を言われたのは、はじめてだったのだ。 「あら、牛乳屋さん ? 」 「ねえ」と奥さんは微笑して、また言った。「お ドアが開いて、奥さんが凝っとおれを見た。 入りなさいな」 「お入りなさいな」奥さんは牛乳を受けとって、 優しくおれを見た。「暑かったでしよう、冷た 「そんなところに立っていたら、おかしいわ」 ものをあげるわ」 おれは真っ赤になった。一層、汗が噴きだした 夏だった。おれは汗をだらだら流していた。ハ よ、つだ。 ンカチは持っていたが、わざと拭かなかった。 「汗でも拭いたらいいわ」 若い健康なからだに汗が流れているのは、悪い 「済みません」 ものじゃない。若い奥さんには、かなりセクシー と、おれはペこりと頭を下げた。 に思えたろう。 ダイニングキッチンの椅子に腰をおろしたおれ だが、そのときは、そこまで考えない。ただ、 に、奥さんは冷たいおしばりをくれた。だが、お 汗を流して、暑い日盛りの道を走ってきたおれの しばりだけでは、汗はひかなかった。汗と埃り 誠意をみとめてもらいたかった。 で、おしばりは、黒くなり、おれは恥ずかしさ ひょっとして、牛乳をやめる気持ちになってい ても、おれの汗を見たら撤回してくれるかもしれで、また赤くなった。 「洗います。洗濯はどこてするんですか」 という計算がはたらいていた。 おれは、奨められたが、躊躇した。そんなこと「あらいいのよ。そんなこと」奥さんはおれの すす
シャツの背中がべっとりと汗で貼りついているのもなかった。 を見ると、「顔だけ洗っても間に合わないわね。 「洗ってあげたわ」 シャワーを浴びたら」 「そんな : : : 」 「いいの。乾燥機があるから、すぐ乾くわ。これ 「ねえ、そうしなさいよ。気持ち悪いでしよう」を着て待ってらっしゃいー奥さんはタオル地のガ ウンを、おれの背にかけてくれた。「あら、サイ 「いいんです。ばく 「遠慮しないでいいのよ。うちの人は、七時まてズ、びったりじゃない」 帰って来ないから」 「旦那さんのですか」 そして、ふふふ、と笑った。それはどんな意味「きまってるじゃない」 また、ふふふと笑った。その含み笑いは、奥さ だったろう。ただ、おれを安心させるためだけに んの癖らしかった。おれは、また汗が出てきた。 言ったのだろうか。 そのとき、まだ十時ごろだったと思う。もう皹ソフアに坐らされたおれは、透け透けのうすい の声がうるさかった。おれはバスルームへ案内さプラウスの奥さんの胸のあたりが眩しかった。 こかん 奥さんが、おれの股間に手を伸ばしてきたの れた。汚れた下着が恥ずかしかった。 だが、汗まみれのからだに、シャワーは気持ちは、五分と経たないうちだった。 もうすぐよ、五分で乾くわ、と言って、おれの よかった。頭も洗いたくなったが、あんまり図々 しいようでやめた。出てくると、下着もシャッそばに、べったりとくつついて奥さんは坐った。 せみ まぶ
るで、電気にでも触れたように、びくっとした。 に腕をまわした。 が、手は、それを確かめるように、強く握ってき 「あたしとキスしたいと思わない ? 」 そう言うと、奥さん自身が、もう我慢できなく 「ーー奥さん」 なったようだった。 のしかかるように、顔を寄せてきた。おれが拒おれの口から、熱い息が洩れた。おれの顔は火 むと、手がすべって、おれの股のところにすべりのようになっていたろう。 そんなおれを、奥さんは、眼をあげて見た。 こんだ。 それは、意図的な動作ではなかったようだ。揉そして、「バカね」と、たしなめるように言「 た。いや、おれに言ったのか、自分に言ったのか あった拍子のことだ。 わからない。 が、おれはぎくっとした。そのとき、すでに、 おれは昻奮していた。奥さんが傍へ坐ったときか奥さんの手は、そろそろと動いて、ガウンの前 を割り、熱くなったやつを剥きだしにしたのだ。 ら、もう熱く、勃起していた。 何しろ下着をつけていないのだ。湯上がりの素それから、上半身をぶるっと顫わせると、その り・上う・もも 肌に、ガウンをまとっただけだったから、両腿の上に顔を伏せた。 フェラチオという言葉は知っていた。が、実感 間で、熱くたけりたった肉塊が、うらめしいほど 。、、はじめてだった。それか したのは、そのときカ だったのだ。 奥さんの手は、おれのものにさわった瞬間、まら何百回経験したかしれない。が、そのときほど ばっき また ? ) 0 ふる
の感動は、ない。 叫び、からだをくねらせた。 なんでも、はじめての印象は強烈なのだろう 一緒に : : : そう強いられても、こっちはそんな か。奥さんの唇と舌と、そのテクニックに、おれこと馴れてはいない。器用にコントロールできる ものか。 はめくるめく思いで、青春を爆発させた。 こうこっかん そのときの感激と恍惚感は、また、女性への不が、奥さんにはおれのかたまりが、肉塊の微妙 信と憎悪を伴っていた。 な動きと、おれの全身の微妙な動きでわかったの おれは、その日、奥さんの手と唇と舌で、二だろうか、 回、昇天した。二回とも、その行為で終わったこ 「おれ、もう : : : 」 とはやはり不満が残った。 言葉にならない言葉で、おれが、爆発が迫った 彼女は、自分の中に、おれを入れようとしなか ことを告げたとき、奥さんの情感のうねりも、そ った。二回目は、ソフアに横たわったおれの下半れに従って頂にのばったようだ。 じゅうたん 身に顔を伏せ、絨毯の上に膝をついて、片手は、 男にとっての、いい 女とは、そうした感情の従 自分のスカートの中に入れて、はげしく動かして属もあるのではなかろうか。 、 ) 0 あえ 真っ赤に上気して、喘ぎながら、 奥さんは、一層、はげしく身をよじり、頭を上 「一緒に、ね、一緒によ」 下させながら、叫んだ。それは、殆ど、言葉をな だえき わめ と唾液と、おれのものでいつばいになったロでさず、したがって、喚いた、という感じだった。 いただき
は、そう告自している。 にさせるなんて : : : 。知らなければ知らないで済 「悪魔よ、あなたは」 んだのよ。私は一生、貞淑な奥さんでいられた 「そうかい、おれは天使のつもりだが」 わ。それをこんな、ああたまらない、あたし、淫 「悪魔よ。貞淑な人妻を、こんなふうにしてしま乱になったのね」 ったのだもの」 「人間になったのさ」 「こんなふうって、人間的にしてやったんだ」 と、おれは訂正してやった。 「悪魘 ! 」 そうだ、性のほんとうの甘美な恍惚感を知らな 「天使さ。お前さんは、少なくとも人生の快楽っ かったなんて、人間になっていない、女になって てやつを知らなかった」 いなかったのだ。おれが女にしてやったんだ。 全く、おれの天使だ。あのときの囁きも、だか 「おれが教えてやった。天使にめぐりあったってら、天使の微笑みというほうが、ほんとうだろ わけさ」 いや、おれのエレクトしたものが、彼女の股間 いだろ、つ。いしいいって、ヨガり泣きした に背後から、深く食いこんでいたのだから、すで のは、どこの誰だっけ」 に天使は快楽の矢を、女の芯に突き立てていたと 「悪魔よ : : : ー快楽のあとのうるんだ眼で、おれもいえる。 キュービット・、、、 を睨んで言ったものだ。 「こんなに、いい気持ち カ月さな半弓に矢をつがえてい ほほえ
だから : : : 何を言いたかったのか。もう来ない髪をくしけずった。おれの頭は、天然バーマだ。 でくれ、そう言いたかったのではないか。そのとやわらかい栗色をしている。ほどよいウェープが き、おれは、はじめて了解したように、頭をベこ風になびいた。 , とさげ・た。 高校生のおれには、三万円は大金だった。好き なことをして、そいつが大金になるなんてこたえ 「奥さん、また逢って下さい」 おれは三万円を握ったまま、自転車を走らせられない。 おれは中一日おいて、また、奥さんを訪れた。 くちど 彼女がどんな顔をしたかしらない。ロ禁め料とむろん、亭主野郎の留守を狙ってのことだ。 「実は いうのか、あの秘密を、世間にも亭主にも知られ「二万円ほしいんですーずばりといった。 集金した金をおとしちゃって : : : 困っているんで たくない、人妻の心なんだ。 おれはセックスが金になることを、そのとき知すー そのときは演技というほどではない。が、ナイ ープなところをちらりと見せるくらいの技巧はっ ロ笛を吹きたいような気持ちだった。ハミング かった。 くらいしていたかもしれない。 奥さんは、おれの顔を見たとたん、不安と恐怖 セックスが金になる : に、美しい顔を歪めた。 ( 悪い商売じゃないな ) が、おれがそう甘えたとき、恐怖が消え、それ おれはにんまりした。風が爽やかに類をなで、 さわ
きれいとは限らない。近ごろの少女は、小学生の アンナのような女が多かったら、おれは悪孵に ころから、すでに胸のふくらみが目立っ子が多染まらなかったろう。失望は、次への欲望を生 。初潮も早い。したがって、女としてのからだむ。 が出来ているわけだが、あそこは必ずしもきれい ( こんどこそは ) という期待にかられるのだ。 とは言いかねる。 世間のマジメ人間たちは、少女だからキレイ、 ところで 男を知っているからキタナイ、と単純に考えたが奥さんのその肉の色は、思わず、息をのませる ほど、きれいだった。だが、女というやつは、ど る。一知半解もいいところだ。ろくに洗うことも 知らない少女のは、臭い。おれは少なくとも百人うして、こうも抜け目ないのだろう。 や、それ以上のものを見、匂い、触れた。だか ( 舐めて ) なんてぬかしやがる。むろん、秘密の部分のこ ら、知っている。 とだ。 そうでないというやつがいたら、五百人くらい のデータを見せて貰いたいものだ。 奥さんが、おれに許そうとしなかったのは、ま アンナのそれが美しかった 美しすぎたのず、そこからはじめたかったからではないか。お が、その後、おれを、少女たちのそこへ興味を抱れはかっとなった。 かせることになった。が、 びしやっと、彼女の頬が鳴った。おれは思いっ 失望が大きかった。大 半は失望したのだ。 きり張り飛ばした。ひいーっと、悲鳴をあげて、
つけていれば、強姦された証拠になるそうだ。 彼女は倒れた。 そんなことを考えながら、セックスしたって、 「舐めさせたいのか。猫にでも舐めさせろ」 したいときにするのでなく 倒れた拍子にスカートがめくれあがり、ふとも楽しいもんじゃない。 ちゃ、ほんとうの快楽にはならない。飯を食うの もが剥きだされた。 とは違うんだ。おしきせのセックスがどんなに味 その自くなめらかな肌は、おれを誘っていた。 おれは両の足くびを握ると、思いきり左右にひろ気ないものか。 世の中にはギリマンということがあるそうだ。 げた。女の足は、男の手でひろげられるために、 おれは以前は知らなかった。ギリマンとは義理マ 握り易くなっているのだ。 おれのものは、もう、前にも増して熱くたけりンらしい。義理で、あれをするとは、御苦労なこ 立っていた。上の唇の愛撫を受けたのだから、下とだ。 の方の御厄介にならなければ、義理が悪いっても腹が一ばいのときに、握り飯を口の中に押しこ のだろう。 まれて何がうまいものか。やるときは、つまらな いことは何も考えない。 おれは、股が裂けるほどの勢いで、捻じこん おれは、奥さんのからだを、したいように扱っ だ。女の悲鳴が奔った。 た。ひっかき傷とは、顔と背中では意味が違って 強姦と和姦とのちがいはどこにあるのだろう。 法律的には、女が自分でバンティを下げれば和姦くるのか。 だとか、微妙なことだが、男の顔にひっかき傷を奥さんは、抗らうどころではなかった。おれの さか
ヒステリックな金切り声に、営業所のおやじが るつもりだった。が、待てなかった。二年のと 電話でペこペこ頭を下げて謝る。その反動が、お き、おれも飛びだしてしまった。 そのとき、おれは五、六十万持っていた。アルれの上に落ちる。 バイトで稼いだのだ。どうせ、まともなバイトじ「この馬鹿野郎、さっさと届けてこい。怒ってや やよ、 0 められたら、一年間、お前の給料から差っ引くか らな」 はじめのうちは、それでもまともなやつをやっ おれは、怒鳴られて、横っ飛びに走りだす。 た。新聞や牛乳の配達さ。御多分に洩れずな。 だが、馬鹿馬鹿しくなった。おれにいいバイトま、そんなことくらいで、中止する家はなかった が、こっちは真剣だった。そのマンションの奥さ を教えてくれたのは、牛乳の配達先の奥さんだ。 伯母の家は横浜の霞町にあったが、牛乳の営業んは、いっか見たことがある。学校の帰りに、表 所は野毛だった。この辺から真金町あたりはごちを通りかかったら、丁度外出しようとしたところ やごちゃしていた。普通の家と商店とマンションだった。 やア。ハートがあちこちにあって、一軒一軒、間違 ( きれいだな ) と、そのとき思った。岩下志麻に似ていた。 いなく配達するのも、容易なことじゃない。 ( あの奥さんなら、大して怒らないだろう ) おれはよく間違った。よその家へ入れてしまっ と、おれは、階段を上がりながら思った。マン たり、入れ忘れたりした。すると、電話がかかっ ションの二階だったのだ。 てくる。
吃驚することはない。だが、こんなとき、なん その五分が五十分になろうとは思わなかった。 と返事をしたらいいのだろう。おれは黙ってい 「ねえ、あなた、いくっー た。もう十分以上経った。 「高二ですー 「ねえ、あなた、キスしたことある ? 」 「そう。大学生に見えるわ」 「あります」 と、おれは言った。すぐに、眼を伏せた 「近ごろの高校生って、すごいのね」 「一度だけど : : : 」 と、純情そうな声を出した。 「童貞なんていないそうね。ううん、中学からだ 「たった ? ねえ、相手のコ、高校生、それとも って聞いたわ」 おれは否定しなかった。クラスの半分くらいは女子大生 ? 」 経験があるといっていた。 「中二で子供を産んだコもいるんですって。いや「あら、じやア O ? ー アね」 ほんとのことを言ったら、どんな顔をするだろ がいやアねだ。 うと思った。 「あたしたちの中学時代って、そりや純情だった 奥さんは、益々興味を感じたらしかった。びた わ。ポルノ漫画なんて見なかったし、キスもしなか りと、からだをくつつけてきて、おれを抱くよう ったわ。あたしの初体験は二十一よ。吃驚した ? 」