が憲法上 ( 13 条 と 21 条によって ) 保障されているのだと理解している。 ( 3 ) そして、このような個人に関する情報には、 私事性や秘匿性が高くないものや、すでに公開され た情報も含められる。なぜなら、これらも個人に関 する情報に他ならないし、これらの情報を集積し、 結合することによって、個人の色分けが可能になる からである。 ( 4 ) 本件において、当事者は、警察に情報収集等 されることによって、この自由を侵害されたもので ある。 3 違法性 [ 1 ] ところで、当事者の抗議を受けた警察は、情 報収集等を「通常行われている警察業務の一環であ る」と回答してきた。また、本件が国会で取り上げ られた際、政府参考人として出席した警察庁警備局 長は、次のような答弁を行っている。 「一般に警察は、管内における各種事業等に伴い 生じ得るトラブルの可能性につきまして、・・・ ( 略 ) ・・・公共の安全と秩序の維持の観点から関心を有して おりまして、そういう意味で、必要に応じて関係事 業者と意見交換を行っております。そういうことが 通常行っている警察の業務の一環だということでこ ざいます。」 ( 2015 年 6 月 4 日の参議院内閣委員会の議 事録 ) すなわち、大垣警察が行った情報収集も情報提供 も、「公共の安全と秩序の維持」という「通常行っ ている警察業務の一環」であり、正当行為であると 主張するものである。 ところで、警察の行う情報収集等は、警察法 2 条 1 項を根拠に、任意手段による限り幅広く許される と判断する判例が多い ( 前述のムスリム違法調査事件 など ) 。しかし、だからといって無制限に許される ものではなく、同条 2 項 ( 「その責務の遂行に当っては、 不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲 法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等そ の権限を濫用することがあってはならない。」 ) によっ て制約を受けるというべきである。具体的には、情 報収集等の目的や必要性、緊急性、手段の相当性な どによって適法性が判断されることになる。以下に おいて、収集・管理と利用・提供の各場面について 違法性の判断を簡潔に述べることとする。 なお、任意手段といわれるものの中でも、 GPS 捜査や監視カメラなど、最近、問題点を指摘される ものが多くなっている。これらも警察作用に他なら ないのであるから、法律による規制を行うべきとき にきていると思われる。 [ 2 ] 収集・管理の違法性 ( 1 ) 本件において、大垣警察が当事者について、 どのような情報収集を行っていたのか明らかとされ ていない。条例にもとづく個人情報の開示請求に対 して、県警本部長は「存否応答拒否」の回答であっ た。まずもって、この点が明らかにされる必要があ る。 ( 2 ) そして、本件では警察の情報収集・管理につ いて、次のような問題点を指摘することができる。 ①風力発電施設建設の反対運動をつぶすことが 目的であること 情報交換の場での大垣警察や S 社の担当者の発言 から明らかであり、警察法 2 条 2 項違反と言わなけ ればならない。 ②特定個人が狙い撃ちにされていること
020 I ー実態編 大垣警察市民監視事件 市民の 政治的表現の自由と プライバシー 樹 秀 士田 山 法学セミナー 2016 / 1 1 / no. 742 で、裁判所の証拠保全の手続によって S 社の議事録 1 事件の概要 を入手した。議事録は、 2013 年 8 月 7 日、 2014 年 3 [ 1 ] 大垣警察市民監視事件とは、岐阜県警大垣警 月 4 日、同年 5 月 26 日、および同年 6 月 30 日の 4 回 察署の警備課職員が、岐阜県大垣市内に在住する一 分であった。この議事録には、次のようなことが記 般市民と法律事務所の情報を継続的に収集・管理し、 載されていた ( なお、詳しくはホームページを参照し これを民間業者に提供したという事件である。 2014 ていただきたい。 http://monoiujiyu-ogaki.jimdo.com/) 。 年 7 月 24 日付け朝日新聞の報道によって明らかとな ( 1 ) 大垣警察と S 社との情報交換は、大垣警察か らの働きかけによって行われたものであった。 った。 同報道は、「岐阜県警が個人情報漏洩」との見出 ( 2 ) 情報交換の目的は、風力発電施設建設に反対 しのもと、「岐阜県大垣市での風力発電施設建設を する運動が起こらないようにするためのものであっ めぐり、同県警大垣署が事業者の中部電力子会社『 S た。 社 ( 注 ; 原文では実名 ) 』 ( 名古屋市 ) に、反対住民の ( 3 ) 大垣警察から提供された情報の主なものは次 過去の活動や関係のない市民運動家、法律事務所の のとおりであった ( 原文では当事者名は実名 ) 。 実名を挙げ、連携を警戒するよう助言したうえ、学 ⑦「岐阜新聞 7 月 31 日水版に『大垣市上石津町 歴または病歴、年齢など計 6 人の個人情報を漏らし で風力発電について学ぶ勉強会が行われた』ことが ていた。」と報じ、 ーこに大垣警察と S 社との情報 掲載されたことを知っているか。」「同勉強会の主催 交換が明るみに出た。このような情報交換の存在が 者である A 氏や B 氏が風力発電に拘らず、自然に手 明るみに出たのは、 S 社が大垣警察とのやり取りを を入れる行為自体に反対する人物であることを御存 記録した「議事録」を残していたからである。 じか。」 なお、ここで問題となった風力発電施設とは、岐 ④「また、大垣市内に自然破壊につながること 阜県大垣市上石津町と同県関ヶ原町にまたがって山 は敏感に反対する『 C 氏』という人物がいるが、御 の尾根伝いに建設されるもので、羽根の長さが 50m 、 存じか。本人は、 60 歳を過ぎているが東京大学を中 支柱の高さが 80m 、合計 130m の風車が 16 基建設さ 退しており、頭もいいし、喋りも上手であるから、 れるというものであった ( その後、計画は変更されて このような人物と繋がると、やっかいになると思わ れる。」 いるようである ) 。風力発電は再生可能エネルギーの 1 つであるが、その一方で低周波音などによる健康 ⑦「このような人物と岐阜コラボ法律事務所と 被害、山の崩壊などの環境破壊、景観破壊などの問 の連携により、大々的な市民運動へと展開すると御 社の事業も進まないことになりかねない。」「大垣警 題点も指摘されている。こでは、この問題にはこ 察署としても回避したい行為であり、今後情報をや れ以上立ち入らない。 り取りすることにより、平穏な大垣市を維持したい [ 2 ] 大垣警察に実名を挙げられた当事者のうち 4 ので協力をお願いする。」 名は、県警および公安委員会に対する抗議や地方公 「 B が、平成 26 年度『岐阜コラボ法律事務所 友の会』の役員になった。また、 A と交代で友の会 務員法違反 ( 守秘義務違反 ) での告発などをする一方
048 Ⅱー理論編 市民的自由と警察の現在 「スノーデン・ショック後」の監視社会と国家 と 由 自 シ 集のの 民「現 ~ / 特市表 的 プ 台 政 聖学院大学教授 石川裕一郎 法学セミナー 2016 / 1 1 / no. 742 1 、「安全安心」と生活世界の警察化 はしめに : 「監視」の現在 監視社会論からみた現在の日本警察の主たる特徴 本稿は、近時の日本における市民的自由と警察の は、その目的が狭義の治安維持や犯罪鎮圧に留まら 関係を囲繞する諸問題の検討を通して、「スノーデ す、個人の安全、および住民の日常生活そのものヘ ン・ショック後」という象徴的な言辞で形容されう の様々な形での関与にまで拡大しつつあることに存 る 2010 年代現在の監視社会論およびその視座におけ する。そこにみられるのは「生活世界の警察化」と る国家像の変容を検討するものである。 も呼ぶべき現象である。 現代における「監視」の実態の深刻さをあらため その端緒は、 1994 年の警察法改正により警察庁に て認識させる契機となったのが、 2013 年 6 月に米国 生活安全局が新設されたことに求められる 2 。その 家安全保障局 (NSA) の契約職員だったエドワード・ 後 2000 年に警察庁によって「安全・安心まちづくり スノーデン氏が世界規模に及ぶアメリカの監視シス 推進要綱」が制定、公共空間・施設における防犯基 テムとその情報収集活動の実態を暴露したこと、い 準等の整備が図られることとなる。そこで強調され わゆる「スノーデン・ショック」である。それは、 たのは警察による住民の一方的な監視・指導ではな 電話での通話はもちろん、インターネット上を行き く、警察と住民の「協力」あるいは「協働」関係で 交うメール、チャット、 SNS でのやり取り、さらに あった。この協働関係の深化は現在も進行中であ は検索履歴などの諸情報を遍く包含し、情報収集の る。以下、その事例を 2 っ挙げる。 対象もアメリカの同盟国を含む多くの外国政府およ ーっは、昨 ( 2015 ) 年の「東京都安全安心まちづ び政官財の要人に広くおよぶものであった 1 くり条例」改正 ( 2015 年 7 月 1 日公布・同 9 月 1 日施行 ) これを意識しつつ、本稿では、論点先取との謗り である。ここでまず注目すべきは、同条例の名称中 を受けるかもしれないが、まず以下の二点を確認す の「安全・安心」という語句が「安全安心」に変更 る。一点は、監視の目的がいまや一国の安全保障 されたことである。同条例の公定解釈と位置づけら (national security) あるいは治安 (public security) れる論考によれば、本条例の趣旨は「客観的な安全 という枠から滲出し、個人 = 人間の安全 (human の確保だけでなく、都民の意識にも目を向け、都民 security) 、場合によっては社会保障 (social における不安感の解消も目指し、安全安心の施策を security) の領域に及んでいること、そしてとりわ 一体的、総合的に打ち出していく」 ( 下線引用者。以 け日本で顕著に見られる現象として監視する側とさ 下同じ ) ことにあり、それゆえ「これを象徴して、『安 れる側の協働関係の構築が進んでいることである。 全・安心』を『安全安心』と表記することとした」 もう一点は、監視の目的が狭義の「安全確保」に留 [ 河合・金子 2016 : 141 ] とのことである。 まらす、その実践が日常化していることである。そ 客観的な「安全」と主観的な「安心」を峻別し、そ のうえで、今や監視そのものが目的と化し、それ自 の対象を具体的かっ限定的に示そうという営為とは 体が国家の存在理由のごとくなりつつあることを論 正反対の意思が示されている。 じることとする。
021 役員を行っているようである。」「風車事業に関して 一部法律事務所に相談を行った気配がある。」 ①「 A は、岐阜コラボ法律事務所の事務局長で ある『 D 』と強くつながっており、そこから全国に 広がってゆくことを懸念している。現在、 D は気を 病んでおり入院中であるので、速、次の行動に移り にくいと考えられる。」 [ 3 ] この議事録から、大垣警察が長期にわたり継 続的に、当事者 4 名の各個人情報、および「岐阜コ ラボ法律事務所」 ( 正しくは、「弁護士法人ぎふコラボ 西濃法律事務所」である ) の情報を収集し、これを 管理してきたことが分かる。これは正に、警察によ る市民の監視という他ない。このような公権力によ る市民の監視に関しては、すでにムスリム違法調査 事件 ( 東京地判平 26 ・ 1 ・ 15 判時 2215 号 30 頁、東京高 判平 27 ・ 4 ・ 14 判例集未登載 ) や自衛隊情報保全隊訴 訟 ( 仙台地判平 24 ・ 3 ・ 26 判時報 2149 号 99 頁、仙台高 判平 28 ・ 2 ・ 2 判時 2293 号 18 頁 ) によって問題点が指 摘されているところであるが、本件は、より一般的 に、警察の警備課 ( いわゆる公安警察 ) によって行 われ、そして民間業者に対して情報提供が行われた ところに特徴がある。現在、当事者と弁護団は、岐 阜県に対して国家賠償請求訴訟を提起すべく準備中 である。本稿では、その法律問題を提示し、議論の 2 権利侵害 て「収集等」ということがある。 おいて問題となるところであるが、 取得、②その保存・管理、③利用・提供の各段階に なお、警察による市民の監視は、①情報の収集・ 材料を提供するとともに、ご意見・ご批判を給わり これらを総称し らのものや、市民活動歴など、概して私事性や秘匿 をしたチラシなど ) や新聞紙上に掲載された記事か は、当事者が積極的に配布したもの ( 新聞折り込み は明らかである。しかし、本件で収集等された情報 収集され、提供されたことは、これに該当すること る。当事者の学歴や病歴など私生活に関する情報が していたように、まずプライバシー侵害が上げられ 朝日新聞が「個人情報漏洩」という見出しで報道 ろうか。 って、どのような権利を侵害されたといえるのであ [ 1 ] まず、当事者は、警察による情報収集等によ [ 特集引市民の政治的表現の自由とプライバシー 性が高くないものが多く含まれている。これらは、 主義社会に必要不可欠なものと考えており、そのよ のと捉え、様々な意見を持ち活動をすることが民主 民が政治・社会問題に関心をもち、これを自らのも 発運動にも取り組んできた。当事者はいずれも、市 広く社会問題に関心を持ち、自然環境の保全、脱原 く呼び掛けたものである。また、当事者 C 、 D は、 の是非を検討するために勉強会を開催し、これを広 らの生活圏に風力発電施設が建設されると聞き、そ すなわち、本件における当事者 A および B は、自 も支えられているものと考えている。 憲法 13 条のみならず、同 21 条の表現の自由によって る情報を承諾なくみだりに収集等されない自由」は、 ( 2 ) ところで、当事者と弁護団は、「個人に関す ステム訴訟 ) などである。 東京高判平 21 ・ 1 ・ 29 判タ 1295 号 193 頁 ( 第 2 次 N シ 20 ・ 3 ・ 6 民集 62 巻 3 号 665 頁 ( 住基ネット訴訟 ) 、 1748 号 144 頁 ( 第 1 次 N システム訴訟 ) 、最ー小判平 多数みられる。例えば、東京地判平 13 ・ 2 ・ 6 判時 のであることを判示した。その後も同趣旨の判決が 憲法 13 条で保障される私生活上の自由を侵害するも 人に関する情報 ( その 1 つである容ばう等 ) の収集が、 ればならない。」として、警察 ( 公権力 ) による個 法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなけ もないのに、個人の容ばう等を撮影することは、憲 べきである。」「少なくとも、警察官が、正当な理由 う等」という。 ) を撮影されない自由を有するという 諾なしに、みだりにその容ばう・姿態 ( 以下「容ほ 人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承 12 号 1625 頁 ( 京都府学連事件 ) であり、同判決は、「個 に至った。すなわち、最大判昭 44 ・ 12 ・ 24 刑集 23 巻 ない憲法上の自由」が承認されているものと考える 「個人に関する情報を承諾なくみだりに収集等され ( 1 ) そこで、これまでの判例を検討したところ、 されない自由 [ 2 ] 個人に関する情報を承諾なくみだりに収集等 含めて、権利侵害と言いうる法律構成が求められた。 や秘匿性が高くない情報やすでに公開された情報も とが問題であるという意識が強い。そこで、私事性 警察が市民の活動に圧迫や干渉を加えようとするこ にとっては、「私の秘密が漏らされた」というよりも、 みにくいのではないかと考えられた。また、当事者 学説上有力な「自己情報コントロール権」ともなじ
030 らなければなりませんね。 投票することができません。投票できない場合は、 証人拒否するということであれば、そうです。投 公職選挙法第 58 条により投票所に入場できません。 票を拒否するということはそうです。 弁護人それなら、第 60 条のために阻止線を張るの しかし、理由書の名義は、投票管理者ではなく、 は、投票所の入口で張れば済むことで、何で校門ま 西成区選挙管理委員会委員長山下東であった。投票 で押し広げたんですか。 管理者の監視制度が形骸化していることの端的な証 証人前年の衆議院選挙の状況を踏まえまして、投 拠である。しかも、当日名簿に補正登録できるとす 票所の中の静謐、秩序保全をするためには、校門で るマニュアルとも矛盾している。 の阻止線、防衛ラインが必要というふうに考えたか 萩之茶屋投票所事件において、弁護側は投票管理 らでございます。 者松本を証人請求したが、証拠採用されることはな 弁護人その阻止線を設けることは投票の拒否にな かった。当日の警備体制は、投票所とされていた体 る場合があるということは考えなかったんですか。 育館の外、四重の人垣で阻止線が敷かれていた。萩 証人飽くまでも選挙に来られた方については入っ 之茶屋投票所の校門前で起こったこと。これらにつ いて、投票管理者は何も知らないというのが、検察 ていただいております。 官の不採用とする意見であった。「何も知らない」 弁護人それは誰が判断するんですか。 証人その当日警備に当っている者で誘導させてい という事実は、南の弁護人であった筆者も直接松本 ただきました。 に確認している。 弁護人それは投票管理者が判断しなきゃならない 公判では、公示前の打合せ会議のときに、選挙管 理委員会の事務局長出木場に、投票管理者内定者の 事柄だと、さっきお答えになりませんでしたか。 証人投票の拒否ということで、管理者というふう 松本が、警備体制をよろしくたのむといっただけで に理解しております。 あるということが明らかとなった。しかし、この時 弁護人選挙人の確認は誰の権限なんですか。 点では、投票所である体育館の前 ( 投票管理者の権 限が及ぶのはここまでである ) ではなく、校門前で人 証人 弁護人それをお答えください。条文に書いてある 垣を築くという警備体制を敷くことは決まっていな でしよう。選挙人の確認は誰がするんですか。 かったのである。 いずれにせよ、阻止線で、選挙人であるかどうか 証人投票管理者です。 確認し、入場を制限するのは投票管理者の権限であ ( 2012 年 1 月 5 日第三回公判出木場証人尋問調書 27 頁 るはずである。このことは、公判において、事務局 および 28 頁 ) 。 長出木場も認めざるを得なかった。 4 釡ヶ崎の公民権運動 弁護人遠藤 ( 以下、弁護人 ) 投票を拒否する権限 萩之茶屋投票所事件は、公務執行妨害事件として、 は誰にありますか。 出木場証人 ( 以下、証人 ) もちろん投票管理者で 西成区長が西成警察署に、 2011 年 8 月 3 日付けの一 枚の告発状を提出したことから始まった。告発され すので。 たのは、南である。 弁護人投票管理者は単独で拒否できますか。 犯罪事実として主張されたのは、以下の事実であ 証人立会人の意見を聞いた上ということでござい ます。 る。 弁護人投票管理者はどこにいましたか。 2010 年 7 月 11 日、第 22 回参議院通常選挙投票日に 証人投票所内でございます。 おいて、同人は氏名不詳の男女と共謀のうえ、西成 弁護人体育館の中でしたね。 区内において早朝より呼びかけ行動を行い、賛同者 証人はい。 ら数十名とともに、萩之茶屋投票所 ( 小学校体育館 ) 弁護人投票立会人はどこにいましたか。 に押しかけてきた。小学校正門前において、民族太 証人同じく体育館の中です。 鼓を打ち鳴らし、赤旗を掲げ、警笛を吹鳴し、そし 弁護人投票を拒否するためには体育館の中にはい
015 報を集めています。 いわゆる別件逮捕も利用されています。資料では、 公安用語の「事件化」と記載されていますが、たと えば、「入管法違反 ( 不法残留 ) で逮捕し、取調べ、 捜索差押等を実施したが、同人は、出稼ぎ目的の単 純不法滞在者であり、しかも仏教徒でイスラムとは 無関係であることが判明した」とか、「金曜礼拝に 頻繁に出入りする者に対する事件化を図ったが・・ 不審動向や不審点は確認されなかった」といった記 載があります。警察は、狙いを定めた対象者を別件 で逮捕・勾留した上で、自宅を捜索し、パソコン等 を押収し、内部に保存された情報やネット閲覧、メ ール、 SNS の履歴などを集めているのです。 収集率を高めるために、「ポイント制による特別 表彰」も実施されています。いくっかのファイルと 照らし合わせると、特定の期間は「割増加点」され たり、新たな対象者の個人情報を解明すると「新規 解明 1 件」として「課長賞 3 級」と評価されるよう です。まるでゲームです。ムスリムの個人情報を集 めること自体が目的化している様子が見て取れます。 以上のほか、警察は民間団体に働きかけ、「自発的」 な情報提供を受けています。トヨタレンタリースや ニッポンレンタカーなどの大手レンタカー会社、楽 天などのインターネット商店、東京農工大学、電気 通信大学などの大学、ホテル・旅館、さらには東京 三菱銀行 ( 当時 ) といった大手都市銀行などが、令 状はおろか場合によっては捜査事項照会 ( 刑事訴訟 法 197 条 2 項 ) すら経ずに、ムスリムの個人情報を提 「けいし WAN 」というネットワークに繋がれてい 収集した情報は全て電子化・データベース化され、 電子化、データベース化、ネットワーク化 [ 4 ] 情報をどのように管理するか 供していたと記載されています。 理由として、日本で暮らすすべてのムスリム、ある 以上のとおり、警察はムスリムであることのみを / ト括ーー一流出資料からわかること [ 5 ] ィ現勢』 ( 資料 5 ) といったファイルはその典型です。 国別把握者数などを整理した『イスラムコミュニテ グ」 ) 。たとえば、都内のモスク、ハラルフード店、 体系的に再利用可能になります ( 「データマイニン ます。これによってばらばらに集められた情報が、 [ 特集引市民の政治的表現の自由とプライバシー した ( いわゆる三下り半判決 ) 。 本件に憲法問題は含まれないとして上告を棄却しま 谷剛彦、木内道祥、山﨑敏充 ) は、 2016 年 5 月 31 日、 最高裁判所第三小法廷 ( 大橋正春、岡部喜代子、大 争われることとなりました。 報収集、管理、利用の各活動が違憲・違法か ) のみが 敗訴で確定し、上告審では上記 ( 1 ) の争点 ( 警察の情 告らのみが上告したため、上記 ( 2 ) については東京都 原審を維持し、両当事者の控訴を棄却しました。原 夫 ) は、 2015 年 4 月 15 日、いすれの判断についても 東京高裁第 24 民事部 ( 高野伸、田辺暁志、瀬戸口壮 れに対し、東京都と原告らが控訴しました。 人については 220 万円 ) の損害賠償を認めました。 上の過失があるとして、原告 1 人当たり 550 万円 ( 1 憲とする一方、上記 ( 2 ) の情報の流出については管理 上記 ( 1 ) の警察の情報収集、管理、利用については合 視庁のものであることは明らかであるとした上で、 文康 ) は、 2014 年 1 月 15 日、流出資料が警察庁・警 東京地裁民事第 41 部 ( 始関正光、進藤壮一郎、宮崎 という態度に終始しました。 ことについて、認めるとも認めないとも答弁しない た。また、流出資料が警察庁・警視庁のものである 東京都はそれぞれの主張について否認し争いまし 出させたことは違法である、というものです。国と 違憲・違法である、 ( 2 ) 情報をインターネット上に流 の主張の要旨は、 ( 1 ) 警察の情報収集、管理、利用は を被告として国家賠償訴訟を提起しました。原告ら 資料の流出後、 17 人の流出被害者が、国と東京都 3 訴訟の経緯 思われます。 なお、これらの監視捜査は現在も続けられていると ワークに繋いでいつでも自由に再利用しています。 情報を電子化し、データベース化した上で、ネット 報を大量に収集しています。そして、収集した個人 に、信仰の深さを含む詳細でセンシテイプな個人情 いはその信仰の徴憑としての OIC 諸国出身者を対象
033 市民の 政治的表現の自由と プライバシー Ⅱー理論編 市民の表現活動を阻むもの 日本社会の現況と理論的課題 神戸学院大学教授 塚田哲之 法学セミナー 2016 / 1 1 / no. 742 1 はじめに 2 何が表現活動を阻むのか < 3 ・ 11 > 後の脱原発運動や昨 2015 年の安保法制 [ 1 ] 監視の遍在 反対集会・デモの高揚は、市民による表現活動の活 実態編の諸事件に共通する一つの特徴は、表現活 性化を示しているが、本特集前半の実態編からは市 動に関わる市民が公権力の監視対象となっているこ 民が表現活動を行おうとする際に出逢うさまざまな とである。実態編の諸事件のほか、つい最近も、本 困難が浮かび上がる。それは、 JR 大阪駅前事件 ( 石 年 7 月の参議院通常選挙に際し大分県警別府署員が 埼論文 ) や萩之茶屋投票所事件 ( 遠藤論文 ) のよう 野党候補者の支援団体が入居する施設の敷地内に無 なそれ自体表現活動ととらえうる抗議行為の直接的 許可で隠しカメラを設置し、鮮明な映像で人の出入 抑圧 1 ) に限られない。大垣警察市民監視事件 ( 山田 りを記録していたことが大きく報じられた ( 石川論 論文 ) で警察が私人の情報を収集し、私企業に提供 文参照 ) 。本件については、建造物侵入罪に該当す したのは、対象者が市民運動に関わっていたからで る違法行為であり、公職選挙法違反容疑とされた捜 あるし、仙台自衛隊情報保全隊事件 ( 十河論文 ) に 査の必要性、相当性も認められない不適正なもので おいても政党やジャーナリストだけでなく市民によ あったとして、別府署員 4 名が書類送検され、警察 る活動が対象であった。さらにまたムスリム違法捜 庁長官も遺憾の意を表明した 3 が、事件発覚後の警 査事件 ( 井桁論文 ) で警察が情報を収集したのも、 察庁の通達は「捜査用カメラによる被疑者の撮影・ ムスリムであるがゆえにテロ活動への関与がありう 録画・・・・・・は、捜査目的を達成するため、必要な範囲 るという きわめて不当な - ーー - 想定に基づいてい において、かっ相当な方法によって行われる限り任 意捜査として許される」 4 ) としており、むしろ警察 0 もちろん、最高裁も認めるように「国民は、憲法 のカメラ利用が一般化している現状を示している 上、表現の自由 ( 21 条 1 項 ) としての政治活動の自 し、集会やデモの現場で警察官とおばしき人物が様 由を保障されており、この精神的自由は立憲民主政 子を撮影している光景もよくみられる。本特集の諸 の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、 事件も、犯罪捜査名目で遍在する監視の氷山の一角 民主主義社会を基礎付ける重要な権利である」 2 にすぎないわけであるが、注意すべきは、大垣警察 しかし、市民が政治的表現活動を行おうとする際に 市民監視事件にせよムスリム違法捜査事件にせよ、 それを阻む各種の困難に出逢うとすれば、その困難 そこで監視対象となった市民は、何らかの活動を行 に対し法律学とりわけ憲法学は何を課題としてとら う潜在的可能性があると想定されたにとどまってお え、どのようにして理論的解決の道筋を見いだしう り一一重要なので繰り返すが、きわめて不当な想定 るかが問われるだろう。本稿では、実態編の諸論文 である一一一、表現活動が行われた後での、あるいは から浮かび上がる現代日本の問題状況と検討される 行われることが確実な段階での規制が問題とされて べき諸論点を相互の連関も意識しつつ確認し、後半 いるわけではないことである。すなわち、表現活動 の理論編各論文への橋渡しを試みる。 の事前抑制が問題となりうる段階のさらに「前域」 5
シ イ プ と 由 自 の 現 表 的 政 の 民 市 集 023 警察の情報収集活動は、管内の全ての市民を対象 と に行われているわけではない。警察にとって「都合 当事者の情報の中には、プライバシー性の高い情 の悪い人物」が狙い撃ちにされているのであり、そ 報も含まれている。それを、伝播されない保障のな れは誰かといえば国や大企業に対して「もの言う」 い状態で提供することは、高度の違法性を有する。 ⑤収集目的と提供にズレがあること 市民であることは、本件における当事者の活動をみ 当事者 C および D は、大垣警察と S 社との情報交 れば明らかである。 ③長期間にわたる継続的な情報収集・管理が行 換が行われた当時、風力発電施設建設とは無縁であ われていること った。それにも関わらず、 C および D の情報提供が 本件でやり取りされている情報から、警察は 20 年 行われた。これは、収集された情報の目的外利用と 以上も前から当事者の情報を収集し、保存・管理し もいいうる。 ていたことが窺われる。その理由の説明が求められ ⑥提供の具体的必要性など全くないこと 情報交換が行われた当時、風力発電施設建設は、 る。 ④情報収集・管理に何の制限もないこと まだアセスメントが行われていた段階であり、建設 警察が集めた情報はどのように保存・管理され、 事業は具体化していない。つまり、反対運動による どのように廃棄されるのか何の規制もない。 トラブル、すなわち「公共の安全と秩序の維持」が ( 3 ) 以上から、本件における警察の情報収集は、 害されるなどの段階では全くなかった。したがって、 任意手段の域を逸脱しており、違法なものという他 情報提供の必要性など全くなかった。 ⑦私事性・秘匿性の高い情報の提供 法律事務所に相談に行ったことや、 D の病歴など [ 3 ] 利用・提供の違法性 は、提供の必要性は皆無であるし、むしろ提供する ( 1 ) 警察が収集した情報は、内部的に利用する場 ことが避けられなければならない情報である。 合と、外部の第三者に提供される場合が考えられる。 ( 3 ) 以上から、本件における警察の S 社に対する 第三者への提供も利用の一形態と考えられる。本件 情報提供は、任意手段の域を逸脱しており、違法な では、大垣警察と S 社との情報交換の場で、収集さ ものという他ない。 れた情報がやり取りされており、まさに第三者への 4 まとめ 提供が問題となる場面である。しかもそれが、警察 の主導で行われたことが、問題をより深刻なものと 本件は、公安警察により市民監視が行われた事案 である。公安警察は、戦後の警察民主化に対する逆 している。 ( 2 ) 本件における S 社への提供には、次のような コースの中で生まれ、警察組織の中で巨大な力を持 問題点を指摘することができる。 つに至っている。具体的な事件とは関わりなしに ①提供の目的は反対運動つぶしであること ( 前 般情報収集活動と称して、野党や労働組合、市民運 述のとおり ) 動を敵視し、監視をしてきた歴史がある ( 詳しくは、 ②相手方への提供であること 広中俊雄『整備公安警察の研究』、青木理『日本の公安 S 社は、当事者 A および B が問題としている風力 警察』などを参照していただきたい ) 。本稿を作成中、 発電施設の事業者であり、相手方であるしかも、 大分県警が、この夏の参院選期間中に、労働組合な 提供した情報の中には、法律事務所に相談に行った どが入る建物に向けて監視カメラを設置した事件が ことが含まれている。対立当事者の一方を利するも 明るみに出た。これもまた、同様の事件と思われる。 のであり、警察の「公平中正」とはほど遠い。 警察による市民監視は根が深いと言わざるを得な ③相手方は一民間企業であること い。自由で民主的な社会を築くためには、監視社会 S 社は中部電力の子会社であり、一民間企業に過 は許されてはならない。大垣警察市民監視事件に関 ぎない。このような民間企業に便宜供与といっても 心を持っていただけたら幸いである。 よいことをするのは、警察の「公平中正」を疑わせ ( やまだ・ひでき ) る。 ④提供された情報が伝播されない保障のないこ 0 一三
052 ある。とはいえ、「監視の人間的な側面」を評価し、 «De l'Etat de droit å l'Etat de AGAMBEN, Giorgio 2015 sécurité», ん財 0 〃 , le 27 décembre 2015. = 2016 西谷 「人は、他人から監視されていると思うと、人はか 修 ( 訳 ) 「法治国家から安全国家へ」『世界』 879 , 202 ー 205. くあるべしと自ら思う方向に自らを律する動機が無 BAUMAN, Zygmunt 2006 ん″〃 polity. = 2012 澤 意識に発生する」 [ 青柳 2008 : 320 ] という見解に 井敦 ( 訳 ) 「液状不安』青土社 GREENWALD, Glenn 2014 ル 0 / 〃“〃 . ・ E イ肥 4 イ いたっては、自律した個人を前提とする近代法の基 S 〃 0 肥イ〃 , 励召ル & 4 , 〃〃励 U. S. S 〃〃の尾 S . 本線を維持する多くの法律家にとってにわかには容 = 2014 田口俊樹・濱野大道 ( 訳 ) 「暴 Metropolitan BOOks. 認し難いであろう 9 ) 。しかしながら、それならば法 露 : スノーデンが私に託したファイル』新潮社 LYON, David 2015 S 〃れ〃 4 〃〃げ S 〃 0 肥〃 . Polity. 律家の側もこのような言説への対抗言説を用意して 2016 田島泰彦・大塚一美・新津久美子 ( 訳 ) 「スノーデン・ おく必要があるように思われるのである。 ショック : 民主主義にひそむ監視の脅威』岩波書店 【参考文献】 1 ) 「スノーデン・ショック」については、さしあたり 青柳武彦 2008 「情報化時代のプライバシー研究 : 「個 CGREENWALD 2014 = 2014 ] および CLYON 2015 = 2016 ] の尊厳」と「公共性」の調和に向けて』 NTT 出版 を参昭 石川裕一郎 2003a 「渋谷区条例 : 『安全 / セキュリテイ』 2 ) 日本で「安全」に対する欲求が高まる契機となった という視座」「法と民主主義』 377 , 24 ー 28. のは 1995 年の阪神淡路大震災とオウム事件であると言わ 「コミュニティの安全確保における市民団体の ー 2003b れることが多いが、生活安全局設置はそれより前である 役割 : 『中間団体理論』と『主体性理論』から分析される ことに注意が必要である。 生活安全条例」「月刊自治研』 529 , 77 ー 83. 3 ) 並行して、この時期に日本各地の自治体において生 「「セキュリテイ』と憲法学」憲法理論研究会 ( 編 ) ー 2004 活安全条例が制定されてゆく。その当時の筆者の同条例 「憲法理論叢書⑩ : 現代社会と自治』敬文堂 , 135 ー 144. に関する論考として [ 石川 2003a ] [ 石川 2003b ] [ 石 「自由と安全 : 憲法学から考える」「法学セミナー』 - ー 2008 川 2004 ] 。 641 ; 4 43. こで注意すべきは、監視カメラには犯罪発生後の ー 2013 → 2014 「憲法の忘却 / 忘却の憲法 : 「沖縄』「福島』 捜査には役立っということと、それは犯罪を未然に防ぐ から『アメリカ』『天皇』へ」上村静 ( 編 ) 『国家の論理と ことは少ないということを峻別して評価しなければなら いのちの倫理 : 現代社会の共同幻想と聖書の読み直し』新 ないということである。 教出版社 5 ) 「警察の民衆化」「民衆の警察化」に関する論考は多 石川裕一郎 ( 編 ) / 伊藤和子・寺中誠 ( 著 ) 2010 「裁 いが、さしあたり [ 大日方 1993 ] を参昭 判員と死刑制度 : 日本の刑事司法を考える』新泉社 6 ) 以前筆者は、アガンべンの所論を手がかりに、現代 稻谷龍彦 2015 「警察における個人情報の取扱い」大沢 の権力がフーコー的な生権力から変容しつつあると分析 秀介 ( 監修 ) 「入門・安全と情報』成文堂 , 1 ー 26. したことがある [ 石川 2004 : 14 143 ] 。あわせて、 大日方純夫 1993 『警察の社会史』岩波書店 こに端的に表れているアポリアとしての「自由と安全」 「日弁連は、成立した「改正」法とどう 海渡雄一 2016 について [ 石川 2008 ] も参昭 闘うべきか」「法と民主主義』 510 : 26 ー 28. 7 ) この問題については [ 布川・新原 2013 ] を参照。 河合潔・金子しのぶ 2016 「東京都民の安全案の確保 8 ) 本稿の対象ではないもうーっの大きな論点として、 のために : 何をしなければならないか ( 下 ) 」『警察学論集』 このスノーデン・ショックによってあらためてあぶり出 69 ー 1 , 14 163. された日本政府の病的なまでの対米従属ぶりだろう。こ 「永続敗戦論 : 戦後日本の核心』太田出 白井聡 2013 の問題についての論考は最近増加の傾向にあるが、代表 版 的なものとして [ 前泊 2013 ] 、 [ 白井 2013 ] および [ 矢 「コメント : カウンターテロリズム・プ 難波満 2015 部 2014 ] を参照。なお、この問題については筆者も小 ロファイリング」をめぐる一考察」『国際人権』 26 , 3 33. 論をものにしたことがある [ 石川 2013 → 2014 ] 。 「砂川事件と田中最高裁長 布川玲子・新原昭治 2013 9 ) この点に関連して、稻谷龍彦は、個人情報保護と安 官 : 米解禁文書が明らかにした日本の司法』日本評論社 全の両立という「永遠の難題」に取り組むにあたり今日 前泊博盛 ( 編著 ) 2013 『本当は憲法より大切な「日米 「法学的権利言説」はかっての特権的地位を失いつつあ 地位協定入門」』創元社 り、専門家への政治的決断としての「裁判所における法 「日本はなぜ、「基地」と「原発」を止 矢部宏治 2014 的判断」への委任という戦略の限界を意識し、我々は められないのか』集英社インターナショナル 「我々の社会を構成する『知』と『政治』との関係性に 山本龍彦 2015 「予備的ポリシングと憲法 : 警察による ついて、正面から問い直す必要に迫られている」と指摘 ビッグデータ利用とデータマイニング」「慶應法学』 31 , する [ 稻谷 2015 : 26 ] 。 321 ー 345. ( いしかわ・ゆういちろう ) ライアン、ディヴィッド・田島泰彦 2014 「対談 : 国家 が仕掛ける情報収集の罠 : スノーデン事件は監視社会の入 口に過ぎない」「世界』 861 , 13 139.