聞い - みる会図書館


検索対象: 亀裂
185件見つかりました。

1. 亀裂

もう一人の奴に視線を向けると、そいつは、も と一一一口った。 う、ロもきけないようだ。 「松濤の家に一度、お伺いしたんですが、番地を の家を聞かなきやアな。 忘れてしまって : : : ュカリさんなら、御存じだと 「ほかの奴からもエミー 誰かいるだろう」 思って」 そいつは、失いかけた思考力をはたらかせて、 「どうして、私の名前を」 あの美容室のユカリなら知っている、と言った。 「いや、エミーさんが、そう言っていたから」 「あら、そうなのー嬉しそうに、ユカリは、声を 「ユカリ ? 「インターンなんだ。エミーが家でセットさせる弾ませて、「松濤にゆけば、すぐわかりますわ。 こともあるんだ」 山本富士子の家の前をずっと来て : : : 」 電話番号を奴はそらんじていた。おれはすぐに また山本富士子か。これじやア山本富士子が風 ・カゞー子′ 邪をひいちまうぜ。 電話口に出てきた声を聞いたとき、おれはあっ 「赤い風見鶏があるから、すぐわかりますわー と思った。おれに、待つようにと言ったあの声じ「そうだったな。一度いったときは、暗くて」 「番地をお教えしますわ、ちょっと待ってね」 ゃないか。 顧客名簿を見ているんだろう。二、三分して出 ( あいっか ) てきたユカリは、番地と号数まで、言った。 何だか、漸く、謎がほぐれてゆく感じだった。 「有難う」と、おれはソフトな声で甘く言った。 おれは声を変え、エミーさんのともだちだが、

2. 亀裂

( ひでえ目にあわせやがったな ) おれは深い吐息並に見おばえがある。 ( 新宿だ ) と、おれは気がついた。 をついた。 二丁目じやアないか。もとの都電の終点のとこ もしも、おれが潜んでいることを知ってのこと だったら、いまが、襲いかかってくるときだ。座ろだ。右側が要通りで、左側が二丁目。昔の青線 席の下で、ごろごろとトラックの丸太のようにな地帯だ。ゴルフ練習場の裏には、妖しい雰囲気が って、あちこちすりむいて、まだ眼がまわってい残っている。 し上うふ 青線や赤線の娼婦の街は、どこでも、たいてい る。いま、大きな手が伸びてきたら、おれはとて ところが、外人は、やはり、おそうだが、あやしげなバーやスナックやトルコな も逃げられない。 どで再生している。この名にし負う新宿二丁目 れに気がついていなかったらしい。 も、その例に洩れなかった。というよりは、一兀青 ラジオを消し、ハミングしながら、バタンとド アを閉めた。きゅっきゅっと、靴を鳴らして、去線の名称を一番頻繁に使われるところといってい 上うきてき ってゆく足音を聞きながら、おれは身を起こしい。それだけ、妖奇的な風俗地帯でもあるのだ。 新宿の二丁目といえば、青線地帯だ。古い言葉 しし上うくっ ガラス越しに、あたりを見まわした。そこがどでいえば私娼窟。吉原が赤線で公娼だから、私娼 のほうは青線だ。もっとも三十年ごろには赤線化 こか、わかるまでに三十秒くらいかかった。どっ ちの方角に走っていたのか、見当もっかなかったしていたようだ。 からだ。広い通りに車は停まっている。片側の軒おれもよくは知らない。なんでも警察で取り締 こ 0 あや 186

3. 亀裂

まりのための地図に赤インクでぐるっと囲んだののメモは、ユカリに聞いた電話番号を書いたやっ が″赤線″のはじまりで、新宿の二丁目も、同じだった。 ようなものだが、宿場の飯盛り女郎と吉原のおい 外人は、スナック〔ナジャ〕の前を大股でゆ らんとは、格が違うように、場末て、公娼じゃな く。おれは気づかれないように、軒下を伝うよう いという区別のために、青インクで、ぐるっと線にして、尾行した。 描きした。そこから、青線の名称が出たって話〔ナジャ〕のドアがふいに開いて、客がこばれ出 だ。このほか、黒線、白線というのもあるらして来た。あやうくぶつかりそうになった。おれ は、あわてて、ペこりと頭を下げて、急いだ。こ ともかく、この新宿二丁目に、おれはいることんなところで喧嘩になったら、危い。 その外人は、別段、尾行を気にしている様子は に気がついたのだ。 そっと覗くと、外人の盛り上がった背中が二丁なかった。 , 」ういう街は、二、三度来たくらいでは、なか 目に入ってゆく。おれは車を出た。音がしないよ うに、ドアもよく閉めなかった。盗まれたっておなか憶えにくいのだが、その男は馴れた足どり で、ずんずん歩いてゆく。よほど、二丁目に通い れの知ったことじゃない。おれは、少し行ってか 馴れているのだろう。 ら、あわてて、振りかえった。 ( へんな外人だな、あの野郎 ) 一応、車のナンバーを憶えておくことにした。 おれは首をひねった。見当がっかなかった。あ 品川ナンバーだ。おれは紙片に走り書きした。そ のぞ ー 87

4. 亀裂

さだ。五十万と聞いて、表情が変わるようじや大 つばく見られると損だからな。 「せつかくだけど」と、おれは言った。「おれの物になれない。が、しかたがない。 「ほほほほ、驚いたようね。でも、あたしがほし 好は、もっと若いコが : : : 」 いのは、その金貨をつけたあなたの胸よ」 「言うわね」 女は、さしてこたえもせずに、けらけらと笑っ た。歯がキラッと光った。ダイヤを嵌めこんでい 「行かない ? 涼しいところへ」 るらしい。 おれは負けた。この場合、負けた方がよかっ た。おれの運がひらけたのだから。 「あなたも相当なプレイボーイらしいけど、小便 くさい女高生がいいの ? 」 そのまま、おれたちはプールを出た。外には、 黄色いポンティアックが待っていた。 ぎくりとした。女は、かぶせて言った。 「何処へ ? 」 「中身で勝負、じゃないのー 「時間があったら、さ」 「いいの、黙ってついてくればいいのー 「その時間を買うわ」 女は、びしっと、叩きつけるよ、つに一一一口った。お れは主導権を握られていた。車は、小坪の港か 「ナポレオン金貨の中でも、それは安物よ。どら、逗子の市内を通りぬけ、海岸通りを南へ突っ う、五十万で」 走った。そのころはまだ週末でも、このあたりは おれは飛び上がるほど驚いた。貧乏育ちの悲し車は少なかった。

5. 亀裂

車は原宿の駅の前に来ていた。おれは車を停め させた。 「青山は何丁目 ? 」 「三丁目。ビーコックのところから墓地下のほう「え、ここですか」 へ、一寸いったところだ」 「嫌な顔をするなよ、新聞を買うだけだ」 そこに、女がいる。その女の顔を思い浮かべた 「まだ夕刊は出ていませんよ」 とき、妙なことに、おれは、さっきの電話の声早くタ刊を見たかった。が、まだ出ていないの なら、しかたがない。おれは運転手に青山へ急ぐ が、聞きおばえがあるような気がして、はっとな ようにいった。 三丁目の彼女の家は、墓地下に行く通りにあっ ( どこかで聞いた声だ : 家と家との間の細い路地に鉄の階段がついて おれは、車の中で考えていた。あの甘くて、そた。 いた。アバートの二階に上がるようになってい のくせ、気取って、切り口上の調子は、そうざら にある声じゃない。誰だったろう。誰かーーそれる。 で、上が二軒に下が二軒だ。中 つい近ごろのものだ。 も古い記憶じゃない。 小さなアパート は八畳が二間あって、も浴室もそろっている ( 誰だったろう : : : ) から、夜の蝶などには、住みやすい くそ ! 思いだせない。何故か、その声を思い ここには、菊乃という女がいる。銀座のバーで だせないと困ると思った。今度の事件に関係して ホステスをしている。月に百万近くにはなるらし るよ、つに思った。 125

6. 亀裂

手もなく、たまきは喜んだ。おれのものを、ご けて、おれを含んだ。 そんな恰好は、日ごろ、たまきのような女が、 くりと呑みこんで、ほっとした表情で、おれを上 もっとも嫌い、もっとも拒んでいることだった。 眼づかいし こ見ながら、ゆっくりと、後始末をし 「さあ、早くいかせるんだ。時間を限るぞ」 おれよ、いかにも満足したような表情をし、そ あか 「三分だ」 れから、実際に満足した証しを、女のロの中で も、示した。あとから、たまきは、肉塊が硬く屹 「三分でいかせることができなかったら、お仕置立したときよりも、柔らかくなりかけたときが好 きしてやるからな」 き、と告自した。 「う、う : ・・ : ん」いいわ、とか、わかったわ、と そのせいだろう、あれだけ、うんざりした声を か答えたようだった。 だしたくせに、一ペん放出したとなると、そのあ 女が必死になるほど、おれは冷めていった。おとをゆっくりと、いつまでも放したくないよう むな に、愛撫したものだ。そして、最後まで、吸いと れは腕時計を見た。故意に、二分間を虚しくおく った。耐えることも、気を遣ることも、意志が大った。 きく作用する。おれは三分、ぎりぎりのとき、温 くすぐったくなっても、しかし、おれは弱身を かんじん かい咽喉の奥へ、おとこのいのちを放ってやつ見せなかった。こういう女は、最初が肝腎なん こ 0 こ 0

7. 亀裂

たまきも、充分、満足した。そして、平常にも「よかった、てのは、そのことじゃない」 どったおれを、両手で弄ぶようにし、頬ずりし、 、」と、言った。「切ってしまいたいくら「三分間で、いかしたってことさ」 「ええ、助かったわ。お仕置きなんて、いやよ . 「切ってどうする」 「どんなことをされるか知っているのかー 「肉屋に売るわ」 「お尻をぶつのでしよ」 「特大ソ 1 セージか」 「バカな。子供じゃあるまいし、尻の穴に突っこ 「フランクフルトよ」 むのさ」 「ほかの女が買ってゆくぜ」 「いや ! だったら売らない」 「好きじゃないか、ためしてやろうか」 しま 「金庫にでも蔵っておくんだな」 「いやだったら」 おれは女の股間に、足の拇指を突き立てた。 「好きな女がいたぜ。長い靴べラがあるだろう。 「いやよ : 五〇センチほどのさ。あいつで、べたべた、尻っ 「ははは、でも、よかったな」 べたを叩いてやったら、ヒイヒイ泣いて喜ぶん 「ええ : : こんな気持ち、はじめてよ」 だ。そのあげくに、入れて、っていいやがる」 もう何度聞いたせりふだろう。八〇。ハーセント 「ーーそれで」 の女が、同じせりふを吐く。 「入れてやったさ、靴べラをな」

8. 亀裂

しくらか解明できたかい」 「その後、事件は、、 ンディに口をつけてから、疑問を洩らした。 「さっきは聞かなかったけれど、吃驚したわ。ど「事件って、あの仮面の女の」 「むろん、そうだ。殺しの犯人の見当は」 うしてあたしの名前を」 「ぜんぜん、それが」 「思いださないかな、二度逢っている」 「ごめんなさい。あたし、人の顔を忘れる名人な「手がかりをあげる」 「まあ、うれしいわ。で、おいくら」 「いや、ロをきいたわけじゃないから、おばえて「銭じゃない」おれは、凝っと、アコを見た。 「おれの好意さ」 いないだろう」 「どこかしら」 「君がチャーミングだから」 「いいんだ。そのうち、思いだすさ」 「あら、映画の中のせりふ」 ええ」 アコは案外、そういうことが気にかかるほうら「らしいな」 それから、おれたちは声をだして笑った。 冴えない顔だった。が、おれを見た眼はいきい 「出よう」おれは、二万円、ママの前に置いて立 きしている。ジャーナリストにはいない、おれのち上がった。「またくるよ」 ような変な男に興味を感じているのだろう。むろ「あら、こんなに。うちは安いんですよ」 ん、おれのほうにも、その計算がある。 「初会の挨拶代わりさ、とっといてくれ」 206

9. 亀裂

よ、全く、小さかった。前庭の陶器の小便小僧の ど、そういわれればそうだ。 だが、ユカリの必死 ? の努力にもかかわらそれと同じか、もう少し、大きい程度だった。 これだけ若い女が、ロで奉仕しているのに大き ず、いつまてたっても鉄のそれは、大きくならな くならないとは、どういう体質なのだろう。い い。ュカリは、ロを放し、ほっと息をついた。 や、不能というやっか。鉄は、まだ、三十前後だ 「なんだ、どうした ? 」 また ふと 。ずんぐり肥ってガニ股で、肩 どうした ? とは、ユカリのほうで言いたいとろう。体格もいい ころだろう。 幅が広く、胸が厚い。こういうからだは、昔な ら、甲種合格オ ・ : だって」 「ごめんなさい : だが、不能なのか。おれは、本で読んだことが 「へたくそめー あるだけで、インポテンツということを、目のあ 「ええ、あたし : : : 馴れてないんですー たりにしたことはなかった。こいつが、それか。 「馬鹿野郎、誠意がないからだ」 いつまで立っても、勃起しないので、しだいに鉄 鉄のやっ、どこかで聞きおばえの言葉をつかっ た。こんなやつが " 誠意″などというとおかしは焦立ってきた。 。あやうく、おれは吹きだしかけた。 「おい、何をしているんだ」 「もっと、一所懸命にやれ」 「はい 「早くしろ、ちくしよう」 ュカリは、また、やつのものを含んだ。それ「あ、あ : : : 」 いらだ 」 0 ばっき ー 6 9

10. 亀裂

が、ぶるっと顫えた。 , 」うされると、たいていの ね」 と、女は甘い声をだした。 女は感じるものだが、たまきの場合は、人一倍、 敏感らしい。 「おれには同じさ」 女体が、はっきりと反応を示したのに、彼女 「あら・ : : ・」 は、嫌がるふうを見せないのは、それが性感帯て 「海より、女さ」 としい、うしろから、彼女の背を抱くようにしあることを物語っていた。 乳房よりも、このほうが感じるからだらしい。 おれは、さらに図々しく、尻のほうに手をまわし 「ほほほ、女は、海じゃなくて」 でんぶ 「かもな」 た。柔らかい臀部の肉が、おれの掌の中で、呻く おれは手をすべらせて、彼女の肩を抱き、腋のように、弾んだ。 下にさし入れた。指先が胸のふくらみにさわっ おれの指が、肉と肉の丘の間に、深くきりこま た。が、平然としている。おれの指は乳首のほうれた秘部へ這っていったとき、 に這い火った。 「ーーねえ」と、また言った。 それはさっきよりは、少しかすれていた。哀願 「 , ・ーー見られるわよ」 「かまわないさ」 するのでも、嫌っているのでもなかった。 大きく背中があいている。その背すじに、爪で「ー・・・・・・勇気、あるの ? 」 軽く、掻き上げるように筋を描いた。女の上半身と、聞いてきた。 こ 0 わき