だ。高校のとき、アルバイトにいって痛感した。 「クビになるの」 むろん、バイト学生には、フロントはっとまらな アコは、簡単に信じこんだらしい。 い。ホテルの顔であり心臓部だからだ。 「ええ、そういうことに」 おれはルームボーイをやらされた。が、フロン 深刻ぶった表情で、そいつは目を伏せた。 おれには、ちゃんとお見通しだ。野郎、値段をトのやつが、うまくやっているのを知った。 ′コビー 吊り上げようとしているんだ。 女の子の一人旅を狙うんだ。娘でなくてもい た。何のコビーだろう。レストランでの話から察 、人妻でもいい。それも金持ちの方がいい。っ すると、顧客名簿のコビーに違いない。 " 中島薫″まり地位も名誉もあって、体面を恥じるやつだ。 の住所や筆跡がわかる。アコがほしがっていたの女優なら、なお、いい。そうだろう、売り出しの で、ここへ呼びだしたのだ。 女優だったら、ホテルで変な男に強姦されたっ 一流ホテルのシステムがどうなっているか知らて、届け出やしないからな。 ないが、いまはサイン時代だから、ルームサ 1 ビ盛りの過ぎたアメリカのシンガーで何とかって スで何か持って来て貰ってもサインしてチェック女が、ベガスのホテルかモテルで強姦されたとし アウトのとき清算する。そのコビ 1 を高く売ろうて、慰謝料何万ドルかよこせと騒ぎ立てた事件が というのだ。ホテルマンの小汚いサイドビジネスあるが、あれは、落ち目だったからだ。 というやつだ。 第一、日本人の感覚じゃ、強姦された女なん ホテルのフロントはうまみのあるポジションて、一文の価値もなくなるから、メリットはな ビジター・カード
味方のないおれにとって、いまは、一人の味方 よ、つ。下さる、ほんとに」 アコは、コビーを胸に抱くようにして、浮き浮でもほしい。おれを罠にはめたやつを突き止め て、冤罪を霽らさなければならない。そうでない きした声をあげた。 と、絞首台に送られてしまう。 「お前さんのものだ」 「まあ、嬉しい。スクープだわ。まだ警察は発表「ーーーどうして、あなたを罠にはめたの」 していないのよ」 「そいつがわかれば苦労はない。そいつを見つけ だすのだ。どうだ、おれのためになると同時に、 「スクープか、そいつもいいだろう。だが、もっ としいことがあるぜ」 お前さんも大スクープになる」 しいことって、なアに ? 記者に 「どういうこと ? 」 「スクープより、 とってはスクープが最大の功績よ」 「協力してくれるか」 「被害者の署名なんて、所詮、身元を割りだす手「ええ、何でもするわ」 がかりになるくらいのことだろう。そいつも、他「よし、じやア、明日は、役者になってくれ」 人のサインかもしれねえ、となると」 「あたしが ? 」 「えつ、どういうこと、それ。だって、被害者「お前さんしかいねえよ」 アコは、コビーを新聞社に持って帰りたがっ が、フロントで : : ・・」 「そいつに、裏があるらしい」 おれは、すべてをぶちまけた。 「これを発表した方がいいんじゃないかしら。う , ) 0 えんざい 2 2 2
こうした女の愛撫に馴れたおれが一向に昻奮し 巨漢だった。次の部屋に駈けこんだと思うと、 ないので、あせってきたようだ。おれのさめた情拳銃を手にして来た。菊口径の大型のやつだ。 いちもっ 感とは別の生き物のように、逸物はおそろしく勢「あなた、許して」好子は、はじかれたように飛 がいいのだが、おれ自身はこたえない。一時間び退き、ロバートにすがりついた。「あたし、無 でも保つ自信があるからだ。 理にさせられていたのよ。誰があんなやっと」 バートは叫んだ。 好子は、顔をずらし、さらにうしろのほうま「ナイフだ。ヨシコ」と、ロ で、舌をすべらせてきた。こういう場面を、亭主「ナイフを持ってくる、ハリアップ、ナイフ ! 」 が見たらなんと思うだろう。おそらく相当なショ 「ええ、言う通りにするわ、ポプ」 ックだろうな。 好子が持って来たのは、—が使う短剣だっ 運が悪いのだ。コキューされた現場を見るなんた。 て、よっぱどっいていないやつだ。好子の話で 「おまえ、罰をやる」 ロバートは、おれのものを机の上に出させて、 は、予定では明日の晩ということだったのだ。 ロバートは、突然帰って来て好子を驚かそうと短剣で切るように好子に命じた。 したのだろう。アメリカ人には、そういう茶目っ 冗談じゃない。男の大事 好子が短剣を握った。 気のある奴が多い。裏口から入って来て、おれた なやつを、ちょんぎられてたまるものか。 ちの行為を見てしまったのだ。 そのとき、好子はどんな気持ちだったろう。ボ プと呼んで、すがりついた様子から見ると、この
おれの拇指を花びらで包んだまま、ユカリは腰を引いた。 をうごめかし、それからまた、硬くそそり立った 「誰か来た」 ものを含んだ。それから、また頭を前後に動かし「え ! て、抽送をはじめた。 「寝ろ、べッドに」 しだいに、おれは快感を感じてきた。 おれは、屹立したやつを、内におしこむと、チ 「じゃねえな、この電話番号は」 ャックを閉めて、隣室に入った。豪華な化粧室が 四 X X ・ヒトゴロシ。おれは、呟いた。 ある。おれは、ドアから顔をだして言った。 「いい番号だぜ、渋谷だな、これは」 「用心して、ものを言え。おれのことを洩らした ら、心臓をぶちぬくぜー 「う、う : : : 」 ュカリは頷いた。 おれはピストルを持っているような様子を示し 「もしも虚だったら、死ぬと思え。 た。ュカリは、濡れた唇のまま、頷いた。足音は 階段を上ってくるようだった。ドアが軽く叩かれ 「もう少しだ、ちゃんと呑めよ」 快感が盛り上がってきた。そのときだ。おれ「どなた ? は、どこかで、音を聞いたように思った。 ュカリはべッドから出ようとした。 おさ ( 来た ) おれは顔を出して、眼で圧えた。 エミーが戻ってきたのだ。おれは、ユカリの髪むろん、おれの手に拳銃はなかった。が、ユカ こ 0 きつりつ 160
の方も、念のために刺した。 良彦。おれに頭を打ち割られた方が桔梗だ どうせ、こいつらは生きている価値のないゴキ ではないだろう。蛸という苗字は、非常に珍 しい。が、前にも、何度か聞いたことがある。福ブリ野郎だ。もっとも、おれだってそうだがな。 ナイフの血を拭きとって、入口の鍵を毀した。 島県か、宮城県の出身者だった。こいつがそうか いかにもこじあけたという細工をしたのだ。 どうかは、わからない。出身地まで知る必要はな 鍵を持っているのは、菊乃とおれしかいないと なると、おれに疑いがかかるからな。指紋は一 おれは名前を聞きだすと、「眼をつむれ」と、 応、拭いた。幾つか残ったとしても、何度か来た 言った。 ことはあるのだ。二つ三つ発見されたからといっ 「え ! な、なにをするんだ」 て、必ずしも、こいつらを殺した決め手にはなら 「いやなら、あけていていいさ」 密告したり証言したりすれば、 どうせエミーが 「眼を開けたまま死ぬと、地獄に行くっていう おれが容疑者になるのは免れない。だが、好んで ぜ」 墓穴を掘ることはない。手を尽くして、やり損な 「た、助けてくれー 「そのつもりだ「た。が、気が変わ「た。死んで「たとすると、こいつは運命と諦めるしかないの 貰おう」 おれは、心臓を一突きにした。それから、桔梗おれは、青山三丁目の交叉点まて出てタクシー 1 3 7
リプだとか、 トンデルかハネテルか知らない が出たか、おれは知らない。が、 一般的には、そ が、女の地位が上がりすぎて、女が女でなくなっ幻 んな感じがするのは否めない。 そんな女たちでも、新婚初夜は、処女らしくふた奴が多い。まず、女は女だということを自覚さ るまい、男の優しさの中で、三食昼寝つきへのスせることからはじめるのだ。 タートを北叟笑みながら味わうのだろう。 アコが、おれのものを、有難く舐めさせて貰い アコがおれとこのホテルへ入ったのは、それほ ながら、自分で、自分を愛撫しはじめたのは、仮 どでないまでも、男の愛撫を期待していたのは、面を自らかなぐりすてたといってよい。 間違いない。 おれはふっと、あの推理作家てあり、シャンソ ン歌手であり、ウ 1 マンリプの代表選手と思われ が、おれは、はじめから、その気はない。アコ ていた戸川昌子という女が、結婚していて子供を を記者から、タダの女にする。話はそれからだ。 おれは、おれのものをしゃぶらせながら、次の産んでいたという話を思い出した。テレビで見て 手を考えていた。 も、鼻っ柱の強い勝気そのものの女流作家が、や アコを利用するために、まず、プライドという はり女の可愛らしさを持っていたというからに やつを剥ぎとる手段だった。おれのものをしゃぶは、その他モロモロのリプの女も、一皮はげば、 るということは、アコがトルコの女と同じところオンナだということだ。 まで、引き下がったということだ。つまり、女が ″もはや偽悪家ぶって生きるのはたくさん″とま 漸く、女になったことだ。 で、自分で言っているという。うんざりしたのだ ほくそえ
狙われて、罠に嵌められている。こんなバカな話 はない。このまま、おれが警察に検挙され、死刑 く、バカの見 台に連ばれては間尺にあわない。全 本たいなものだ。どんなことがあっても、エ、 きようそう 狂躁的なロックの響きと、無茶な運転の震動ーの正体を突き止めなければならない。 ミ 1 の何なのだ ) ( この毛唐は、一体、エ で、おれは頭がおかしくなってきた。 むろん、どこをどう走っているのか、見当もっ夜になって訪ねてくる外人、というだけでも、 尋常ではない。 力ない。このまま、どこへ連れてゆかれるか。こ 松濤町は高級住宅街だから、外人も住んでいる いつは心配してもしかたがなかったが、ものすご すきま ようだ。カ 1 テンの隙間から見下ろしたときは、 い揺れかたには、閉ロした。 大きなやつだ。プロレスラーのように上背があ近所の男かとも思ったのが、この車の様子では、 もっとも断定はてきな る。こんなやっと、まともに殴りあいなんてでき近所の男とも思えない。 エミ 1 が不在と知ってャケを起こしたのかも 、。はじめから、そんな気はない。こ るわけがな の秘密がわしれない。 の男の行く先を突き止めたら、エミ 1 やがて、車は停まった。どこかわからないが、 ) と、咄嗟に思いついたのだ。工 かるのではないカ ミーが何をしている女か、どんな素姓なのか、まともかく、おれはほっとした。あと十分も飛ばさ るきりわからない。そのわからない女に、おれがれていたら、死んでいたかもしれない。 青い炎
と、怪しく思われた。フーコは、おれがトイレに して、マニキュアをしている。 黒いマニキュア。おれは、はっとした。ホテ立つのを呼び止めた。 あれは、奥に、通報するためではないか。カウ ルのフロントの言葉を思いだしたのだ。 奇妙な雰囲気に包まれて、目的意識がばやけてンターの裏にでも奥へ通報する隠しボタンがある かくせい いたおれを、黒い爪は、覚醒させるものを持ってにちがいない。そこまで考えたとき、ふいに、お いた。ノンノと名乗った女 ? が出て来たところれはめまいをおばえた。 を見ると、やはり、ドアの向こうには、部屋があ ( しまった ! ) ったのだ。外人は、そこにいるはずだ。 急に、眼の前がくるくると、廻りはじめたの だ。まるで回転木馬にでも乗せられたように、ぐ ( どうやってさぐるか : : : ) あいつが常連だとすると、カジノなんかではなるぐると、廻る。眼の前のフーコの顔が、ノンノ あや く、べッドの部屋があるのだろう。つまり、店のの顔が、妖しく笑って、廻っていた。 奥で、隠花植物と、それを好きな性癖を持った客 ( 何か、飲まされた ! ) いつ、混入されたのか。 が、お楽しみ、という寸法だ トイレこ、 ししった隙に、やられたのだろう。おれ このノンノが、外人の相手をしていたのか。あ の短い時間ではそうではあるまい。とすれば、まは、両手で顔を蔽い、カウンタ 1 に突っ伏した。 だほかに、客をとる黒い花がいるとい、つことだ。 「どうなさったの ? 」ノンノの囁きが、異様に こわくてき そして、ノンノが出て来たときの様子が、ふつ蠱惑的だった。「ねえ、お客さん、気分が悪くな 192
う。素直に、その愛らしさに、拍手をおくること人のアバ 1 トへ連れこんだ。簡単だ「た。 「テレビ局の人が待っている」 ができたからだ。 そう言っただけて、ついてきた。 おれは、そのときから、斜めの道を歩きだした 、もとも で待っているやつはい > の取材に、アパート ような気がする。悪友のせいにはしない。 、よ、 0 寺、、 アンナが素直すぎたのか、よほど嬉し / . し 1 刀 と、素直さがなかったのだ。 かったのか。それとも、おれの顔がもっともらし 「アンナのお初は、おれがイタダキだ」 く見えたのか。 と、おれは言った。つまらない少年の見栄だ。 不良ぶ「ていると、そんな見得も切らねばならな女を強姦するくらい簡単だ。男なら、誰だ 0 て 出来る。カミサマはそのように男を作っているの いのだ。 、ものはない。 だ。そして、強姦くらい、 「二万賭けるぜ」 まきと もっとも、その味を知ったのは、後のことなの オこいつは、ど、っせ行 ネリカンの真人が言っこ。 。強姦の嫌いな男はいないだろう。嫌い く先はネリカンだと決めていたので、そう呼ばれだが というやつは、食わず嫌いだ。それとも、勇気の ていた。そして、一年後に、その通りになった。 ないやつだ。 そのころのおれたちにとって、二万は大金だっ た。それも、おれがあと〈退けない理由の一つに平凡な社会人にな 0 て、マイホーム亭主で満足 するなら、それも当たり前かもしれない。が、そ なった。 おれは、翌日、アンナの帰りを待ち受けて、真の平凡というやつが、案外アテにならない。
持てないものー 「婦人欄の記事にはならないぜ」 「ピストル持ちたきや、婦人警官か、自衛隊に入 「ヤジ馬よ。それでいいじゃない。あたし好きな るんだな : ・ んだ」 話がへんな方へ飛んでしまった。 「変なやつだな」 「ーー・じやア、警察の発表まで詳細はわからない 「だってお料理とファッションじゃ、阿呆らしく ってこと ? 」 「か老人ホームでも取材してろよ。それと「タ刊には間に合わせて貰わないとな。とにかく もリプのグループとか 謎の女なんだから、謎ばっかりさ」 「その仮面でも手に入ればいいんだけどな」 「うんざりよ、モテない女がロ角泡を飛ばすとこ ろなんて、絵にもならないわよ。ねえ今日はヤジ「写真には撮らしてくれるだろ」 馬だってば」 「多分な。指紋の検出は済んだろうし、ザラにあ るやつだろ」 「現場は立ち入り禁止だぜ」 「なんとか顔を利かせられないのーと、女は、ぶ「問題は、その女が、どこの誰かってことだ」 っとふくれた。浅茅陽子に似ている。 「誰に、なぜ、殺されたかでしょ 「新聞記者やめて私立探偵になるんだな。その方「しかし、あれには、驚いたな」と、カメラマン がアコにとってナウな生き方だろうぜ」 が言った。「中島薫って、名前」 「いいわね。だけど、日本じゃだめよ、ビストル おれは、はっとなって、聞き耳を立てた。